東広島市のSDGsは大学や企業と手を取り合いまちの未来を創ること

東広島市のSDGsは大学や企業と手を取り合いまちの未来を創ること

2024.01.05
この記事のタイトルとURLをコピー

瀬戸内海に面した自然豊かな「東広島市」は、広島大学など4つの大学があり、また酒造りでも知られている街で、SDGsへの積極的な取り組みでSDGs未来都市にも選定されています。今回は、東広島市総務部・政策推進監SDGsプロジェクト担当サブマネージャーの酒見さんに、東広島市の概要やSDGsの取り組み、今後の展望についてお聞きしました。

酒造りのまち東広島と発展の経緯


SDGsへの取り組みで有名な東広島市ですが、ここではまず、東広島市の概要や伝統産業である酒造り、現在までの発展を遂げた経緯についてお聞きします。

東広島市は若者が多く自然豊かなまち

───本日はよろしくお願いします。まずは東広島市のご紹介をお願いします。

酒見さん 東広島市総務部・政策推進監SDGsプロジェクト担当サブマネージャーの酒見と申します。SDGsに関する業務や市の新規プロジェクトなどに携わっています。
東広島市は広島県のほぼ中央部に位置しており、市の名前からも分かるように広島市の東隣にある街です。人口はおよそ20万人弱、北部は山間地で南部は瀬戸内海に面した、南北に比較的広い温暖な地域にある街となっています。面積は東京23区と同程度で、琵琶湖よりも少し小さいくらいです。

大学がある関係で学生が多いため、市全体の人口比率はかなり若くなっており、65歳以上の高齢化率は令和5年1月時点で広島県内23の自治体中2番目に低い数値になっています。しかし、市役所や広島大学がある西条町には若い方が多い一方、北部の山間の町では高齢化率が50パーセントほどのところもあります。高齢化が進んでいる地域と若い人が多い地域、両極端な構成になっており、日本の縮図とも言えるような人口構成となっている市です。

また、自然環境が豊かな地域であるため昔から農林水産業が盛んで、地下水を利用した酒造りが伝統産業として根付いています。さらには自動車関連産業や電子デバイス関連の先端産業も、現在の市の発展を支える基盤となっています。

酒造りが有名で酒にまつわるイベントも


───東広島市でおすすめのイベントなどあれば教えてください。

酒見さん 先程も触れた通り、東広島市は酒造りが盛んな市で、西条駅周辺には7つの酒蔵が並んでいます。その酒蔵が並んでいる「酒蔵通り」などを舞台として、毎年10月に「酒まつり」というお祭りを開催しています。

酒まつりは、日本中の酒蔵から取り寄せたお酒を試飲できる酒ひろばがあるなど、お酒好きの方にとってはとても楽しめるお祭りです。また、アーティストのステージや出店、ゲームのブースなどもあるため、子どもやお酒の飲めない方でも楽しめるお祭りになっています。毎年、東広島市の人口と同程度の20万人ほどの方々に市内外からお越しいただいています。

───大人から子どもまで楽しめるお酒のイベントは珍しいですね。やはり酒造りは有名なのですか?

酒見さん 東広島市は、兵庫県の灘、京都府の伏見と並んで、「日本三大銘醸地」の1つに数えられています。また、2013年に施行した「東広島市日本酒の普及の促進に関する条例」は、日本酒による乾杯の習慣を広めることにより、日本酒の普及を通した日本文化への理解の促進に寄与することを目的としています。

広島大学の統合・移転を経緯として現在の形に


───東広島市が現在の形になるまでの経緯をお聞かせください。

酒見さん 市の成り立ちに関した2つの大きなプロジェクトがあり、その1つが「賀茂学園都市建設」です。東広島市役所がある西条町周辺は賀茂地域と呼ばれており、この賀茂地域に広島大学を統合・移転するという話が挙がり、それを機として1974年に4つ町が合併して、東広島市が誕生しました。そして賀茂学園都市建設に関連し、近畿大学工学部の移転や東広島ニュータウンの建設など、大きな事業が続くことになります。

───東広島市が誕生することになったきっかけは、広島大学の統合・移転だったのですね。もう1つのプロジェクトはどのようなものですか?

酒見さん 1980年代に国の事業として「テクノポリス構想」が計画されました。それに伴い、広島県では東広島市周辺で「広島中央テクノポリス建設」が始まり、公的産業団地の建設や研究機関の立地などが相次ぎました。この広島中央テクノポリス建設は、先端技術産業を中核とした産と学、住居一体でまちづくりを進めていくという構想です。

この2つのプロジェクトを通じて、産業の基盤や都市の基盤、高速交通網、生活基盤などが整備され、大学・試験研究機関や先端技術産業が集積されることで、現在の東広島市の土台ができました。また、研究者や技術者の増加により知的人材が熟成され、学生や留学生も増えたことで、多様な市民が集う人材力の豊かな都市として成長してきました。平成17年にはさらに周辺の5町と合併し、現在の東広島の形となっています。

大学やSDGsパートナーと連携した東広島市の取り組み


広島大学の統合・移転を機に現在までの発展を遂げてきた東広島市ですが、SDGsへの取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、SDGs未来都市にも選定された東広島市のSDGsの取り組みについて具体的に伺います。

モデルとしての期待からSDGs未来都市に選定された

───ここからは、SDGsに関する取り組みについて伺います。SDGs未来都市に選定されていますが、どのような点が評価されたとお考えですか?

酒見さん 市内の大学と連携した国際研究拠点の形成や、それを土台とした環境・社会・経済の三側面での事業の展開、イノベーションや国際交流の推進を行っているところがモデルになると期待され、SDGs未来都市に選定されたと考えています。

───選定に伴い策定された、「SDGs未来都市計画」についてお聞かせください。

酒見さん 東広島市では、SDGs未来都市計画の中で特に注力すべき先導的な取り組みとして「国際研究拠点ひがしひろしま形成プロジェクト」を掲げています。そしてその視点として定めているのが「国際化推進・外国人活躍支援」「イノベーション創出環境形成」「地域課題解決共同研究実施」「推進体制構築」の4つです。

具体的な取り組みとしては、「オープンイノベーションや国際交流推進のための場づくり」「地域課題解決のための大学と一体となった体制づくり及び調査・研究の推進」「大学との政策課題共同研究の実施」「SDGsパートナー制度の創設」を定めています。

Town&Gownは大学と共に発展するための取り組み

───では、具体的な取り組みについて順に教えていただけますか?

酒見さん 大学と一体となった体制づくりや調査・研究の推進として、広島大学などと「Town&Gown」の推進を行っています。Townは文字通り町、Gownは海外の大学の卒業式で学生が羽織るガウンのことで、このガウンは大学を指しています。町と大学が一緒に取り組んでいくという意味でTown&Gownと名付けられました。

これは、市の行政資源や大学の教育・研究資源を融合して活用し、東広島市のまちづくりや大学の発展・進化を共に目指していくことで、互いにプラスになる体制となっています。広島大学の中にあるTown&Gownオフィスには市の職員も出向しており、市と大学のつなぎの役として従事しています。

2つの施設でSDGsを推進している


───市と大学が、お互いの発展のために協力し合うのは素晴らしいですね。イノベーションに関する取り組みでは、どのようなものがありますか?

酒見さん イノベーションに関しては、広島大学にフェニックス国際センター「MIRAI CREA(ミライクリエ)」を整備しています。国際連携や産学連携の拠点として、学生や研究者、自治体職員に、ディスカッションなどの場として活用されています。2022年度には地元の高校生などに参加していただいて、SDGsの取り組み事例の発表や展示、SDGsカードゲームなどで、SDGsを推進するイベントを行いました。

また、市役所のすぐ側には「ミライノ+」というイノベーション施設もあり、こちらの施設も学生や企業の方、自治体職員、地域の方が集まり、ビジネスや学び、交流ができるスペースになっています。可動式の畳の椅子などを自由にレイアウトすることで、それぞれが話しやすい体勢でさまざまなテーマについて協議をし、交流を深めたり新しいものを生み出したりできる場として利用されています。

先日も、広島県主催のSDGsセミナーを当市も協力して開催しました。このセミナーでは、市民の方にお集まりいただいてパネルディスカッションや講演などを行い、皆さんに満足していただけたイベントになりました。

4つの大学との共同研究により地域課題解決に取り組む


───利用される方の利便性にまで、細かく気を遣われているのですね。地域課題の解決に関しては、どのような取り組みを行っていますか?

酒見さん 市内にある4つの大学と、市が抱える災害や道路整備などでのさまざまな課題を共同で研究し、解決を図るという取り組みを行っています。令和4年度には、平成30年に経験した大規模災害を基にした「土砂災害の防止・軽減に向けた研究」や、渋滞が多い現状を解決するための「東広島市道路整備事業の新たな評価指標の作成とシミュレーションモデルによる有効性の検証」など、5つの共同研究を行いました。

こうした、市だけでは解決に至らない課題について、大学との共同研究により解決に向けて考えています。広島大学は総合大学、近畿大学は工学部、広島国際大学は健康・医療・福祉分野の総合大学、そして、エリザベト音楽大学と、それぞれ特徴があります。連携することによって市の課題の解決につながる大学の存在は貴重な財産だと思っています。

SDGsパートナー同士の連携が新たな取り組みへ


───企業や団体との連携として、「SDGs未来都市東広島推進パートナー」を導入していると伺っています。こちらについて詳しくお聞かせいただけますか?

酒見さん SDGsパートナー制度は、市のSDGsの推進に賛同し、市内などでSDGsの実現に向けて活動されている企業や団体に、パートナーとして参加・登録してもらう制度です。パートナーの皆さんには、取り組みの発信を行ってもらう、または身近な企業・団体の取り組みを通じて、自らの行動とSDGsのゴールとの関係の気づきにつなげてもらうことなどを目的としています。

「SDGs未来都市ひがしひろしま」を一緒に実現していくための取り組みになっており、令和5年11月末時点で、348の企業や学生団体などにご登録いただいています。

───パートナー同士で連携した取り組みなどはありますか?

酒見さん パートナー同士の連携事業の例として、不要になった自転車や放置自転車を再利用できないかと考えた学生団体の取り組みがあります。しかし、自転車修理や防犯登録の手続きなどのノウハウがなかったため、同じくパートナーである街の自転車屋さんに手伝っていただいて再利用できる形にしました。また、その自転車を使って、レンタサイクルサービスなども行っています。

───自分たちではできないことを、他のパートナーに協力してもらっているのですね。

酒見さん 「ものが無駄に捨てられる社会」に問題意識を持って、何かできないかと考えたことが自転車の再利用につながり、自転車を持っていない留学生への貸し出しなどにつながっています。自分たちで考えたことをパートナーを見つけて形にしていくという、とても素晴らしい取り組みだと感じました。

───他にもSDGsパートナーが行っている取り組みはありますか?

酒見さん 住宅メーカーが使い古したブルーシートを再利用して、トートバッグを作っている団体がいらっしゃいます。取り組んだきっかけは、熊本の震災対応で使われたブルーシートを地元の方たちが再利用し、トートバッグなどを作っているのを見たことだったそうです。

───使い古したブルーシートを再利用するのは難しそうですが?

酒見さん ブルーシートの汚れは拭き取れば綺麗になりますし、破れている箇所はカットすれば問題なく使えますので、上手い具合に加工して可愛らしいトートバッグにされていました。ただ単にブルーシートとして再利用するのではなく、そこに付加価値を加えることで新たな価値のあるものに作り変える、アップサイクルの考え方での取り組みです。

また、その団体はブルーシートだけではなく、古くなって廃棄される消防用のホースを傘袋などに加工する取り組みも行っています。消防のホースは水や汚れに強いため、加工して可愛らしい傘袋や小銭入れに作り変えています。視点を変えることで、廃棄されるだけだったものが素晴らしい商品に生まれ変わるということを目の当たりにさせてもらいました。

発信を通じて新たな連携や取り組みへ


大学やSDGsパートナーと連携したさまざまな取り組みでSDGsに貢献している東広島市ですが、今後についてはどのように考えているのでしょうか。ここでは、東広島市のSDGsに関する普及啓発の取り組みと、今後の展望についてお聞きします。

特設サイトや出前授業でSDGsの普及啓発に取り組んでいる


───SDGsに関して、東広島市の普及啓発の取り組みにはどのようなものがありますか?

酒見さん 東広島市のSDGsの取り組みは、「SDGs未来都市ひがしひろしま」という特設サイトで発信しており、その中でSDGsの理念や市の取り組みの紹介をしています。掲載しているSDGsパートナーの取り組みを目にすることで、自分たちにもできることがあるのではないか、協力することで実現できることがあるのではないかと思っていただけるようなサイトにしていきたいです。

そのために、SDGsパートナーの中でも積極的に活動されている方たちの取り組みを、パートナーインタビューという形で発信しています。また、そのインタビューを他のSDGsパートナーに見ていただくことで、新たなつながりを生み出していきたいとも考えています。

───自分にもできることがあると思ってもらうことは、SDGsにおいてとても大切ですよね。他にも、行っている普及啓発の取り組みはありますか?

酒見さん 他には、出前講座や市内のイベントでの推進も行っています。出前講座で小学校に行かせていただいた際には授業でSDGsの話をしたのですが、1人ひとりが自分たちでもできることを真剣に考えてくれて、とても嬉しかったことを覚えています。また、そうした子どもたちの意見が親御さんに伝わり、家族で考えてもらえるきっかけになればとも思いました。

イベントでの取り組みにより家族での話し合いも生まれる

───子どものころからSDGsの考え方に触れることで、SDGsが当たり前のものになってくれれば良いですね。イベントは、どのようなものを開催したのですか?

酒見さん 生涯学習フェスティバルという市主催のイベントで、壁にSDGsの17の目標を記したボードを設置し、その中から、興味があるものにシールを貼ってもらうという取り組みを行いました。家族連れの方が多かったのですが、そもそも17の目標があること自体を知らなかった方や、内容を初めて知ったという方もいらっしゃり、SDGsのそれぞれの目標について、親御さんがお子さんに1つずつ説明している姿も拝見しています。

このように、家族の中で話し合うことができる場にもなり、とてもやりがいを感じるとともに、こうした地道な取り組みはやはり必要だと感じるイベントになりました。

───シールが多く貼られていたのは、どの目標だったのですか?

酒見さん お子さんが多く選んだのは「海の豊かさを守ろう」でした。大人の方は「すべての人に健康と福祉を」が1番で、「質の高い教育をみんなに」も高かったです。また、「平和と公正をすべての人に」は、大人も子どもも多く、広島県民の平和に対する意識の高さを感じる結果になりました。

世代によって興味がある項目に違いがあるなど面白い結果となりましたが、何よりも家族でSDGsについての話をしてくれたことが1番嬉しかったです。行政がそれぞれの部署で取り組んでいくことも大切ですが、行政の力だけではできないことも多いため、市民の方や企業に情報発信していく場を作ることが大切だと思っています。

───こうした取り組みで、SDGsがもっと身近なものになれば良いですね。

酒見さん SDGsは全ての人に直結しているものですが、遠い世界のことだから関係ないと感じられる方、具体的な目標がわからないという方はまだまだいらっしゃいます。しかしSDGsという言葉自体は、市のアンケート調査でも60代より若い方では8割近くの方が認識されているという結果が出ており、一般的な言葉として根付き始めていると感じています。

メリットを提示してパートナー拡大へつなげたい


───今後は、東広島市としてどのような取り組みを行っていきたいとお考えですか?

酒見さん SDGsを知っている人たちは、職場や学校、地域、家庭など、それぞれの枠組みの中で自分たちに何ができるのかを考えてほしいです。それがひいては、市の持続的な発展や課題の解決につながるヒントにもなると思いますので、SDGsに関する情報発信は今後もしっかりと行っていきます。

SDGsパートナー制度には、348もの企業や団体に加入登録いただいていますが、市内にある企業や団体の数を考えると、正直なところもっと増やしていきたいです。そのためには、パートナーになることのメリットを感じてもらう必要があると思っています。

SDGsを自分ごととして捉えてもらうためにも、情報発信をしつつセミナーなど交流の場を設け、何かプラスになるものを感じてもらうことができればと考えています。そうすることでSDGsの輪が広がり、パートナー同士の新たな連携にもつながると考えます。まずはパートナーの拡大を一番に進めていきたいです。

自分ができるところから始めてさらにその先へ


───最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

酒見さん SDGsはとっつきにくく感じられる方も多いと思いますが、その目標は1人ひとりにつながっている身近な目標であるため、まずは知るところから始めていただきたいです。全ての目標について取り組むことは難しいですが、何か1つでも自分ができそうだと思うところから始めてもらい、関心が高まることでその先も自然と考えていけるようになると思います。

そして、自分が持っていない知識やノウハウを習得することは難しくとも、できる人と一緒に取り組むことでいろいろな課題の解決につながります。皆さんがお住まいの自治体でも、SDGsの情報を出しているところもあると思いますし、東広島市のホームページもぜひ参考にしていただきたいです。市民の方や企業・団体の方が、どのような視点やきっかけでSDGsに取り組もうと思ったのかを知ることができますし、皆さんが考えていることと近い事例も多いと思います。

割と身近なところに情報はあると思いますので、そういった情報を活用してもらいながら、家族や職場の同僚、友人などとSDGsについて話す機会を増やしてもらえたらと思います。その際には、ぜひ東広島市のサイトも活用していただければ嬉しいです。

───本日は貴重なお話をありがとうございました。

さらに多くの人と共に明るい未来へ

SDGs未来都市にも選定されている東広島市ですが、大学やSDGsパートナーと連携し、共に発展へと向かう取り組みは、SDGs未来都市に選定されたのも納得の素晴らしいものだと感じました。読者の方の中には、若者も多く集まる東広島市の明るい未来に期待せずにはいられない方も多いのではないでしょうか。

東広島市のまちや取り組みについてさらに詳しく知りたい方は、ぜひ東広島市のホームページを覗いてみてください。

▼SDGs未来都市ひがしひろしまのホームページはこちら
SDGs未来都市ひがしひろしま

▼東広島市のホームページはこちら
東広島市ホームページ

この記事の執筆者
EARTH NOTE編集部
SDGs情報メディア
「SDGsの取り組みを共有し、循環させる」がコンセプトのWEBメディア。SDGsの基礎知識や最新情報、達成に取り組む企業・自治体・学校へのインタビューをお伝えし、私たちにできることを紹介します。
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。
この記事のタイトルとURLをコピー
関連するSDGs
pagetop