SDGs6「安全な水とトイレを世界中に」とは?初心者向けに徹底解説
ここ最近テレビやSNS、電車の広告などでもよく目にするSDGs。
「SDGsという言葉は聞くけど具体的にどんな内容なの?」といった疑問を抱えている方は多いのではないでしょうか。
そこで本記事では
- SDGsの基礎知識
- 目標6に関する現状と問題点
- 目標6の解決策と取り組み
- 企業の取り組み事例
- 「安全な水とトイレを世界中に」の達成に向けてわたしたちができること
について解説します。
この記事を読めば、SDGsの目標6についての基礎知識から具体的な問題点や現状、企業の取り組みについて理解できます。
世界の水事情を知り、私たちができることについて考え、行動していきましょう。
目次
SDGs 6の基礎知識
まずSDGs(エスディジーズ)とは、「Sustainable Development Goals」の頭の文字を合わせた言葉で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。
簡単に言うと「世界中の環境問題・差別・貧困・人権問題などの課題を、自然環境を維持しながら解決していこう」という目標です。
2015年9月にニューヨーク国連本部にて開かれた国連サミットで、150を超える加盟国首脳の全会一致で採択されました。
そんなSDGsには17の目標がありますが、ここでは「6・安全な水とトイレを世界中に」について解説します。
SDGs 6とは何か
目標6「安全な水とトイレを世界中に」は、SDGsにある17の目標の1つで、水と衛生に関する目標です。
具体的には、世界中の人々が安全で清潔な水と衛生にアクセスできるようにすることを目指します。
日本では水不足についてなじみがないですが、世界では、人口の約40%は水不足の状態での生活を強いられている状況です。
不衛生な水を使用することで毎年84万2,000人が命を失っています。佐賀県の人口が約80万人なので(2022年10月時点)これだけの規模の人が不衛生な水の使用で毎年なくなっています。
よって安全でアクセスしやすい水の確保早急に解決すべき世界的な課題なのです。
(出典:国際連合広報センター-水と衛生に関するファクトシート-)
その課題解決のために目標6は2030年までにすべての人が水を安全に利用できることを目標に掲げました。
安全に管理された水
安全に管理された飲み水とは、必要な時に入手でき、汚染されていない水のことです。日本では安全な水が当たり前のように自宅にあり、必要な時に手に入ります。
しかし世界に目をむけると、安全に管理された水を確保できない人口がなんと約21億人もいます。
生きるうえで水が欠かせない私たちにとって、安全に水を使用できない状況は深刻な問題です。目標6では、上記のような人々が安全な水と衛生へアクセスすることを目指しています。
安全に管理された衛生施設(トイレ)
管理された衛生施設とは排泄物が下水処理されるなど、別の場所できちんと処理されるトイレのことです。
日本で排泄した際、排泄物は衛生的に処理されますが、世界に目を向けるとまだまだ管理された衛生サービスは整っていません。この安全に管理された衛生サービスを利用できない人は世界で約45億人にものぼります。
安全で衛生的なトイレがないと道ばたや草むらなど不衛生かつ危険な場所で用を足さなければなりません。
プライバシーの観点から見ても、安全に管理されたトイレの設置は早急に解決すべき課題です。
目標とターゲット
SDGs 6「安全な水とトイレを世界中に」における達成目標は、大きく6つが存在します。安全性の高い水の利用に関する目標や、だれもが利用できるトイレの設備に関する目標など、幅広く設定されています。
そして目標以外に「ターゲット」も重要です。
ターゲットとは具体的な行動指針のことで下記の通り2種類あります。
- 「目標番号.~」の~に数字が入る場合(例:6.1など)
- 「目標番号.~」の~にアルファベットが入る場合(例:6.aなど)
数字が入る場合は目標に対する具体的な課題や目標を挙げ、達成しようという意味です。アルファベットが入る場合は課題を達成させるための手段や策を表します。
目標とターゲットを見ると、安心できる飲み水の提供やトイレの利用が主な内容であることがわかります。下記に表でまとめましたので、どのような内容か気になった方は目を通してください。
目標・ターゲット番号 | 内容 |
6.1 | 2030年までに、すべての人が安全な水を利用でき、安く確保できるようにする。 |
6.2 | 2030年までに、すべての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす。女性及び女子、ならびに脆弱な立場にある人々のニーズに特に注意を払う。 |
6.3 | 2030年までに、汚染の減少、投棄廃絶と有害な化学物や物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模での大幅な増加により、水質を改善する。 |
6.4 | 2030年までに、全セクターにおいて水の利用効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取及び供給を確保し水不足に対処するとともに、水不足に悩む人々の数を大幅に減少させる。 |
6.5 | 2030年までに、国境を越えた適切な協力を含む、あらゆるレベルでの統合水資源管理を実施する。 |
6.6 | 2020年までに、山地、森林、湿地、河川、帯水層、湖沼などの水に関連する生態系の保護・回復を行う。 |
6.a | 2030年までに、集水、海水淡水化、水の効率的利用、排水処理、リサイクル・再利用技術など、開発途上国における水と衛生分野での活動や計画を対象とした国際協力と能力構築支援を拡大する。 |
6.b | 水と衛生に関わる分野の管理向上への地域コミュニティの参加を支援・強化する。 |
例えば上記表の6.1をみてみると「2030年までに、すべての人が安全な水を利用でき、安く確保できるようにする」とあります。6.1と数字がきているので具体的な目標が示されています。
一方、6.aでは「2030年までに、集水、海水淡水化、水の効率的利用、排水処理、リサイクル・再利用技術など、開発途上国における水と衛生分野での活動や計画を対象とした国際協力と能力構築支援を拡大する」とあります。6.aとアルファベットがきているため、課題を解決するための手段が書かれています。
SDGsの目標とターゲットの意味を確認し、より深い理解につなげていきましょう。
目標6に関する現状と問題点
SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」は大きく2つの課題があり、下記の通りです。
- 安全に使用できる水を安く確保できるようにすること
- 衛生的なトイレを使用できるようにすること
ここでは2つの課題についての現状と問題点を見ていきます。
それぞれの定義と利用者数は、以下のサイトを参考にしています。
日本ユニセフ協会「ユニセフの主な活動分野|水と衛生」
安全に使用できる水の定義と現状
世界中の人が安全に管理された水を使用できるわけではないのが現状です。
では、そもそも安全に管理された水とはどのような水でしょうか。水に関する定義は下記を参考にしてください。
定義 | 内容 |
安全に管理された飲み水 | 自宅にあり、必要な時に入手でき、排泄物や化学物質によって汚染されていない、改善された水源から得られる飲み水 |
基本的な飲み水 | 自宅から往復30分以内(待ち時間も含めて)で水をくんでくることができる、改善された水源から得られる飲み水 |
限定的な飲み水 | 自宅から往復30分よりも長い時間(待ち時間も含めて)をかけて水をくんでくることができる、改善された水源から得られる飲み水 |
改善された水源 | 外部からの汚染、特に人や動物の排泄物から十分に保護される構造を備えている水源。例えば、水道、管井戸、保護された掘削井戸、保護された泉、あるいは、雨水や梱包されて配達される水など |
改善されていない水源 | 外部からの汚染、特に人や動物の排泄物から十分に保護される構造を備えていない水源。例えば、保護されていない井戸、保護されていない泉、地表水など |
地表水 | 川、ダム、湖、池、小川、運河、灌漑用運河といった水源から直接得られる水 |
安全に管理された水とは水質の安全性に加え、必要な時にいつでも手に入れられるということが示されています。
これらの定義の水を、2020年時点でどのくらいの人が利用しているかを示すと下記のとおりです。
- 安全に管理された飲み水:58億人
- 基本的な飲み水:12億人
- 限定的な飲み水:2億8,200万人
- 改善されていない水源:3億6,700万人
- 地表水(池や川の水):1億2,200万人
世界人口は2020年で78億人なので、世界の約27%は安全に管理された飲み水を利用できていません。このようにまだまだ安全に管理された水を使用できていないのが現状です。
衛生的なトイレの定義と現状
続いてトイレの現状ですが、飲み水よりも深刻な状況といえます。こちらも衛生施設(トイレ)の定義から見ていきましょう。
定義 | 内容 |
安全に管理された衛生施設 | 排泄物が他と接触しないように分けられている、あるいは、別の場所に運ばれて安全で衛生的に処理される設備を備えており、他の世帯と共有していない、改善された衛生施設 |
基本的な衛生施設 | 他の世帯と共有していない、改善された衛生施設 |
限定的な衛生施設 | 他の世帯と共有している、改善された衛生施設 |
改善された衛生施設 | 人間が排泄物と接触しないよう、衛生的に設計された衛生施設。例えば、下水あるいは浄化槽につながっている水洗トイレ(水をくんで流す方式、換気式トイレを含む)、足場付ピットトイレ(掘った穴の中に糞尿を貯める原始的なトイレ)、コンポストイレ(水を流さずに微生物の力で排泄物を分解するトレイ)など |
改善されていない衛生施設 | 足場がないピット式トイレ、バケツに排せつし外に捨てる方式のトイレ。例えば、池や川の上に設置され排泄物がそのまま落ちる方式のトイレなど |
屋外排泄 | 道端、野原、森、やぶ、水域、海岸、その他の屋外で排せつすること |
日本にあるトイレは上記表の安全に管理された衛生施設にあてはまります。それぞれ2020年時点で世界にどのくらい利用しているかは下記のとおりです。
- 安全に管理された衛生施設(トイレ):42億人
- 基本的な衛生施設(トイレ):19億人
- 限定的な衛生施設(トイレ):5億8,000万人
- 改善されていない衛生施設(トイレ):6億1,600万人
- 屋外排泄:4億9,400万人
世界人口(78億人)のうち、約45%は安全に管理されたトイレを使えていない状況です。では、これらの安全な水やトイレが使用できないと、どのような問題が起きるのでしょうか。
飲み水・トイレが使用できない問題点
安全で衛生的な水やトイレを使用できない問題点として下記2点について解説します。
- 健康への影響
- 教育への影響
【健康への影響】
まず健康への影響ですが、安全に管理された飲み水を利用できない地域ではわざわざ遠くまで水をくみに行かなければなりません。しかし、そこにある水は泥や細菌、動物の糞尿が混じっている危険な水です。
その水を口にすると、下痢になり最悪の場合、命を落とします。
2015年には、実際安全でない水を飲み、下痢が原因で命を落とす乳幼児は年間30万人にものぼっているのです。
(出典:日本ユニセフ協会「ニュースバックナンバー2015年」)
またトイレに関しても、衛生的でないトイレで排泄すると、細菌が体内に侵入して下痢や感染症を引き起こすおそれもあります。
【教育への影響】
続いて教育への影響ですが、安全な水を使用できない地域では水をくみに行く仕事を子どもたちが担っています。
サハラ(アフリカ大陸北部にある砂漠)以南のアフリカ諸国では約330万人の子どもが水をくむために毎日長時間歩き続ける現状です。この重労働のため、帰宅する頃には体力は残っておらず、学校に通えません。
(出典:日本ユニセフ協会-どんなに汚くてもこの水を飲むしかない…-)
また、野外排泄を強いられる地域では、10人に1人の割合で思春期の女の子がトイレのない学校を休む傾向があります。排泄姿を見られることが恥ずかしく、学校に行けないのです。
そして学校を休むうちに授業についていけなくなり、最終的には退学せざるを得ない状況があります。
(出典:ワールドビジョン「【世界の女子教育】女の子が学校に通えない3つの原因」)
このように、安全で衛生的な水やトイレを使用できないことは健康・教育面に多大な影響をおよぼします。
水とトイレが不足する原因
ではなぜ世界では、安全な水を利用できない人がたくさんいるのでしょうか。ここでは安全な水不足の原因について解説していきます。
水を溜める設備がない地域では、設備を作る資金がない
全世界の人々へ安全な水を供給するとなれば、当然大きなコストも伴います。
その額は、140~300億ドル(日本円で約2兆円越え)にのぼると見られます。
これだけの資金が必要にもかかわらず、開発途上国の多くは安全な水の供給が国の最優先課題ではないため、資金不足なのです。
また、開発途上国は、水道や衛生サービスを国の事業に依存しています。しかし、国の事業は資金と人材がとぼしく、そのサービスの生産性と効率は低くて網羅性もないです。
世界銀行によれば、電力、水道、道路および鉄道の技術が非効率のため、1990年前半に年間550億ドルの損失が生じました。
この金額は全開発途上国のGDPの1%、インフラ整備のための年間開発資金の2倍に相当します。
(出典:国際連合広報センター-水供給のコスト負担-)
このように、事業の非効率さは安全な水供給のコストが増大することにつながっています。
しかし、民間にゆだねればコスト問題が解決するというわけではありません。民間のサービスを引き受けた場合でも、雑菌が混入するなど安全な水の供給とは程遠いケースが多数報告されています。また、料金が安定しないことも民間の課題です。
ボリビアでは、民間の事業が市の水道業務を引き継いだものの料金が35%も引き上げられ、抗議が殺到する事態もありました。国・民間のどちらが水供給のサービスを提供したとしても、コスト面で大きな課題があるのが現状です。
人口が増えている地域では、水道の整備が追い付かない
現在、世界の人口は80憶人を超えています。2050年には約97億人になると予測されています。
世界人口が約20億人増えるとそれだけ水を必要とする人も増え、安全な水を提供できる環境が必要です。
急速に人口が増えているのは開発途上国中心で、なんとサハラ以南アフリカの人口は2050年までに倍増するとみられています。
(出典:国際連合広報センター-世界人口推計2019年版:要旨 10の主要な調査結果(日本語訳)-)
しかし、そのような急速に人口が増えている地域では安全な水道設備を提供する体制が整っていません。
例えば、日本では水を安全に利用しトイレを衛生的に保つための上下水道の設備が存在しています。
しかしサハラ以南地域では上下水道設備が整っていないので急増する人たちに安全な水を提供できないのです。
理由は国や自治体が前向きに水道施策に取り組んでいないことや消費者が水道利用料金を滞納することがあげられます。国民が資金不足になると水道料金を滞納し、水道業者が安全な水道を提供できる資金がなくなるわけです。
このように急速に人口が増加している地域では人口増加に伴った水道管理体制が追いついていません。
地球温暖化の気候変動による大雨や干ばつ
続いてみていくのは気候変動が水不足の原因となるケースです。近年よく話題になる地球温暖化ですが、気候にも大きな影響を与えます。
具体的には地球温暖化が原因で大雨や干ばつです。この大雨や干ばつは、安全に利用できる水に影響を与えます。
例えば大雨で洪水が発生し水がにごり、水質が悪化し、安全な水の供給ができなくなるという具合です。
一方、干ばつは、水の枯渇を引き起こし、水そのものが利用できなくなります。
地球温暖化を原因とする気候変動が水の供給を不安定にしているのです。
水資源を溜める働きを持つ森林の破壊が進んでいる
森林が破壊されていることも水不足につながります。では、そもそもなぜ水のために森林が必要なのでしょうか。
森林はスポンジのように土壌に小さな隙間が多数あります。その隙間に森林に降った雨が蓄えられ、ゆっくり時間をかけて川へ送りだされるのです。
よって森林には降った雨を蓄えておく水源の貯留機能があります。この貯留機能により晴れの日が続いたとしても川の水がすぐに枯れないのです。
その森林が、伐採によりなくなってしまうと水はどうなるでしょうか。降った雨を貯めておくことができなくなり、水不足に陥るのです。
開発途上国で都市化が進むことは、多くの森林を伐採することにもつながります。この都市化にともなう森林伐採も水源が破壊される原因なのです。
浄水設備不足による、汚染された水の流出
水を確保する上で利用される河川や海の水質汚染も水不足を引き起こす原因です。水は飲み水やトイレだけでなく工業や日常生活にも使用されています。
使用された水は工業排水や生活排水として河川や海に流れ出し貴重な水資源が汚染されるのです。
日本では、浄化設備が整っており水質保全対策がおこなわれているので安全な水質を保っています。
しかし、開発途上国では汚染された水を浄化する設備が整っていません。
この浄化設備の不足が、汚染された水を使用せざるを得なくなり、安全で衛生的に管理された水不足につながっています。
▼水質汚染について、詳しくはこちら
水質汚染とは?現状と私たちにできることを初心者向けに徹底解説
目標6の解決策
目標6「安全な水とトイレを世界中に」を達成するために必要な方法は、下記のとおり大きく3つがあげられます。
- 水やトイレの管理体制の強化
- 水質改善
- 水に関連する生態系の保護
それぞれ詳しく解説します。
各国が協力して水やトイレの管理体制強化する
目標6達成には水・トイレの管理体制を強化する必要があります。
水不足の原因でも触れましたが、水不足の地域では水やトイレが利用できてもその管理が行き届いていません。
したがって、各国が協力し支援することで、世界中の水・トイレの管理体制を強化していく必要があります。
例えば日本ユニセフ協会が2009年から2018年まで子どもたちに清潔な水を届ける「TAP PROJECT JAPAN」という活動を推進してきました。
この活動でマダガスカルの48校の小学校とコミュニティに対して、45ヵ所の井戸や貯水槽の建設ができました。トイレに関しても143基のトイレ設置につながっています。
トイレの設置後もトイレの修繕の方法や手洗いの習慣の指導も行い、トイレの管理体制強化につとめています。
このように、国境を越えて水・トイレの管理体制を強化していく取り組みが大切です。
汚染を減少させ、水質を改善する(ターゲット6.3)
目標6達成には汚染を減少させ、水質を改善することも求められます。
そこでもう一度目標6のターゲット6.3を確認しておきますと下記のとおりです。
「汚染の減少、投棄廃絶と有害な化学物や物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模での大幅な増加により、水質を改善する」
汚水を減少させ、水質を改善するのはSDGsのターゲットにあげられるほど大きな課題です。ではそもそも水質が汚染している原因は何でしょうか。
それは台所からの排水など私たちの暮らしで発生する汚水が水質汚染の原因としてあげられます。
とくに、下水道が整っていない開発途上国の生活排水による水質汚濁が問題視されています。
人口増加に伴い、生活排水の量が増加しているにもかかわらず処理が追い付いていません。例えば、開発途上国で都市化が進むと同時に都市の周辺にスラムが形成されています。
スラムは不法に人々が暮らしているため、国による水やトイレの管理がなかなか進みません。その結果、スラムの生活排水がそのまま川や海に流れ出ることになり、不衛生な生活排水が流出します。
流出した生活排水は地下水・土壌・作物が汚染し、畜産物の病気にもつながります。
私たちが飲料として使用してしまった場合は感染症のおそれがあり、大変危険です。
そんな危険を防ぐためには、生活排水が流出する前に水を浄化することが必要となります。
自然にも浄化作用はありますが、汚水には自然の浄化作用以上のリンや窒素が含まれおり、自然だけでは浄化しきれません。
現在、先進国の汚水処理は「活性汚泥法」という方法が主流です。固形物を取り除いた後に、微生物に汚水を分解してもらう方法です。
(出典:広島大学FE・SDGsネットワーク拠点-EFFORT 全学取組実績-)
活性汚泥法のような生活排水を浄化する設備を開発途上国にも普及させることで、汚染は減少し、水質が改善します。
水に関連する生態系の保護・回復(ターゲット6.6)
目標6達成には生態系の保護も重要です。ここで、あらためて目標6「安全な水とトイレを世界中に」のターゲット6.6を確認すると下記のとおりです。
「山地、森林、湿地、河川、帯水層、湖沼などの水に関連する生態系の保護・回復を行う」
生態系の保護もSDGsのターゲットになるほど大切なことがわかります。
水に関連する生態系は水に含まれるさまざまな養分や有機物をもたらしてくれます。
菌や寄生虫の繁殖も同時に防いでくれ、再び健全な水に戻してくれる役割もあります。
よって水に関連する生態系の保護は、水生生物だけでなく水質や水量、水辺地の保全にもつながるのです。
そんな良質な水をつくってくれる生物ですが、どのような危機にあるのでしょうか。
生きている地球指数(自然と生物多様性の健全性を測る指標)によると1970年から2018年までの間に、69%低下したことを示しています。
つまり、水環境の生態系が失われ続けているのです。
(出典:WWFジャパン「生きている地球レポート2022 ー ネイチャー・ポジティブな社会を構築するために ー」)
水に関連する生態系の危機は、農業や工業など人間の営みにも欠かせない水資源自体が危機的状況にあることにつながります。では水に関連する生態系を守るためにはどうすればよいのでしょうか。
そのためには、生態系の住み家である森林を保全していく活動が必要です。
例えば、わたしたち人間も家を失うと生活できません。
同様に水に関連する生物たちも森林という住み家を失っては生きていくことができないのです。
各国政府がSDGsのような共通の目標に向き合い、生態系を維持するために森林を保護していかなければなりません。
目標6に関する企業の取り組み
ここまでSDGs目標6の原因や解決策をご紹介してきました。
それでは海外や日本の企業は、目標6の達成に向けて具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。
多くの企業がそれぞれの強みを生かした取り組みを実施しているので詳しく紹介します。
コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社の取り組み
1度は聞いたことのある「コカ・コーラ」などの飲料水をあつかう「コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社」。
同社はSDGs6の達成に向けて、水質や生態系保全につとめています。
具体的には下記のとおりです。
- 工場水源の水質調査
- 水量調整
- 水の効率的利用
- 排水管理
- 生態系の保全
それでは、1つずつ見ていきましょう。
【工場水源の水質調査】
同社では、工場水源の量や質に問題がないか科学的に調査し、地域や専門家と協力して水資源保護に取り組んでいます。
【水量調整】
自然の水が無駄にならないよう、製品のために使用する水の量を厳しく管理しています。その水量は、量・質ともにコカ・コーラシステム独自の要件に従って監視され、日本の法律に基づいて適切に許可されているのです。
よって、厳しい水量管理が適切な水量で製品をつくることにつながっています。
【水の効率的活用】
同社では製造過程における水の使用量の管理を徹底するとともに、使用された水の循環利用も行っています。例えば「エレクトロン・ビーム」というシステムも水の循環利用の一環です。
「エレクトロン・ビーム」は薬剤を使用しない電子による殺菌方法で、空PETボトルの殺菌を薬剤の使用なしで行えます。
このシステムを使えば、1日の水使用量が従来と比較して、約400トン削減でき、水の効率的利用につながっているのです。
【排水管理】
同社では工場周辺の状況を把握し、コカ・コーラシステムの基準に適した取水・排水の水質を維持する活動を続けています。
なんと法定基準よりも厳格な自主基準を設定し、潜在的な水汚染を見逃さないよう、厳格に管理しているのです。
もちろん河川へ流出させる前の水は、いったん工場敷地内の調整槽に蓄えられています。
適正に処理される前に敷地外へ流れ出ないように、厳しく監視されているのです。
【生態系の保全】
コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社では、森林、草原、その他の水源域及び生態系を保全していくことが社内で定められています。
上記で紹介した水資源の保護や効率的利用を進めることで、生態系の保全に取り組んでいるのです。
具体的には17工場すべての水源域において、地域の森林組合などと協定を締結し、森林の保全活動を行っています。
2022年にはTNFDフォーラム(自然に関する企業リスク管理のための国際組織)に参加し、水源域の生態系への影響も評価しています。
外部の専門家の意見も取り入れ、環境的影響の調査を進めており、SDGs 6のも目標達成にむけ、動き出しているのです。
(出典:コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社-「資源」への取り組み-)
ネスレ日本株式会社の取り組み
コーヒーをはじめとする飲料水から、食品や菓子類などさまざまな商品を展開するネスレ。スイスに本社のある企業ですが、日本のコンビニやスーパーでもよく商品を目にします。
ネスレはSDGs目標6の達成にむけて、「地域レベルでの活動」に力を入れており、ここで紹介する地域は下記の2点です。
- バクストン:洪水対策を支援
- パキスタン:灌漑方法の切り替え
【バクストン:洪水対策を支援】
バクストンとはイギリスの川沿いの市街地で、天然のミネラルウォーターが湧出することで有名な温泉地です。
そんな温泉で有名なバクストン地域ですが、急峻な丘に囲まれており、短時間に激しい雨が降ると、川が氾濫する恐れがあります。
大量に降った雨水は地形的に吸収される場所がなく、そのまま川に流れ込み、洪水被害が発生してしまうのです。この洪水被害により街の中心部の川岸が崩壊し、地域の住民や働く人に多大な被害を与えています。
この問題を解決するため、ネスレは地域の団体と協力し、降った大量の雨水が土壌に保持される仕組み作りを支援しています。
【パキスタン:灌漑方法の切り替え】
パキスタンでは、農業従事者が洪水を利用して畑に水を供給しています。そこでネスレはパキスタン政府と協力し、再生農業に重点を置いた、持続可能な方法で農家の支援を開始しました。
農家の灌漑方法への切り替えを支援することで、水の使用量を60%以上削減に成功しています。
灌漑方法とは河川や地下水、湖などから水を引き、農業物を育てるために田や畑へ人工的に給水をしたり排水をしたりすることです。
ネスレは、イギリスの川沿いの市街地、パキスタンの農地など、地域レベルでの活動を通じて世界の水供給に貢献しているのです。
(出典:ネスレ日本株式会社-グローバルでの取り組み-)
ウォータースタンド株式会社の取り組み
ウォーターサーバーで有名な企業、ウォータースタンドもSDGs目標6の達成にむけて活動しています。
具体的な取り組みとしては下記のとおりです。
- 給水スタンドの普及
- マイボトルの普及
ウォータースタンドは各地の自治体と協力し、地域の人が使える給水スタンドを広げています。
例えば公民館や図書館など公共の場でウォータースタンドの水を無料で使用でき、わたしたちの生活の一部です。
さらにマイボトルの普及にもつとめており、水質を汚す原因となるペットボトルを削減しています。
2018年から取り組んでいる「ボトルフリープロジェクト」では水筒18万本も普及させ、SDGsに貢献中です。ウォータースタンドのウォーターサーバーの設置台数は約8万台にものぼります。
この実績は、年間で5,856 万本のプラスチックボトルが削減されたことになるのです。※ウォータースタンド1台の平均利用人数を4人とした場合
このようにウォータースタンドでは、水質汚染の原因となるプラスチックボトル自体をなくし、SDGs6に貢献しています。
(出典:ウォータースタンド株式会社-ウォータースタンドの価値創造プロセス-)
株式会社LIXILの取り組み
リフォームなどで有名な住宅設備メーカーの株式会社LIXILもSDGs6の目標達成へむけ、取り組みを行っています。
取り組み内容は下記のとおりで大きく下記3点です。
- 開発途上国へ高品質で安価なトイレを提供
- 開発途上国でのトイレ市場の雇用をつくる
- 節水につながる製品開発
LIXILは下水道の整備が十分ではない開発途上国の農村地域向けの簡易式トイレを提供しています。
これまでに45カ国へ約650万台が出荷され、約3,500万人の衛生環境改善に貢献しています。
現地での生産・販売体制の構築や人材育成を通じて、地域に事業や雇用も生み出しています。
LIXILは2019年3月に「第2回SDGsアワードSDGs推進副本部長(外務大臣)賞」を受賞し、社外からも高く評価されているのです。
ほかにも、LIXILでは、節水トイレや水栓金具など、住生活での節水につながる製品を開発し、水資源の保全に貢献しています。目標6のターゲット2はすべての人々の野外排泄をなくすことです。
LIXILの取り組みは、目標6のターゲット2に大きく貢献しているといえるでしょう。
(出典:LIXIL株式会社)
(出典:「世界の衛生環境を改善しよう!みんなにトイレをプロジェクト」)
SDGs6「安全な水とトイレを世界中に」の達成に向けてわたしたちができること
目標6の達成に向けて、企業だけでなくわたしたち個人もできることがあります。
ここでは下記3点について解説します。
- 節水
- 寄付
- 水の情報収集
自分にできそうなことからはじめて、SDGsに貢献していきましょう。
節水する
家計の節約のために節水を意識している人も多いのではないでしょうか。
実は、家庭での節水もSDGsの目標6達成のために必要不可欠な取り組みです。ここでは節水術を以下2点にわけて説明します。
- 節水できる製品を買う
- 蛇口をしめる
節水して家計も節約しつつ社会貢献につなげていきましょう。
【節水できる製品を買う】
わたしたちの身の回りには、水を使わなければならない製品がたくさんあります。例えばお風呂で毎日使用するシャンプー、コンディショナー、ボディーソープは体につけたあと、水できれいに洗い流さなければいけません。
そんなシャンプー、コンディショナー、ボディーソープですが、ほとんどの場合、3種類別々に購入する場合が多いです。
実は、3種類を1つの製品でまとめられる「ヘア&ボディウォッシュ」があることをご存知でしょうか。
ヘアケア製品を販売するアラレフアはシャンプー、コンディショナー、ボディーソープが一体化したヘア&ボディウォッシュを販売しています。
なんとシャンプーの際に頭にアラレフアのヘア&ボディウォッシュをつけてその泡で体まで洗えるのです。ヘア&ボディウォッシュを使用し、水の節約につなげ、SDGsに貢献してみてはいかがでしょうか。
アラレフアのようなヘア&ボディウォッシュだけでなく、シャンプー&コンディショナーの使用も同様に節水できる取り組みです。
ヘアケア製品を扱うエティークでは固形シャンプー・コンディショナーを販売しています。シャンプー・コンディショナーで節水につながるだけでなく、固形石鹸なのでボトルの節約にもつながります。
節水につながる製品を購入し、SDGs 6の目標達成に貢献してみてはいかがでしょうか。
【蛇口をしめる】
蛇口をしめるといっても、家庭内のさまざまな場所に蛇口があります。では、どこの蛇口をこまめにしめればどのくらい節水になるのでしょうか。
具体的な節約術とともに以下にまとめましたので参考にしてください。
場所・シーン | 通常使用 | 節水術 |
洗面・手洗い | 3分間流しっぱなしで洗うと約36リットル使用 | ●止めながら洗えば(約1分)約24リットルの節水 |
食器洗い | 水を流しっぱなしで洗うと約110リットル使用 | ●蛇口をこまめに閉めると1回で約90リットルの節水 ●食器洗いはため洗いにする ●油汚れのひどいものは事前に紙などで汚れをふき取っておく ●米のとぎ汁や野菜を洗ったあとの水は、植木などの散水に再利用 |
歯磨き | 水を流したまま磨くと(30秒間)約6リットル使用 | ●コップを使うと、1回で約5リットルの節水 |
洗濯 | 注水すすぎだと約165リットル使用 | ●ためすすぎにすれば約55リットルの節水 ●洗濯はまとめ洗いで節水 ●お風呂の残り湯を再利用 |
風呂 | シャワーを15分間出しっぱなしにすると約180リットル使用 | ●シャワーを10分で終えれば約60リットルの節水 ●浴槽の半分でも洗濯に使えば約90リットルが再利用 ●シャワー15分間の水の量は、浴槽1杯分と同じなので、家族で入るならシャワーより浴槽にためて入った方が節水につながる |
洗車 | ホースの水で流し洗いすると約240リットル使用 | ●バケツに汲んで洗えば(5杯)約210リットルの節水 ●残り湯も水やりや掃除に利用 |
トイレ | トイレで一回流すと約12~20リットルの水を使用 | ●タンク内に水を入れたペットボトルなどを沈めておけばその分の水(約2リットル)が節水 ●<大>のレバーだと、タンク内のすべての水を使い切るが<小>のレバーならレバーを戻せば水は止まるので<大>と<小>のレバーをこまめに使い分ける |
(出典:伊賀市-節水のお願いについて-)
意識的に蛇口を使って水を止めることで、節水につながるので、蛇口をしめる意識を高めましょう。
寄付を行う
わたしたちがSDGs目標6の達成にむけてできることで、真っ先に寄付を思い浮かべた人も多いのではないでしょうか。
水の問題に取り組んでいるNPOやNGOなどの支援団体へ寄付を行うのもわたしたちにできる取り組みのひとつです。
安全な水を供給するための井戸や貯水槽、水道設備、トイレや手洗い施設などの設置には多くの資金が必要となります。
そんな安全な水の供給に間接的に貢献できるのが寄付です。
例えば日本ユニセフ協会の「マダガスカル水と衛生募金」では、安全な水を利用するための寄付を受け付けています。
寄付によって集められたお金は
- 安全な飲み水確保のためのインフラ整備
- 手洗いのための衛生用品提供
- 屋外排泄根絶のためのトイレ設置
などに使われ、間接的に世界に安全な水とトイレの供給に貢献できるのです。
寄付の方法も簡単で、日本ユニセフ協会の「マダガスカル水と衛生募金」サイトにアクセスし、「寄付をする」ボタンから支払方法を指定するだけで誰でも簡単に貢献できます。
日本ユニセフ協会以外にも寄付の選択肢はあります。例えばウォーターエイドジャパンでも同様の方法で簡単に寄付ができ、どのくらいの寄付でどのようなことができるのかを紹介してくれています。具体的には下記のとおりです。
- 10000円の寄付でネパールに押しポンプ1基
- 5000円の寄付でマダガスカルに家庭用トイレ2基
- 毎月2000円の寄付で年間10人の人が清潔な水を使えるようになる
金額と貢献できる規模がわかるとわたしたちの寄付しようという意識が高まりますので参考にしてください。
寄付方法は簡単で、ウォーターエイドジャパンの公式サイトにアクセスして右上の「寄付する」ボタンを押し、支払方法等を設定するだけです。
ここで紹介したような支援団体への寄付も世界に安全な水とトイレを届けられ、SDGs6の目標達成につながります。
日本ユニセフ協会やウォーターエイドジャパンなどの支援団体に寄付をして、わたしたちができるSDGs6への貢献をしていきましょう。
水に関する情報を得る
インターネットや本で水に関する情報を得ることも立派なSDGs6の取り組みです。
SDGsの意味や取り組みを知ることにより、自分ができることをやってみようという気持ちになるからです。例えば「SDGs」と言葉をはじめて聞いた時は、全く何のことかわかりません。
「わからない」となった瞬間に自分で調べてみることで「SDGs」についての理解が深まり、支援や取り組みに興味を持てます。
日本に住んでいると、安全な水がすぐに手に入るので、自分から調べないと水に関する情報に疎くなりがちです。
本記事で紹介したように世界にはまだまだ安全な飲み水や衛生施設がない地域があります。だからこそインターネットや本で調べ、水に関する情報を得て、貢献しようという意識を高めることが大切なのです。
水に関して調べてみて、「これなら自分にもできそうだ」と感じたことから取り組んでみてはいかがでしょうか。
世界の水事情を知り、自分ができることからはじめる
今回はSDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」について、初心者むけに解説しました。
ポイントは下記のとおりです。
- SDGs 6は、SDGsにある17の目標の1つで、水と衛生に関する目標を指す
- SDGs 6はと水とトイレに関することが大きな課題
- 世界の約27%は安全に管理された飲み水を、約45%は安全に管理されたトイレを利用できない現状がある
- 課題解決にむけて、水の管理体制強化、水質改善、生態系の保護などがあげられる
- SDGs 6の目標達成に向け、世界中の企業が取り組みを行っている
- SDGs 6には節水・寄付・水に関する情報取得などでわたしたち個人も簡単に貢献できる
SDGs 6は、安全な水と衛生状況の改善に取り組むことで、世界中の人々に安全な水を供給し、持続可能な社会の実現を目指しています。
水や衛生に関する問題解決には世界中の協力が不可欠なのと同時に、わたしたち個人の環境意識向上も必要です。
本記事で紹介したような「水」の資源に関する問題は多数あり、とくに開発途上国はまだまだ水不足や水の汚染などに悩まされています。
トイレに関しては、女性や女児が今でも草むらや道ばたで用を足さざるを得ない状況です。
そのような現状を解決するためにも、私たちは日常生活のなかで水の使い方を意識することが大切です。
世界の水事情を把握し、まずは自分のできることから始めてみてはいかがでしょうか。
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。