SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」の現状と実現への取り組み

SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」の現状と実現への取り組み

2023.05.12(最終更新日:2024.06.26)
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海は多くの生物が生息する資源の宝庫であり、私たちに多くの恩恵をもたらしてくれます。漁業、海運業、観光やレジャーを通して食生活や経済を支え、また、海水は蒸発し雨を降らせることで、陸で生活する生き物の命も支えています。
しかし、海の環境は私たち人間の活動によって、汚染され、破壊されているのです。また、海に住む魚達も獲りすぎによる影響を受け、その数を減らしつつあります。
このような状況を変えようと多くの取り組みが行われています。本記事では、海の現状と環境を守るための取り組みについて解説します。

SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」の必要性

海は地球の面積の70%以上、海水は地球上にある水の97%以上を占めており、地球上の水のほとんどが海水なのです。海水は海流として循環することで、気温、気候を調整し、栄養を運び海の生物を養っているのです。私たちも、魚や貝といった海洋資源に生活を支えられています。しかし、地球環境を維持するためにとても重要な海の環境が私たちの生活によって大きく変化し、バランスを崩しているのです。(注1)

そこで、SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」が掲げられました。海洋資源の枯渇や、海洋汚染など海が抱えるさまざまな問題を解決し、持続可能な海洋環境を目指します。

(注1)参考:海洋政策研究所 水循環における海と陸の役割

海洋ゴミの問題

平成28年度国内海洋ゴミの内訳円グラフ(プラスチック65.8%)
参考:環境省 海洋ゴミをめぐる最近の動向

海洋ゴミとは、海を漂うゴミと海岸などに漂着したゴミ、また海底に堆積したゴミの総称です。特にプラスチックは自然界での分解はされず、紫外線などにより5ミリ以下のマイクロプラスチックとなり、漂流し海底に蓄積されてしまいます。2016年の一年間に、世界で新品の素材から生産されたプラスチックは3億9,600万トンにもなり、多くの生産と並行し廃棄される多くのプラスチックが問題となっています。そして、適正に処理されないプラスチック製品が自然界に流出しているのです。2015年には1億5000万トンがすでに海へ流出しているとされ、さらに毎年800万トンものプラスチックゴミが新たに海へと流入しているのです。
マイクロプラスチックは南極や北極でも観測されており、海洋ゴミの問題は世界規模に拡がっているのです。

また、漁業から発生する網やロープなどの海洋プラスチックの割合は、全体の10%以上を占めると推定されています。
今のスピードでプラスチックの海への流出が続くと、2050年には海洋プラスチックゴミの量が魚の量を上回るといわれているのです。(注1)

海洋ゴミは、他にもガラスやゴム、金属などがありますが、プラスチックの割合がとても高くなっているのが現状です。
平成28年度の日本の海洋ゴミの割合でも、プラスチックゴミが65%以上となっており、プラスチックゴミがとても多いということがわかります。

(注1)参考:海洋プラスチック問題について |WWFジャパン

▼海洋プラスチック問題について、詳しくはこちら
海洋プラスチック問題とは?SDGs目標14に向けた世界の取り組みを解説

化学物質や油による海洋汚染の問題

海洋汚染とは、陸上からの原因である工場排水や生活排水と、海上からの汚染となる船舶からの油や、有害な液体の流出があります。

大きなタンカーの座礁はニュースになることがありますが、2022年の一年間に日本で起こった海上汚染の数は、漁船や作業船からの漏油が195件、陸上からの漏油が40件、理由不明などの漏油が97件起こっています。また、有害な液体による汚染も14件起こっているのです。特に海上からの油や有害液体の汚染は人為的ミスによる事故が多くなっています。対策として燃料漏油タンクの設置などを行っていますが、人為的なミスや、設備の不備などにより防ぎきれていないのです。(注1)

(注1)参考:海上保安庁 令和3年の海洋汚染の現状(確定値)

海洋汚染や海洋ゴミの影響を受ける海洋生物の問題

2015年に東京湾で行われた調査では、64尾中49尾のイワシの消化管から合計150個ものマイクロプラスチックが発見されました。また、マイクロプラスチックは、ポリ塩化ビフェニル(PCB)などの難分解性、高蓄積性、有害性を持つ物質(POPs)を吸着し、そのマイクロプラスチックを生物がエサと間違えて食べてしまうのです。現在、マイクロプラスチックを食べることによる、生物の健康への被害が研究されています。(注1)
そして、マイクロプラスチックだけではなく、漁業の網などの流出や不法投棄によって、生物が絡まる事例も多くあり、最悪の場合、呼吸ができずに溺死している生物も多くいるのです。

2020年にモーリシャスで起こった、日本の貨物船WAKASHIO号の座礁事故では、重油が流出し周囲のサンゴ礁やマングローブへの汚染が発生しました。この事故による影響は、地元での回収作業と日本からの支援により目立つ汚染は解消されました。しかし、油の流出は細かな粒子となり海や土の中に長く留まることで、さまざまな影響を及ぼす恐れがあります。
過去の油による汚染事故では、十数年後まで影響が認められた事例もあり、モーリシャスでの事故も影響が心配されています。(注2)

海へと流出する漁具は「ゴーストギア」と呼ばれています。漁具は海洋汚染だけではなく、海を漂うことで海洋生物を獲り続け、傷つけてしまうのです。
また、流出の原因として違法漁業者が、発覚を恐れ証拠隠滅のために海へと漁具を投棄してしまう事例もあります。

(注1)参考:水環境学会誌 日本内湾および琵琶湖における摂食方法別にみた魚類消化管内のマイクロプラスチックの実態
(注2)参考:WWFジャパン モーリシャス油流出事故 その後の活動報告

海の温暖化と酸性化の問題

海の温暖化は、海面上昇や海生生物に影響を与えます。
海は二酸化炭素を吸収することで、地球温暖化による熱を吸収しています。そのため、日本の近海での海域平均海面温度は、調査を始めた約100年前と比べ+1.14℃上昇しており、世界全体では約100年で+0.5℃上昇しています。(注1)

また、海は地球温暖化の熱を吸収する役割もあり、そのため海水の温度は20年間にわたりすべての水深レベルで上昇しているのです。そして、水温の上昇は海水の体積を増加させ、氷河が溶けることで海面が上昇し、沿岸部や小さな島の環境を脅かしています。(注2)

世界の海面水位は、1901年から1971年では1.3ミリ/年、1971年から2006年では1.9ミリ/年、2006年から2018年では3.7ミリ/年と加速度的に上昇しているのが現状です。(注3)
2022年2月に米海洋大気局などがまとめた海面上昇に関する報告書によると、2050年までに25〜30センチの海面上昇が予測されています。(注4)

海は温室効果ガスである二酸化炭素を吸収してくれますが、人間の活動によって増えた二酸化炭素が、海中に多く溶け込むことで起こる海洋酸性化が問題になっています。海の環境はもともとアルカリ性ですが、酸性化が進むことで海の生物にも影響が出ています。
海洋酸性化により、海中の炭酸イオンが減ることで、炭酸イオンとカルシウムイオンを結合させ成長する貝やサンゴの成長を妨げているのです。

また、海洋温暖化、酸性化の影響として、サンゴの白化現象があります。サンゴは、高水温・低水温・強い光・紫外線・低い塩分などのストレスを受けることにより、共生関係の共生藻の光合成を疎外され、共生藻の密度が低くなることでサンゴが白く見える現象です。この状態が続くと、サンゴは栄養を得られず死んでしまうのです。
実際に、1997年から1998年にかけて海水温の上昇が起こり、大規模なサンゴの白化現象が起こっています。(注5)
サンゴは多くの生き物が住み、周辺では漁業が行われ、災害時には防災の役割も果たしてくれます。また、レジャーにおいても重要な要素になっており、サンゴへの影響は、人間にも影響を与えてしまうのです。

(注1)参考:水産庁 漁場環境をめぐる動き
(注2)参考:国際連合広報センター 気候変動の影響
(注3)参考:環境省 IPCC第6次評価報告書の概要 P16
(注3)参考:ナショナルジオグラフィック 海面上昇が加速、2050年までに25~30cm上昇、米NOAA報告
(注4)参考:地球環境研究センター 海から貝が消える? 海洋酸性化の危機
(注5)参考:日本サンゴ礁学会 サンゴの白化現象

水産資源の枯渇

近年、水産資源の獲りすぎが問題となっています。全世界での水産物の漁獲量は1950年に2000万トンでしたが、1980年には3倍にも増え続けていました。しかし、1990年代になると、漁獲量が停滞しているのです。

世界の水産資源の3分の1は乱獲状態であり、漁獲量に余裕がある水産資源はわずか17%ほどしかいないのです。水産資源を守るために、科学者が一定の期間で捕獲してもよい総量(ABClimit)を勧告します。ABClimitは、生物学的許容漁獲量のことであり、これ以上の漁獲量は乱獲になることを示すものです。海洋資源の現状や回復力を考慮した海洋資源の維持の観点から提言されます。

しかし、ABClimitが実際の漁獲可能量(TAC)とはなりません。漁業に携わる国際機関などは漁業関係者の利益を優先し、ABClimitを上回る漁獲枠を設定することがあるのです。
日本でも、以前ABClimitを上回るTACが設定されていたことがあり、現在も生息数が回復しきれていない魚種があります。水産庁の評価においても日本周辺で漁獲される50魚種84系群の約半数が「獲りすぎ」とされています。

天然の水産資源量が低迷していますが、養殖の水産資源の量は1980年以降増加を続けています。養殖の増加により、天然水産資源の乱獲を抑えられる一面もありますが、養殖のためのエサとして天然水産資源の乱獲が行われている場合もあります。また、天然の状態から卵や稚魚を獲る場合もあるため、養殖とはいえ、天然の水産資源量と無関係とは言えないのです。(注1)

(注1)参考:WWFジャパン 持続可能な漁業の推進 

IUU漁業問題

IUU漁業とは「違法(illegal)・無報告(Unreported)・無規制(Unregulated)」に行なわれている漁業のことです。

違法 国や漁業管理機関の許可を取らない、または、国際法や国内法に違法する漁業
無報告 法律や規則に違反して報告を行わないことや、虚偽の報告を行う漁業
無規制 無国籍、または当事国以外の船舶が、規則や海洋資源の保全管理措置に従わずに行う漁業

IUU漁業での金額は世界全体で100〜235億ドルと推定され、日本の漁業、養殖業を合わせた漁獲量にほぼ匹敵する額になっています。また、IUU漁業での、漁獲量は1,100〜2,600万トン、日本円に換算すると1兆1000億円~2兆5845憶円とされており、これは日本の生産量(442万トン)の2.5〜5.9倍にもなるのです。このことから、IUU漁業では多くの水産資源を安く販売していることがわかります。日本でもIUU漁業での水産資源が流入するリスクがあり、特にウナギの稚魚や、ヒラメやカレイ類、サケやマス類などのリスクが高くなっています。さらにIUU漁業では、乗組員や漁業監視員の健康や生命を損なう被害も起きているのです。

日本でも2019年の水産庁の報告によると、年間1,400件の違法漁業が検挙されています。

世界では、IUU漁業に対するさまざまな規制が設けられ、対策が強化されています。日本でも、2020年12月に国会でIUU漁業での水産資源の流通を規制するための法律「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」が成立しています。(注1)(注2)

(注1)参考:WWFジャパン 持続可能な漁業の推進
(注2)参考:WWFジャパン IUU漁業について 

▼密漁とIUU漁業について、詳しくはこちら
密漁の問題とは?密漁の現状と防止対策について

お笑い芸人のせやろがいおじさんと、WWFが共同でIUU漁業問題の動画を作成しています。日本での現状とIUU漁業の問題がわかりやすく説明されています。
WWFジャパン その魚ヤバいやつかも!?エグすぎる方法で獲られた魚が普通にスーパーで売られてる件について

「海の豊かさを守ろう」ターゲット説明

SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」は、7つのターゲット(目標)14.1〜14.7と、3つの目標達成へ向けた方法(14.a〜14.c)が掲げられています。
それぞれのターゲットは、持続可能な海洋環境をめざすことにつながっています。また、経済を安定させることで海洋環境の保全につながるよう、開発途上国の経済の安定なども盛り込まれています。一つずつ解説していきます。

海の汚染を防ぐ

ターゲット14.1は、海の汚染を防ぐことを目標としています。
2025年までに、おもに人間活動による海洋汚染を防ぎ、削減することを目標としています。
海の富栄養化とは、農薬や洗剤、肥料などのさまざまな理由で、海にリンや窒素が増えることで、植物プランクトンが自然の状態以上に発生することです。富栄養化が起こると、海の中の酸素濃度が下がってしまい、海洋生物が死んでしまうことがあります。(注1)
また、プラスチックなどのゴミの流入による汚染を防ぐためにゴミの回収やリサイクルといった対策も必要です。

(注1)東京環境局 赤潮とは?

海の生態系を守る

ターゲット14.2は、漁業や汚染などの影響を受ける海の生態系を守るための目標です。
海洋環境の汚染による影響を受けた生物を守るために、2020年までに汚染やゴミ、水産資源の獲りすぎなどによる海や沿岸部の生態系を保全、保護を行い、これまでに起こった海洋環境への問題に対処し、自然環境を回復させ、持続可能な海洋環境を目指すことです。
そのためには、生活排水や工場排水などの浄化を行い、海へのゴミの流出を防ぎ、違法な漁業による乱獲を防ぐことなどが重要です。

酸性化への対策

ターゲット14.3は、海の酸性化への取り組み目標です。
海には多くの二酸化炭素が溶け込んでいますが、人間活動の影響で二酸化炭素が、より多く海中に溶け込んでしまい、元のアルカリ性から酸性へと傾く現象を、海洋酸性化といいます。海中の二酸化炭素が増えると、海中プランクトンの減少など海洋生物への影響が出てしまうため、国や研究機関、民間企業などあらゆる機関で協力し、海の酸性化の影響を小さくすることを目指します。

海洋生物の生息数を回復させる

ターゲット14.4は、海洋生物を違法な漁業から守り、生息数を回復させるための目標です。
水産資源となる海洋生物の種類の特徴に合わせて、海洋生物の全体的な生息数を減らさずに利用ができるレベルまで早く回復させることです。そのために、2020年までに漁獲量を制限し、獲りすぎを防ぐための科学的な漁獲量の管理計画を行います。
また、違法な漁業への対策を行い、終わらせることを目指します。

海洋環境の保全

ターゲット14.5は、海洋環境の保全を行う目標です。
国内法や国際法を守りながら、世界の10%の沿岸域や海域の保全を目指します。海洋環境保護のために、環境影響評価などの信頼できる科学的な情報により、環境への悪影響を抑えることが重要です。

補助金交渉により乱獲などを防ぐ

ターゲット14.6は、環境に悪影響のある漁業への補助金を失くし、世界中での公平な漁業を目標にしています。
2020年までに、世界貿易機関(WTO)の漁業補助金交渉では、開発途上国に対し特別な待遇が交渉に重要であると認識することで、海洋資源の乱獲や、IUU漁業(違法、無報告、無規制)への補助金をなくし、さらに同様の補助金を新たに作らないようにします。これにより、より公平な漁業の国際的な枠組みにつながり、持続可能な漁業を目指します。

利益を増大させる

ターゲット14.7は、海洋環境を管理し、持続的な利益を得ることが目標です。
2030年までに、漁業や水産物の養殖業、観光業を持続的に管理できるようにし、小さな島国や開発途上国が持続可能な海洋資源の利用を行えるようにすることで、持続的に利益を得ることを目指します。

途上国の開発

ターゲット14.aは、海洋技術などにより開発途上国の発展につなげるための目標です。
健全な海洋環境を作り、海洋生物の多様性が開発途上国や、小さな島国での開発に貢献できるように、ユネスコ政府間海洋学委員会の基準・ガイドラインを取り入れながら、科学知識を増やし、研究能力を向上させ、海洋技術を開発途上国や小さな島国で使えるようにすることです。

小規模な漁業者が市場を利用できるようにする

ターゲット14.bは、どのような漁業規模でも、市場の利用を可能にすることを目標にしています。
小規模で漁業を行う人の中には、市場を利用できていない人がいます。小規模で漁業を行う人々が、海洋資源や市場を利用できるようにすることで、海洋環境と漁業関係者の生活を守っていくことです。

海と海洋資源の保全、持続可能な利用を強化する

ターゲット14.cは、海洋資源を守り、持続可能な形を強化することが目標です。
海と海洋資源の保全や、持続可能な利用のための法的な枠組みを規定した国際連合条約を実施し、海と海洋資源の保護を行い、持続可能な利用を実現させ、さらに強化していくことを目指します。海洋資源を持続可能な形で利用することは、漁業関係者の生活を守ることにもつながります。

参考:外務省 JAPAN SDGs Action Platform

SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」達成のための取り組み事例

海洋資源、海洋環境、沿岸環境を守るために、世界中でさまざまな活動が行われています。海を守るために海での保全活動も多くありますが、海を守るために森を整備する活動も行われています。国、企業、団体などにより取り組み方、規模もさまざまです。ここでは、SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」の達成に向けて、実際に行われている保全活動を紹介します。

漁民の森づくり活動

日本の沿岸には「魚つき林」と呼ばれる場所があります。魚つき林は豊かな漁場を育むことから、漁業者が大切にしている場所です。明治30年には森林法制定時に「魚付保安林」として指定され、保存と管理が義務付けられました。

魚つき林の効果は、直射日光を防ぎ海面に影を作ることや、風や波を防ぐことで水温などの水生生物の生育環境を安定させる効果、また、微生物の発生を促し、豊富な栄養塩の供給を行うなどの水生生物の繁殖、回遊魚の誘致などが指摘されています。

こうした効果を期待し、水産庁では、平成13年度の新規事業として「漁民の森づくり活動推進事業」を5カ年事業として取り組むこととなりました。この活動の内容として、漁業関係者や市町村などが事業主体となって取り組む「漁民の森づくり活動推進事業」があり、森づくり協議会、環境調査、普及活動、苗木支給や植樹・育樹ボランティア活動の支援などをおこなっています。また、マリンブルー21(渚環境美化推進機構)が主体となる「漁民の森づくり推進事業」では、全国連絡協議会、広報活動、事例調査等の研究会活動などをおこなっています。(注1)

(注1)参考:海洋政策研究所 海と森 森が育む豊かな海~森、川、海をつなぐ漁民の森づくり運動~

スズキクリーンオーシャンプロジェクト

自動車で有名なスズキグループは、海洋プラスチックゴミ問題への取り組みとして「スズキクリーンオーシャンプロジェクト」を行っています。この取り組みでは、船の船外機がエンジンの冷却のために大量の水を汲み上げ、その水を戻す構造を利用し、戻り水用のホースに取付可能なフィルター式の回収装置を開発しました。この回収装置を取り付けると、走行するだけで水面付近のマイクロプラスチックを回収できるというものです。モニタリング調査では、実際にマイクロプラスチックの回収に成功しています。
2021年からは、このフィルター式の回収装置をオプション用品として設定し、将来的には標準装備とすることも計画しています。

また、スズキグループでは、船外機を使用する海、川、湖沼での清掃ボランティア活動も行っており「クリーンアップ・ザ・ワールド・キャンペーン」として、参加国は26ヵ国、参加者は8,000人以上が参加しています。(注1)

(注1)参考:SUZUKI スズキ、世界初の船外機用マイクロプラスチック回収装置を開発

海上保安庁による海洋環境保全対策

海上保安庁では、全国各地で発生している油や廃棄物による海洋汚染の実態を調査する「海洋汚染発生状況調査」を実施しています。この調査結果によると、海洋汚染の多くは船舶での燃料給油時などの取扱不注意によるミスや、廃棄物不法投棄などの人為的な要因で発生しておりことから、海洋環境保全の重要性に対する認識が不十分であるとしています。そのため、海洋環境保全のための指導・啓発活動をおこなっており、海事・漁業関係者を対象とした油、有害液体物質などの排出事故防止にむけた適正処理などを指導する「海洋環境保全講習会」や、海上保安官が直接船舶に赴く「訪船指導」、一般の市民や子供達を対象とした「海洋環境保全教室」を実施しています。(注1)

また、環境保全活動として「東京湾再生のための行動計画」を策定し、関係省庁や地方公共団体からなる、東京湾の環境改善に向けた取り組みを行っています。この取り組みでは、陸域対策として、汚水処理施設や高度処理の整備などを推進し、河川直接浄化施設による浄化や、湿地や河口干潟の自然再生の推進を行っています。そして、海域対策としては、浚渫土砂や建設発生土の有効活用や浮遊ゴミの回収、生物の生息環境改善の取り組みを推進し、藻場や干潟の保全活動や漁業の活性化への取り組みの支援なども行っています。(注2)

(注1)参考:海上保安庁 海洋環境の保全
(注2)参考:東京湾再生推進会議 全国の海再生プロジェクト

海の豊かさを守るためのMSC認証とASC認証

スーパーなどで魚介類を購入する際には、持続可能な方法で獲られた水産物であるかを確認するために、MSC認証マークとASC認証マークがあります。海のエコマークとも言われ、MSC認証マークは「水産資源と環境に配慮し適切に管理された、持続可能な漁業で獲られた天然の水産物」の証です。MSC認証を受けるためには、MSC漁業認証規格の3つの原則からなる基準を満たす必要があります。

1 原則資源の持続可能性 水産資源を獲りすぎず、枯渇させないように配慮すること。枯渇した水産資源については回復を論証できる方法で漁業を行うこと。
2 漁業が生態系に与える影響 漁業が依存する生態系の構造、多様性、生産力などを維持できる形で漁業を行うこと。
3 漁業の管理システム 原則1、2を満たすための地域や国内、国際的なルールを尊重した管理システムを有すること。また、持続可能な資源利用を行うための制度や体制を有すること。

また、MSC認証の審査は、独立した機関によって行われ、検証可能な科学的根拠に則っています。独立した審査機関によって複数回の審査プロセスがあり、MSC認証の取得までに平均で1年から1年半ほどかかります。また、取得後も年次監査を受け、認証の更新が5年ごとに行われています。(注1)

また、ASC認証マークは「責任ある養殖により生産された水産物」であり、MSC認証と同じく環境や持続可能性に配慮して生産された水産資源を表すマークですが、MSC認証が天然の水産資源に付けられるものに対し、ASC認証マークは養殖による水産資源を認証するものです。養殖業は、食料を安定して供給するために必要な手段ですが、海洋環境の悪化やエサとなる天然資源の大量消費、養殖魚の脱走による生態系の攪乱など、環境への影響も考慮しなくてはいけません。

これらの問題を解決し、環境や社会に配慮されているということがASC認証マークのついた製品です。

ASC認証を受けるための原則は7つあります。

  1. 国および地域の法律および規制への準拠
  2. 自然生息地、地域の生物多様性および生態系の保全
  3. 野生個体群の多様性の維持
  4. 水資源および水質の保全
  5. 飼料およびその他の資源の責任ある利用
  6. 適切な魚病管理、抗生物質や化学物質の管理と責任ある使用
  7. 地域社会に対する責任と適切な労働環境

また、児童労働や奴隷労働など、労働者の人権を侵害するような養殖業も報告されており、国際的な社会問題となっています。このような問題解決のためにも、環境と労働者、地域社会へ配慮されていることを認証する手段の一つにMSC認証、ASC認証制度があるのです。(注2)(注3)

(注1)参考:MSC MSC「海のエコラベル」とは
(注2)参考:ASC ASC認証
(注3)参考:WWFジャパン 海を守るマーク(2) 養殖水産物の認証制度ASCについて

オランダの非営利団体The Ocean Cleanupの取り組み

2013年に設立されたオランダのNPO団体である、The Ocean Cleanupが試験的に海洋ゴミの回収を行い、北太平洋の中央部で、海洋ゴミが多く集まる地域の太平洋ゴミベルトからプラスチックゴミの回収を行いました。さらに、事業を拡大しながら、2040年までに海面を漂うゴミの90%を回収するという目標を立てています。

The Ocean Cleanupは長さ約600メートルほどの浮きをU字型に設置し、浮きの下に設置された約3メートルのスクリーンで、風と潮の力によって内側にプラスチックゴミを集める仕組みです。回収後は太陽光発電で回収装置を動かす仕組みになっています。また、使用する装置は、ネットの底に穴が空けられ生物が出られるようになっており、浮力の高いプラスチックだけが集まる仕組みです。
回収したプラスチックは、可能な限りリサイクルされ、海洋ゴミを原料にした製品の収益を、さらなる活動資金として集めています。(注1)

(注1)参考:The Ocean Cleanup 史上最大のクリーンアップ

SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」の達成にむけてできること

海洋環境は温暖化や汚染、海洋資源の減少などさまざまな問題を抱えています。私たちも、身近なことから海を守る活動を行い、海洋環境を守るための行動を始めましょう。海洋環境が抱える問題を知ることで、普段の生活や、環境保全の活動に協力するきっかけになります。個人でもできることから取り組んでみましょう。

環境に配慮した消費

海へのゴミの流出を防ぐ手段として、プラスチックゴミを出さないことが大切です。買わない、捨てない、リサイクルすることなど方法は多くあります。また、石油由来ではないバイオプラスチック製品を選ぶなど、購入の際にも考えることが必要です。
魚などの海産物を選ぶ際にも、MSC認証、ASC認証を確認して購入することで、海の環境を守ることにつながります。

河川や海への流出を防ぐためのゴミ拾い

河川の清掃イベントなどでのゴミ拾いも、海のゴミによる汚染を防ぐことになります。海に流出してしまうと回収が困難になってしまうため、流出する前に回収することが重要なのです。
また、道端に落ちているゴミも、雨や風によって川へと流入し、海へ流れ着くのです。拾えるゴミがあれば雨などで流されてしまう前に回収しましょう。

専門の団体への寄付

海の環境を守る活動に個人で取り組むには限界があります。そのような時は専門の団体への寄付を検討しましょう。多くの専門家が、効率よく環境問題に取り組むための資金になります。
応援したいと思う団体への寄付をすることで活動の支援につながります。資金が集まることで、環境保全に取り組む団体の活動の幅が拡がり、より大きな結果を得られます。

寄付により、海洋環境の保護を支援できる主な団体をご紹介します。

1.公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
世界100ヵ国以上で活動を行う地球環境保護団体です。
「人と自然が調和して生きられる未来を目指して」WWFは、地球の自然環境の悪化を食い止め、人類が自然と調和して生きられる未来を築く使命を掲げてます。
活動内容や寄付の方法を知りたい方は、こちらのWWFジャパンのサイトにアクセスしてみましょう。

2.公益財団法人日本自然保護協会
自然環境と野生動物の保護を行うNGO団体です。
「人と自然がともに生き、赤ちゃんからお年寄りまでが美しく豊かな自然に囲まれ、笑顔で生活できる社会」をつくることを目指して活動しています。
活動内容や寄付の方法を知りたい方は、こちらの公益財団法人日本自然保護協会のサイトにアクセスしてみましょう。

3.特定非営利活動法人OWS
海の環境を守るNPO法人です。
海をとりまく自然とそこにすむ生きものたちを通して、「自然に親しむ、自然を学ぶ、自然の大切さを伝える」活動を推進しています。
活動内容や寄付の方法を知りたい方は、こちらの海の環境NPO法人OWSのサイトにアクセスしてみましょう。

海の環境を守り、私たちの未来も守りましょう

地球の7割の面積を占める海の環境を守ることは、地球温暖化を防ぎ、多くの生物を育み、私たちの生活を守ることでもあります。

海洋汚染、水産資源の問題に対して、行動を変えることで、SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」の達成へとつながります。日頃の生活の中から、取り組めることを少しずつ行い、未来の生活を守りましょう。

この記事の執筆者
EARTH NOTE編集部
SDGs情報メディア
「SDGsの取り組みを共有し、循環させる」がコンセプトのWEBメディア。SDGsの基礎知識や最新情報、達成に取り組む企業・自治体・学校へのインタビューをお伝えし、私たちにできることを紹介します。
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。
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