SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」現状と私たちにできること

SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」現状と私たちにできること

2023.05.12(最終更新日:2024.06.26)
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SDGs(持続的な開発目標)は、環境・社会・経済のすべてを対象としています。また、それぞれの目標は、次の「5つのP」に分けて捉えることができます。

SDGs 「5つのP」

人間(People) 目標1~6
豊かさ(Prosperity) 目標7~11
地球 (Planet) 目標12~15
平和 (Peace) 目標16
パートナーシップ(Partnership) 目標17

SDGsの全体像は、言い換えれば、「人間」「豊かさ」「地球」そして「平和」に関する目標であり、各国やあらゆる民間組織、そして各個人の国際的なパートナーシップによって実現を目指しているのです。
その中で、目標16「平和と公正をすべての人に」は、単独で「平和」のパートを構成しています。
この記事では、目標16の内容や設定された理由、取り組み事例をわかりやすく解説し、私たちが今から身近にできるアクションをご紹介します。

目次

そもそもSDGs目標16とは

目標16は、「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」と訳されています。
ここで出てくる、「包摂的」とは立場の弱い人々も含めて、誰ひとり取り残さないという意味です。「誰ひとり取り残さない(No one will be left behind)」は、SDGs全体のスローガンでもあります。
恐怖や暴力に支配され、人々が安心して暮らすことができない社会では、持続可能な成長を達成することはできません。暮らしの基礎となる環境が守られ、すべての人が医療や教育などを受けられ、経済面でも格差が是正された社会を実現することが、争いを予防することに繋がるのです。

目標16が目指すこと1 すべての人の人権が守られること

平和を実現するために、目標16では、すべての人の人権が守られることを目指しています。
人権とはすべての人が生まれながらにして持っている、誰からも侵されない権利です。
1948年に国連で採択された「世界人権宣言」の前文は、次のように始まります。(マーカーは筆者によるもの)

人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である

同宣言では、「すべての人は生まれながらに自由であり、平等である」「すべての人は生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する」「すべての人は、法の下において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する」などが宣言され、世界の人権に関する取り決めの中で最も基礎的なものとなっています。

目標16が目指すこと2 どのような形態の暴力も大幅に減少させる

身体や心が脅かされない権利は、基本的な人権の一つです。
しかし、残念ながら、世界では紛争で命を脅かされる人々、故郷を追われる人々が多くいます。また、日本は集団での紛争は起きていませんが、犯罪行為は発生しており、家庭内暴力や児童虐待、属性の異なる相手への差別行為もたびたび問題となっています。
目標16は、どのような形の暴力であっても大幅に減少させることを目標のひとつとしています。

目標16が目指すこと3 すべての人々が平等に司法の下にある社会を作る

それでは、もし暴力行為等の当事者になってしまったらどうしたらいいでしょうか。
目標16では、公正な司法サービスと透明性のある社会システムの構築を目指しています。
公正な司法サービスとは、性別や人種などの、対象となる人の属性で取り扱いが変わってしまうことのないルールです。
公正な司法サービスが機能し、だれかが一方的に損をしたり被害を受けた人が救済されないことがない社会、また、すべての人が平等に参加し意見を述べることができる社会を作ることが、目標16の目指すことです。

目標16が掲げられた背景

目標16が掲げられた背景として、世界と日本で起きている問題を、データを交えて考えていきましょう。世界には、紛争や社会システムの不備により、安心して暮らせない人々が多くいます。また、日本でも、児童虐待やDV(家庭内暴力)など取り組むべき課題があります。

世界人口の4分の1が紛争の影響を受ける国で暮らしている

武力紛争は現在も世界中で起きており、世界人口の4分の1が紛争の影響を受ける国で暮らしています
以下、40年に渡り世界の紛争について研究を行っているウプサラ大学(スウェーデン)の資料を見てみましょう。

図1:世界の紛争地図(2022年)
UCDP GED map: Active state-based conflicts in 2022
引用:Uppsala University_ Department of Peace and Conflict Research_ UCDP Charts, Graphs, and Maps_ UCDP GED map: Active state-based conflicts in 2022

図の赤い部分が、2022 年時点で紛争の当事者となっている地域です。これらの紛争の影響により、世界では、2022年末時点で過去最高となる1億840万人が故郷を追われています。
出典:UNHCR Japan– 数字で見る難民情勢(2022年)

紛争では、人々の身の安全が脅かされることに加え、街が破壊されると、電気やガス、水道などのインフラが使えなくなり、医療や教育といった生活に不可欠なサービスも行き届かなくなります。
また、働く場所を失ったり、自然環境の破壊が起こったりします。平和の達成は、SDGsの他の目標にも影響する大きな目標なのです。
それでは、そもそも、紛争や戦争はなぜ起こるのでしょうか?
領土や資源の奪い合い、政治的な考えや民族、宗教の違いによるものなど、要因は様々です。とりわけ、気候変動による地球環境の悪化は、水や食料、快適な居住地などをめぐる争いを引き起こすことが指摘されています。
また、紛争に用いられる違法な資金や武器の一部は、国際的な取引によって現地にもたらされています。
現代の紛争はその国だけの問題ではなく、地球環境や国際的な関係が背景にあるのです。

世界終末時計(Doomsday Clock)とは、アメリカの学術誌「原子力科学者会報(Bulletin of the Atomic Scientists)」が公開している時計です。
午前0時を世界の終末に例え、残り何分何秒という形で、危機を象徴的に表しているもので、実際の時計ではありません。毎年、過去1年の出来事をもとに、同誌の科学・安全保障委員会で議論し、時刻の修正を行っています。
1947年の創設時、午前0時の「7分前」を示していた世界終末時計は、2023年1月24日の更新では、ウクライナ侵攻による軍事的リスク増大、気候変動対策への影響などを主な理由に、史上最短の「90秒前」となっています。
参考:Doomsday Clock – Bulletin of the Atomic Scientists (thebulletin.org)

開発途上国に多い、出生登録をされていない子どもの問題

日本では、生まれた子どものほぼ100%が生まれたことを届け出られ、戸籍登録されています。これをもとに、医療や教育などの行政サービスが受けられます。
しかし、2021年のユニセフの報告書では、世界中の5歳未満の子供の約4人に1人の出生が公式に記録されていません。

特にサハラ以南のアフリカでは、5歳未満の子どものうち、わずか半数しか出生届が出されていません。
出生登録が妨げられる理由には、次のようなものがあります。

  • 出生登録に関する知識の不足
  • 出生登録や証明書に費用がかかる
  • 登録施設が遠い
  • 父親と母親で出生登録を届け出る権利が平等でない など

出生登録がされていない子どもは「見えない存在」になってしまい、医療や教育などの重要なサービスを受けられないことが多く、搾取や虐待を受けやすくなってしまいます。
出典:差別が妨げる出生登録 乳幼児の4人に1人が登録されず ユニセフ・UNHCR報告書 (unicef.or.jp)
出典:出生登録 法的に存在しない子ども、1億6,600万人 5歳未満の4人に1人に相当 (unicef.or.jp)

児童虐待、DV(家庭内暴力)の問題

現在紛争が起きておらず、出生登録率が高い日本ですが、児童虐待、DV(家庭内暴力)に関しては、課題を抱えています。
児童相談所における児童虐待相談の対応件数は、下表の通り年々増加しています。

表1 児童相談所における児童虐待相談の対応件数

年度 件数
2015 103,286
2016 122,575
2017 133,778
2018 159,838
2019 193,780
2020 205,044
2021 207,660

出典:外務省 JAPAN SDGs Action Platform-SDGグローバル指標(SDG Indicators) 16: 平和と公正をすべての人に 16.2.1

特に近年は新型コロナウィルス感染症の影響で、子どもへの虐待に悩む相談が増加したという報道があります。
参考:コロナ禍 暴言や暴力など 子どもへの虐待に悩む母親の相談増 | 児童虐待 | NHKニュース

また、DV(家庭内暴力)相談件数も近年、件数が増加しています。

表2 DV相談件数の推移

年度 件数
2015 111,172
2016 106,367
2017 106,110
2018 114,481
2019 119,276
2020 182,188
2021 176,967

※全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談件数とDV相談プラスに寄せられた相談件数の合算(DV相談プラスは2020年4月設置)
出典:ドメスティック・バイオレンス(DV)とは | 内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp)

平和と公正は、危険にさらされている人々、弱い立場の人々を取り残さないために必要

「誰ひとり取り残さない(No one will be left behind)」というSDGsの考え方を達成するためには、危険にさらされている人々、弱い立場の人々をいかにフォローするかが大切です。
そのためには、あらゆる暴力を撲滅するための手立てを打ち平和をもたらすこと、また、ひとりひとりの人権を守る、公正な司法システムを構築することが必要です。

目標16を構成する12個のターゲット

目標16には、さらに詳しいターゲットが12個定められています。また、それぞれに達成度合いを測る指標が設定されています。
少しボリュームはありますが、具体的な項目を知ることで理解を深めることができます。
中身とデータを見ていきましょう。
各ターゲットおよび指標訳出典:外務省 JAPAN SDGs Action Platform-SDGグローバル指標(SDG Indicators) 16: 平和と公正をすべての人に
指標に関するデータの出典:
国際連合-Goals 16国連広報センター-SDGs報告2022およびオックスフォード大学 Our World in DataーSDG Tracker

16.1 全ての形の暴力と、暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる

ターゲット1は以下の通りです。
『あらゆる場所において、全ての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる』
このターゲットは、あらゆる暴力とその犠牲者を減少させることを目指しています。

指標として、次の4つが設定されています。
「16.1.1 10万人当たりの意図的な殺人行為による犠牲者の数(性別、年齢別)」
「16.1.2 10万人当たりの紛争関連の死者の数(性別、年齢、原因別)」
「16.1.3 過去12か月において(a) 身体的暴力、(b) 精神的暴力、(c)性的暴力を受けた人口の割合」
「16.1.4 夜間に自身の居住区地域を一人で歩いても安全と感じる人口の割合」

世界の人口10万人あたりの意図的な殺人の犠牲者数は、2015年5.9人に対し、2021年5.8人と、残念ながら大幅な減少には至っておらず、人数としては過去20年で最悪の約457,000人が犠牲となっています。この要因としては、組織的暴力犯罪や社会政治的暴力の増加のみならず、新型コロナウィルスに関連する経済的影響も指摘されています。
また、武力紛争による民間人の犠牲は、2022年16,988人と、前年に比較して53%増加しました。このうち4割はウクライナで起こっています。
そして、2021年においても世界人口の約3割は、夜間に自分の住んでいる地域を一人で出歩くことに危険を感じています。

16.2 子供に対する虐待等を撲滅する

ターゲット2は以下の通りです。
『子供に対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する』
このターゲットは、子供に対する虐待などのあらゆる加害行為をなくすことを目指しています。

指標として、次の3つが設定されています。
「16.2.1過去 1か月における保護者等からの身体的な暴力及び/又は心理的な攻撃を受けた1歳~17歳の子供の割合」
「16.2.2 10万人当たりの人身取引の犠牲者の数(性別、年齢、搾取形態別)」
「16.2.3 18歳までに性的暴力を受けた18歳~29歳の若年女性及び男性の割合」

2014年~2022年に75 ヶ国 (主に低所得国と中所得国) を対象とした調査では、1 ~14 歳の子ども 10人中 8人が家庭で体罰や精神的攻撃を受けていました。うち70ヶ国では、子どもの半数が定期的に体罰を受けていました。

16.3 すべての人々に司法への平等なアクセスを提供

ターゲット3は以下の通りです。
『国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、全ての人々に司法への平等なアクセスを提供する』
このターゲットは、すべての人が平等に裁判などの司法サービスを受けられることを目指しています。

指標として、次の3つが設定されています。
「16.3.1 過去12か月間に暴力を受け、所管官庁又はその他の公的に承認された紛争解決機構に対して、被害を届け出た者の割合」
「16.3.2 刑務所の総収容者数に占める判決を受けていない勾留者の割合」
「16.3.3過去2年間に紛争を経験し、公式又は非公式の紛争解決メカニズムにアクセスした人口の割合 (メカニズムの種類別)」

2021年の世界の刑務所人口1,120万人のうち、約340万人(約30%)がまだ罪状が確定していない未決拘禁者でした。

16.4 違法な資金及び武器の取引の減少、組織犯罪の根絶

ターゲット4は以下の通りです。
『2030年までに、違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、奪われた財産の回復及び返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する』
このターゲットは、違法な資金や武器の取引を大幅に減少させ、組織犯罪をなくすことを目指しています。

指標として、「16.4.1 内外の違法な資金フローの合計額(USドル)」と「16.4.2 国際的な要件に従い、所管当局によって、発見/押収された武器で、その違法な起源又は流れが追跡/立証されているものの割合」の2つが設定されています。

世界で、有効なデータのある国に関しては、2016年~2021年の間に追跡可能な情報のあった武器の3分の1を発見することに成功しました。

16.5 汚職や贈賄を大幅に減少させる

ターゲット5は以下の通りです。
『あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる』
このターゲットは、利益を得ようとして強い立場の人に不正に贈り物をする「わいろ」や、強い立場を利用して「わいろ」の見返りに不正な便宜を図る「汚職」を減少させることを目指しています。

指標として、「16.5.1 過去2か月間に公務員に賄賂を支払った又は公務員より賄賂を要求されたことが少なくとも1回はあった人の割合」と「16.5.2 過去12か月間に公務員に賄賂を支払った又は公務員より賄賂を要求されたことが少なくとも1回はあった企業の割合」の2つが設定されています。

2006年~2023 年の間に154ヶ国を対象とした調査では、約7社に1社 (15%) の企業が公務員によるわいろの支払い要求に直面しています。

16.6 透明性の高い公共サービスの発展

ターゲット6は以下の通りです。
『あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる』
このターゲットは、役所などの公共機関が有効に機能し、行ったことが明らかに説明できることを目指しています。

指標として、「16.6.1当初承認された予算に占める第一次政府支出(部門別、(予算別又は類似の分類別))」と「16.6.2最後に利用した公共サービスに満足した人の割合」の2つが設定されています。

承認された予算と実行予算の平均的な乖離は、2015年5~10% に対し、2019年は5% 未満まで減少しました。しかし、2020~2021年には一部の地域で予算の乖離が10%近くに達したという報告があります。

16.7 すべての人が意思決定に参加できる行政

ターゲット7は以下の通りです。
『あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する』
このターゲットは、議会などに、さまざまな立場を代表する人が参加し、物事が決められることを目指しています。

指標として、「16.7.1 国全体における分布と比較した、国・地方の公的機関((a) 議会、(b) 公共サービス及び(c)司法を含む。)における性別、年齢別、障害者別、人口グループ別の役職の割合」と「16.7.2 国の政策決定過程が包摂的であり、かつ応答性を持つと考える人の割合(性別、年齢別、障害者及び人口グループ別)」の2つが設定されています。

属性別の議会への参加状況を見ると、ヨーロッパを除く世界のどの地域でも、45 歳未満の人々は国民人口に占める割合に比べて議会での代表が大幅に少なくなっています。

16.8 国際機関への開発途上国の参加を拡大・強化

ターゲット8は以下の通りです。
『グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する』
このターゲットは、国際問題に取り組む機関への開発途上国の十分な参加を目指しています。

指標として、「16.8.1国際機関における開発途上国のメンバー数及び投票権の割合」(指標10.6.1と同一指標)が設定されています。

開発途上国は、一国一票制を採用している総会や世界貿易機関の加盟国の70%以上を占めていますが、他の国際機関における、開発途上国が議決権に占める割合はこれらの水準をはるかに下回っています。世界銀行では2018年10月にルールの変更が採択されましたが、変更が実施された場合でも、開発途上国の議決権は40パーセント強に留まります。

16.9 全ての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供

ターゲット9は以下の通りです。
『2030年までに、全ての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する』
このターゲットは、すべての人が法的な身分証明を持てること、特に生まれた子どもがその国や地域でもれなく出生登録されることを目指しています。

指標として、「16.9.1 5歳以下の子供で、行政機関に出生登録されたものの割合(年齢別)」が設定されています。

ユニセフのデータによると、世界では5歳未満の子供の約4人に1人にあたる1億6,600万人が出生時に登録されず、また、2億3700万人が、出生の証明書を持っていないと推定されています。

16.10 情報への公共アクセス、基本的自由の保障

ターゲット10は以下の通りです。
『国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する』
このターゲットは、情報の公共アクセスを確保する法律などを整備し、基本的自由を保障するを目指しています。

指標として、「16.10.1過去12か月間にジャーナリスト、メディア関係者、労働組合員及び人権活動家の殺害、誘拐、強制失踪、恣意的拘留及び拷問について立証された事例の数」と「16.10.2情報へのパブリックアクセスを保障した憲法、法令、政策の実施を採択している国の数」の2つが設定されています。

2020年、32の国と地域で331件の人権擁護活動家の殺害事件が起こり、また、14の国と地域で19件の行方不明事件が起きています。 殺害された犠牲者の13%、また、失踪者の22%は女性でした。
2019年に殺害されたジャーナリストが57人だったのに対し、2020年には62人が殺害され、その65パーセントが非紛争国および地域で起きました。
情報に対する権利を法的に保証する情報アクセス法を採択している国は、2015 年105ヶ国 に対し、2022 年136ヶ国に増加しました。

16.a 特に開発途上国における人権機関の強化

ターゲットaは以下の通りです。
『特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関するあらゆるレベルでの能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する』
このターゲットは、開発途上国において、国際協力を通じて、暴力や犯罪を防止する国家機関を強化することを目指しています。

指標として、「16.a.1パリ原則に準拠した独立した国内人権機関の存在の有無」が設定されています。

2015年~2017年、平均して毎年4件の新しい人権機関の認定申請があったのに対し、2018年~2021年の人権機関の新規認定申請は年1件のみに減速しています。現在、独立した人権機関を備えている国は43%に留まっています。

16.b 非差別的な法規及び政策の推進、実施

ターゲットbは以下の通りです。
『持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する』
このターゲットは、差別のない法律や政策を実施することを目指しています。

指標として、「16.b.1国際人権法の下で禁止されている差別の理由において、過去12か月の間に差別又は嫌がらせを個人的に感じたと報告した人口の割合」(指標10.3.1と同一指標)が設定されています。

2014年~2020年に44の国と地域を対象にした調査によると、約5人に1人が、差別を経験しており、女性は男性よりも差別の被害者になる可能性が高いという報告があります。
また、新型コロナウィルス感染症の影響により、差別を経験している多くの人々の健康と社会経済的状況はさらに厳しくなっています。

目標16の取り組み 世界の事例

ここからは、目標16の達成に取り組む団体の事例を紹介します。
まずは、世界での事例を見てみましょう。

コロンビア内戦での武装解除広告「クリスマスに家に帰ろう」「光の川作戦」(ホセ・ミゲル・ソロコフ/マレンロウ社、コロンビア)

南アメリカのコロンビアでは、1964年から50年以上にわたり内戦状態が続いており、22万人以上が死亡し、570万人が住む場所を追われたと言われています。
その中で、コロンビアの広告代理店であるマレンロウ社のホセ・ミゲル・ソロコフ氏は、広告を通じてコロンビアのゲリラの武装解除支援を行ってきました。

当初はラジオやテレビを通じて、武装解除した人々の声を届けることからスタートした広告活動は、「クリスマスの時期になると武装解除するゲリラが増える」という気づきから、兵士としてでなくひとりの人間への呼びかけとしての新たなアプローチが生まれました。
それが、ジャングルへのイルミネーションによるクリスマスツリーの飾りつけと、「クリスマスに家に帰ろう」という呼びかけです。
次に、ジャングルの川がゲリラの移動手段になっていることを知ったマレンロウ社のチームは、川沿いの村の人々から6000件を超えるメッセージを集め、光るボールに入れて川に流す、「Operación Ríos de Luz(光の川作戦)」を行いました。
これらの活動を行った8年余りの間に、17,000人のゲリラが武装解除しました。

出典:MullenLowe SSP3 Colombia – A MullenLowe Global Agency Website
参考:Youtube動画-Operación Ríos de Luz(光の川作戦)

衣料品を通じて難民支援「THE POWER OF CLOTHING」(株式会社ユニクロ)

衣料品の製造販売企業である株式会社ユニクロは、2006年から、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と協同し、難民に対する支援をしています。
ユニクロの店舗で、衣料品回収のボックスを目にしたことがある方は多いのではないでしょうか? 衣料支援の実績は、80の国や地域に累計5,050万点(2022年8月時点)に上ります。また、ユニクロは、物資や資金の提供だけでなく、自立支援や職業訓練、店舗等での雇用創出など、幅広く継続的な支援に取り組んでいます。

自立支援プログラムの一環として実施しているのが、難民が手づくりした工芸品のブランド「MADE51」 (メイドフィフティワン)の支援。MADE51はUNHCRによって2018年から運営されており、難民の人々の仕事を生み出すことで、自立と生活再建に繋がっています。故郷を追われて生活する人々が、出身地域の伝統的な手工芸品を製造販売する場を持つことは、その地域の文化を守ることでもあります。
ユニクロは2023年6月現在、特設サイト「世界難民の日2023特別企画 MADE51(メイドフィフティワン)」をオープン。MADE51 特別コラボレーション商品として、南スーダン難民の職人による、伝統的なビーズ細工のキーチェーンとブレスレットを販売しています。
出典:㈱ユニクロ-難民の現在とユニクロの支援活動 | 服のチカラを、社会のチカラに。 UNIQLO Sustainability
国連UNHCR協会-難民が制作した手工芸品を集めたグローバルブランド「MADE51」ウインターギフトのご紹介

毎年6月20日は、世界難民の日です。2000年12月、国連総会で、難民支援への関心を高め、国連機関やNGOによる活動に理解を深める日として制定されました。
当日には、日本各地でも、ランドマークをUNHCRのテーマカラーであるブルーにライトアップするイベントや、SNSでの「#難民とともに」「#WithRefugees」のハッシュタグ投稿などの広報活動が行われています。

出典:UNHCR Japan – 世界難民の日

目標16の取り組み 日本の事例

続いて、目標16達成に向けた、日本国内での取り組み事例をご紹介します。

すべての人が相談できる総合窓口 「法テラス」(日本司法支援センター)

「法テラス」(日本司法支援センター)は、国が設立した法的トラブル解決のための案内所です。
トラブルの当事者となってしまったとき、

  • 誰に相談していいかわからない
  • 経済的な理由などで弁護士などの専門家に相談できない
  • 近くに専門家がいない

などの障害を解決し、国民だれもが、どこでも法的なトラブルの解決に必要な情報やサービスの提供を受けられるようにするため、2002年4月に設立されました。

電話・面談・メールなどで相談を受け付けており、経済的に余裕のない方などが法的トラブルにあったとき、必要な場合、弁護士・司法書士の費用の立て替えを行う「民事法律扶助」を行っています。
2020年時点で、「法テラス・サポートダイヤル」の利用件数448万件、民事法律扶助の無料法律相談の利用件数351万件、弁護士・司法書士費用などの立替え(代理援助、書類作成援助)件数146万件の実績があります。
出典:法テラス 公式ホームページ (houterasu.or.jp)

いじめ、虐待などの相談窓口「こども人権100番」(法務省)

もし、あなたが子どもで、困っていること、悩んでいることがあるならば、「子ども人権100番」に相談することができます。
例えば、こんなことで困っていませんか?

  • 学校などでいじめられている
  • 叩かれたりして悩んでいる
  • SNSでトラブルに巻き込まれた
  • 学校や家族などのことで悩みがある

インターネットでメール相談インターネット人権相談受付窓口)のほか、電話相談(月曜~金曜 午前8:30~午後5:15)、一部の場所ではラインでの相談(@snsjinkensoudan)も受け付けています。学校で「こどもの人権SOSミニレター」という、切手を貼らずに悩み相談の手紙を出せる案内も配布されることがあります。
相談への回答は、あなたの力になってくれる人(人権擁護委員や法務局の職員)が行います。
ひみつは守られます。
出典:法務省-こどもの人権110番

目標16の実現のために私たちにできること

平和と公正の実現を目指す目標16の達成のために、私たちにできることを考えてみましょう。

難民支援や児童の保護などに取り組む団体へ寄付を行う

支援が必要な人々のフォローをしている団体に寄附することで、私たちも力になることができます。
国連の難民を支援する機関である、国連UNHCR協会は、国連難民サポーターとしての定期的な寄付を募集しています。
また、日本国内でも、児童の居場所づくりや、DV被害者の保護に取り組む団体が多く活動しています。
寄附を検討する場合は、運営団体の活動内容、信頼性と寄附の用途をよく調べ、自分にとって納得できる内容(金額・方法)を選びましょう。

フェアトレード製品を選ぶ

フェアトレードとは、開発途上国などの生産地で、人々や環境に配慮して製造されたものを、適正な価格で継続して購入し、立場の弱い生産者の生活改善を目指す貿易の仕組みです。
わたしたちの手元に届く製品が、どのような環境で作られているかに関心を持ってみましょう。
価格だけでなく、その製品が作られる過程で、強い立場を利用した不公正や、環境を顧みない行為がないかを考えて選ぶことは、消費者としてのわたしたちにできるアクションです。

選挙に行く

平等な社会を作っていくためには、さまざまな属性の人が参加して意見を反映させていくことが大切です。
そして、選挙は、私たちの社会をよくしていくために、意見を反映させてくれる代表者を決めることです。
選挙権のある年齢に達したのちは、衆議院議員選挙、地方議会選挙そして知事・市長村長選挙などの案内が届きます。
選挙期日に投票所に行けなくても、期日前投票制度(仕事や旅行・レジャーなどの理由も認められます)や不在者投票制度など、さまざまな状況を考慮した投票制度があります。
選挙に参加して、あなたの声を社会へ届けましょう。

全ての人が平等で安心して暮らせる世界のために、声を上げよう

平和を実現するために、目標16では、すべての人の人権が尊重され、公平な法制度に守られること、また、国や地域などの統治システムに参加できる制度を構築することを目標としています。
平和な生活平等な司法・行政サービスが、世界を見渡せば実は当たり前ではないこと、そして、私たちの生活は世界と繋がっていることを考えてみましょう。
また、身の回りに暴力や差別があったとき、「仕方のないこと」と思わず、声を上げましょう。
ひとりひとりのアクションが、平和な生活を作り、守っていきます。

この記事の執筆者
EARTH NOTE編集部
SDGs情報メディア
「SDGsの取り組みを共有し、循環させる」がコンセプトのWEBメディア。SDGsの基礎知識や最新情報、達成に取り組む企業・自治体・学校へのインタビューをお伝えし、私たちにできることを紹介します。
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。
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