SDGsの「目標1.貧困をなくそう」について考える ~どのような取り組みが必要か

国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」(以下、SDGs)には17の目標があり、その1つに「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」があります(*1、2)。
SDGsはすべての人が力を合わせてよりよい世界をつくる取り組みなので、日本人も日本企業も日本政府も日本の行政機関も、貧困の撲滅に取り組んでいく必要があります。
この記事では、SDGsにおける貧困撲滅の位置づけを確認したうえで、世界と日本の貧困の現状や、解決に向けた取り組み、私たちにできることなどを解説します。
*1:「出典:外務省、SDGsとは」
*2:「出典:外務省、持続可能な開発のための2030アジェンダ」
目次
「目標1、貧困の撲滅」の概要
SDGsの貧困撲滅を理解するには、そもそもSDGsとはなんなのか、について理解しておく必要があるでしょう。
そもそもSDGsとは
SDGsの起源は、国連が2001年に策定したミレニアム開発目標(Millennium Development Goals、MDGs)にさかのぼります(*3)。これは開発分野における国際社会の共通の目標で、8項目で構成されています。この8項目の1つにやはり「極度の貧困と飢餓の撲滅」がありました。
それから時が経て2015年、国連サミットで、加盟国の全会一致で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、このなかで提示された2030年までの目標がSDGsです。
*3:「出典:外務省、ODA」
SDGsのなかの「目標1、貧困撲滅」の位置づけ
SDGsの目標の1つである「あらゆる場所あらゆる形態の貧困を終わらせる」ことは、持続可能な開発を進めるために欠かせない取り組みです。
しかし貧困を撲滅しただけでは、持続可能な開発を進めることはできません。SDGsは17の目標(ゴール)を達成することで持続可能な開発を進めていこう、と訴えています。
「目標1、貧困撲滅」の7つのターゲットとは
貧困撲滅は17個の目標の1つにすぎませんが、相当困難な取り組みになるでしょう。なぜならSDGsが提唱されるはるか前から国際社会や各国は貧困撲滅に取り組んできましたが、多くの問題が残っているからです。
そこでSDGsでは、貧困撲滅を達成するために7つのターゲットを定めました。ターゲットを1つずつ達成することで貧困を撲滅していきます。こちらについては後段の「目標のなかのターゲットの紹介」の章ですべて解説します。
7つのターゲットに向けて具体的にどのように進めていくのかというと、普遍性、包摂性、参画型、統合性、透明性の5つを確保しながら進めていきます。(*4)。
普遍性では、すべての国が行動することを求めています。包摂性では、人間の安全保障の理念を反映した誰一人取り残さない取り組みを求めています。参画型では、すべてのステークホルダーが役割を果たすことを求めています。統合性では、社会、経済、環境に統合的に取り組むことを求めています。透明性では、定期的にフォローアップしていくことを求めています。
*4:「出典:外務省、持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割」
世界の貧困、日本の貧困
最貧困層の暮らしとはどのようなものなのか。日本ユニセフ協会はアフガニスタンの貧困の様子を次のように伝えています(*5)。
「多面的な貧困に苦しむ南アジアの国、アフガニスタン。栄養がとれず、きれいな水を手に入れられず、教育や仕事もないなど、人びとは貧しさのために、とても苦しい生活をしています。その一番の被害者は、子どもたちです。8歳のフレシタちゃんは泣きながら話します。『パンが1切れある日もあるし、ない日もあるの。金属のかけらを拾って売るんだけど、それでやっと大きなパンが食べられるの』」
日本ユニセフ協会によると、世界の子供の6人に一人(3億5,600万人)が極度に貧しい暮らしをしています。極度に貧しい暮らしのことを、後ほど出てくる「相対的貧困」と対になる概念として「絶対的貧困」ともいいます。
このような貧困問題は世界規模の問題です。
▼絶対的貧困について、詳しくはこちら
絶対的貧困とは?解決方法と私たちにもできること【SDGsの目標1 貧困をなくそう】
そして貧困は日本にも深く根差しています。日本は世界3位の経済大国であり、貧困から最も遠い国の1つとみられがちですが、それはマクロの視点でみたときの印象であり、ミクロの視点で日本の社会をのぞくと貧しさに苦しんでいる人たちがいます。つまり日本は豊かな国でありながら、貧困問題も抱える国なのです。
日本人が貧困撲滅について考えるとき、世界の貧困と日本の貧困の両方に焦点を当てる必要があるでしょう。
*5:「出典:日本ユニセフ協会、地球上のあらゆる形の貧困をなくそう」
世界の貧困は格差が生んでいる
貧困の反対は豊かさですが、世界は確実に豊かになっています。工業化や経済のグローバル化、通信技術の発達、デジタル革命などは多くの人々に豊かさをもたらしました(*6)。国際貧困ラインを下回る生活水準で暮らしている人は、1990年は世界で36%でしたが、2015年には10%まで低下しています(*7)。
これは貧困撲滅に貢献しているといえ、人類の成果に数えることができます。
ではなぜ今も貧困問題が残っているのでしょうか。それは豊かさを享受できない人たちが存在するからです。これは「世界に残された課題」といえます。
世界に残された課題がなかなか解決できない要因の1つが格差です。世界の富豪トップ26人が持つ総資産は、世界の下位38億人が持つ総資産と同額といいます(*7)。
*6:「出典:経済産業省、第2章グローバリゼーションの過去・現在・未来」
*7:「出典:経済産業省、第4節世界の発展と残された課題」
アフリカの貧困の火種は暴力
世界の貧困がテーマになるとき必ずといってよいほど取り上げられるのがアフリカです。アフリカでは約4,000万人の人が飢餓の危機に瀕しているといわれています(*8)。アフリカの貧困は、暴力や紛争と深くかかわっています。
アフリカでは貴重な資源が大量に採れます。アフリカのなかでも資源で大儲けしている富裕層が存在しますが、その人たちが富を分配しないため貧しい人たちはより貧しくなってしまいます。それが社会ストレスを膨らませ、巨大な憎悪になり暴力、犯罪、人権弾圧、紛争を生み出してしまいます(*9)。貧しい人たちは災禍を回避する術(すべ)が少ないので、このような社会的暴力の標的になりやすく、さらに貧しくなっていきます。
つまり開発が格差を生み、格差が貧困層にいる人たちをさらに苦しめるという構図が浮かび上がってきます。
*8:「出典:外務省、特にアフリカにおける飢餓に対する行動G8行動計画」
*9:「出典:立命館大学研究活動報、アフリカの貧困がもたらす『暴力』」
経済大国日本でも7人に一人の子供が貧困状態
富める国である日本にも貧困があります。ただしその貧困は相対的貧困とされています。
相対的貧困とは等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分(貧困線)に満たない世帯のことです(*10)。
厚生労働省によると、日本の貧困は次のような状態にあります。いずれも2018年の数字です(*11、12)。
- 等価可処分所得の中央値の半分である貧困線は年127万円
- 貧困線に満たない世帯の割合である相対的貧困率は15.4%
- 17歳以下の子供の貧困率は13.5%
等価可処分所得は手取り収入のことなので、日本では手取りが年127万円以下になると相対的な貧困とみなされます。年127万円ということは月額約13万円なので、これを下回ると「相当厳しい」ということが直感的に理解できるのではないでしょうか。
そして貧困生活を強いられている17歳以下の子供は13.5%にもなります。つまり子供の7.4人に一人は貧困家庭に属していることになります。仮に中学校のあるクラスの人数が30人であれば、そのなかに貧困家庭の子供が4人いることになります。
*10:「出典:内閣府、相対的貧困層について」
*11:「出典:総務省統計局、2019年国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)抜粋」
*12:「出典:厚生労働省、用語の説明」
目標のなかのターゲットの紹介
SDGsでは、貧困の撲滅を7つのターゲットをクリアすることで達成していこうとしています(*13)。そしてそれぞれのターゲットにはグローバル指標が設定されていて、その指標をクリアしたとき「ターゲットをクリアした」ことになります。
目標とターゲットとグローバル指標はこのような関係になります。
グローバル指標をクリアする
↓
7つのターゲットをクリアする
↓
目標1、貧困撲滅の達成=世界から貧困がなくなった
それでは、7つのターゲットを1つずつ確認していきましょう。
ターゲット1とは
ターゲット1は以下の通りです。
『2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる』
1ドル130円なら1.25ドルは約160円なので、「1日1.25ドル生活」は相当苦しいはずです。日本なら、1日160円は、コンビニのおにぎり1個か、500mlペットボトルのお茶1本かの選択になるでしょう。毎日、おにぎり1個かお茶1本の選択をして、そのいずれかを手にしたらそれで1日すごさなければなりません。
このターゲット1をクリアするには、以下のグローバル指標をクリアする必要があります。
●ターゲット1のグローバル指標
・国際的な貧困ラインを下回って生活している人口の割合(性別、年齢、雇用形態、地理的ロケーション別)
ターゲット2とは
ターゲット2は以下の通りです。
『2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる』
半減という数値目標を立てているところがポイントです。
このターゲット2をクリアするには、以下のグローバル指標をクリアする必要があります。
●ターゲット2のグローバル指標
・各国の貧困ラインを下回って生活している人口の割合(性別、年齢別)
・各国の定義に基づき、あらゆる次元で貧困ラインを下回って生活している男性、女性及び子供の割合(全年齢)
ターゲット3とは
ターゲット3は以下の通りです。
『各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する』
社会保護制度をつくる必要があるので、これは政府の仕事になるでしょう。
このターゲット3をクリアするには、以下のグローバル指標をクリアする必要があります。
●ターゲット3のグローバル指標
・社会保障制度によって保護されている人口の割合(性別、子供、失業者、年配者、障害者、妊婦、新生児、労務災害被害者、貧困層、脆弱層別)
ターゲット4とは
ターゲット4は以下の通りです。
『2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、すべての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する』
所有権や金融サービスといった、具体的な経済ツールについて言及しています。貧困問題の大半は経済問題なので、貧困に苦しんでいる人たちが経済ツールを持たなければ経済的な自立=貧困からの離脱はかなわないわけです。
このターゲット4をクリアするには、以下のグローバル指標をクリアする必要があります。
●ターゲット4のグローバル指標
・基礎的サービスにアクセスできる世帯に住んでいる人口の割合
・土地に対し、法律上認められた書類により、安全な所有権を有している全成人の割合(性別、保有の種類別)
・土地の権利が安全であると認識している全成人の割合(性別、保有の種類別)
ターゲット5とは
ターゲット5は以下の通りです。
『2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に暴露や脆弱性を軽減する』
「気候変動に関連する極端な気象現象」とは具体的には大規模自然災害になります。貧困層の人たちが大規模自然災害に見舞われ家や財産を失うと、より貧しくなり、再び立ち上がるのに相当な時間がかかります。
また貧困層ほど、経済的ショックや社会的ショック、環境的ショックによる被害が大きくなるのでレジリエンスが必要になるわけです。
このターゲット5をクリアするには、以下のグローバル指標をクリアする必要があります。
●ターゲット5のグローバル指標
・10万人当たりの災害による死者数、行方不明者数、直接的負傷者数
・グローバルGDPに関する災害による直接的経済損失
・仙台防災枠組み2015-2030に沿った国家レベルの防災戦略を採択し実行している国の数
・国家防災戦略に沿った地方レベルの防災戦略を採択し実行している地方政府の割合
ターゲット6とは
ターゲット6は以下の通りです。なお「ターゲット6」は正確には「ターゲット1.a」と表記されています。ただこの表記だと何番目のターゲットなのかわからないので、本記事では「ターゲット6」としました。
『あらゆる次元での貧困を終わらせるための計画や政策を実施するべく、後発開発途上国をはじめとする開発途上国に対して適切かつ予測可能な手段を講じるため、開発協力の強化などを通じて、さまざまな供給源からの相当量の資源の動員を確保する』
開発途上国では自力で自国の貧困問題を解決することは難しいでしょう。それで開発途上国への開発協力が必要であると説いています。
このターゲット6をクリアするには、以下のグローバル指標をクリアする必要があります。
●ターゲット6のグローバル指標
・貧困削減に焦点を当てたすべてのドナーからの政府開発援助(ODA)贈与合計(受益国の国民総所得に占める割合)
・総政府支出額に占める、必要不可欠なサービス(教育、健康、及び社会的な保護)への政府支出総額の割合
ターゲット7とは
ターゲット7は以下の通りです。「ターゲット7」は正確には「ターゲット1.b」と表記されています。
『貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する』
このターゲット7をクリアするには、以下のグローバル指標をクリアする必要があります。
●ターゲット7のグローバル指標
・貧困層のための公共社会支出
貧困の原因と解決方法
貧困の原因と解決方法について考えてみます。
貧困の原因
貧困を撲滅するには貧困を生じさせている原因を解消する必要があります。原因を特定したうえで解決策を考え、それを実行していくことで貧困がなくなります。
貧困の原因として明治大学の岡部卓専任教授(公共政策大学院)は、社会的排除とケイパビリティの欠如の2つを挙げています(*14)。
社会的排除とは、社会への関与が遮断されている状態のことです。例えば、労働するという社会活動から排除されると収入が得られなくなって貧困に陥ります。また、公共サービスから排除されると生活支援などのサポートが受けられずやはり貧困化していきます。
ケイパビリティの意味は可能性、能力。経済面でのケイパビリティには例えば投資があります。手元にある資産を使って投資商品を購入し、その投資商品が値上がりすれば資産が増えます。したがって、手元に資産がない人や、投資商品を購入する知識などがない人は貧困に近づいていくことになります。
投資には自分や家族への投資も含まれます。子供に教育という投資をすることができれば、その子は学歴を積むことができ収入が多い仕事に就くチャンスが増えます。したがって教育投資ができない家庭の子供は貧困に向かってしまう可能性が高くなります。
*14:「出典:岡部卓(首都大学東京都市教養学部教授)、貧困問題の理解と支援方法」
貧困を解決する方法:教育
教育は、貧困の解決する方法としてとても重要です。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンは、日本の貧困問題の特徴は世代間連鎖にあると指摘します。
世帯収入が多いほど子供の学力が上がり、世帯収入が低いほど子供の学力が下がるという統計結果があります。これは世帯収入によって教育の量と質に差が生じるからです。つまり親の貧困は、子供から教育の機会を奪っていることになります(*15)。
そして教育機会に恵まれなかった子供は低学力・低学歴になり所得の低い仕事に就く傾向が強くなり、自身も貧困家庭をつくってしまいます。したがってその子も貧困家庭の子となるので、貧困が連鎖してしまいます。
貧困層の子供たちに教育の機会を与えていくことは、貧困の連鎖を断ち切る有効手段となるでしょう。
*15:「出典:公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン、子どもの貧困と教育格差」
貧困を解決する方法:教育以外の方法
貧困問題を社会問題かつ経済問題とすると、社会のなかにある「経済をつくるもの」が貧弱では貧困問題を解決できません。
経済をつくるものには、農業、工業、サービス業などがあります。貧困層が集中している国や地域で農業や工業やサービス業を興すサポートをすることは、貧困を解決する方法になります。
では誰が「農業や工業やサービス業を興すサポート」をするのか。それは先進国の政府や先進国の企業の役割であり、政府援助や技術供与、直接投資などが具体的な手段になります。
貧困対策の取り組みの具体例
貧困対策の取り組みはさまざまあり、世界中で取り組まれています。
日本での事例と世界での事例にわけて紹介します。
日本での貧困対策の具体例
日本の貧困対策を紹介します。
「子どもの貧困対策に関する法律」が2014年に施行されました。この法律は当初、子供の将来が、生まれ育った環境によって左右されることがないように教育の機会均等を図ることなどを目的としていました。そして2019年6月に改正され、将来だけでなく現在の生活にも着目して貧困対策を推進する内容にしました(*16)。政府の、子供の貧困対策を強化しようとする意図がみえます。
先ほど、災害の被害は貧困層ほど大きくなる、と解説しましたが、それはコロナ禍でも同じでした。そこで政府(厚生労働省)は新型コロナウイルス感染症生活困窮者自立支援金という制度を策定し、緊急小口資金の特例貸付を終了した世帯や、再貸付を不承認とされた世帯に現金を支給しました。支給額は、単身世帯は月6万円、2人世帯は月8万円、3人以上世帯は月10万円。この制度の受付は2022年12月で終了していることから、ピンポイントで対策を講じていることがわかります(*17)。
貧困の原因の1つに社会的排除があり、これは社会への関与が遮断されている状態のことです。この問題を解決する方法に自治体による就労支援があります(*18)。生活困窮者や生活保護受給者のなかには、働くことができるのに、自立する気持ちがなくなってしまっていたり、知識や技能を獲得できていなかったりするために働けない状態にある人もいます。これは生活困窮者と社会が分断された状態とみなすことができます。
そこでハローワークと自治体が協力して就労支援を行い、就労意欲を高める取り組みをしたり、生活面の課題を解決する手伝いをしたりして、労働へと導いています。働くことで収入が得られれば、貧困から抜け出す道に一歩足を踏み入れることができます。
*16:「出典:文部科学省、子供の貧困対策の推進に係る取組」
*17:「出典:厚生労働省、新型コロナウイルス感染症生活困窮者自立支援金」
*18:「出典:厚生労働省、生活困窮者に対する就労支援について」
海外での貧困対策の具体例
世界一豊かな国と目されているアメリカでも貧困問題があります。これは2013年の数字ですが、アメリカには貧困状態にある人が4,530万人いて、そのうち3割以上の1,470万人が18歳以下の子供です(*19)。
アメリカの具体的な貧困対策には次のようなものがあります。
- 低所得者向け就職機会の創出
- 移民者への保健
- 学生ローン
- 低所得者世帯エネルギー補助プログラム
- 栄養補助支援プログラム
- 低所得層向け家庭エネルギー補助制度
- 貧困者法律扶助
- 低家賃公営住宅の供給
インドでは運輸や電力などのインフラが整っていないことから効率よく経済成長できなかったり、医療体制が充実していなかったりいといった問題があります。したがってインド政府などは他国の支援を受けながら、インフラ整備や教育、技術習得、医療体制の充実などを図っています(*20)。
フィリピンは東南アジアのなかでは、インドネシアやタイ、マレーシアと比べると経済成長率が低く、貧困削減ペースが遅い国とされています(*21)。貧困対策としては、紛争の解決、インフラ整備、投資環境の改善に向けた政策制度改正、災害リスクの軽減などに取り組んでいます。
*19:「出典:内閣府、第2子供の貧困実態や対策の実施状況を把握するための指標」
*20:「出典:独立行政法人国際協力機構、インド」
*21:「出典:独立行政法人国際協力機構、フィリピン」
日本が世界を支援~JICAとODA
日本は海外の貧困対策に力を入れている先進国の1つといえます。
例えばアフリカのウガンダは、紛争が頻発して基礎インフラや社会サービスの普及が遅れています。そこで独立行政法人国際協力機構(JICA)は同国に、経済成長を実現するための環境整備や農村部の所得向上策、保健や給水などの生活環境整備といった支援を行っています(*22)。
また日本政府には、政府開発援助(Official Development Assistance、以下ODA)という仕組みがあります。ODAの支援対象は開発途上国で、行うことは技術協力、有償資金協力、無償資金協力、ボランティア派遣、国際緊急援助、民間連携、科学技術協力、市民参加となっています(*23)。2023年度のODA予算は5,709億円になります(*24)。
*22:「出典:独立行政法人国際協力機構、ウガンダ」
*23:「出典:独立行政法人国際a協力機構、ODAとは」
*24:「出典:外務省、ODA予算」
私たちにできること
SDGsは世界的な取り組みであり、世界的な取り組みは人類一人ひとりの取り組みの集合体です。すなわち「目標1、貧困の撲滅」に向けた取り組みを実行するのは「私たち」です。
この「私たち」には一人の日本人だけでなく、家庭、学校、企業も含まれます。
「私たち」が貧困を撲滅するためにできることを紹介します。
個人、家庭、学校でできること
個人や家庭にできることの1つにフェアトレード製品の購入があります。フェアトレードとは、公平、公正な取引や貿易のことです。
ある製品の価格が、その製品の価値と比べて極端に安い場合、フェアトレードではない取引や貿易によって日本に入ってきた可能性があります。海外の企業が不当に安い賃金で労働者を雇ってその製品をつくれば、日本に安く輸出できます。もし日本人がそれを買ってしまったら、海外のその企業と同じように、不当に安い賃金で労働者を働かせた果実を得ることになります。これはその国の貧困を助長していることになります。
フェアトレード製品は公平、公正な取引や貿易によって日本に輸出された製品なので、これを買うことは、その国の貧困対策の一助になります。もちろんフェアトレード製品は、アン・フェアトレード製品より高額になるでしょう。その差額を負担することが支援になるわけです。
▼フェアトレードについて、詳しくはこちら
フェアトレードとは?世界の貧困をなくす取り組みとSDGsの関係を解説
そして実際に貧困対策に動いている団体に寄付することも間接的な貧困対策になります。ボランティア活動に参加してもよいでしょう。身近なところにできることがたくさんありますので、取り組んでみましょう。
大阪府立大学、沖縄大学、東京都立大学、東京医科歯科大学、日本福祉大学、北海道大学の6大学は2019年に、子供の貧困を調査研究する「子どもの貧困調査研究コンソーシアム」を発足しました(*25)。
この団体の目的は、子供の貧困に関する国内の調査研究拠点を構築し、学際的な共同研究体制を整備することで、国・自治体において「証拠に基づく政策立案(Evidence-based Policy Making)」を普及させること、です。これは「こういう証拠があるから、この施策がこの貧困状態を解決に向かわせるはずだ」というプロセスで進めていく手法です。証拠があれば、施策が効果を生む確率が高くなるわけです。
調査研究は証拠を探すためのもので、同コンソーシアムはこれまで、家計、収入、就業、子供への教育、親への相談支援などについて調査してきました。
企業にできることは大きい
日本航空は貧困問題への取り組みの一環として、特定非営利活動法人TABLE FOR TWO International(以下、TFT)のプログラムに参画しています。TFTは開発途上国の飢餓対策に取り組んでいる団体です。日本航空の従業員が社員食堂で食事をすると、1品あたり20円がTFTに寄付されます(*26)。
企業理念に「世界から飢餓と貧困を撲滅する」と掲げているのは、牛丼のすき家や回転寿司のはま寿司などを展開するゼンショーホールディングス(以下、ゼンショー)です。ゼンショーは、世界の食事情を変えるシステムと資本力を構築してフード世界1企業になることで、この大きな理念を実現しようとしています。世界中に安全でおいしい食を手ごろな価格で提供していく、としています(*27)。
地方の中小企業にも貧困対策に力を入れているところがあります。
北海道のメガネチェーン・富士メガネの創業者である金井昭雄氏が2006年に、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のナンセン難民賞を日本人で初めて受賞しました(*28)。金井氏と同社は長年にわたって難民視力支援活動を行ってきました。活動内容は、貧困地域に赴いて住民に視力検査を行い、メガネを寄贈するというもの。
金井氏はUNHCRから「金井氏のお蔭で、非常に困難な状況にある何万もの難民は、人生の新しい展望を抱くことができた。視覚という贈り物は貴重だ。視力が回復すると、個人の人生は大きく変わる。子供も大人も学習が可能となり、疎外された状況から立ち直ることができる」と称賛されました。
*26:「出典:JAL、協賛・寄付、国際協力など」
*27:「出典:ゼンショー、企業理念」
*28:「出典:富士メガネ、UNHCRより日本人初の『ナンセン難民賞』を受賞」
貧困問題は重大で複雑、みんなで取り組まないと解決できない
この記事の内容を箇条書きでまとめます。
- 開発はときに貧困を生むことがあるので、「持続可能な開発」を進めるためには貧困の撲滅は欠かせない
- SDGsでは7つのターゲットを定め、それをすべてクリアすることで貧困を撲滅できる、という構成になっている
- 貧困は世界中に存在する
- 貧困の原因には社会的排除やケイパビリティの欠如などがある
- 貧困を解決するには教育、経済支援、政府援助、技術供与、直接投資などが必要
- 日本でも世界でも貧困対策の取り組みが行われている
- 貧困対策は私たちの責務でもある。「私たち」とは一人の日本人、家庭、学校、企業などのこと
貧困は人々を苦しませ、悲惨な結果を招くこともあります。貧困は一人の問題のこともありますし、家庭の問題になることもありますし、国の問題になることもあります。貧困が起こる原因はさまざまで、貧困の形もさまざまです。
貧困問題は重大課題であるのに複雑で、しかも多数存在するためその解決は容易なことではありません。
「できることから始める」ことと、「2030年までに解決する」ことを意識しながらみんなで取り組んでいく必要があります。

身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。