SDGs目標1「貧困をなくそう」とは?貧困の現状と世界の取り組み
私たちの生活は、技術の進歩などによって年々豊かになっています。しかし、すべての人が豊かな暮らしを手にしているわけではありません。世界には、とても貧しく日々の生活が困難な人々が大勢いるのです。
そこで、SDGs目標1「貧困をなくそう」では、あらゆる形の貧困をなくすための目標が掲げられました。本記事では、貧困に苦しむ人々の現状と、貧困をなくすための取り組みについてわかりやすく解説します。
世界の貧困の現状
世界では、およそ10人に1人が貧困状態であるといわれています。身近な問題として、貧困を実感出来ないという人もいると思いますが、日本でも貧困は大きな社会問題となっているのを知っていますか。日本の子供の貧困率は、2018年の14%から2021年11.5%と改善は見られていますが、まだまだ多くの子供が貧困状態であり、国や自治体によって貧困をなくすための取り組みが行われています。
では、「貧困」とは、どのようなものなのでしょうか。貧困の定義や貧困により発生する問題などを見てみましょう。
貧困とは?貧困の定義と種類
世界銀行では、国際貧困ラインとして1日2.15ドル以下での生活を「極度に貧しい生活」であるとしています。
国際貧困ラインは、2021年2月に1日あたり1.90ドルから2.15ドルに見直されました。生活に必要となるコストは変動するため、国際貧困ラインは定期的に改定されているためです。しかし、物価の上昇などが基とされるため、2021年の1.90ドルと2022年の2.15ドルは実質同等の価値であるとされています。(注1)
※2.15ドル=約316円(2023年12月)
貧困には絶対的貧困、相対的貧困、多次元的貧困の3つのタイプがあります。それぞれの貧困のタイプとは、次のようなものです。
絶対的貧困
国や地域の生活レベルに関係なく、生きるために必要最低限の生活水準が満たされていない状態のことです。
世界銀行が定める国際貧困ラインを基準として、生活に必要な物資を購入できる所得がないこと、または支出水準に達していない人々を絶対的貧困者と呼んでいます。
相対的貧困
国や地域の生活水準と比較し、大多数よりも貧しい状態であることです。
世帯の所得が等価可処分所得(所得から税金、社会保険料を引き、世帯人数の平方根で割ったもの)の中央値の半分に満たない状態のことです。(注2)
多次元的貧困(MPI)
国連開発計画(UNDP)とオックスフォード貧困・人間開発イニシアティブ(OPHI)が作成する指標であり、所得のみではなく健康や教育、生活水準などの状態により貧困度合を評価する方法です。(注3)
(注1)参考:日本ユニセフ協会 SDGs CLUB 1.貧困をなくそう
(注2)参考:World Vision 相対的貧困とは?絶対的貧困との違いや相対的貧困率についても学ぼう
(注3)参考:国連開発計画 駐日代表事務所 2019年グローバル多次元貧困指数
貧困に苦しむ人々の割合
世界では、どれほどの人々が貧困状態にあるのでしょうか。
2023年に国連開発計画と英国オックスフォード貧困・人間開発イニシアチブにより、世界の多面的な貧困である世界多次元貧困指数(グローバルMPI)報告書が公表されました。この報告書では、発展途上国である110カ国の92%に相当する61億人が対象とされています。
この報告書の内容は次のようなものです。
- 61億人のうち11億人が深刻な貧困状態である
- 深刻な貧困状態の11億人の半分はサブサハラアフリカ(5億3,400万人)、3分の1は南アジア(3億8,900万人)に住んでいる
- 貧困層の半数は18歳未満であり、子供の貧困率は27.7%。
- 大人の貧困率は13.4%
- 貧困層の84%は農村部に住んでいる
さらに、長期のデータが存在する81カ国の2000年から2022年までの傾向を分析すると、インド、中国、インドネシア、コンゴ、モロッコなど25カ国では15年間で貧困指数であるMPIが半減していることがわかりました。(注1)このことから、多くの国で貧困が減少していることが証明されたのです。
特にインドでは、2005年から2019年の15年間で4億1,500万人が貧困状態から抜け出すことが出来ています。さらに、中国では2010年から2014年の間に6,900万人、インドネシアでは2012年から2017年の間に800万人もの人々が貧困から脱しています。カンボジアでは、コロナ禍を含む2014年から2021年の間に貧困率が36.7%から16.6%に減少しています。
このように、グローバルMPIを見ることで国や地域によって不平等が存在し、多次元貧困層がどの地域で暮らしているのかについて知ることができるのです。
しかし、新型コロナウイルスの流行により、多くの国でグローバルMPIのデータが得られず、コロナ禍が貧困にどのような影響を与えるのかを把握することが困難になっているのが現状です。(注2)
(注1)参考:国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター 823. 2023年世界多次元貧困指数(MPI)報告書
(注2)参考:国連開発計画 15年間で25か国の多次元貧困指数が半減 但し、11億人が依然として貧困状態に
貧困に陥るさまざまな原因
世界で多くの人々が貧困状態に陥る原因とは、どのようなものでしょうか。貧困状態を引き起こす原因について解説します。
政治
貧困率の高い国では、政治が正常に機能していない場合があります。そのため、貧困層に対して不利益な政策が行われることや、政権が不安定で貧困層への政策が定まっていない場合などがあります。
紛争や内戦
世界では人種、宗教、領土問題などが原因となり、紛争や内戦が常に起こっています。それにより、人々は安全を求め、国内外に逃れ、家や仕事を失うため貧困に陥ってしまうのです。
自然災害
気候変動により、世界中で頻発する干ばつや洪水などの自然災害により、農作物の収穫が減ることも貧困の原因となっています。さらに、農作物の不作は現金収入が減るため国の経済にも影響を与えます。
途上国では、自然災害などの緊急時の支援体制が不十分となる場合が多く、被災者の救援が十分に行われないこともあります。
教育
さまざまな理由で十分な教育を受けられないことで、仕事が限られることや安定した仕事に就くことができず、必要な収入が得られないことがあります。
また、貧しい家庭に生まれた子供が十分な教育を受けられず、親から子供へと貧困の連鎖が生まれてしまうことが多くあるのです。親が教育を受けていない場合、教育の必要性が理解できずに子供の教育に消極的となってしまうこともあります。
新型コロナウイルスの流行
2020年に世界中で流行した新型コロナウイルスは、世界経済の低迷を招き、多くの人々が影響を受けました。解雇や収入の減少、食糧の確保が困難になることや、教育面にも影響を与えました。
参考:国際NGOプラン・インターナショナル 貧困が原因で生まれる問題とは?解決に向けてできること
貧困によって起こる問題
貧困問題はさまざまな影響をもたらします。ここでは貧困によって起こる問題について解説します。
仕事に就けない
貧困により教育が受けられないことや資格がないことで、安定した仕事に就くことが難しくなります。そのため、仕事が見つかったとしても厳しい労働条件で働かなくてはならないこともあります。
定住が難しい
紛争や内戦、自然災害などにより住む場所を失うと、定住できる場所を見つけることが難しくなります。
飲料水や食糧を手に入れることが難しい
収入が少ない事で安全な飲料水や食糧の確保が難しくなります。安全な水やトイレを利用できないことで、貧困と病気の悪循環が起こります。世界で5歳以下の子供の死亡原因の2番目の要因は水と衛生に関係しているのです。また、開発途上国では、長距離を歩いて水を組見に行く女性が何百万人もいるのです。(注1)
教育が受けられない
収入が少ない家庭では、子供の教育に必要な費用を用意することが出来ません。親が貧困家庭に育ち、教育を受けていない場合、教育の重要性よりも家事の手伝いや仕事を優先させることも多くなっているのです。
教育が受けられず読み書きができないなど、安定した仕事に就くことが困難になることや、衛生に対する知識が乏しいことで健康を損なうこともあります。
貧困の割合が高くなると国の税収が減るという問題も起こります。そのため、貧困が原因で教育が受けられないなどの貧困の連鎖を止めるためにも、教育など子供への支援が不可欠な取り組みとなっています。
適切な医療が受けられない
開発途上国では、保健や医療サービスが整っていない場所が多いため、適切な医療を受けることが難しくなっています。出産時に適切な医療を受けられず命を落とす母子も多く、2021年には世界で190万人の赤ちゃんが死産しています。これらの多くは適切な医療を公平に受けることが出来れば防げたはずのものです。
子供や女性の人権が保障されない
生活のために仕事を探す子供や若者は、人身売買や誘拐に巻き込まれることが多くなっています。女の子は性産業、男の子は少年兵となることを強要されることがあるのです。
さらに、女性の地位が低いと考える地域も多く、男の子は教育や食事を十分に与えられる一方で、女の子は少ない食事、家事や水汲みなどの労働に従事し教育を受けられない場合も多くあります。(注2)
紛争が起こる可能性が高くなる
国連開発計画の2005年の報告書によると、1990年以降の武力紛争の半数以上が開発途上国で起こり、そのうち40%近くがアフリカ地域で発生しています。
貧しい国ほど武力紛争が起こる可能性が高くなり、1人当たりの年間所得が250ドルの国で内戦が起こる確率は、年間所得が600ドルの国の2倍に上るとされています。(注3)
(注1)参考:ウォーターエイド 水とトイレの課題
(注2)参考:国際NGOプラン・インターナショナル 貧困が原因で生まれる問題とは?解決に向けてできること
(注3)参考:国際NGOワールド・ビジョン・ジャパン 世界人権宣言を実現して貧困を削減しよう
日本でも7人に1人が貧困状態
日本でも貧困は大きな社会問題となっているのを知っていますか。特に、子供の貧困が問題となっており、7人に1人が貧困状態となっているのです。特にひとり親世帯の多くが非正規雇用であり、貧困率も高くなっているのが現状です。
日本の貧困の多くは、食べるものや家がないといった絶対的貧困ではなく相対的貧困であり、ほとんどの人ができている生活が難しいという貧しさです。医療、学習、進学など、教育や体験の機会が乏しくなってしまうことが問題となっています。
日本は経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国の中で、相対的貧困率が31位(15.7%)となり、G7(主要7カ国)の中で、最も高い貧困率となっています。
経済協力開発機構で最も貧困率が低い国はチェコ(5.3%)で、最も高い国はコスタリカ(20.3%)となっています。
OECD加盟国とG7の相対的貧困率
順位 | 国名 | 相対的貧困率 |
---|---|---|
1位 | チェコ | 5.3% |
9位 | フランス(G7) | 8.4% |
11位 | カナダ(G7) | 8.6% |
18位 | ドイツ(G7) | 10.9% |
19位 | イギリス(G7) | 11.2% |
25位 | イタリア(G7) | 13.5% |
28位 | アメリカ(G7) | 15.1% |
31位 | 日本(G7) | 15.7% |
38位 | コスタリカ | 20.3% |
参考:OECD 貧困率 (Poverty rate)
参考:国際NGOワールド・ビジョン・ジャパン 日本の貧困問題について知り、今、私たちに何ができるのかを考えよう
SDGsが掲げる「貧困をなくそう」7つのターゲットと現状
貧困をなくすためにSDGsでは7つのターゲットが掲げられました。「貧困をなくそう」とは、貧困だけではなく、栄養不良、教育、医療サービスへのアクセス不足や社会的な差別や排除、意思決定からの除外などを終わらせることも含めたものです。「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」ために掲げられたターゲットについて解説します。
ターゲット1〜5は目標、ターゲットa、bは目標達成のための方法です。
ターゲット1.1
「2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。」
※国際貧困ラインは2022年9月に見直され2.15ドルとなっています。
1日の生活に必要な衣食住や薬、水、電気などのすべてを含め、国際貧困ライン以下で生活する人をなくすことを目標としています。
ターゲット1.2
「2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる。」
各国の定義で、「貧しい」とされる男性、女性、子供の割合を半分にすることを目標としています。雇用機会の創出、職業訓練、教育、栄養などのサポートを行い、2030年までに貧困を半減させることが目標です。
ターゲット1.3
「各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する。」
社会保障制度によって貧困層、脆弱層(子供、失業者、年配者、障害者、妊婦、新生児、労務災害被害者)を守るための仕組みや対策を行い、2030年までに十分に守られるようにすることを目標としています。
ターゲット1.4
「2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、全ての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。」
貧しい人や弱い立場の人たちをはじめ、男女問わず、すべての人々が生活に必要である医療や教育などを受けることができ、土地や財産の所有、管理に関する権利を持ち、天然資源や新技術、金融サービスなどを使えるようにすることを目標にしています。
ターゲット1.5
「2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に暴露や脆弱性を軽減する。」
2030年までに、貧しい人や弱い立場の人々が自然災害や経済的な被害にあうことを減らすため、気候変動に強い作物を生産することや災害への対策を行うことで被害を減らし、被害を受けても自立して生活を立て直す力をつけることを目指しています。
ターゲット1.a
「あらゆる次元での貧困を終わらせるための計画や政策を実施するべく、後発開発途上国をはじめとする開発途上国に対して適切かつ予測可能な手段を講じるため、開発協力の強化などを通じて、さまざまな供給源からの相当量の資源の動員を確保する。」
※後発開発途上国とは、開発途上国の中でも特に開発が遅れている国のこと。
あらゆる次元での貧困を終わらせるために、特に開発が遅れている国の貧困をなくす計画や政策が実行できるよう、国際協力や技術の提供、公平な貿易により資金などを集めることです。
ターゲット1.b
「貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する。」
貧困を撲滅するための投資を増やすために、地域や国、国際レベルで貧困層や男女の違いに配慮した政策を作ることです。
参考:農林水産省 SDGs(持続可能な開発目標)17の目標と169のターゲット
「貧困をなくそう」の現状
2023年、国際連合からSDGs目標1「貧困をなくそう」の現状が報告されました。この報告の内容によると、現状は次のようになっています。
- 現在の貧困減少のスピードでは、2030年までに5億7,500万人が極度の貧困のままになってしまい、8,400万人の子供が通学できない状況になると推計されている
- 国民の貧困水準を半減できる国は3分の1にとどまる
- 新型コロナウイルスのパンデミックによって社会的保護が拡大したが、40億人以上の人が依然として社会的保護を受けられていない
- 新型コロナウイルスのパンデミックの影響で30年続いた貧困の削減が止まり、極度の貧困で暮らす人が増加している
- 世界各国で教育、保険、社会的保護の政府支出が増額されたが、先進国と新興国、開発途上国とではおよそ20%の差がある
- 後発開発途上国、小島嶼(領土が狭く、低地な島国)開発途上国、内陸開発途上国では、災害に対し脆弱性が高く、人口10万人当たりの災害関連死が世界では0.86人に対し、後発開発途上国1.24人、小島嶼開発途上国2.80人、内陸開発途上国1.85人となっている
参考:国際連合広報センター 『持続可能な開発目標(SDGs)報告2023:特別版』発表に関するプレスリリース(2023年7月10日付・日本語訳)
参考:United Nations SDG Indicators
貧困をなくすための取り組み
貧困問題はとても複雑であり、解決するためには当事国だけではなく国際的な協力も重要です。貧困によって起こる差別や紛争、栄養不良、教育や医療へのアクセスなどの問題を解決するために、国際機関、国、地域、民間団体などによりさまざまな取り組みが行われています。
ここでは、貧困をなくすための世界と日本の取り組みについて解説します。
農業支援を行う
世界では人口約半数が農村地帯に住み、多くの人が直接的、間接的に農業によって生計を立てています。世界で最も貧しい人々の多くは農村地帯に住んでいますが、工業化や都市化を急いだため、農業部門への投資が十分に行われませんでした。国連では、この不均衡を正す取り組みを行っています。
国連食糧農業機構(FAO)は、飢餓、栄養不良、貧困のない世界、食糧と農業が持続可能な形で、すべての人の生活水準の改善に貢献できる世界の実現を目指しています。食糧と農業は持続可能社会を目指すために重要なカギであるため、国連食糧農業機構の枠組みは、SDGsの達成に必要な5つの要素を特徴としています。
- 資源の利用効率を改善させる
- 自然生態系の保全、保護、強化を行う
- 農村地帯に暮らす人々の生計を向上させ、正当な権利、社会福祉の保護、改善をする
- 人々、共同体、生態系の強靭性(レジリエンス)を強化させる
- 自然、人間のシステムを超えて責任を持ち、効果的な統治メカニズムを促進する
国連食糧農業機構では、世界各地で常時2,000件にもなるフィールド・プロジェクトを行い、土地管理プロジェクトや緊急対応、森林、市場戦略などの政府への政策や計画作成についての助言を提供しています。
さらに、FAO投資センターは国際融資機関(IFIs)とのパートナーシップにより、農業や農村の開発に対する各国の投資を支援し、1964年から2,100件以上のプロジェクトで1,150億ドル以上の投資を可能にしました。そのうち740億ドルは国際融資機関の融資を受け、残りは受益国が負担しています。
日本では国連食糧農業開発機関の準専門家派遣制度に参加しており、上級専門家を補佐する準専門家を派遣し、日本の技術や知見を活用して世界の食料安全保障の確立に勤めています。
開発支援のための融資
開発途上国でのインフラ整備は、電気、水、教育、医療などへのアクセス、生活水準の向上、経済発展のために必要ですが、資金が不足しているため融資を受ける必要があります。
最貧国は開発のための融資を受ける際に国際市場では信用されないこと、借りた金額を市場金利に近い利率での返済が難しいことなどから、最貧国に対する貸付は世界銀行グループの国際開発協会(IDA)が行い、貧困をなくすことを目指しています。世界銀行が貸付を行う相手は政府のみとなっていますが、地域社会、非政府組織(NGO)、民間企業とも緊密に協力しています。
国際開発協会の貸付は、譲許的条件(ゼロまたは非常に低い利子にすること)であり、返済期間も長く35年から40年、さらに5年から10年の支払い猶予期間もあります。国際開発協会の援助資金は豊かな加盟国からの拠出です。2016年には、161件の事業に対して162億ドルの資金提供を行っています。(注1)
独立行政法人JICAでは、開発途上国へ民間からの直接投資を行っています。開発途上国で事業を行う民間企業などに向け、事業の開発効果などを審査し、出資や融資をする「海外投融資」です。
この制度の一例として、JICAは2020年にカカオ豆の生産、流通管理のため、ガーナ政府が管轄する企業である「Ghana Cocoa Board(COCOBOD)」に対し、1億ドルの海外投融資を行っています。
この事例は、ガーナ政府の財政支援に頼らずにカカオ豆生産農家を支援し、カカオ産業を担う企業の自立的な資金調達になります。そのため、ガーナでの主要産業の持続的な成長を直接支援でき、高い開発効果が期待されています。(注2)
(注1)参考:国連広報センター 貧困をなくそう
(注2)参考:独立行政法人 国際協力機構JICA 途上国の民間企業の成長を後押しする海外投融資 : ガーナのカカオ豆事業強化にも活用
日本の支援活動である政府開発援助「ODA」
開発協力とは「開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動」のことです。開発援助に用いられる公的資金のことを政府開発援助(ODA)といいます。
政府、または政府の実施機関は政府開発援助により、開発途上国の経済、社会の発展、福祉の向上、平和構築のために開発途上国または国際機関に対し、公的資金を用いて資金の贈与や貸付、技術の提供などを行うことです。
政府開発援助には、技術協力、有償資金協力、無償資金協力、ボランティア派遣などの二国間援助と、国際機関への出資・拠出である多国間援助があります。
2022年、日本の政府開発援助実績はOECD開発援助委員会(DAC)メンバーの中でアメリカ、ドイツに次ぐ第3位(22,238ドル)となっています。これは、日本の国民1人当たり139.8ドルに相当し、OECD開発援助委員会の中(EUを除く)で17位の負担額となっています。(注1)
※OECD開発援助委員会(DAC)とは、OECD(経済協力開発機構)内の特定の委員会のこと
日本の政府開発援助の具体的な取り組みには次のようなものがあります。
【保険・医療】
- 新型コロナウイルス感染症への対応として、予防、診断、治療、ワクチンなど、医療への公平なアクセスの実現
- 保健医療体制の強化として、医療設備の整備、地域保険システムの強化、人材育成法制度の整備
- 水、衛生、栄養、教育、ジェンダーなどの緊急人道支援や経済活動の支援(注2)
【インフラ投資】
- インドのデリー高速輸送システム建設計画
- ベトナムのニャッタン橋建設計画
- フィリピンの新ボホール空港建設及び持続可能型環境保全事業(注3)
【教育】
- ラオス国立大学工学部施設及び実験機材整備計画
- ヨルダンでの学習環境改善を通じた初等教育退学抑止プロジェクト
- エジプトでの特別活動を中心とした日本式教育モデル発展・普及プロジェクト(注4)
開発途上国での紛争やテロなどは直接的、間接的に多くの国に影響を与えます。そのため、政府開発援助として平和と発展に貢献することは、援助する国も安全と繁栄の確保につなぐことができる取り組みなのです。
(注1)参考:外務省 ODA(政府開発援助)
(注2)参考:外務省 ODA(政府開発援助)重要政策 保健・医療
(注3)参考:外務省 ODA(政府開発援助)重要政策 質の高いインフラ
(注4)参考:独立行政法人 国際協力機構JICA ODA見える化サイト
日本の貧困問題に対する日本政府の取り組み
日本での貧困は、相対的貧困の割合が高く15.7%となっています。厚生労働省が2022年12月に発表したデータでは、ひとり親家庭の非正規雇用率は4割、特に、母子家庭の平均年収は236万円と父子家庭の496万円よりも低くなっています。また、養育費を受け取っていないひとり親家庭は56.9%となっています。このような背景から、ひとり親家庭では低収入になりやすいため、支援する取り組みが行われています。(注1)
貧困状態をなくすための支援や、教育へのアクセスを向上させるための支援など、日本で行われている貧困対策について紹介します。
【生活・子育てに関する支援】
- 児童手当…中学校卒業までの児童を養育している人に支給される手当
- 児童扶養手当…ひとり親家庭の18歳までの児童に支給される手当
- 母子父子寡婦福祉資金貸付…ひとり親家庭が利用できる経済的支援
【教育費の負担に対する支援】
- 幼児教育・保育の無償化…3歳児~5歳児の幼稚園、保育園などの利用料が無償になるなどの支援
- 就学援助…小中学生の学用品や給食費などの援助
- 高等教育の修学支援新制度…大学、短大、高等専門学校、専門学校等の授業料減免と給付型の奨学金
- 高等学校卒業程度認定試験合格支援…ひとり親家庭の親か子供が、高卒程度認定試験に合格するために講座を受講する費用の支援
【就業・生活の相談】
- 生活困窮者自立支援制度…働けない、住む場所がないなどの生活に関する相談窓口。専門機関と連携し、解決に向けた支援を行う
- 母子家庭等就業・自立支援センター…ひとり親への就業支援や、弁護士などにアドバイスを受け養育費などの相談を行う「母子家庭等就業・自立支援センター事業」を実施している
- マザーズハローワーク…子育てをしながら働きたいひとへの就労支援
【子供や家庭に関する相談】
- スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー…学校現場での子供や保護者の心のケアや支援を行う
- 子供SOS相談窓口…子供が相談できる、さまざまな窓口を紹介する
- 一般社団法人 生活困窮者自立支援全国ネットワーク…生活が苦しい家庭の子供の学習や進学についての支援を行う
- ひとり親家庭のこどもの生活・学習支援…ひとり親家庭の子供に放課後児童クラブなどの終了後、学習や食事の支援を行う(注2)
日本では、2019年に「子供の貧困対策に関する大綱」が閣議決定されました。大綱では、子供の貧困対策を総合的に推進するため、39の指標を設定し実施状況や対策の効果などを検証、評価しています。
39の指標の改善のため、教育の支援、生活の安定に資するための支援、保護者に対する職業生活の安定と向上に資するための就労の支援、経済的支援、子供の貧困に関する調査研究等、施策の推進体制などを項目ごとに取り組むべき重点施策が掲げられています。(注3)
(注1)参考:日本財団ジャーナル ひとり親家庭の貧困率は約5割。子育てに活用できる国や自治体の支援制度
(注2)参考:政府広報オンライン “こどもの貧困”は社会全体の問題 こどもの未来を応援するためにできること
(注3)参考:文部科学省 子供の貧困対策の推進に係る取組
私たちにできる貧困支援
私たちは貧困に対してどのような支援ができるでしょうか。
個人でもできる貧困支援について紹介します。
フェアトレード商品を選ぶ
フェアトレードとは、公正取引のことです。開発途上国の原料や製品などを適性な価格で購入することで、開発途上国の生産者や労働者の生活改善や自立を目指すものです。
フェアトレードの製品には、フェアトレードのラベルが表示されています。買い物の際に、表示されているものを選ぶことも貧困をなくすための支援になります。
フードドライブへの寄付
フードドライブとは、家庭で余っている食品を必要としている団体や子ども食堂、福祉施設などに寄付する活動です。貧困により、食べ物を十分に買うことができない人への支援や食品ロスの削減もできる取り組みです。
スーパーなどでも、フードドライブを行っている場所も増えています。家庭で余っている食品などがあれば、フードドライブに寄付して食品ロスと貧困の削減に協力してみましょう。
参考:環境省 「フードドライブ実施の手引き」の公表について
支援団体へ寄付をする
貧困に苦しむ人々を支援する団体に寄付をすることで、貧困をなくすための支援ができます。貧困支援をしている団体を3つ紹介します。
- 国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン
世界約100カ国で開発援助や緊急人道支援、市民社会や政府への働きかけを行う国連経済社会理事会に公認・登録されている国際NGOです。
宗教、人種、民族、性別にかかわらず、すべての子供たちが健やかに成長できる世界を目指しています。 - 国際NGOプラン・インターナショナル
世界75カ国以上で活動し、国連に公認・登録されている国際NGOです。
子供の権利を守り、女の子が差別されない公正な社会、貧困や差別のない社会を目指しています。 - 公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
日本を含む120ヵ国で、子供たちを支援する内閣総理大臣の認定を受けている公益社団法人です。
緊急・人道支援、保健・栄養、教育、子供の保護、防災などの子供たちを支援する活動を行っています。
日本では、食料の支援やひとり親家庭の高校生に「都内ひとり親家庭高校生給付金」の給付などを行っています。貧困は社会全体でなくさなくてはならない問題
世界中で多くの人が貧困に苦しんでいる現在、SDGsの達成に向け各国が対策を行うことで貧困率は下がっていますが、大きな社会問題であることに変わりはありません。
貧困により起こる問題は、紛争や戦争など世界中に影響を及ぼすものもあるため、誰しも無関係ではないのです。
貧困問題の解決のためにできることを考え、少しでも問題解決につながることに取り組んでみましょう。この記事の執筆者EARTH NOTE編集部SDGs情報メディア「SDGsの取り組みを共有し、循環させる」がコンセプトのWEBメディア。SDGsの基礎知識や最新情報、達成に取り組む企業・自治体・学校へのインタビューをお伝えし、私たちにできることを紹介します。
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。