SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」をわかりやすく解説
SDGsは環境面や社会面だけでなく経済面も重視しています。
オレンジ色の、ブロックが積み上げられた形のロゴを持つ、目標9「産業と技術革新の基盤を作ろう」もその一つです。
この記事では、目標9の内容や設定された理由、取り組み事例をわかりやすく解説し、私たちが今から身近にできるアクションをご紹介します。
目次
そもそも目標9とは
目標9は、「強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」と訳されています。
キャッチコピーに出てきた「基盤」とは、電気や水、交通や通信回線などの「インフラ」のことです。
目標9は、まず基盤となる「強靭なインフラ」の構築を目指している
インフラは、私たちの日常生活にも、産業にも欠かせないものですが、開発途上国にはまだ基本的なインフラが行き届いていないところがたくさんあります。
また、インフラが整っている先進国でも、地震や台風などの自然災害や、長く使用したことによる老朽化でダメージを受けた場合、日常生活に支障が出てしまいます。
目標9は、第一に、産業や技術革新の基盤となる、強靭なインフラの構築を目指しています。
目標9は、さらに「産業化」と「技術革新」を目指している
目標9はインフラの構築だけでなく、「産業化」や「技術革新」も目標に掲げています。
そもそも、国連は「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義し、次の3要素を欠けることなく調和させるとしています。
- 経済開発(Economic Development)
- 社会的包摂(Social Inclusion)
- 環境保護(Environmental Protection)
現代社会において、地球環境の保全と同時に、人々の豊かな生活や、持続的な発展を達成していくためには、「産業化」や「技術革新」といった経済面でのアクションが必要なのです。
具体的な例を見ていきましょう。
開発途上国では、生産された農作物のうち、30%しか国内で加工されないのに対し、高所得国では98%が加工されると言われています。
この差は、経済活動の基盤であるインフラの整備状況が影響していると考えられます。
農作物を生産しても、道路が発達していない地域では、需要のある地域まで運ぶことができません。
交通インフラが整うことで初めて、ものを運んで販売することができるのです。
また、電気や水道があれば、農作物を調理加工し、付加価値をつけることで、より高く販売することができるようになります。
ここで、SDGsの観点として重要なポイントは、環境への影響に配慮した、持続可能な産業として発展することです。
そして、持続可能な産業が生まれることによって、安定した職業に就き、十分な収入を得られる人が増えることで、需要が増え、経済がさらに好転していきます。
また、高度な産業化が進むことで、研究開発の資金も生まれ、エネルギー問題や気候変動対策といった社会課題を解決するイノベーションが促されます。
インフラの整備は、それ自体が「健康と福祉(目標3)」、「教育の充実(目標4)」などに繋がっていくのはもちろん、産業化、技術革新の基盤となることで、「貧困の解消(目標1)」や「経済成長(目標8)」といった、経済面の課題を解決する足掛かりになるのです。
目標9の3つのキーワード「インフラ」「レジリエント(強靭)」そして「イノベーション」
目標9には、「インフラ」「レジリエント(強靭)」そして「イノベーション」といった、日常生活では耳慣れないかもしれませんが重要な言葉が含まれています。
ここで、意味を確認しておきましょう。
【インフラ】
「インフラストラクチャー(infrastructure)」を短くした言葉で、生活や産業に必要な設備のことです。道路や鉄道などの交通機関、学校や病院、公園などの公共施設、そして電気、水道、ガス、最近ではインターネットなどの通信網も含まれます。
▼インフラについて、詳しくはこちら
SDGsに関わりの深いインフラとは?意味や重要性をわかりやすく紹介
【レジリエント(強靭)】
弾力や柔軟性があることを表す形容詞です。「硬い」「壊れない」という強さではなく、「ダメージを受けても速やかに復元できる」という強さを指します。
【イノベーション】
「技術革新」と訳されます。新しい技術によって社会が新しい局面を迎えることです。
特に「レジリエント」は、他の目標・ターゲットにも登場し、SDGsで重視されている考え方ですので、ぜひ覚えておきましょう。
目標9が掲げられた理由は「インフラが多くの課題解決につながる」ため
目標9が掲げられた背景として、前述の通り、主に開発途上国では、まだ多くの場所で基本的なインフラが行き届いていないという現状があります。
世界のインフラに関する課題
世界のインフラに関する課題を、数字で確認していきましょう。
【電気】
・電力を利用できない人の数 7億3,300万人(2020年)
出典:持続可能な開発目標報告2022(国際連合広報センター)
【水】
・飲用できる水道水サービスを利用できない人の数・割合 約20億人・25%(2020年)
・基本的な衛生施設(トイレ)を利用できない人の数・割合 約36億人・46%(2020年)
出典:Progress on household drinking water, sanitation and hygiene, 2000-2020: Five years into the SDGs(unicef)
【通信サービス】
・インターネットを利用していない人の数・割合 約27億人・33%(2022年)
・うち、後発開発途上国(※1)におけるインターネットを利用していない人の数・割合 約7億2,000万人・63%(2022年)
※1 国連総会で認定された、開発途上国の中でも特に開発の遅れた国
出典:Measuring digital development: Facts and Figures 2022(ITU)
これらの数値は、SDGsの取り組みが始まった頃と比較し、改善されたものもありますが、まだ先進国と開発途上国では大きな格差があります。
開発途上国のインフラ整備で産業化が促進される
電気、水道や通信といった社会に必要なインフラがないと、生活が不便なばかりでなく、経済活動が大きく抑制されてしまいます。
ごく身近な例では、私たちも、仕事や勉強でPCやタブレットを使うとき、何らかの原因で通信が途切れてしまって、再接続まで何も進められなかったということはないでしょうか?
日本企業が開発途上国へビジネスで進出する際も、やはり、不安定なインフラが課題になります。
多くのアフリカ諸国では、インフラの未整備により、企業の生産性が約40%損なわれているとの報告があります。
一方で、インフラの整備により経済活動が活発になり、製造業が発展すると、はじめに例をあげたとおり、雇用環境が好転します。
生産加工と製造に関わる中小企業は全世界の企業の90%を占め、雇用の50~60%を創出しています。製造業で雇用が1件増えると、関連する輸送や販売などの業種で2.2件の雇用が生み出されると言われています。
出典:17の目標ごとの説明、事実と数字>目標9(国際連合広報センター)
開発途上国には、産業化の巨大な潜在能力が眠っています。
例えば、アフリカでは近年、現地のスタートアップ企業が急増しています。その要因の一つに、アフリカ大陸の多くの地域で高速回線のインターネットが普及し始めたことがあげられます。
また、既存の社会インフラが整備されていない環境で、先進国のような段階的変化を飛び越し、最新技術によるイノベーションが一気に広がる「リープフロッグ現象」が注目を集めています。
出典:NINJA Business Plan Competition(JICA)
日本のインフラも課題を抱えている
インフラの整備は、開発途上国に限った問題ではありません。
日本は、インフラの水準は高いものの、地震や台風などの自然災害が多い国です。
日本で起きる災害について、データを見てみましょう。
・震度5以上の地震 18.6回/年
・1時間に50ミリ以上の雨 334回/年
・活火山の数 111
出典:「すすめよう災害に強い国づくり」(令和4年1月版)(内閣官房 国土強靭化推進室)
行政だけでなく、企業や地域、また、生活者ひとりひとりが過去の災害から学び、備えることが、減災と速やかな復旧に繋がります。
また、1960年代以降の高度成長を背景に整備された道路や橋、トンネルといった社会インフラが老朽化し、安全・安心を確保するための点検や補修工事の需要が急増しており、その対応が課題となっています。
全国のインフラの点検は、技術者の感覚に頼った手法がとられており、労働人口の減少が進む日本において、イノベーションが求められている分野のひとつです。
日本の技術革新が持続可能な社会を生み出す
日本は産業化が進んだ先進国ではありますが、前述の災害対策や老朽インフラ整備以外にも、脱炭素や、クリーンで安定したエネルギーの確保といった社会課題の解決のために、技術革新が求められています。
日本政府は、2016年12月に中長期国家戦略「SDGs実施指針」を策定し、「8つの優先課題」の一つとして「成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション」を掲げています。
さらなる産業の高度化、イノベーションが、SDGsの推進力となるのです。
目標9を構成する8個のターゲット
目標9には、さらに詳しいターゲットが8個定められています。
末尾が数字の5個、9.1~9.5は達成すべき課題です。
末尾がアルファベットの3個、9.a~9.cは、課題を達成するために実施すべき手段を述べています。また、それぞれに達成度合いを測る指標が設定されています。
細かい内容にはなりますが、より具体的に知りたい方は、ぜひご一読ください。
各ターゲットおよび指標訳出典:JAPAN SDGs Action Platform
指標に関するデータの出典:Goals 9_PROGRESS AND INFO_2021(国際連合)
SDGs報告2022(国連広報センター)
9.1 持続可能で強靭なインフラの構築
ターゲット1は以下の通りです。
『すべての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発する』
このターゲットは、すべての人々が、安価で確実なインフラを利用できることを目指すものです。
指標として、「9.1.1 全季節利用可能な道路の2km圏内に住んでいる地方の人口の割合」と「9.1.2 旅客と貨物量(交通手段別)」が設定されており、特に交通インフラが重視されていると言えるでしょう。
世界銀行によるアフリカ・アジア・南アメリカ・中央アジアおよび中東の25の国と地域での調査によると、2018~2019年時点で、5億2000万人の地方在住の人々のうち、ほぼ3億人が道路への確実なアクセスが確保できない状況にあると言われています。
また、新型コロナ感染症による旅客航空業界の影響は大きく、世界の旅客数は2019年の45億人に対して、2021年は23億人となっています。
9.2 産業化の促進
ターゲット2は以下の通りです。
『包摂的かつ持続可能な産業化を促進し、2030 年までに各国の状況に応じて雇用及び GDPに占める産業セクターの割合を大幅に増加させる。後発開発途上国については同割合を倍増させる』
このターゲットは、産業の中でも製造業を重視しており、指標として「9.2.1 GDPに占める製造業付加価値の割合及び一人当たり製造業付加価値」と「9.2.2 全産業就業者数に占める製造業就業者数の割合」の2つが設定されています。
2021年の推定では、世界の製造業はコロナ禍から回復しつつあるものの、後発開発途上国の製造業の成長率は落ち込んだまま、回復が遅れています。
9.3 小規模な製造業などに対する資金調達や市場アクセス支援
ターゲット3は以下の通りです。
『特に開発途上国における小規模の製造業その他の企業の、安価な資金貸付などの金融サービスやバリューチェーン及び市場への統合へのアクセスを拡大する』
製造業を発展させるには、特に小規模な企業における生産設備の購入や人の雇用などに必要なお金の確保、すなわち資金調達面の支援が重要です。
このターゲットには、「9.3.1産業の合計付加価値のうち小規模産業の占める割合」と「9.3.2ローン又は与信枠が設定された小規模製造業の割合」の2つの指標が設定されています。
2020~2021年、小規模産業の3社に1社のみが融資などの恩恵を受けており、その他の企業はコロナ禍からの復興に向けた資金援助を利用できていません。
9.4 持続可能性を向上させるクリーン技術の開発
ターゲット4は以下の通りです。
『2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。すべての国々は各国の能力に応じた取組を行う』
わたしたちが生きていく地球の環境の保護と経済の発展の両立には、資源をさらに効率よく利用し、環境に負荷をかけないクリーンな技術の開発と実用化が求められています。
このターゲットには、「9.4.1 付加価値の単位当たりのCO2排出量」という指標が設定されています。
日本の付加価値当たりのCO2排出量は、2015年2.27tCO2/百万円に対して、2020年1.99tCO2/百万円と減少しています。
ですが、世界のCO2排出量は2020年に一時的に削減されましたが、2021年の経済回復に伴い、エネルギー関連のCO2排出量は6.0%増加しました。
CO2排出量の削減は、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や目標13「気候変動に具体的な対策を」と関連して、技術革新による課題解決が求められている分野です。
9.5 研究開発における人員・投資増によるイノベーションの促進
ターゲット5は以下の通りです。
『2030年までにイノベーションを促進させることや 100 万人当たりの研究開発従事者数を大幅に増加させ、また官民研究開発の支出を拡大させるなど、開発途上国をはじめとするすべての国々の産業セクターにおける科学研究を促進し、技術能力を向上させる』
イノベーションを促進するには、研究開発への投資や、研究者の育成が不可欠です。
このターゲットには、「9.5.1 GDPに占める研究開発への支出」と「9.5.2 100万人当たりの研究者(フルタイム相当)」の2つの指標が設定されています。
世界では、人口100万人当たりの研究者数は、2010年1,022人に対し2018年には1,235人へ増加しています。ただし、ヨーロッパおよび北アメリカでは3,847人に対し、サハラ以南のアフリカ(サブサハラ)ではわずか99人と地域格差が大きく、また、世界の研究者に占める女性の割合は30.5%と、ジェンダーギャップも課題となっています。
9.a 開発途上国へのインフラ支援
ターゲットaは以下の通りです。
『アフリカ諸国、後発開発途上国、内陸開発途上国及び小島嶼開発途上国への金融・テクノロジー・技術の支援強化を通じて、開発途上国における持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラ開発を促進する』
インフラが未整備な国や地域へは、重点的な支援が必要です。
このターゲットには、「9.a.1インフラへの公的国際支援の総額(ODAその他公的フロー)」という指標が設定されています。
開発途上国の経済インフラに関する公的支援は、2019年に636億ドル(2010年比39.6%増)に達しました。主な内訳は、運輸に213億ドル、銀行・金融サービスに153億ドルとなっています。
9.b 開発途上国への産業化・技術開発支援
ターゲットbは以下の通りです。
『産業の多様化や商品への付加価値創造などに資する政策環境の確保などを通じて、開発途上国の国内における技術開発、研究及びイノベーションを支援する』
このターゲットは、製造業の中でも、より付加価値が高く技術力が要求される分野(自動車、コンピューター、エレクトロニクスや製薬など)の支援、拡大を図るものです。
指標として、「9.b.1 全付加価値における中位並びに先端テクノロジー産業の付加価値の割合」が設定されています。
2020年、製造業全体に占める中位並びに先端テクノロジー産業の割合は、ヨーロッパおよび北アメリカで47.7%、東アジア地域で47.1%に対し、発展途上地域で41.4%に対し、サハラ以南のアフリカ(サブサハラ)で21.7%、後発開発途上国で10.6%となっています。
ハイテク産業は危機におけるレジリエンスが高いと言われています。
技術力の差が、コロナ禍からの回復に後発開発途上国が取り残されている一因となっています。
9.c 後発開発途上国でのインターネット提供
ターゲットcは以下の通りです。
『後発開発途上国において情報通信技術へのアクセスを大幅に向上させ、2020年までに普遍的かつ安価なインターネット・アクセスを提供できるよう図る』
現代社会において、情報通信技術は特に重要なインフラです。
このターゲットには、「9.c.1モバイルネットワークにアクセス可能な人口の割合(技術別)」が指標として設定されています。
2022年には世界人口の95%が3G以上のモバイルブロードバンドにアクセス可能になり、4G以上のカバー率も88%に達しました。しかし、カバー率の伸長は鈍化が見られ、残り5%のフォローが課題となっています。
目標9の取り組み事例 イノベーションによる社会課題の解決/開発途上国の事例
ここからは、目標9の達成に取り組む団体の事例を紹介します。
まず、開発途上国の支援の取り組みです。
開発途上国の事例1 開発途上国の起業家を支援「プロジェクト NINJA」(JICA)
日本の政府機関である国際協力機構(JICA)は、インドの地下鉄「デリーメトロ」の開発支援や東ティモールのフェリーターミナル移設・拡張など、長年、開発途上国を対象に産業開発やインフラ整備に取り組んできました。
「プロジェクト NINJA(Next Innovation with Japan)」は、2020年1月にスタートした、開発途上国におけるビジネス・イノベーション創出に向けた起業家支援活動です。
アフリカ地域19ヶ国を対象に実施したビジネスコンテストでは、応募総数2,713社から、小規模農家支援デジタルプラットフォーム(タンザニア Agrinfo)、太陽光発電による電気供給・インターネット接続サービス(コートジボワール LiFi-Led)、IoTを活用した水道供給の統合管理システム(ケニア Upepo Technology Company)など優秀企業69社が選定されました。
現地の人々自らがイノベーションを起こし、社会課題を解決していくビジネスを支援しています。
出典:Project NINJA(独立行政法人 国際協力機構)
参考:【アフリカ・民間セクター】アフリカの起業家・スタートアップ支援プログラム【JICA Project NINJA】(Youtube動画)
開発途上国の事例 無電化地域の未来を照らす「LIGHT UP FUTURE」(パナソニック㈱)
パナソニックの創業者、松下幸之助はふたまたソケットを発明し、また、経営者として照明を普及させたことで、日本の生活に電気の明かりを灯した人物です。
その理念を受け継いだパナソニック株式会社は、2013年から2018年にかけて、「ソーラーランタン10万台プロジェクト」として、アジアやアフリカ諸国など30か国に、「ソーラーランタン」を寄贈してきました。
10万台を超える寄贈を達成し、その先のプロジェクトとして2018年からスタートしたのが、「LIGHT UP FUTUREプロジェクト」です。
1台で部屋全体を照らせる明るさの「ソーラーランタン」また、生活照明や電源として稼働する「エネループソーラーストレージ」、太陽光発電モジュールと蓄電池を組み合わせた独立電源システム「パワーサプライステーション」など、ソーラーエネルギー技術を利用して開発した製品を、NGO/NPOや国際機関などと連携して無電化地域に届け、設置や活用方法を支援するプログラムを通じて、その地域に応じたサポートを実施しています。
再生可能エネルギーによる電力は、人々の健康や教育、就業環境を改善し、地域の持続可能性を向上させています。
出典:パナソニック ホールディングス株式会社_サステナビリティ_「LIGHT UP FUTURE」
参考:【LIGHT UP THE FUTURE】無電化地域の未来を照らすプロジェクト(Youtube動画)
目標9の取り組み事例 イノベーションによる社会課題の解決/日本の事例
続いて、日本の課題への取り組みをご紹介します。
5-1.日本の事例 インフラ診断を進化「X線非破壊検査システム研究」(産業技術総合研究所)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下産総研)は、日本最大級の公的研究機関です。
産総研サステナブルインフラ研究ラボ インフラ診断技術研究チームは、老朽化したインフラのメンテナンスを効率化、自動化することを目指す「X線非破壊検査システム研究」に取り組んでいます。
X線を使えば、コンクリートに覆われた鉄筋の隠れた劣化や、配管の痛みを発見することができます。しかし、従来の装置は大きくて重く、使える場所が限られ、膨大なコストと手間がかかることが課題でした。
これらの問題を解決すべく、産総研ではX線源の小型軽量化に取り組み、2016年にロボット搭載ができる小型軽量かつ高出力なX線検査装置を実現しました。
同チームでは非破壊検査、センサ、IT、材料開発、構造設計、物性評価など幅広い分野の専門家が集まり、X線源のさらなる高度化、さまざまなインフラ検査に対応する検出手法の開発を進め、社会実装を目指しています。
出典:小型・軽量化とAI技術でインフラ診断が進化する(産総研マガジン)
日本の事例 地域創生をけん引する「しがぎんSDGs宣言」(株式会社滋賀銀行)
滋賀銀行は、2017年11月「しがぎんSDGs宣言」を発表しました。
今では多くの企業がSDGsへの賛同を発表していますが、当時は、全国の地方銀行のうちでは初、まだ世間一般にはSDGsの理解が浸透していない中での賛同表明です。
その中で、重点項目の一番に挙げられているのが「地域経済の創造」です。(以下引用)
“ 地域経済の創造
金融の力を通じて、社会的課題の解決とイノベーションの促進による新たなビジネスモデルを創出するとともに、地域の魅力を育み、人と街が成長する豊かな地域経済を創造します。”
翌2018年3月には、国内の金融機関で初となるSDG融資商品である「ニュービジネスサポート資金(SDGsプラン)」、同9月には「SDGs私募債」を開始しました。
目標9ターゲット3で「小規模な製造業などに対する資金調達や市場アクセス支援」について設定されている通り、中小企業にとって、資金調達の問題は大きいものです。特に社会課題に取り組む研究開発や新規事業は、すぐに利益に結び付かないこともあります。
「ニュービジネスサポート資金(SDGsプラン)」では、社会課題の解決につながる事業に取り組む企業に対し、融資にあたって優遇した利率を適用し、事業の後押しをする仕組みとなっています。
滋賀銀行は金融商品以外でも「しがぎんエコビジネスマッチングフェア」などのイベントを通じ、SDGsの普及に取り組み、2018年12月には外務省による「第2回ジャパンSDGsアワード」の特別賞「SDGsパートナーシップ賞」を受賞しました。
地域に密着し、発信力のある地方銀行が、さきがけとなってSDGsに取り組むことで、地域経済をけん引している好事例です。
日本の事例 社会課題とモビリティの可能性を追求する「MONET」 (MONET Technologies株式会社)
MONET Technologies株式会社は、渋滞や高齢者の事故、免許返納による移動困難者など、日本の社会課題を解決する新たなモビリティサービスの実現を目指し、ソフトバンク株式会社・トヨタ自動車株式会社の共同出資により、2019年2月に事業を開始しました。
MONETのキーワードは「CASE」と「MaaS」。
「CASE」とは自動車に変革をもたらす4領域「Connected(コネクティッド)」、「Autonomous/Automated(自動化)」、「Shared(シェアリング)」、「Electric(電動化)」。
「MaaS」は「Mobility as a Service」の略称で、交通インフラと、利用者の需要状況を、システム上で統合し、新たなサービスを生み出そうとするものです。
予約・配車システムにより、効率的な公共交通を実現する「モビリティサービス」、医療サービスを提供できる車両と、オンライン診療システムを組み合わせた「医療MaaS」、行政サービスを提供できるマルチタスク車両と、オンライン相談を組み合わせた「行政MaaS」などの実証実験を行い、日本の新たなインフラの形を生み出しています。
今から私たちができること
目標9はインフラやイノベーションについての目標と言われても、生活者としての私たちにできることはなんでしょうか?
達成に向けて、私たちができることを考えてみましょう。
開発途上国のインフラ支援をしている団体に寄附する
開発途上国のインフラ支援を行っている団体に寄附することで、個人も力になることができます。
取り組み事例でご紹介したJICAも、1口1000円から寄附を受け付けています。
また、パナソニック「LIGHT UP FUTURE」プロジェクトでは、「みんなで”AKARI”アクション」として、リサイクル品の買い取りと寄附を募っています。
さまざまな団体の活動を調べるうちに、新しい気づきを得られます。
寄附を検討する場合は、運営団体の信頼性、活動内容および寄附の用途を確認し、自分にとって納得できる内容(金額・方法)を選びましょう。
身の回りの災害対策に取り組む
災害に備え、避難所を確認したり、数日分の食料や水を備蓄することは、ひとりひとりにできる大切なアクションです。
内閣官房 国土強靭化推進室の災害対策チェックリストを以下抜粋してご紹介します。
できるところから取り組んでみましょう。
- ハザードマップや避難場所を確認する
- 避難場所までの経路を確認し、実際に行ってみる
- 災害時の連絡手段について家族や友人と決めておく(災害用伝言ダイヤル171の活用など)
- 災害情報メールやアプリの登録をする
- 防災グッズや食料備蓄(できれば1週間分)を用意する
- 地域の人と日頃から挨拶や声掛けを行っておく
- 地域や会社、学校等で防災訓練に参加する 等
出典:「すすめよう災害に強い国づくり」(令和4年1月版)(内閣官房 国土強靭化推進室)
新しいサービスに触れる
日本の社会は、情報通信の発達による新たな技術・サービスによって大きく変化しています。
私たちも、気が付けば、タクシーの配車アプリや、自宅診療を申し込めるアプリなど、数年前にはなかったサービスを日常に取り入れているのではないでしょうか。
積極的に新しいサービスに触れ、利用していくことも、私たちにできるアクションの一つです。
インフラの強化はSDGsの目標を達成する基盤
目標9は、複雑な社会課題を経済面から解決するために必要な「強靭なインフラ」の構築、そして「産業化」「技術革新」の達成を目指しています。
目標9へのアクションは、他の目標の達成にも相乗効果を生み出します。
とはいえ、私たちの行動は、けっして大げさなことでなくていいのです。
身の回りの防災を見直したり、新しい技術やサービスを利用したり、また、少し視野を広げて、世界で起きていることを調べてみましょう。
私たちの身近なアクションの一つ一つが、昨日よりいい今日を作っていきます。
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。