SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」の現状と実現のためにできること

SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」の現状と実現のためにできること

2023.05.12(最終更新日:2023.09.14)
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SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」とは、陸地の自然、生態系、内陸淡水環境を守り、自然環境に支えられる多くの資源の確保、また自然に依存し生計を立てている人々の生活や、農業、製造業、観光業などを守るために、森林、土壌、淡水域に対し持続可能な管理を行うことです。
SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」が設置された理由や、実現のためのさまざまな取り組みについて解説します。

目次

SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」の内容

森林は空気、水、食料などさまざまなものを生産し、多くの生物の命を支えています。私たち人間も多くの森林資源を使い生活していますが、自然環境が生産する能力以上のスピードで自然環境を破壊しているのが現状であり、世界中で取り組むべき社会問題です。

2050年には、世界の人口は96億人にも増えると言われており、今よりも多くの食料、資源、水の確保が必要となります。そのために、自然環境を持続可能な形で管理していくことが求められているのです。

また、自然環境の破壊や汚染、密猟などによる野生生物の減少も大きな問題となっています。生物の一種の生息数が激減、または絶滅すると生態系のバランスが崩れ、さまざまな問題が発生します。これらの問題解決に向けて作られたのが「陸の豊かさも守ろう」です。

自然環境を守る理由

自然環境は、私たちの生活に水、空気、資源、食料などをもたらしてくれます。しかし、現在は毎年1,300万ヘクタールの森林が消失し、乾燥地の劣化により36億ヘクタールが砂漠化しているのです。

世界では16億人もの人々が生計を森林に頼っています。また、世界の貧困層の74%もの人々が、乾燥などの土地の劣化による影響を受けているのです。干ばつや砂漠化で毎年失われる環境は1,200万ヘクタールであり、これは穀物を一年間で2,000万トン生産できる広さです。(注1)

自然環境はさまざまな資源を生むため、持続可能な管理を行うことは、将来の生活を守ることにつながっているのです。

(注1)参考:国際連合 目標 15 森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る

内陸淡水系を守る理由

水は生活に欠かせませんが、渇水や洪水による被害が世界中で起こっています。それらの原因の一つに、人間生活による環境破壊があります。もともと降水量の少なかった地域が、気候変動によりさらに乾燥してしまうと言われており、2050年までに世界のGDPの45%、世界の人口52%、世界での穀物生産量の40%へ乾燥によるリスクが予想されています。

水は人間にとっても、生物にとっても欠かせない資源です。飲料水や農業はもちろん、観光業や製造業などさまざまな分野で必要であり、発展にも欠かせません。(注1)

しかし、淡水環境は地球上のわずか1%しかないのです。しかし、その1%に魚種の51%が生息し、そこに暮らす野生動物や、2億人の人々のたんぱく源となり生態系を支えているのです。(注2)

すべての生物、植物が生きていく上で水は不可欠です。環境を守り水を守っていくことで生態系を守ることにもつながるのです。

(注1)参考:日本が世界の水環境に及ぼす影響を明らかにする「ウォーターフットプリント」
(注2)参考:淡水の保全 WWF

生物多様性を守る理由

生物多様性とは、微生物やバクテリアから、昆虫、魚、動物、人間などさまざまな種が共存し生きていることです。生物は一種だけでは生きていけません。互いに作用しあいながら共存しています。そのため、一種でもいなくなると生態系のバランスが崩れてしまいます。人間もほかの生物がいなければ生きていけないのです。しかし、環境破壊や汚染、温暖化や乱獲によって、多くの野生生物が絶滅しています。例えば、ニホンオオカミが絶滅し、シカが増え過ぎ農業、林業への被害が出ていることも生態系が崩れたことによる社会問題です。そのため、生態系を守り、生物多様性を守っていくことが必要なのです。

▼生物多様性について、詳しくはこちら
生物多様性の重要性と保全に向けた取り組みを紹介

「陸の豊かさを守ろう」12個のターゲット

自然環境、内陸淡水系、生物多様性を守るために12個のターゲットが設けられました。15.1から15.9は目標、15.aから15.cは達成へ向けた方法です。12個のターゲットについて解説します。

15.1

2020年までに、国際協定の下での義務に則って、森林、湿地、山地及び乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態系及びそれらのサービスの保全、回復及び持続可能な利用を確保する。

解説:2020年までに、国際的な取り決めに基づき、森林、湿地、山地及び乾燥地などの陸上の生態系と内陸の淡水生態系を保護、復元に努め、持続可能な管理と利用をしていくことが目標で、生物多様性の維持、自然環境や土地、淡水資源の管理と適切な利用を目指すことです。

15.2

2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる。

解説:2020年までにあらゆる種類の森林で、持続可能な経営の実施を目標として、森林資源の適切な管理や保護、持続可能な森林経営の実施により、森林の健全性と生産性を維持し、長期的な利益を確保することで、森林の減少を止め、管理や保護が行われず生態系の機能が損なわれている環境の回復に努め、世界全体で植林を行い森林面積の拡大と生態系の回復を目指すことです。

15.3

2030年までに、砂漠化に対処し、砂漠化、干ばつ及び洪水の影響を受けた土地などの劣化した土地と土壌を回復し、土地劣化に荷担しない世界の達成に尽力する。

解説:砂漠化に対処するために、持続可能な土地の利用を推進し、水資源の管理などを行うことが重要です。砂漠化の進行を抑制し、土地の持続可能な利用と、干ばつや洪水で影響を受けた土地などの土壌保全のため、森林や草原の再生、水源地の保護や適切な農業の推進など土地の劣化を防ぐことを目指すことです。

15.4

2030年までに持続可能な開発に不可欠な便益をもたらす山地生態系の能力を強化するため、生物多様性を含む山地生態系の保全を確実に行う。

解説:持続可能な開発に不可欠である山地生態系は水資源の供給、農業、観光などの便益をもたらします。そのため山地生態系である森林、湿地、水源地などの生態系の保護や、維持管理を行い、山地生態系の保全を行うことを目指すことです。

15.5

自然生息地の劣化を抑制し、生物多様性の損失を阻止し、2020年までに絶滅危惧種を保護し、また絶滅防止するための緊急かつ意味のある対策を講じる。

解説:開発や災害による生物の自然生息地の劣化を抑制し、絶滅危惧種の保護対策、違法な取引や乱獲の取り締まり強化を行いました。また絶滅危惧種の保護のために、科学的な研究やモニタリング、国際的な協力が不可欠であり、しっかりとした対策を講じ、生物多様性を守り、絶滅危惧種の保護や繁殖を目指すことです。

15.6

国際合意に基づき、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を推進するとともに、遺伝資源への適切なアクセスを推進する。

解説:遺伝資源とは植物、動物、微生物のことで、産業や研究などに利用、または利用できる可能性がある遺伝的な情報をもつものです。このような遺伝資源から生ずる利益を、遺伝資源の提供国へも公正かつ均等に配分することを目指すことです。

15.7

保護の対象となっている動植物種の密猟及び違法取引を撲滅するための緊急対策を講じるとともに、違法な野生生物製品の需要と供給の両面に対処する。

解説:違法な野生生物製品の需要と供給に対しては、一般観光客への啓発や代替品の開発を行うことや、密猟などで生計をたてている場合には、生活面の支援などを行い、野生生物製品の需要と供給の両方をなくすことを目指します。

15.8

2020年までに、外来種の侵入を防止するとともに、これらの種による陸域・海洋生態系への影響を大幅に減少させるための対策を導入し、さらに優先種の駆除または根絶を行う。

解説:外来種とは、もともとその地域に生息していなかった動植物のことです。ペットとしてや、農業などに影響を与える動植物を駆除する目的で人によって連れてこられました。しかし、外来種が野生化し、元々その地域に生息している動植物にさまざまな影響を与え、生態系が崩れてしまうため、外来種を減少させるための対策がとられました。さらに、もともとの環境への影響が多い外来種は根絶することを目指します。

15.9

2020年までに、生態系と生物多様性の価値を、国や地方の計画策定、開発プロセス及び貧困削減のための戦略及び会計に組み込む。

解説:2020年までに生態系や生物多様性の重要性を、国や地域による開発プロセスや貧困への対策、また予算の計画に組み込むことを目指しています。

15.a

生物多様性と生態系の保全と持続的な利用のために、あらゆる資金源からの資金の動員及び大幅な増額を行う。

解説:生物多様性と生態系の保全を持続的な利用のために、国だけではなく、企業や個人からも資金を集め、多くの予算を投入して達成させようとする方法です。

15.b

保全や再植林を含む持続可能な森林経営を推進するため、あらゆるレベルのあらゆる供給源から、持続可能な森林経営のための資金の調達と開発途上国への十分なインセンティブ付与のための相当量の資源を動員する。

解説:森林破壊の多くは開発途上国で起こっており、開発途上国での持続可能な森林経営を推進するために、資金を国や企業、個人から集め、技術や資金の援助、政策支援などを行うことです。

15.c

持続的な生計機会を追求するために地域コミュニティの能力向上を図る等、保護種の密猟及び違法な取引に対処するための努力に対する世界的な支援を強化する。

解説:保護種の密猟や違法取引の原因のひとつに貧困があります。密猟や違法取引などで生計を立てる人々に対し、持続可能な形で収入を得られるよう、地域コミュニティの能力向上を図るために国際的な支援を行うことです。

参考:SDGs(持続可能な開発目標)17のゴール その15 | 日本SDGs協会 (japansdgs.net)

自然環境の現状

森林は多くの生物が生息し、さまざまな資源を生産し、二酸化炭素を吸収することで気候変動の抑制も行っていますが、地球上の森林面積は約10%しかありません。(注1)また、森林などの自然環境は人間活動によるさまざまな影響を受けており、保護と再生が必要となっています。しかし、単純に自然環境を守ることだけでは何も変わらないのです。そこには、開発途上国の貧困による原因も多くあり、違法伐採などを取り締まるためには、現地の貧困への支援も必要なのです。

森林面積の減少理由と推移

森林面積は減少傾向ではありますが、造林や森林拡大により減少率は1990年代に比べると2015年以降は緩やかになってきています。(表1)森林の93%が天然更新の森林、7%が人工林です。人工林の45%は大規模農園のプランテーション林です。

山火事も多くの自然環境を失う要因です。山火事の原因は、農地転換のための焼畑や、気温の上昇、乾燥による自然発火ですが、山火事の75%は人的要因です。2015年は9,800万ヘクタールが火災の影響を受けました。また、4,000万ヘクタールの森林が病害虫や異常気象による影響を受けています。(注2)

(表1)世界の地域別森林減少速度

森林減少面積(1,000ha/年)
地域 1990-2000 2015-2020
東部・南部アフリカ 1,781 2,199
北アフリカ 461 316
中・西部アフリカ 1,854 1,899
東アジア 399 170
南・東南アジア 3,689 1,958
西・中央アジア 82 107
カリブ地域 3 5
中央アメリカ 228 168
北アメリカ 740 263
世界 計 15,818 10,150

(注1)参考:報告書『火災、森林、未来:暴走する危機』2020年の森林火災は2019年よりも悪化する可能性を指摘
(注2)参考:食糧農業機関 (FAO) ー グローバル森林資源アセスメント2020年版
(表1)参考:世界森林資源評価(FRA)2020メインレポート 概要

森林破壊の現状、森林消滅と違法伐採

2015年以降の森林破壊の面積は、毎年約10万平方キロメートルにもなります。これは、毎週東京都と同じ広さの森林が破壊されている計算です。そして、森林破壊の多くが熱帯の地域で起こっており、主な原因は、農地開発や畜産業による開拓、過剰伐採などの人間活動によるものです。(注1)

また、違法伐採も持続可能な森林経営に影響を及ぼしています。違法伐採とは、許可された以上の量の伐採、許可されていない場所からの伐採、先住民などの権利を不当に侵害した伐採などです。違法伐採の正確な数の把握は困難ですが、違法伐採による貿易額は世界で63億ドルにもなると言われています。

また、違法伐採の問題点は安いコストで生産された木材などが流通することで、持続可能な森林経営を難しくしてしまうことにもあります。違法伐採でのコストが安い理由として、伐採後の植林や森林の管理費用がかからず、人件費も安く、安全に木材を運ぶ費用も抑えているためです。

森林破壊は、世界各国で起こっている異常気象にも大きく影響しています。それは、森林が人間の活動によって排出される二酸化炭素を吸収するためです。2007年から2016年にかけて、人間が排出する二酸化炭素の29%を森林が吸収していると推測されました。(注2)

森林が蓄えている二酸化炭素が、森林火災や過剰伐採などで大気中に放出されることは異常気象の原因にもなるのです。

(注1)参考:WWF 今日、森林破壊を止めるためにできること
(注2)参考:環境省_自然環境局【森林対策】-森林減少・劣化と違法伐採 (env.go.jp)

砂漠化の現状、過剰な伐採と農地開拓

砂漠化とは土地の劣化のことであり、乾燥、過剰な伐採、過放牧、農地開発、温暖化などのさまざまな原因によって進行しています。また、砂漠化の進行によって生物多様性が失われ、その土地での生産能力も失われてしまうのです。

大規模な農地開発は大きな問題となっています。身近なパームオイルは1990年から2005年までの間に、四国の1.4倍にもなる面積の自然林が、消失したといわれています。大豆の大規模な農地開発も2006年には本州ほどの面積で行われています。(注1)人間の生活資源のために、広大な自然環境が消失することは生態系への影響にもつながるのです。

(注1)参考:森林の危機 |WWFジャパン

森林破壊、砂漠化による現地の暮らしへの影響

砂漠化の影響を受けやすい乾燥地に約30億人もの人々が暮らしており、砂漠化が進行すると多くの人々が土地の劣化により農業などの職を失うことや、食料や水の不足、貧困に陥ります。(注1)砂漠化はほかにもさまざまな問題を引き起こします。砂漠化によって、劣化した土地を離れる人々による移民問題、資源の枯渇による紛争、社会情勢への影響も考えられるのです。

また、砂漠化は遠い国の話ではなく、日本でも最近よく耳にする黄砂の飛来も、砂漠化の影響によるものです。黄砂は中国のゴビ砂漠などから飛来し、気管支炎やアレルギー症状などの健康被害にもつながっています。

(注1)参考:国際的な砂漠化対処 環境省

森林破壊による疫病流行の可能性

森林破壊による影響は資源問題だけではなく、疫病の流行を招く可能性もあります。

森林の破壊により生息域を追われ、食料を得られなくなった動物達は人間が暮らす場所に現れるようになります。森林破壊が進む現在では、日本でも都心部に野生動物が現れたと聞く機会が増えました。森林の機能がしっかりとしている場合では、野生動物と人間が出会うことは稀ですが、野生動物が現れることは、単純に危ないだけではなく、野生動物が体内に保有するさまざまなウィルスの中には、これまで人間と触れ合ってこなかった未知のウィルスがいる可能性もあるのです。(注1)

新型コロナウィルスも動物由来と言われており、このような未知のウィルスが動物から人間へと拡がってしまう可能性があるのです。

(注1)参考:自然破壊と感染症のリスク WWF

内陸淡水環境の現状

内陸淡水とは、湖、河川、湿地、水田などのことです。内陸淡水域は、世界の水の約0.01%、地球表面の約1%と非常に少ないですが、地球上に生息する動物の10%以上、魚種の51%が生息していると言われています。

しかし、淡水環境の汚染、農業や工業での過剰取水などにより、内陸淡水環境での生物多様性は急速に減り続けており、淡水環境での生物多様性をこれ以上失わないための取り組みが必要となっています。(注1)
(注1)参考:淡水の保全 WWF

人間が及ぼす内陸淡水環境への影響

内陸淡水環境へ人間が及ぼす問題は、インフラなどの開発による汚染、農業や工業のための過剰な取水、漁業資源や土砂の過剰利用、外来種による影響などさまざまです。

普段の生活では、淡水環境に影響を与えているという意識は薄いかもしれませんが、食品や衣服など、身近なものの製造には多くの水資源が使用されており、普段の生活による消費も淡水環境へ影響を与えているのです。

また、開発による淡水環境の分断も問題です。河川横断構造物や河川の直線化も生態系に影響しています。河川横断構造物とは、ダムや堤防のことで上流から下流への流れを人為的に変化させており、魚の遡上や移動を妨げます。また、河川の直線化は洪水などの際にスムーズに水を海へ流す役割がありますが、本来の河川の曲線による、水の流れが速い場所と緩い場所が無くなることにより生物多様性が失われ、魚に必要な環境を奪っているのです。(注1)

(注1)参考:国立環境研究所

内陸淡水生態系の現状

1970年から2018年までの調査による淡水の生物多様性は、世界中の淡水環境での野生生物個体群の生息数の調査から算出されるLPI(生きている地球指数)で、平均84%と大幅に減少しており、淡水魚の2,400種は絶滅の危機にあります。

日本でも、淡水環境に生息する生物の43%が絶滅の危機に瀕しています。1970年代から2000年代までに、日本では水田の24%が失われ、水田での生物多様性も危ぶまれています。(注1)
(注1)参考:生きている地球レポート2022-ネイチャー・ポジティブな社会を構築するために WWF

生物多様性の現状

生態系から得られる直接的、間接的な恩恵を経済的価値に換算すると、一年で33兆ドルと言われ世界のGDPが60兆ドルであることを考えると、とても大きな恩恵であることがわかります。しかし、さまざまな人間活動により生物多様性は急速に失われています。(注1)

科学的に認知されている生物の種類は140万種から180万種ですが、未知の生物を含めると1000万種とも言われています。しかし、毎年0.01〜0.1%の生物が絶滅し地球上から姿を消しているのです。1970年代から2018年の間に自然と生物多様性の健全性を測る指数のLPI(生きている地球指数)は69%も減少しています。(注2)
(注1)参考:生態系サービス評価に関する国内外の動向と展望 空間的な生態系サービスの評価 (maff.go.jp)
(注2)参考:生きている地球レポート2022-ネイチャー・ポジティブな社会を構築するために ー

環境問題による絶滅危惧種の現状

環境汚染、開発、温暖化、森林破壊などにより、生物全体の27%である42,100種以上に絶滅のおそれがあります。(注1)

野生生物が環境汚染や開発などで、生息域が奪われることにより、人間の生活圏に現れることを日本でも聞く機会が増えました。野生生物を取り巻く環境の変化は身近なところでも起きているのです。

また、温暖化による気候の変化で、生息数に影響が出る野生生物もいます。干ばつや洪水、植生の変化や海氷の減少などさまざまな環境の変化が野生生物の生活を脅かすのです。(注2)

(注1)参考:IUCNレッドリスト|事業紹介|IUCN日本委員会
(注2)参考:地球温暖化による野生生物への影響 |WWFジャパン

▼絶滅危惧種について、詳しくはこちら
増え続ける絶滅危惧種の現状と保全への取り組み
▼干ばつについて、詳しくはこちら
干ばつによる世界の危機。頻発する干ばつの現状と対策

密猟、密輸の現状

象牙や、サイの角、毛皮や骨などが高値で取引されることが密猟や密輸の大きな原因です。また、違法ではない捕獲や採取の影響も含め、野生動物1,730種と植物1,517種が絶滅の危機にあります。

アクセサリーや毛皮、薬の材料、ペットにするためなど、理由はさまざまです。

現在は、多くの国で密猟や密輸を禁止する法律ができましたが、広大な森林や海、河川を監視することは難しく、すべてを取り締まることができていないのが現状です。そして、密猟や密輸でやり取りされる金額は推定で2兆円とされており、さらに、その一部が紛争に使うための武器の購入に充てられていることもあるのです。(注1)

(注1)参考:密猟や違法な取引から、野生生物を守ろう!

外来種による問題と現状

外来生物とは、もともとその地域に生息していなかった生物が人間の活動によって持ち込まれたものです。また、国外からだけではなく、国内でもほかの地域から持ち込まれた生物も外来種といいます。

すべての外来種が問題を起こすわけではありません。しかし、持ち込まれた土地の生態系を脅かす外来種は「侵略的外来種」と呼ばれ、大きな問題となっています。

もともと生息していた在来種は、その土地の環境に合わせ、長い年月をかけ進化をしてきました。そのため、侵略的外来種に対応できず、生存競争に負けてしまうのです。侵略的外来種に捕食され激減した在来種も多くいます。

また、遺伝子汚染も問題です。外来種と在来種の交雑による遺伝子汚染は、種としての純血を失くし、病気などへの抗体を失わせる恐れがあります。また、外来種は、在来種が抗体を持たない新たなウィルスや病原菌を持ち込む可能性もあるのです。

日本では外来種対策として「特定外来種による生態系等に係る被害の防止に関する法律(特定外来生物法)」が2005年に施行されました。海外からの生物の中で、日本の生態系、農林業や生活に悪影響をおよぼす可能性のある外来種を「特定外来種」として規制します。しかし、この法律だけでは「特定外来種」に対する問題のすべてを規制できないのが現状です。また、人や環境への被害に対する具体的な対策が決まっていないのです。(注1)

(注1)参考:外来生物(外来種)問題

▼外来種について、詳しくはこちら
生態系を脅かす外来種問題

SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」達成のための課題

環境破壊や生物多様性への課題は、まだまだたくさんあります。しかし、今の暮らしを続けることは、人口の増加と資源不足や食料不足、水不足が起こるため不可能なのです。持続可能な社会実現のために、多くの問題に取り組む必要があります。多くの問題には、さまざまな原因があるため多方面から問題解決に向けたアプローチが不可欠です。

森林破壊や砂漠化を止めるための課題

森林は、さまざまな生物の生息地となり、多くの資源を生産し、二酸化炭素の吸収や水資源を蓄えてくれるなど、すべての生物にとって欠かすことができないものです。しかし、森林の適切な保護区はわずか全体の17%に過ぎず、森林を守るためには保護区が足りていないのです。(注1)

違法伐採の問題は、賄賂での伐採権の不正発給や、違法伐採された木材の密輸など、違法行為のすべてを監視、管理することが難しくあることです。

違法伐採や過剰な農地開拓の背景には、貧困などの社会問題があり、森林管理や砂漠化への対策には多くの予算と各地域に合わせた対策が必要です。
(注1)参考:森林破壊の原因って?森林破壊を止めるために、今日からできること|WWFジャパン|WWFジャパン

内陸淡水環境を守るための課題

水はすべての生物にとって欠かすことのできない資源です。そのため、人と淡水環境が密接しており、開発や汚染の影響を受けやすく、多くの淡水生態系が脅かされています。国や地域での保全や、開発や汚染の影響を抑えることが必要です。

開発途上国では、排水の浄化が行われていない地域も多く、浄化技術を取り入れるための支援が必要です。また、日本でも多くの水田が開発によって消失していることや、農業の近代化に伴う生態系への影響が課題となっています。

水環境の保全には、水源である森林環境も大切です。しかし、世界中で森林が急速に消失しており、森林環境と水環境の両方へのアプローチが必要です。

生物多様性を守るための課題

さまざまな種類の生物は、互いに作用しながらバランスを保ち生きていますが、人間の介入により多くの場所で生態系のバランスが崩れています。

生物多様性を守るためには、自然環境の保護と回復、違法伐採の規制、大規模な農場開拓と食料の確保など多くの課題があります。法規制をしっかりと行い、伐採後は植林などを行う循環型のシステムに取り組む必要がありますが、法規制がされていてもすべてを管理することが難しく、産出国だけではなく輸入国でも、違法伐採されたものを購入しないことが求められています。

違法伐採や密猟による乱獲も、密猟者をただ取り締まるのではなく、経済的な支援をすることが必要です。違法伐採や乱獲などの理由を掘り下げると、貧困が原因であることが多くあるためです。

開発途上国では、環境への影響を知らないまま違法伐採や密猟に従事している場合も多く、人々への啓発や教育も重要な課題です。

SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」達成のための取り組み事例

自然環境の消失を今すぐに止めることは不可能ですが、自然環境を取り戻すために、森林の保護、内陸淡水生態系の保護、野生動物の保護、外来種対策など、多くの企業や団体がさまざまな取り組みを行っています。

ここでは、自然環境と野生動物の保全、保護、循環型社会の実現に向けた実際の取り組みを紹介します。

森林保護活動「サントリー 天然水の森」

飲料で有名なサントリーホールディングスの「天然水の森」とは、全国15都府県21ヵ所、約12,000haの水源となるエリアの森林を保全管理し、製品の生産時に汲み上げる水が自然に蓄えられている水量を上回ることのない、地下水の豊富な森を目指す活動です。実際に、工場で汲み上げる地下水量の2倍の地下水を涵養しています。

サントリーでは、最新の技術で森林の状態をしっかりと調べ、森林全体のバランスを見ながら、調査、保全、伐採、植樹、管理を行っています。伐採後の植樹は、その地域の植物であるかを調べ、遺伝子の汚染が起こらない植物だけを植えています。

自然環境の豊かさは、人が手入れをすることも重要です。木が生い茂る森は豊かに見えますが、木によって地上に日光が届かず、草や低木が育ちにくくなり、土壌がむき出しとなることで、雨が地表を流れ土壌を流し、蓄えられる地下水の量が減ることにつながります。また、草や低木は野生生物にとっても重要な食料です。豊かな森とは、小さな微生物から大型哺乳類、草や低木から、高木のさまざまな種類が生息している森です。サントリーでは、土壌、植物、生物のすべてにおいて調査、保全、管理を行い地下水豊富な豊かな森づくりに取り組んでいます。

参考:サントリー天然水の森

内陸淡水生態系の保護活動「水田・水路の生物多様性と農業の共生プロジェクト」

水田は多くの固有生物の宝庫です。しかし、時代とともに水田が減り、水田での生物多様性も減っています。このような水田の生物多様性を守るための取り組みを佐賀県、熊本県、福岡県にまたがる水田地帯をモデルにWWFジャパンが行っています。このモデル地区で取り組んでいる3段階の具体策をご紹介します。

第1ステージ 絶滅危惧種が生息する水田地帯の中で生物多様性を守るための重要な地域を選び、生物多様性優先地域マップとして地図化して公開する
第2ステージ 地域の特性に合ったよりよい生産と、生物多様性保全の両立のための取組みを、地域の農家や自治体などと協働で行なう
第3ステージ 第1ステージの生物多様性優先地域マップの成果と、第2ステージのモデル地区での成果事例をまとめ、日本全国に「日本の水田・水路と農業の共生モデル」を発信し、より広い地域で生物多様性を守るための取り組みを呼びかける

この取り組みのデータを活用し、国や自治体において野生生物の生息環境に配慮しながら、水田環境の改変、開発での影響を失くし保全していくことが目標とされています。

参考:水田・水路の生物多様性と農業の共生プロジェクト

動物の保護活動「WWFアジアゾウの保護と現地の人々の暮らしを守る」

ゾウは象牙目的による密猟や生息域の減少により人里への出没が増え、殺されてしまう事例も増えています。これらのことから、ゾウは絶滅危惧の恐れが高くなっており、絶滅からゾウを守るための取り組みをWWFが行っています。ここでは、カンボジアでの保全活動をご紹介します。

【ゾウの個体数調査や行動パターンの調査を行う】
ゾウの個体数調査は効果的な保全計画のために必要な手段です。フンからDNAを抽出することで、精度の高い個体数の調査を行います。
また、ゾウに発信機を装着し、行動パターンと移動範囲を把握することで、保全すべき地域の把握と、人との接触の機会を低減させられます。

【持続可能な農業で貧困を防ぎ、環境保全につなげる】
天然ゴムの生産が行われているカンボジアですが、生産の不効率により十分な収入が得られないことから、より広い農地開拓が行われています。そのため、農家の収入を増やすためのトレーニングを行い、協同組合を設立し、組合による共同取引を実現するための活動を行っています。また、地域住民の合意のもとに守るべき森林のエリアを確認することで、新たな森林破壊を防ぐためのルール作りを行っています。
地域住民の収入は、天然ゴムだけでは価格変動により不安定になるため、天然ゴムの生産と一緒に他の農作物の栽培をすることで、森林を新たに開拓せずに副収入を得ることの普及を目指します。天然ゴムと他の農作物の収入により収入が安定することで、貧困対策にもつながります。
自然に近い状態の農業であるアグロフォレストリー(樹木と作物を一緒に植え、植物同士の相互作用で農業、林業、畜産業を同時に行うこと)を行うことで、生物の生息場所となり生物多様性へとつながります。また、持続可能な農業により、新たに農地開拓を行わずに済むことでゾウの生息域を守り、ゾウと人との棲み分けができるのです。

【国際的な天然ゴムの持続可能な生産を促進する】
生産地からメーカーをつなぎ、生産から販売までを持続可能にすることを目指しています。そのために、世界のタイヤメーカー、加工業者、卸業者、農家などが参加し世界の天然ゴム市場の55%をカバーする「持続可能な天然ゴムのためのグローバル・プラットフォーム」に、小規模農家が参加し、生産地からメーカーをつなぐことで生産から販売までを持続可能なものとすることを目指しています。

生物多様性を守るためには、単純に生物を保護するだけではなく、原因をひとつひとつ解決していく必要があります。生物の生息数減少の理由に貧困がある場合は、貧困への対策も不可欠です。持続可能な社会のために、野生生物の保護と貧困へのさまざまな対策が求められているのです。

参考:カンボジアでのアジアゾウ保全および持続可能な天然ゴムの生産支援プロジェクト

外来種対策「沖縄でのマングース防除事業」

1979年にハブへの対策として奄美市で30匹のマングースが放たれました。しかし、ハブへの効果はなく島固有の希少種を捕食し、生息数を激減させてしまう問題が起きたため、マングースの防除事業が行われています。

マングースは2000年にもっとも多く推定1万匹にも達し、島の希少な固有種であるアマミノクロウサギやヤンバルクイナを守るために、1990年代に駆除が始まり、2005年に施行された「外来生物法」に基づいて本格的な防除事業が開始されました。

マングースを捕獲する方法として罠や探索犬、毒餌が用いられ、捕獲された数は3万2000匹にもなりました。その結果、マングースは徐々に生息数を減らし、アマミノクロウサギは21年度で推定2万匹と大幅に生息数を回復しています。

しかし、外来種も人間の勝手で連れて来られ、新たな土地で必死に生きているだけであり、責任は人間にあるのです。外来種をペットとして飼い、捨ててしまう人や、知らないうちに小さな種子などを持ち込んでしまうこともあります。意図する、しないにかかわらず、外来種を拡げないために正しい知識を持っておくことが必要です。

参考:侵略的な外来種 | 日本の外来種対策 | 外来生物法 (env.go.jp)
参考:奄美野生生物保護センター

SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」の達成にむけてできること

人が生活をするためには、多くの自然資源が欠かせません。しかし、今のペースのまま自然資源を使い続ける生活では、将来の資源が足りなくなることが必然です。そのために循環型社会を目指し、大勢で取り組み将来の資源を守ることが重要です。SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」の達成に向け、できることを考えましょう。

森林保護のためにできる身近なこと

森林保護の取り組みのためには、違法伐採で得られた資源を使わないことです。持続可能な方法で作られている製品を選ぶことで資源を守り、森林保護につながります。

持続可能な方法で得られた森林資源を選ぶために、「環境ラベル」を確認して購入しましょう。「環境ラベル」とは環境負荷を低減した製品につけられたマークのことです。資源の採取方法や、製品を作る際に排出される温室効果ガスの低減、リサイクルできることなどを表しています。

また、環境保護団体への寄付も環境を守る活動につながります。個人でできることは限られていますが、専門家のいる団体への寄付により、効果的な保全活動につなげることができます。

清掃活動への参加

地域での清掃活動も生物多様性を守ることへつながります。道に落ちているゴミは環境汚染へとつながります。落ちているゴミは風や雨の影響で、排水溝や河川へ流れ着きます。それは河川の汚染だけでなく、生物が食べてしまうなど、直接水生生物の命を奪うことにつながるのです。

身近な外来種を知る

外来種は身近にも多くあります。道端でよく見かけるタンポポも多くが外来種や在来種との雑種なのです。また、ヒアリやセアカゴケグモは人体への害があります。むやみに触ってしまうと大変なことになるため、身近な場所にいる可能性があり、人体への心配がある生物だけでも知っておく必要があります。

そのほかにも、アライグマやアメリカザリガニ、ブラックバスなど多くの外来種が身近にいるのです。

もし、特定外来生物を発見した場合も、許可なく運搬ができないため、遭遇した場合は捕まえずに、土地の管理者や行政へ相談をしましょう。(注1)

(注1)参考:日本の外来種対策 環境省

環境に配慮した暮らし

環境問題はとても身近な問題です。国や企業だけではなく、ひとりひとりが取り組み、環境に配慮していくことが大切です。リサイクルや、環境に配慮された製品の購入、エコを意識しムダを省くことも自然環境を守り、生物多様性を守ることにつながります。

自然環境を守り、人と生物の共存を目指しましょう

世界中で問題になっている環境問題、生物多様性の危機は人間の活動に大きく影響を受けています。人間が豊かな暮らしをする裏で多くの環境が破壊されているのです。森林破壊や生物多様性の問題は将来のために、必ず取り組まなくてはならない問題です。

また、外来種についても人間の勝手で連れてこられ、駆除されることとなる命を減らすためにも正しい知識が必要です。

これからの生活と地球に暮らす多くの生物を守るために、ひとりひとりができることから環境問題へ取り組みましょう。

この記事の執筆者
EARTH NOTE編集部
SDGs情報メディア
「SDGsの取り組みを共有し、循環させる」がコンセプトのWEBメディア。SDGsの基礎知識や最新情報、達成に取り組む企業・自治体・学校へのインタビューをお伝えし、私たちにできることを紹介します。
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。
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