秩父市のSDGs | 森林と林業を守り子どもたちの心を育む
秩父盆地の中央に位置する秩父市は、山々に囲まれているため森林資源が非常に豊富な町です。また、その豊かな森林資源を活かした林業が盛んな町でもあります。
さらに秩父市では、森林を守るための取り組みや、子どもたちの心を育むための取り組みも行っており、これらの取り組みはSDGsとも密接な関係にあるものです。
今回は、秩父市役所森づくり課の牧野さん、木村さん、全国植樹祭準備室の宮前さんの3名に、秩父市の森林や林業に関する取り組みや課題、2025年に秩父ミューズパークを主会場として開催される第75回全国植樹祭などを中心に、SDGsや自然環境への想いについて伺いました。
秩父市の概要と見所
秩父市は山に囲まれた立地であるため、豊富な森林資源を活かしたアクティビティや美しい自然を楽しむことができる名所が人気です。また、独自の食文化や歴史文化が観光客を魅了します。
ここでは、秩父市の概要と見どころ、おすすめのグルメや歴史文化をご紹介します。
アクセスの良さやアクティビティで人気
───本日はよろしくお願いいたします。まずは秩父市のご紹介をお願いします。
宮前さん 秩父市は埼玉県西部、周辺を高い山々に囲まれた秩父盆地の中心に位置しており、長い歴史や独自の文化、豊かな自然が育まれた美しい風土を持つ町です。都心からのアクセスが良いこともあり、年間を通して多くの観光客にお越しいただいています。
春が見ごろの芝桜の丘や、冬にはユネスコ無形文化遺産に登録されている秩父夜祭が開催されるなど、年間を通してさまざまな魅力的なイベントも行われています。また昨今のアウトドアブームの後押しもあり、キャンプやリバースポーツなども盛んです。都心からのアクセスが良くアクティビティを楽しめる場所として人気になっています。
みそポテトや秩父銘仙など独自の文化も
───秩父市ならではの食べ物には、どのような物がありますか?
宮前さん 秩父独特のグルメとして人気なのが「みそポテト」です。これはジャガイモの天ぷらに甘辛い味噌だれをつけた食べ物で、秩父では家庭のおやつや酒のつまみとして、古くから一般的に食されてきました。秩父市のイメージキャラクターの「ポテくまくん」も大人から子どもまで人気です。
またお肉も有名で、豚の味噌漬けやホルモン焼きが人気になっています。このように、山の中にある土地であるため、食材の保存のために味噌が活用されてきたという歴史があります。他にも、野沢菜とチンゲン菜を足して2で割ったような野菜である「しゃくし菜」の漬物も有名です。
───みそポテトは他では見ませんし、とても美味しそうですね。ぜひ一度いただいてみたいです。他にも何か特産品はありますか?
宮前さん 特産品では、絹織物が歴史的に有名です。秩父は織物産業で江戸時代から栄えてきた町で、明治大正以降には「秩父銘仙」というモダンなデザインの着物が全国で有名になりました。また、この織物産業の繁栄を受けて、秩父夜祭での豪華な山車が作られるなど、長らく地域の発展を支える基幹産業であった時代が続きました。現在秩父銘仙は「国指定伝統的工芸品」に登録されたことでその技術が再評価され、伝承者育成の動きも活発化しています。
森林や林業に携わる秩父市の取り組み
秩父市と言えば、やはり豊富な森林資源を活かした林業が盛んで、その多岐にわたる取り組みはSDGsと密接な関係にあります。
ここでは、森づくり課が行っている森林や林業に関する取り組みについて詳しくお聞きします。
森林や林業に関する事業を行う森づくり課
───ここからはSDGsに関連したお話を伺っていきます。まずは所属されている森づくり課について教えていただけますか?
牧野さん 森づくり課は現在、課長以下8名の職員と、自伐型林業での自立を目指す地域おこし協力隊の方が4名在籍しています。主な業務内容としては、市内に約3000ヘクタールある市有林の管理や保育、林道の管理や整備、企業・団体・自治体などと連携した林業振興活動支援事業を行っています。
木材利用やウッドスタートなどの木育事業、伐採届や森林経営計画など森林法関係の届出業務、秩父地域森林林業活性化協議会の事務局運営のほか森林経営管理制度や森林整備補助事業などの森林環境譲与税を活用する事業など、多岐にわたって業務を行っています。
───森づくり課が行っている事業は、かなり幅広いものなのですね。何か秩父市ならではの特徴などはありますか?
牧野さん 林業事業体等が一般的に行っている林業では、高性能林業機械という大きな機械を入れ、大きな作業道を作り、広く効率的に伐採や間伐が行われます。一方、自伐型林業は「小さな林業」と呼ばれ、山主もしくは山主から頼まれた人が、チェーンソーや小型のバックホウなど必要最小限の林業機械を使って林業をするというものです。
秩父市では、一般的な林業に従事する方々だけではなく、小さな林業に従事する方も育成するために、平成30年から地域おこし協力隊を採用しています。現在4名の方が市有林をフィールドにして、さまざまな林業技術の向上に向けて活動をしているところです。
この小さな林業は、小さく丁寧に行うことで山を急激に荒らさないため、環境にも山自体にも優しい林業になっています。
森林への関心やナラ枯れが課題
───環境に優しい小さな林業は、SDGsの観点からも素晴らしい取り組みですね。林業に関して、秩父市が抱えている課題は何かありますか?
牧野さん 秩父市では、森林経営管理制度という、山主自身が管理できない山を市が預かって管理する事業を行っています。しかし、地籍調査の進捗が悪く、森林の境界が明確でないため、境界を明らかにするところからはじめる必要があります。また、昔と比べて林業の採算性が悪くなっているため、自分の山に対して興味を持つ人が少なくなってきていると感じています。
こうした事情から、いかに山主に森林に対する関心を持っていただけるかが秩父市の課題となっています。また、それ以前に山主が誰か分からない土地も多く、登記簿や戸籍から調査するために多大な時間や労力がかかっていることも課題です。
───たしかに山林は、住宅地などのようにパッと見て境界が分かるようにはなっていませんね。明確にするのはなかなか難しそうです。他にも課題として考えていることはありますか?
牧野さん 近年「カシノナガキクイムシ」を原因として、ナラ枯れという木が枯れる被害が広がっています。2023年には秩父市内でも初めてナラ枯れ被害が見つかりました。他地域の事例から見てもこの虫を根絶することは難しいため、このナラ枯れへの対応は大きな課題であると考えています。
───こうした課題へは、どのような対応を取っているのですか?
牧野さん 森林の境界や土地の所有者の明確化に関しては、業務発注するなどしながら地道に取り組んでいます。ナラ枯れ被害に関しては、市が管理している土地については森林環境譲与税を活用し、それ以外の土地については秩父地域森林林業活性化協議会の補助金などを使って対応しています。
豊島区と取り組むとしまの森
───他にも何か森林に関して行っている事業はありますか?
牧野さん 秩父市は東京都の豊島区と姉妹都市の提携を結んでいます。豊島区と協定を結んで秩父市内に「としまの森」を約5年かけて整備し、環境交流ツアーとして豊島区からご来訪いただくイベントの開催などを行っています。
この事業のきっかけは、国から森林環境譲与税の譲与が開始される前年に、豊島区に譲与税を活かした共同の取り組みを相談したことです。2024年4月には新たに協定期間を更新しており、森林整備の取り組みを今後も続けていくことになっています。
子どもたちの豊かな心を育むために木育に取り組む
───先ほど、お話の中で「木育」という言葉がありました。この木育という言葉についてご説明いただけますか?
木村さん 木育とは、木や森、人との関わりを経て、豊かな心を育てようという教育概念を指した言葉です。秩父市では木育の一環として、秩父産の木材を使用して秩父の木工職人が制作したおもちゃを、誕生祝い品として配布するウッドスタート事業を実施しています。具体的には、秩父市内で生まれたお子さんが生後10か月の検診で保健センターに訪れた際に、おもちゃを贈る事業になっています。
この木育の事業は、木のおもちゃに触れることを通して、木材の良さを認識する心や、森林や自然を大切にする心を育んでいくことを目的に行っているものです。また、木育の事業はウッドスタートだけではありません。日常生活の中で木材をもっと使ってほしいという思いが込められた、さまざまな形で木材を利用する「ウッドライフ」や、人生の最後に秩父産材もしくは埼玉県産材を使った棺を用いて眠りについてもらうという「ウッドエンド」もあります。
こういった一連の流れを私たちは「生涯木育」と呼んでおり、一生涯を通して木を使い、木に親しんでもらおうという取り組みを実践しています。
地元の木を使った3種の誕生祝い品が人気
───誕生祝い品として贈られるおもちゃをご紹介していただけますか?
木村さん 誕生祝い品として贈っている、木材を使ったおもちゃは3種類あります。まず1点目は「木守のおうち」という名前のおもちゃです。側面に穴が開いており、鳥や魚などさまざまな形の音が出るおもちゃをはめ込んで遊ぶことができる、お子さんに非常に人気のおもちゃになっています。
2点目は「ちちぶの幸」です。こちらのおもちゃにはタイヤがついており、引っ張って遊べるプルトイになっています。秩父夜祭の山車を人が曳いている様子をイメージして、揺れながら動く工夫も施されています。上に載っているのは、名前にもある通りの秩父の名産品を象ったおもちゃです。
最後は「TUMICCO(ツミッコ)」という積み木のおもちゃです。18ピースの積み木が入っており、オリジナルの風呂敷とセットになっています。お子さんが自分で考えながら積み木を積んで、家や車などの形を作って遊ぶことで、知育にもなるおもちゃです。こちらももちろん秩父産の杉を使っており、セットの風呂敷も秩父の町並みをイメージしたデザインになっています。
───写真を拝見しましたが、3種類共、安全性にも配慮された楽しそうなおもちゃですね。これはかなり喜ばれるのではないですか?
木村さん 10か月検診には、2人目や3人目のお子さんが生まれたというお母様も多くいらっしゃいます。その際「このおもちゃ、上の子がもらいました」「いつも遊ばせてもらっています」などというお声をいただき、大変うれしく思っています。
森の活人は林業に関わる全ての人の交流の場
───「森の活人」というホームページを拝見しました。こちらはどのようなホームページなのですか?
木村さん この森の活人というホームページは、秩父市単体としてではなく、秩父地域森林林業活性化協議会として運営しているサイトです。そしてこのサイトは「森を守って活かしていくことのできる人」をターゲットとし、その方たちの役に立つ情報の発信を目指して運営しているものです。
私たちは、いわゆる林業を生業としている林業事業者のようなプロを「森の達人」と呼んでいます。このサイトは森の達人だけではなく、林業に興味を持っているアマチュアの方たちまで広く裾野を広げながら、交流する場を設けていけたらという想いで運営しています。
───プロからアマチュアまで、林業に関わる全ての人をターゲットにしたサイトなのですね。ご利用いただいた人からは、どのような反響がありましたか?
木村さん 秩父地域森林林業活性化協議会は当市が事務局を運営しているため、イベントの告知や活動内容の掲載に関しては森づくり課までご連絡いただく形になっています。そして、お問い合わせをいただいた際「以前掲載したときに、いろいろなところから問い合わせをいただいた」「サイトを見てイベントに来ていただいた」などの嬉しいお声を多数いただいております。
また、当協議会では自伐型林業についての体験研修を行っており、森の活人のサイトではこの体験研修のPRや募集も行っています。「サイトを見て興味を持った」というお声や、サイトからのご応募も多数いただき、森の活人を立ち上げた効果を実感しています。
全国植樹祭と今後の展望
埼玉県では2025年に、全国植樹祭という一大イベントが開催されます。全国植樹祭は天皇皇后両陛下もご臨席される歴史あるもので、秩父市にとっても森林や林業に携わる人にとっても非常に重要なものです。
ここでは、全国植樹祭についてと、秩父市の今後の展望について伺います。
全国植樹祭を森林・林業の理解へつなげたい
───秩父市では、全国植樹祭という大規模なイベントが予定されていると伺っています。こちらのイベントについて教えていただけますか?
宮前さん 令和7年春に開催される第75回全国植樹祭は、埼玉県と国土緑化推進機構が主催となって開催される国民的行事です。そして、秩父市と小鹿野町にまたがる秩父ミューズパークという広大な公園が、式典や植樹行事が行われる主会場となります。地元の秩父市としては大変光栄なことだと思っています。
当日は天皇皇后両陛下にご臨席いただき、県内外から多くのご招待者をお招きして、式典行事や記念植樹が行われます。この全国植樹祭は、森林やみどりに対する国民の理解を深めるために、毎年各都道府県の持ち回りで開催されてきた、長きにわたる歴史があります。ちなみに埼玉県での開催は今回2回目となり、前回は昭和34年に寄居町の金尾山で第10回大会が行われました。
今回は実に66年ぶりの開催で、次に埼玉県で開催するのは恐らく60年から70年後になるため、非常に貴重な機会として捉えています。秩父市といたしましても、地元の開催機運の醸成やPR活動に注力して活動しているところです。
───開催を1年後に控え、準備が着々と進んでいることと思います。素晴らしいイベントになると良いですね。
宮前さん 主催者である埼玉県につきましては、式典会場の本格的な整備がこの夏から開始されると聞いています。私たち地元の取り組みとしては、各種PRグッズの作成や関連イベントの開催など、機運の醸成が主軸となっています。そして、この全国植樹祭を一過性のイベントで終わらせず、森や自然、林業に関する理解を深めるための大きなきっかけになればと考えています。実際に地元の方がどういった考えを持っていただけるかが、全国植樹祭成功の肝になってくると思いますし、それは子どもから高齢者まで共通するものだと思います。
森林が豊かな秩父地域でも、森林を守っていくためには人が関与する部分が多分に必要です。さらに、人工林については木材を使って森を循環活用していくこともその一つだと思います。そういったことを伝えていく難しさを実感していますが、それをやり甲斐にして全国植樹祭の成功に向けて取り組んでいきたいです。
───市民の方の機運も高まっているのではないですか?
宮前さん 市民の方も「全国植樹祭が来るぞ」という意識は持っていただいていると思います。そして、いよいよこの春で1年前になるということでこのたび「秩父グリーンフェスタ」という関連イベントを開催いたしました。こちらのイベントは第75回全国植樹祭応援事業という位置づけになっており、2024年5月4日のみどりの日に行われました。
内容につきましては、森林や林業の理解を深めていただくための森林・林業PRコーナーや、木工品販売コーナー、また、親子で楽しめる木育ひろばといった各種催し物を実施いたしました。また、地元のグルメを楽しめるキッチンカーやお酒の出店もあり、ステージイベントなどもあわせて多くの方々にお楽しみいただきました。今回の秩父グリーンフェスタのような関連イベントを通じて、今後も全国植樹祭に向けて地域一丸となる雰囲気を作っていきたいです。
豊かな森林資源を活用して元気な秩父へ
───秩父市として、または森づくり課としての今後の展望をお聞かせください。
牧野さん 秩父市は都心から比較的近い場所にありますが、それでもやはり人口減少が進んでいます。近年では、60,000人以上いた人口が59,000人台まで減少しているのが実情です。そして、秩父市が将来にわたって持続可能な地域として存続していくためには、市のおよそ86%を占めている、豊富にある森林資源をいかに活用していくかが重要だと考えています。
そのためには、林業や木材産業だけでなく、観光やレクリエーションなどの森林サービス産業に、市内外を問わず多くの方が関わっていける環境を行政が整えていくことが必要です。将来にわたって、産業としても自然環境としても元気な秩父市を存続していくことを目指して、今後も取り組んでいけたらと思っています。
森林の取り組みはSDGsの効率的な達成を可能にする
───最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします。
牧野さん 森林や林業に関する取り組みは、SDGsのさまざまな目標を効率的に達成できる分野だと考えています。この記事を読んでいただいたことで、少しでも森林や自然について知ってもらえたらと思っています。また、秩父には豊かな自然や歴史、美味しい食べ物や楽しいものがたくさんありますので、実際に秩父に来て楽しんでいただければとても嬉しいです。
───本日は貴重なお話をありがとうございました。
山や森を活かして守り続ける秩父市の取り組み
森林資源というものは、自然環境のためにも、SDGsのさまざまな目標達成のためにも、とても大切なものです。木がどんどん失われ、砂漠化が世界的に進行している今、森林についての問題は誰もが考えなければならない課題とも言えます。
秩父市の取り組みは、森林資源だけではなく、子どもたちの心の成長や市民の豊かな暮らしをも守り、自然環境について考えるきっかけにもなる素晴らしいものでした。豊かな自然をいつまでも残していってくれることを期待したいです。
秩父市の取り組みや観光名所などに興味を持たれた方は、ぜひ一度ホームページを覗いてみてはいかがでしょうか。
▼秩父市のホームページはこちら
ホーム/秩父市
▼森の活人のホームページはこちら
森の活人 | 秩父の森・林業の情報サイト
▼全国植樹祭のホームページはこちら
トップページ – 第75回全国植樹祭 埼玉県2025
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。