田辺市のSDGs|千年先の未来を見据えた暮らしと歴史を守る取り組み

田辺市のSDGs|千年先の未来を見据えた暮らしと歴史を守る取り組み

2025.03.19(最終更新日:2025.05.29)
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南方熊楠や武蔵坊弁慶のゆかりの地として知られ、世界遺産にも登録されている「紀伊山地の霊場と参詣道」をはじめとした歴史ある観光地を有する田辺市。「一人ひとりが大切にされ、幸せを実感できるまちづくり」を理念に掲げ、市民の暮らしを守るだけではなく、SDGsに寄与するさまざまな取り組みが評価されており、SDGs未来都市にも選定されています。

今回は田辺市企画広報課の栗原さんに、田辺市の観光や産業、SDGsに寄与するさまざまな取り組みや想いについて伺いました。(※この動画のインタビューは2024年に収録されました。)

田辺市の観光と産業


田辺市には2つの世界遺産があり、「W世界遺産のまち」として有名です。また、2つの世界遺産の他にも人気の観光スポットは多くあり、数々の特産品も人気となっています。

ここでは、田辺市の観光スポットや特産品、2つの世界遺産についてお聞きします。

地域資源を生かした観光産業が盛んなまち


───本日はよろしくお願いいたします。まず、田辺市の概要についてご紹介いただけますか?

栗原さん 田辺市企画広報課の栗原と申します。2024年よりSDGsの取り組みについて担当しております。田辺市は和歌山県の南部に位置し、人口約67,000人が暮らす近畿地方最大の面積を誇るまちです。また、大阪へは車で約2時間、東京へは南紀白浜空港から飛行機で約1時間の時間距離にあり、都市圏から行き来しやすく利便性の高いまちでもあります。

産業としては、梅やみかんをはじめとした農業、熊野古道や温泉など地域資源を活用した観光産業が盛んで、紀州備長炭の発祥の地としても知られます。田辺市の観光としてまず挙げられる熊野古道は、2004年に世界文化遺産として登録されました。

中でも、田辺市街から熊野本宮大社へ向かう中辺路(なかへち)は、かつて上皇貴族の公式参詣道として利用され、現在においても多くの人に歩かれている道です。熊野古道は、欧米やオーストラリアなど、インバウンドからも大変人気のスポットとなっています。

───熊野古道は日本人には馴染みのある有名観光地ですが、やはり海外の方からも人気なのですね。他にはどのような観光地がありますか?

栗原さん 「日本三美人の湯」の一つである「龍神温泉」は、弘法大師が難陀龍王の夢のお告げによって浴場を開いて以来千三百年の歴史を持ち、肌を美しくする「美人の湯」として人気です。また、河原を掘ればたちどころにオリジナル露天風呂を作ることができる「川湯温泉」では、川の一部をせき止めて作る日本一大きな露天風呂である「仙人風呂」が冬期の風物詩となっています。

また、近年では、ナショナル・トラスト運動の先駆けとして一躍その名を馳せた「天神崎」が、条件が揃うとウユニ塩湖のような写真が撮れる絶景スポットとしてSNSで話題となっています。

みなべ・田辺の梅システムが世界農業遺産に認定

───梅の生産が盛んであるというお話がありました。「みなべ・田辺の梅システム」が世界農業遺産に認定されていますが、こちらについて詳しく教えていただけますか?

栗原さん 梅の全国生産量の5割以上が和歌山県南部に位置するみなべ・田辺地域で生産されています。梅は、江戸時代から400年以上にわたり持続的に生産されていますが、地域で栽培される梅の品種の多くは自家受粉できないため、梅とニホンミツバチが共生する形で生産できる環境を整えています。

また、紀州備長炭の原木であるウバメガシの木を炭焼き職人が択伐(細い枝は切らずに残し後継樹を育てながら森林の更新を図る伐採法)することで、山の急斜面にある農地の土砂崩れを防いできました。こうした資源循環と共生を大切にした農業システムが、生物多様性を保全する仕組みとして評価され、2015年に世界農業遺産に認定されています。

田辺市のSDGsの取り組み


2つの世界遺産を抱えた歴史あるまち田辺市では数々の素晴らしい取り組みが評価され、SDGs未来都市や自治体SDGsモデル事業に選定されています。

ここでは、田辺市のSDGsに寄与する取り組みについて伺います。

SDGsに寄与する三側面の取り組み


───ここからはSDGsに関する取り組みについて伺っていきます。まずは、田辺市の取り組みの概要について教えてください。

栗原さん SDGsの目標を達成するためには、経済・社会・環境の三側面に対し統合的に取り組みを実施する必要があります。そこで、田辺市では、経済・社会・環境の三側面に対し3つの軸を設定しました。

まず、経済面では、地域の産業を守るために「熊野古道プラスαの着地型観光リファイン」や「第一次産業の活性化と就業者の安定的確保」に取り組んでいます。

そして、社会面では、地域の暮らしを守るために「ローカルイノベーター育成と関係人口の創出」や「ともに支え合う地域のコミュニティの機能向上」に取り組んでいます。

最後に、環境面では、森(自然)を守るために「世界遺産や自然資源の保全と継承」や「次世代を担う子どもたちに対する環境教育の推進」、「脱炭素社会への貢献」に取り組んでいます。こうした三側面それぞれの取り組みによる相乗効果を生み出していくことで、SDGsに取り組んでいます。

───SDGsは全ての目標が密接に関係しているため、統合的な取り組みを行うことでより効果的に目標が達成できますね。取り組みの代表的なものをご紹介いただけますか?

栗原さん 例えば、「熊野古道プラスαの着地型観光リファイン」では「巡礼の道復活プロジェクト」や「紀伊半島の自然資源を活かした新たなツアー造成」「熊野古道とつなげた街なかの賑わいづくり」「紀伊半島広域観光プランの強化」などに取り組んでいます。こうした施策を地域と連携しながら取り組んでいくことで、観光産業の活性化を目指しています。
特に、「巡礼の道復活プロジェクト」をSDGs未来都市計画の中で提案させていただいた時期はコロナ禍であったため、入国制限で外国人観光客が激減していました。そこで、再び熊野に人を取り戻すために地域事業者と連携しながら、新たなプロモーションの展開や受け入れ環境の充実に取り組んでいます。

環境を守る森林環境教育プログラムと森林の育てびと


───続いて、環境面の取り組みである森林環境教育プログラムについて教えていただけますか?

栗原さん 森林環境教育プログラムは、子どもたちが森林との関わりを体感し、森林との持続可能な共生社会を目指す心を育むことを目的として、田辺市内の小中学校で実施しているプログラムです。地域DMO(観光地域づくり法人)や森林事業者、環境保護に携わる事業者・団体と連携して実施しています。

プログラムの開発にあたってはDMO事業者が提携する体験コンテンツを、学習指導要領に記載されている「主体的・対話的で深い学び」および「SDGs」に関連付けて組み合わせています。熊野古道ウォークや林業作業所の見学、植樹体験などを、日帰りや一泊二日のツアーにカスタマイズしながら取り組んでいる事業です。

───自然環境を保護する考えを子どものうちから育むことができる、素晴らしい取り組みですね。環境面では他にも「森林の育てびと」という取り組みを拝見しました。こちらでは森林経営管理制度に基づく森林整備の委託において、森林作業員を育てるための「特別枠」を設けているそうですが、どういった枠になるのでしょうか?

栗原さん 森林経営管理制度に基づく森林整備の委託につきましては、通常枠として指名競争入札を実施して単年度の事業契約を締結します。それに対して特別枠は、新たに45歳以下の若手現場作業員を1人以上雇用した林業事業体に対し、指名型プロポーザルにより年間10ヘクタール程度の安定した事業契約を3年間締結するというものです。

これは、雇用を拡大する事業体を支援する、OJT(現任訓練)を通じて森林整備の担い手の育成につなげていく事業となっています。本制度は2022年度より実施しているもので、2023年度までに4事業体と契約を締結しており、2024年度も2つの事業体と契約を予定しています。

───なるほど、若手作業員の育成を支援する制度なのですね。事業体からの反響はどうですか?

栗原さん 事業体からはかなり良い評価を得ております。市としても、業務内容に搬出作業を伴わないため、新規就業者にとっても比較的容易な業務であり、新人研修のフィールドとしての役割を十分果たしていると考えています。こうした担い手の確保により、森林経営管理制度の運用を含めた森林整備をさらに進めていきたいです。

たなべ未来創造塾で地域課題に取り組む


───社会面の取り組みである「たなべ未来創造塾」とは、どのような目的の塾なのでしょうか?

栗原さん たなべ未来創造塾は、熊本大学副学長・熊本創生推進機構副機構長の金岡省吾教授に助言を受けて行っている取り組みです。交流人口の増加と地域経済の活性化を目的にした戦略ビジョンをより持続性の高いものとするため、地域課題をビジネスの手法で解決に結びつける目的で始まりました。

塾の運営には、田辺商工会議所や日本政策金融公庫に参画いただき、講義にて助言をいただいております。また、講師として大学や民間の専門家、塾の修了生が登壇したり、日本政策金融公庫や地元金融機関である紀陽銀行、きのくに信用金庫が創業支援を実施したりするなど、ビジネス移行のサポートを産官学金が一体となって支援することで、ビジネス実行率の向上を図っています。

参加者は、20代から40代の若者が中心で、毎年10名程度を募集し、これまでに9期約90名もの方々に参加していただいています。

BokuMokuで虫食い材に新たな価値を創出


───修了生の方が始められたビジネスには、どのようなものがありますか?

栗原さん 代表的なものは、あかね材と呼ばれる虫食い材に価値を見出した、循環型熊野家具プロジェクト「BokuMoku」です。食害を受けた木材は、食害を受けていない木材と強度が変わらないにも関わらず、見た目の問題から市場価値が低くなってしまいます。

そこでBokuMokuでは、虫食い材の見た目の問題をデザインに活用したプロダクトをすることで、あかね材に新たな価値を付与して価値の向上に努めています。このプロジェクトは、複数のたなべ未来創造塾修了生が連携して、それぞれの修了生の強みを生かしながら実施している事業です。今ではあかね材を活用したテーブルなどの製品が、田辺市役所や田辺市内をはじめ、市外県外のさまざまな場所に設置されています。

───こうした修了生の方々が高い起業率を誇る要因は、どういった点にあるとお考えですか?

栗原さん 産官学金一体のサポートに加え、塾生同士の横のつながりが強みです。創業に向けてサポートし合う体制が整っていることが、高い起業率につながっていると考えています。

小さなビジネスを支援するたなべプチ起業塾

───たなべ未来創造塾とは別に、たなべプチ起業塾という取り組みがあるとお聞きしました。こちらはどういった目的で始めた取り組みなのでしょうか?

栗原さん たなべプチ起業塾は、気軽に小さな仕事を作り出す副業支援を目的とし、たなべ未来創造塾の姉妹塾という形で設立しました。また、女性起業家の育成といった側面もあり、「好きなこと」に「地域にいいこと」をプラスして小さなビジネスを始め、地域課題の解決にもつなげていく事業となっています。

地域の未来を担う人材を育むことこらぼ


───ビジネスを始める方への支援が本当に手厚いですね。さらに、たなべ未来創造塾の修了生による「ことこらぼ」という取り組みがあるそうですが、こちらはどういった内容の取り組みになりますか?

栗原さん 「ことこらぼ」は、都市圏企業の社員とたなべ未来創造塾の修了生による取り組みで、多様な業種の人びとがチームを組み、共同経営者として地域課題を解決するビジネスを経験する、社会課題解決型の越境学習プログラムです。

日本能率協会マネジメントセンターと連携して実施しており、地域と深く関わることで関係人口創出を図っています。当プログラムを通じて、ビジネス視野の拡大をはじめ、都市圏大企業との人脈確保や地域課題解決の新たなノウハウなどを獲得することで、地域の未来を担う人材としてのレベルアップにつなげています。

───最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

栗原さん 熊野古道が世界遺産に登録されて、今年(2024年)で20周年を迎えました。また、「みなべ・田辺の梅システム」が世界農業遺産に認定されて来年(2025年)で10周年の節目を迎えます。SDGs未来都市計画自体は2030年までの取組ですが、これらの財産をさらに次の千年先まで継承していくためにも、将来にわたってこうした取組を継続していきたいと思います。

───本日は貴重なお話をありがとうございました。

歴史も未来の暮らしも守り続けていく

田辺市のSDGsに寄与する取り組みは、市民の暮らしはもちろん歴史や未来までも守ろうとするもので、SDGs未来都市や自治体SDGsモデル事業に選定されたのも納得の素晴らしさでした。世界遺産を継承し、環境を守る新たな人材を育てる田辺市は、きっとこれから千年先も変わらずさまざまな取り組みで人や歴史を守っていくのでしょう。田辺市のさらなる発展に、今後も注目したいと思います。

田辺市の取り組みや観光スポット、特産品などをもっと詳しく知りたい方は、ぜひ一度ホームページを覗いてみてください。

 和歌山県 田辺市ホームページ|未来へつながる道 田辺市 

この記事の執筆者
EARTH NOTE編集部
SDGs情報メディア
「SDGsの取り組みを共有し、循環させる」がコンセプトのWEBメディア。SDGsの基礎知識や最新情報、達成に取り組む企業・自治体・学校へのインタビューをお伝えし、私たちにできることを紹介します。
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。
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