セロテープで未来をつくるニチバン株式会社のSDGs

事務作業や工作などで使用するセロテープ、きっと多くの方が一度は使ったことがあるかと思います。実はセロテープはSDGsにも大きく貢献している製品です。
このセロテープを製造販売していることで有名な「ニチバン株式会社(以下、ニチバン)」は、他にも粘着技術を応用した数々の製品で、私たちの暮らしを便利で豊かなものにしてくれています。
今回は、経営企画室コーポレートコミュニケーション部の卯月さん、森さん、梶原さんに、ニチバンの歴史や製品、SDGsへの取り組みや想い、今後の展望について伺いました。
ニチバンの歴史と製品
ニチバンといえば、やはりまず頭に浮かぶのは登録商標にもなっているセロテープです。しかし、セロテープ以外にもニチバンは実は私たちの身近にあるさまざまな製品を提供しています。そしてそれらの製品は、ニチバンの長きにわたる歴史によって培われた技術で生み出されてきました。
ここでは、ニチバンの歴史と主な製品について伺います。
軟膏の製造から粘着技術へ。戦後のセロハンテープ製造からさまざまな粘着製品に派生
───本日はよろしくお願いいたします。まず、社名の由来と会社の歴史について教えて下さい。
卯月さん 戦時下の企業整備によって商号が「日絆工業株式会社」となり、その後「日絆薬品工業株式会社」に改称され、1961年に現在の「ニチバン株式会社」という社名になりました。
創業当初は軟膏の製造を行い、海外から輸入した絆創膏など人体への粘着製品を扱う薬問屋も営んでいました。しかし、自分たちの持っている軟膏製造の技術を使えば粘着製品も製造できるのではないかと考え、自社工場を立ち上げて絆創膏の製造販売も始めることになったのです。
その後、第二次世界大戦が終わって日本に連合統治軍がやってきました。連合統治軍では検閲後の封書類の際封かんにセロハンテープを使用していましたが、膨大な作業量であったためアメリカ本部からの支給ではとても間に合いませんでした。そのため、弊社の前身である企業が日本国内でセロハンテープを製造する指令を受け、製品化して採用されたという流れです。
当時は米粒やデンプン糊を使っていたものが、粘着テープを使うことで瞬時に固定でき、仮止めもできる。地道な宣伝活動の効果もあり、こうした便利さが全国で評判となり、ヒット商品として定着しました。その後、セロハンテープで培った技術を派生させ、商業用の包装テープや医療用テープ、スポーツ用のテーピングテープなど、さまざまな粘着製品の製造販売を行っています。
さまざまな分野の身近な製品を手掛けている
───ニチバンといえばやはりセロテープが有名ですが、そのような歴史があったとは知りませんでした。現在はさまざまな分野の製品を扱っているとのことですが、いくつかご紹介していただけますか?
森さん ヘルスケア製品では、救急絆創膏の代表的な製品である「ケアリーヴシリーズ」や、消炎鎮痛剤の「ロイヒつぼ膏」スポーツテーピングの「バトルウィン」というブランドが中心的な製品です。また、傷あとをケアする「アトファイン」も手掛けるなど、主に痛みや傷あとをケアする製品を展開しています。
ステーショナリーでは、セロテープや「ナイスタック」という両面テープが中心的な製品です。産業向け製品では、布テープやクラフト粘着テープ、「たばねら」という野菜結束テープが代表的な製品となっています。ネギが束ねてある紫色のテープなど、一度はご覧になったことがあるのではないでしょうか。また、工事現場や自動車業界、建築業で使われているマスキングテープも展開しています。
医療関係では、注射後に止血のために貼る穿刺部保護剤「チューシャバン」やサージカルテープ、ドレッシング材などを主として展開しています。キッチン雑貨類では、「ディアキチ ワザアリテープ」というタッパーなどに貼るラベルとして利用するテープが人気です。このディアキチは、低温でも文字が書きやすく剥がれにくいという特徴を持った製品になっています。
ニチバンが注力するSDGsの取り組み
ニチバンの製品は私たちの日常に根ざしているものですが、実はSDGsに寄与する一面も持ち合わせています。ここでは、ニチバンのSDGsに関する取り組みについてお聞きします。
技術を活かして社会課題を解決する製品を生み出す
───ここからはSDGsに関する取り組みについて伺っていきます。まず、企業として掲げているビジョンなどありましたら教えていただけますか?
森さん ニチバングループでは「NICHIBAN GROUP 2030 VISION」を策定しており、その中で「快適な生活を支える価値を創出し続け、グローバルに貢献する企業へ!」と掲げています。また、その実現のために中期経営計画「ISHIZUE 2023 ~SHINKA・変革~」を推進してきました。弊社では、社会課題を解決する製品を生み出すための方法やイノベーション、産官学連携に注力して取り組んでいます。
しかし、社会課題をどのように粘着技術で解決するかは難しい点です。粘着技術だけでは解決法が狭くなってしまうため、そうならないように社外との取り組みを強化しています。何が生まれるか、何ができるかは、やはり実際に行動してみなければ分からない部分が多いため、弊社の技術で社会に貢献するためのネタを探しに、社外で協業を探っているところです。
セロテープは天然素材で作られている
https://www.nichiban.co.jp/project/cellotape-sdgs/
───「セロテープでSDGsに貢献」という言葉をホームページで拝見しました。ニチバンを代表する製品であるセロテープを、どのような形でSDGsの取り組みに活かしているのでしょうか?
森さん セロテープは、木材チップ由来のセロハンと天然ゴム由来の粘着剤から作られており、戦後に作り始めてからずっと天然素材にこだわっています。しかし、セロテープの主成分が天然素材であることは、残念ながらあまり知られていません。
透明な粘着テープは全てセロテープだと認識されている方も多く、プラスチック製のOPPテープもセロテープと混同されてしまいます。ですので、セロテープのことを正しく広めていくためには、脱プラや再生可能資源の使用など、環境へ配慮した製品であることを押し出していかなければなりません。
また、SDGsという言葉が認知され始めたものの、何に取り組めば良いのか分からない企業もまだ少なくないと思います。そこで掲げているのが「Small Action For the Future」です。普段使っているプラスチック製のテープをセロテープに変えていただくだけでSDGsの小さな取り組みとなり、それが未来につながります。現在では賛同企業も118社まで増えており、セロテープが天然由来の素材で作られ、環境面に価値があるものだという認識が少しずつ広まってきていると感じています。
───環境へどのような影響があるのか、具体的な数字などは出ていますか?
森さん 木材チップから作られるパルプは、原料となる木が成長する過程でCO2を取り込んでいます。そのためカーボンニュートラルの観点から見ると、焼却時の実質的なCO2の発生は、石油由来のOPPテープの7分の1に抑えられていることになるのです。政府も、最終的に焼却処分されるものは、バイオマス由来のものが望ましいと言及しています。完璧な素材というものはありませんが、私たちは再生可能資源を使うことで環境に配慮しています。
───他にも何か、Small Action For the Futureに関連して行っている取り組みはありますか?
森さん Small Action For the Futureのホームページの中で「未来対談」という動画コンテンツを現在までに計3回掲載しています。これは、ご賛同いただいている企業の社長や役員の方と、弊社の社長である高津が行った、サステナビリティやSDGsに関する対談を収めたものです。大きな取り組みを広めていくためにはトップメッセージが重要であるため、さまざまな企業のトップの方々との対談を通して広めていきたいと考えています。
使用済み粘着テープの巻心を送るだけでできるSDGsの取り組み
https://www.nichiban.co.jp/project/makisin-eco/main7.html
───粘着テープの巻心を回収して、資源として再利用する「ニチバン巻心ECOプロジェクト」という取り組みを行っていると伺っています。こちらの取り組みについてお聞かせいただけますか?
梶原さん この「ニチバン巻心ECOプロジェクト」は2010年に始まりました。当時はまだ、SDGsやサステナブルといった言葉もまだまだ世の中に浸透しておらず、CSRなどの概念もやっと作られ始めたような時期です。この取り組みは、弊社の看板商品であるセロテープ自体が天然素材を由来とした製品であることもあり、社会貢献を行う循環型のプロジェクトとして始まりました。2024年で15回を数え、継続してご参加いただいている企業や団体も多くいらっしゃいます。
───巻心は、どういった形で送れば良いのですか?
梶原さん 巻心はメーカーを問わず一巻から送付していただけます。これは、社会貢献活動であるニチバン巻心ECOプロジェクトに多くの方が気軽に参加いただけるようにするための工夫です。さらに多くの企業や団体にご参加いただけるように、プロジェクトの内容を少しずつリニューアルしながら継続しています。多くの方に知っていただき参加していただくことは簡単なことではありませんが、そこを課題として捉えて取り組んでいきます。
国内外で取り組む植林活動
───ニチバン巻心ECOプロジェクトでは、セロテープの原料である木を植える取り組みも行っているそうですね。
梶原さん 植林の取り組みは、直近では2024年5月に国内で実施予定です。少しでも多くの企業や団体に認知していただき、ご参加いただいている企業にはさらにプロジェクトを身近に感じていただけるように、植林活動へのお声がけをさせていただきました。
国内での植林活動は、これまでは島根県江津市の山林で行ってきましたが、今回の2024年度からは広島県廿日市市での植林を予定しています。今回は、10社ほどの企業から14名の方にご参加いただき、教員含め20名ほどの小学生にもご参加いただける予定です。
───小学生も参加しての取り組みなのですね。どのくらいの数を予定しているのですか?
梶原さん 今回は200本の植林を予定しています。毎年、日本製紙さんの社有林の一角を間借りして杉の木を植林してきましたが、今回は「エリートツリー」という品種の杉の苗を日本製紙さんにご用意いただく予定になっています。
卯月さん エリートツリーはCO2吸収量が通常の品種よりも多く、花粉の飛散も半分以下に抑えられた素晴らしい品種です。
───フィリピンでもマングローブの植林活動を行っているそうですね。
梶原さん マングローブの植林は2010年のプロジェクト開始当初から、環境NGOの「イカオ・アコ」という団体を通じて行っています。初めはそれほど多くない本数でしたが、近年では年間3万本前後を植林しています。フィリピンの好調な経済状況にマングローブの植林も一役買っているのではと、勝手ながら想像しているところです。
出前授業をSDGsについて考えるきっかけに
───SDGsの取り組みとしては、他にも小学校への出前授業を行っていると伺っています。こちらの取り組みについて教えてください。
梶原さん 出前授業は、基本的に小学4年生を対象にしています。4年生は社会科で「健康な暮らしとまちづくり」という単元があるため、それに見合う内容で出前授業の内容を構成しています。学校によっては、出前授業を総合の学習時間に取り入れたいなどという要望もあるため、その辺りは学校側と相談して柔軟に対応しています。
また授業内容は、数年に一度変更される先生方の学習指導要領に沿って決めています。取り組みを始めたころと比べ、学校の授業内容もSDGsに特化したものが増えたこともあり、生徒さんのSDGsに対する知識もどんどん増えてきました。そのため、生徒さんに少しでも新たな視点を与えられるようなリニューアルを重ねています。SDGsや環境について、少しでも考えたり行動したりするきっかけを提供させていただいています。
───出前授業を行う小学校は、どのようにして選定されているのですか?
梶原さん 毎年ゴールデンウィークに入る前のタイミングで、プロジェクト開始のご案内を小学校にお送りさせていただいています。出前授業は、そのご案内に同封している申込書からの申し込み制です。毎年20校前後の小学校からお申し込みをいただいており、日程の関係でお断りせざるを得ない若干のケースを除いては、基本的にお申し込みいただいた全ての小学校に訪問させていただいています。中には毎年お申し込みをしていただいている学校もいらっしゃいます。
───何か印象に残っている反響はありますか?
梶原さん 出前授業を実施した学校の生徒さんからお礼のお手紙を頂戴することがあり、私宛てにいただいたものに関しては全て目を通させていただいております。ホームページにも、許可をいただいた一部のお手紙を掲載させていただいています。授業で何か感じてもらえたことがあったなら本当に嬉しいです。
卯月さん 出前授業では、話の足がかりとしてセロテープの話をさせていただいております。セロテープが何から作られているのかというクイズを出した際の、子どもたちのとても楽しそうな顔が強く印象に残っています。こうした足がかりの部分で興味を持っていただいて、どのような原材料のものを使うと将来どのような影響があるのかを、考えるきっかけにしてほしいです。身近な製品で少しでもお役に立てるのであれば、それはとても嬉しいことだと思います。
梶原さん 学校の先生も、普段授業中に手を挙げない子どもが積極的に手を挙げていたことに驚かれていました。楽しい授業にすることで、もっと子どもたちの積極性を引き出していきたいです。
女性や障がい者の雇用にも注力
───女性や障がい者の雇用にも力を入れていると伺っています。
森さん 弊社では、2024年2月8日にIRで開示した中期経営計画の重点テーマの一つとして、人的資本経営を掲げています。弊社の女性管理職比率は2023年度で10.2%となっており、これは製造業の平均よりも高い数値です。障がい者雇用に関しても法定の雇用率は満たしております。安城事業所では、障がい者職場である「ステップス」を運営しており、障がい者の方にご活躍いただいております。
今後の展望と想い
暮らしを豊かにする製品を作るだけではなく、SDGsにも取り組んでいるニチバン。今後の目標についてはどのように考えているのでしょうか。
ここでは、ニチバンの取り組みの展望と想いについて伺います。
CO2削減やエンゲージメント向上に取り組んでいく
───今後の展望や目標をお聞かせください。
森さん 弊社では、TCFDの開示の中で2030年のCO2排出量40%削減、2050年には100%削減の目標を掲げています。そして目標を達成するためには、やはりエネルギー使用量を減らしていくことが重要です。弊社によるCO2排出量の99%以上は工場からのものであるため、製造時のエネルギー使用量を減らす取り組みを地道に続けています。具体的な取り組みとしては、製造工程でのエネルギー使用量の大幅な削減に向けた無溶剤化技術の開発や、グリーン電力証書を購入することによる100%グリーン電力を使ったセロテープの製造を行っています。
また、社外に良い影響を与える一歩踏み込んだ取り組みを行うためには、まず社内のモチベーションが高くなければいけません。そのため、社内エンゲージメントの向上にもかなり力を入れています。社員が楽しく生き生きと働くことによって、社会課題を解決する製品の開発や、社外との取り組みにつながると考えています。今後はさらにエンゲージメントを高めていきたいです。
小さな取り組みで未来は変えられる
───最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします。
森さん SDGsに取り組むために小さなアクションを起こしたいと思っても、プラスチック製品を減らすことは簡単ではありません。しかし、使っているテープをセロテープにするだけでもSDGsの小さなアクションになりますので、選択肢の中にセロテープを加えていただけたらと思います。セロテープに変えることが、新たな取り組みのきっかけになれば嬉しいです。
卯月さん Small Action For the Futureの言葉にもあるように、SDGsの取り組みは本当に小さなことで構いません。どこの企業や学校、ご家庭でも、1つや2つはテープを見かけると思います。このテープをセロテープに変えていくだけでも、未来を少しは変えられるということを地道にお伝えしていきたいです。
───本日は貴重なお話をありがとうございました。
私たちの身近にある製品で未来を創っていく
誰もが知る国民的な製品を作っているニチバンは、私たちの暮らしを豊かにするだけではなく、SDGsに取り組むことで私たちの未来をも豊かにしようとしています。そしてその取り組みは、多くの人や企業を巻き込んだとても素晴らしいものでした。
今後もきっと、次々に便利な製品を生み出し、未来への活動を続けていくであろうニチバンの取り組みに、注目していきたいです。
ニチバンの製品や取り組みについてさらに詳しく知りたいなら、ぜひ一度ホームページを覗いてみて下さい。
▼ニチバン株式会社のホームページはこちら
ニチバン株式会社:製品情報サイト|ぴったり技術で明日をつくる
▼セロテープによるSDGsについて、詳しくはこちら
「セロテープ」でSDGsに貢献|ニチバン株式会社
※セロテープはニチバン株式会社の登録商標です。®(登録商標)、TM(トレードマーク)表示は紙面都合により省略しています。

身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。