SDGs未来都市・石巻市は市民とコミュニティの持続可能な未来を創る
東日本大震災での被災から12年経ち、新たな一歩を踏み出している、宮城県石巻市。SDGs未来都市に選定されたことからもわかるように、SDGsへの貢献でも知られています。今回は、SDGs移住定住推進課の遠藤さんに、石巻市の名産品や見どころ、SDGsへの具体的な取り組み、今後の展望についてお聞きしました。
風光明媚な石巻市とSDGsへの取り組みのきっかけ
SDGsへ積極的に取り組んでいる石巻市ですが、具体的な取り組みを知る前に市の特徴や名産品について伺いたいと思います。
新鮮な水産物やマンガ・アートが有名
───本日はよろしくお願いします。まずは石巻市のご紹介をお願いします。
遠藤さん 復興企画部SDGs移住定住推進課、課長の遠藤と申します。
石巻市は宮城県の北東部に位置しており、風光明媚な県下第2の都市となっています。夏は涼しく冬は 雪が少ない、また、晴れの日が多いため年間を通して日照時間が長いといった、過ごしやすい気候であることも特徴です。そして仙台市から1時間の距離にあり、高速道路、電車、バスで結ばれた利便性の高い市でもあります。
───名産品には、どのようなものがありますか?
遠藤さん 当市の沖合には世界三大漁場と呼ばれる豊富な水産資源を持つ金華山沖があり、日々新鮮な魚が水揚げされています。金華サバや金華カツオをはじめとした「金華ブランド」が有名で、漁港では200種類を超える水産物が揚がります。
───金華サバはとても有名ですよね。何か見どころの施設などはありますか?
遠藤さん 仮面ライダーの原作者である石ノ森章太郎先生の作品を多数展示している「石ノ森萬画館」や、平成29年から開催している「Reborn-Art Festival」など、マンガやアートの街としての顔も持っています。
───石ノ森章太郎先生は同じ宮城県の中田町(現登米市中田町)出身ですが、石巻市とはどのようなつながりがあるのでしょうか。
遠藤さん 元々、石ノ森先生が学生のころ、現在萬画館が建っている中瀬地区にあった「岡田劇場」という映画館に、自転車で3時間ほどかけて来られていたそうです。そして当市と石ノ森先生との本格的なつながりは、平成7年7月に行われた当時の石巻市長と石ノ森先生との対談から始まりました。その後、中瀬地区にマンガミュージアムを建設する話が持ち上がり、石ノ森萬画館を建設する構想である「マンガランド構想」が生まれたという経緯です。
東日本大震災被災による住宅移転が取り組みのきっかけ
───石巻市はSDGsに取り組んでいることで有名ですが、取り組みのきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
遠藤さん 東日本大震災で甚大な被害を受け、半島沿岸部や海辺の市街地の多くの住宅が高台や新市街地に移転したことがきっかけです。移転先の地域では、根付いていた地域コミュニティが崩れたため、住民は新たに移り住んだ場所で不安を抱えながらの生活を余儀なくされていました。
地域コミュニティを再生するためには人と繋がらねばならず、そして繋がるためには外に出て周りの方々との交流が生まれなければなりません。そうした中、高齢者の孤立防止や移動手段の確保が課題として挙がりました。そして解決方法を模索した結果、事業の中に経済・社会・環境の三側面を統合的に取り込むことで持続可能なまちづくりを目指すSDGsの考え方を取り入れ、将来に渡って活力ある地域社会の実現を目指していくこととなりました。
地域コミュニティを大切にした石巻市のSDGs
東日本大震災からの復興を機にSDGsに取り組むことになった石巻市ですが、その取り組みにはどのような特徴があるのでしょうか。ここでは、石巻市のSDGsへの具体的な取り組みについて詳しく伺います。
環境に優しい電気自動車で高齢者の足を確保
───石巻市が行っている、SDGsへの具体的な取り組みを教えてください。
遠藤さん 当市では「経済・社会・環境の三側面を好循環でつなぐ、グリーンスローモビリティ、コミュニケーションロボット、地域交通情報アプリケーション(ローカル版MaaS)」を活用した取り組みを進めてきました。
グリーンスローモビリティは、東日本大震災の防災集団移転団地である「蛇田のぞみ野地区」で導入し、近隣の商業施設などへの新たな移動の足として活用されています。令和5年度には「蛇田あゆみ野地区」へも拡大し、現在2台の体制で運用しています。運営は、住民組織を中心にボランティア活動として行っており、その中で新たな繋がりが生まれ、コミュニティの再構築が進んでいるところです。
───耳慣れない言葉なのですが、グリーンスローモビリティとはどういった乗り物なのですか?
遠藤さん グリーンスローモビリティとは、電動で時速20km未満で走る公道走行可能なモビリティ(移動手段)のことです。また、動力である電気は、太陽光電池を搭載した非接触給電ステーションを設置することにより、100%自然エネルギーかつ災害発生時にも活用可能なものを使用しています。こうして、災害に強く環境に優しいまちづくりを推進しています。
───住民組織を中心にボランティアとして運用されていると仰っていましたが、ボランティアでスタッフを集めることには難しい点もあったと思います。
遠藤さん ボランティアドライバーの確保自体も難しいのですが、当市は高齢化率が高くなっているため、ドライバー自体の高齢化という問題もあります。ドライバーが高齢になってくると、また次のドライバーをボランティアで募集しなければならず、確保という面ではやはり難しさがあります。
グリーンスローモビリティはコミュニティ作りにも一役買っている
───先程、グリーンスローモビリティの運用に関して、コミュニティの再構築が進んでいるとのお話がありました。グリーンスローモビリティは、どのような形でコミュニティ作りに寄与しているのですか?
遠藤さん 震災前の平成17年に周辺の6町と合併をして現在の石巻市となりましたが、当時は各地区と市街地がある旧石巻市とで隔たりがあった印象があります。しかし、同時に市役所も統合されたことで職員の交流が進み、共通のイベントを組むなどしたことで住民間の交流も生まれて、新しい石巻市という大きな枠組みでの意識が醸成されていきました。
その後、平成23年に起きた震災で被災した方が仮設住宅に入ることとなるのですが、震災前の同じ地区の方で固まって仮設住宅に入るという形ではなかったため、コミュニティを一から作り直さねばなりませんでした。しかし、復興住宅が完成して再度移り住む際にまた新たなコミュニティを作らねばならず、とても大変な状況だったと思います。
現在は震災から10数年経ち、どんどん高齢化率が上がってきました。高齢者は行動範囲が狭くなったり、介護が必要になったりなど、コミュニティ作りを行う上での問題が出てきます。グリーンスローモビリティは、地域の方と一緒にお話しながら買い物に行っていただくなどの機会を創出し、コミュニティ作りにとても役立つ取り組みとなっています。
SDGsパートナーには名だたる大企業も
───SDGsの取り組みを行うにあたり、企業や団体とSDGsパートナーとして提携していると伺っていますが、こちらについて詳しくお聞かせいただけますか?
遠藤さん 「いしのまきSDGsパートナー制度」では、SDGsの推進に賛同する企業・団体・個人事業主をSDGsパートナーとして登録しています。そして、当市とSDGsパートナーが連携して、SDGsの普及啓発や目標の達成に向けた取り組みの推進を図ると定めました。本制度は、令和5年度から「いしのまき圏域SDGsパートナー制度」として、近隣の東松島市及び女川町とも連携し、圏域全体で推進しています。令和5年11月30日現在、SDGsパートナー数は726に上ります。
───SDGsパートナーと行った取り組みにはどのようなものがありますか?
遠藤さん SDGsパートナーと連携した取り組みとして、イオンモール石巻との共催で親子向けSDGsイベントである「SDGsフェス」を開催しました。また、一般社団法人「石巻海さくら」やJリーグの「ベガルタ仙台」と連携し、多くの住民の方にもご参加いただく形でビーチクリーン活動を令和5年度から実施しています。
───SDGsパートナーには、どういった企業や団体が登録されているのでしょうか。
遠藤さん SDGsパートナーは石巻市や周辺地域だけでなく、全国の企業に登録していただいています。三井住友海上火災保険株式会社や株式会社ソフトバンク、アサヒグループジャパン株式会社、花王グループカスタマーマーケティング株式会社、株式会社ファミリーマートといった大企業も名を連ね、もちろん地元の多くの企業や団体にも賛同してご登録いただいていますが、圏域外の企業の割合が8割以上となっています。
SDGsの理念に基づきATOMをSDGs広報大使に任命
───SDGsの普及啓発に関しての取り組みを教えてください。
遠藤さん 令和4年度まで実施していた自治体SDGsモデル事業のステークホルダーである、株式会社講談社と連携していたご縁で、コミュニケーションロボット「ATOM」を当市のSDGs広報大使に任命させていただきました。
ATOMはお年寄りから若者まで、幅広い年代の方々に認知されており、その点が、「誰1人取り残さない」というSDGsの理念の観点から適任であると考えたのがその理由です。学校にATOMのキャラクターが描かれた冊子を配布するなどしており、子ども世代でも認知度はかなり高くなっています。
冊子の配布や出前講座でSDGsを身近なものに
───日頃の生活の中でSDGsに触れる機会の少ないであろう高齢者にも認知されているのは、まさに適任ですね。他にも普及啓発に向けた取り組みはありますか?
遠藤さん 当市全体でSDGsを推進する取り組みとして、SDGsは身近なものであるという認識を持ってもらえるよう、市内の全世帯、各小中学校にマンガを活用した冊子を配布しました。他にも出前講座などを開催し、「既に皆さんが取り組んでいることがSDGsに繋がっている」ということを発信しています。
意識を高めてさらなる持続可能な取り組みへ
環境に優しい乗り物を使って高齢者の移動手段を確保するなど、誰1人取り残さない取り組みでSDGsに貢献している石巻市ですが、今後はどのような形でSDGsに取り組んでいくのでしょうか。ここでは、市民の意識に関する具体的なエピソードと今後の展望についてお聞きします。
市民や子どもたちにもSDGsの意識が根付いてきた
───石巻市のSDGsの取り組みにより、市民に意識が根付いてきたと感じたエピソードがあればお聞かせください。
遠藤さん 私が地元のスーパーに行った際、食品ロス削減につながる「てまえ取り」をお願いする表記がしてあり、地元でも意識の醸成が進んでいると感じました。
また、出前講座は5、6年生を主な対象として毎年行っていますが、スライドを見せながらSDGsの身近な取り組みを紹介するなどして、大変良い反響をいただいています。特定の学校だけではなく、賛同して手を挙げてくれる学校が増えてきたこともあり、広がりを感じています。
───SDGsが身近なものであるということが、子どもたちの意識に根付いて欲しいですね。
遠藤さん 私の子どもに、自身でどのようなSDGsの取り組みを行っているのか聞いたところ、トイレを使用した後に流す水を、全部「小」の方で流すようにしていると言っていました。子ども自身にも意識が浸透してきたことは、とても嬉しく感じています。
市民や近隣自治体と協力して持続可能な地域社会を実現していく
───SDGsに関連した、石巻市の今後の展望について教えてください。
遠藤さん 石巻市では、市の最上位計画である総合計画や各種個別計画に位置づけている各種政策を、SDGsの17のゴールと紐付けることで目標の達成を目指しています。しかし、目標達成のためには市民の皆さん一人ひとりの取り組みが欠かせないため、ご理解・ご協力をいただきながら持続可能なまちづくりを進めていきます。
また、昨年度から近隣の東松島市や女川町と連携し、いしのまき圏域としてSDGsを進める取り組みがスタートしました。二市一町が圏域としてのスケールメリットを活かしながら、SDGsの理念の普及と取り組みの推進を図ることで、地域課題の解決と持続可能な地域社会の実現につなげられるように取り組んでいきます。
SDGs認知度を上げてさらなる取り組みへ
───最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします。
遠藤さん 石巻市は令和2年にSDGs未来都市並びに自治体SDGsモデル事業に選定されました。しかしこれからは、普及啓発が中心であった取り組みを、実際の行動としての取り組みにシフトしていかなければなりません。
そして、2030年の目標達成を目指すには、皆さん一人ひとりの取り組みが非常に重要になるため、まずは身近なところからSDGsに取り組んでいただければと思っています。また、石巻市全体で8割超であるSDGsの認知度をさらに上げ、SDGsに積極的に取り組む市民をどんどん増やしていきたいです。
───本日は貴重なお話をありがとうございました。
震災に負けない強さで持続可能な未来へ
皆さんご存じの通り、石巻市は東日本大震災で甚大な被害を受けました。復興に向けて新たな一歩を踏み出しながら、その先の未来を考えてSDGsへ取り組んでおられる姿に感銘を受けました。また、その取り組み自体も誰1人取り残さないという思いが溢れた素晴らしいものです。市民やSDGsパートナーと手を取り合って持続可能な明るい未来を創ってくれることでしょう。今後も石巻市の取り組みに注目していきたいと思います。
石巻市の取り組みや名産品について詳しく知りたい方は、ぜひホームページを覗いてみてはいかがでしょうか。
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▼石巻市のSDGsについて、詳しくはこちら
SDGs(エスディージーズ)で未来を変えよう! – 石巻市
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