あきざくらのSDGs | 大切な着物を日傘にリメイク。想いをつなげるアップサイクルの取り組み
大切な想い出の詰まったお着物を丁寧に解いて、熟練の技術を持つ職人さんの手によって日傘や扇子へ生まれ変わらせるあきざくらにインタビュー。
アップサイクルの取り組みについて、代表の山村さんにお話を伺いました。
古くから日本人が日常的に行ってきた「再利用」の精神や取り組みのきっかけ、今後の展開まで、幅広く語っていただきました。
目次
日本文化を大切にし、海外に広めるあきざくら
着物アップサイクルブランド「あきざくら」はどのような取り組みを行っているのでしょうか。
まずは事業の内容やコンセプトを伺います。
眠った着物をアップサイクルする取り組み
——本日はよろしくお願いします。まずはご経歴について簡単にお伺いできますか。
山村さん 私は以前、ファミレスチェーンでのマネージャー業務や、全国展開の情報誌の企画営業を担当していました。
その後独立して、コンサルティングやコーチングなどの講師業に携わるようになりました。その中で、人々をサポートするよりも前線で走っているのが楽しいと気づいたんです。
ちょうどその時期に、今の日本の空気は殺伐としていて生きづらいなとも感じるようになりました。
そこで、だったら私が新しく事業を立ち上げて、日本人がもっと心温かく生きられる社会にしたいと思い立ち、「あきざくら」という着物のアップサイクルブランドを立ち上げて今に至ります。
リサイクルとの違いは、元の製品の「素材をそのまま生かす」こと。捨てられる予定のものを生まれ変わらせるだけではなく、新たな価値を与えられることや、製品の寿命を延ばせることがポイントです。
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アップサイクルとは?リサイクルやリメイクとの違いやアイデアを紹介
——あきざくらについてご紹介をお願いします。
山村さん 「あきざくら」の事業は現在、三本立てになっています。
一本目は、着物のアップサイクルブランドです。
現代の日本では、家のタンスにお着物を眠らせている方がとても多いんです。もう着る機会がないものの、捨てるに捨てられない。お母さまやおばあ様から譲り受けたものだから、大切にしたいから、というのが理由です。
そのようなお着物をお預かりして、日常で使うアイテム、特に日傘を中心に、扇子やバッグ、お洋服などにアップサイクルさせていただき、お客様にお渡しするという取り組みです。
二本目は、そのようなアップサイクル品の国内外への販売です。
お着物は、一本目でお話したアップサイクルされる方だけではなく、寄付としてもたくさんいただきます。
自分はもう着ないけれど、ただ売るのではなくて、価値ある活動を行う方に譲りたいという方が送ってくださいます。そのようなお着物を小物類にアップサイクルし、国内外で販売しています。
そして三本目が、海外の観光客向けの着物体験プログラムです。
寄付でいただいたお着物と、あきざくらでプロデュースしたアップサイクルの日傘を使い、海外の方が日本にいらっしゃったときにそれらを体験していただきます。
着付けだけではなく、着物を着て日傘を差しながら一緒に街を歩き、写真撮影をするというツアーコンテンツです。
調和を重視し【Re】の文化を広める
——ブランド名の由来を教えてください。
山村さん あきざくらは漢字で書くと秋に桜、つまり「秋桜(コスモス)」になります。コスモスの花言葉は「調和」です。
「調和」は、自分と相手、人間と自然、そして日本と他の国など、様々な関係性の調和を指します。このような調和を大切にすることで、社会はより生きやすくなるのではと思っています。
自然や、その中の資源は限りあるものですよね。その中でどうやってリサイクルやリユースを行っていくかというところが、これからの時代に大切だと思います。
「再利用」や「再生」などは、古くより日本人に伝わっていた生き方でした。この「再」は英語で「Re」になります。
そのような日本古来の調和の精神、【Re】の文化を日本や世界に広めていきたい、そんな想いを込めてあきざくらというブランド名をつけました。
取り組みのきっかけと反響
着物のリメイク、アップサイクルはどのように行っているのでしょうか。
三本立ての事業を順にお伺いします。
思い出に寄り添い、着物の華やかさで人々を笑顔に
——着物のアップサイクルを始めたきっかけを教えてください。
山村さん きっかけは「調和」を大切にしていた昔の日本に感銘を受けたことから始まりました。
先ほどもお話した通り、殺伐とした日本の雰囲気をどうにか温かくしたいと考えていまして。そこで、昔の日本は調和を大切にする、相手を思いやるということを普通にしていたのでは、と思い至りました。
じゃあ昔の日本に戻ったらいいと思い、お茶、お花、落語など、日本の伝統文化と呼ばれるものを色々体験しました。その最中でパーティーに行く機会があり、今度は着物を着てみようと思って、着物で参加したんです。七五三などで着たことはあったのですが、初めて自主的に着てみたんですね。
パーティー会場に到着した時、自分がいつもと違っていることに気づきました。何も意識しないでも、普段より丁寧な態度になっていたり、相手と大切に接したりするようになったんです。とても驚いて、着物には何か特別な力が、魔法がかかっているのだと実感しました。
——確かに着物を着ると背筋が伸びる心地がして、丁寧な振舞いになりますね。
山村さん はい。そこで、着物を通じて何かすることで、日本の調和の心がよみがえるのではないかと思うようになりました。着物を使ったビジネスを模索する中で、着物のアップサイクルに至ったんです。
着物というものは、もともとリサイクルを体現していました。何度も洗い貼りをして、一回ほどいて仕立て直したり、シミができた部分を目立たないところに変えてまた着たり。着物として着られなくなったら子どもの遊びや雑巾、下駄の鼻緒にするなど、いろいろな形で再利用されていたんです。
それを現代に合った形で活用できないかと考えて、あきざくらが始まりました。
——素敵な取り組みですね。お客様の反応を教えてください。
山村さん この事業を行っていると様々な反応をいただけて、心が温まる瞬間が何度もあります。
例えばあるお客様で、おばあ様のお着物で日傘を作らせていただいたことがあります。ご自身の結婚式の前撮りでその日傘を使いたいと仰ってくださり、結婚式でも日傘をお持ちいただきました。
「亡くなったおばあちゃんが一緒に参加してくれたような気持ちになった、一緒に歩いてくれているような気持ちになった」と、とても感動してくださったことがありました。
また、お客様から「日傘を差しているときに、周りの人が皆着物っていいなと思ってくれるといいな、あるいは通勤途中に自分がこの日傘を使うことで、皆が元気になってくれたらいいな」という感想をいただけたときには、本当に嬉しかったです。
私は常々、自分がただ日傘を作って楽しむだけではなくて、着物の美しさ、華やかさによって、周りの人の気分を明るくしたいと考えています。その想いがまさに形になったようでしたね。
傘職人さんによる丁寧な制作
——日傘の制作過程を教えてください。
山村さん まず、お客様に柄合わせのご希望をお伺いします。華やかにするのか、少し抑えめの雰囲気にするのかなど、ざっくりとした雰囲気も含めて伺います。
それから、お客様からお預かりしたお着物を私の方で解かせていただきます。
その後、一旦京都の加工場へと送り、撥水加工、撥油加工、黄変防止加工をさせていただいています。これらの加工を行うことで、日傘として長くお使いいただけます。
その加工が私に元に帰ってきたら、生地を東京の傘職人さんの元に持っていきます。お客様のご希望を傘職人さんに伝えながら、模様取りを決定し、制作して、完成品をお客様に納品という流れです。
——海外向けにはどのような商品が人気ですか?
山村さん 海外向けとしては、扇子が多く売れていますね。この扇子は京都の扇子職人さんに作っていただいており、私の方で着物生地から柄取りをしたものを扇子にしていただいています。
キャップも好評で、こちらも京都の帽子職人さんに一つずつ丁寧に作っていただいています。
海外の方から大好評。日本文化を体験する着物ツアー
——観光客向けの着物体験ツアーについて教えてください。
山村さん 海外の方々にとって、着物を使った傘は馴染みがないものです。アップサイクルの日傘をもっと使ってもらいたい、その良さを実感してもらいたいと考えて、そのためにはやはり一緒に着物を着てもらうのが良いと思いました。
そうして海外の方々に着物を着てもらい、日傘を体験してもらう着物ツアーを始めました。
この着物ツアーは海外のアクティビティのポータルサイトに3つほど掲載されています。世界中の人が閲覧可能なサイトで、午前と午後の部で予約を受け付けています。
ほぼ毎日のようにどちらかの部、あるいは両方が予約で埋まるほど大好評で、多くの方に体験していただいています。
所要時間は2時間半で、指定の時間枠から都合の合う時間を選択して予約いただく形になっています。
——参加された方のご感想はどのようなものでしょうか。
山村さん 皆さまとても喜んでくださいます。アメイジング!という感じで(笑)。
「日本に来たからには着物を着たい」という、ある程度日本文化に興味がある方が参加してくださるのですが、着物や日傘を選ぶ時点からとても楽しそうで、柄が可愛いと喜んでくださいます。
着物は男性用や子ども用も含めて約100着、浴衣は70~80着を用意しています。その中から自分のサイズに合ったものを選んでいただき、着せて差し上げるのですが、着付けの最中もソーキュート!と皆さまうきうきです。
着付けの間に「日本人はいつ着物を着るの?」「あなたは着物を着られるの?日本人はみんな自分で着られるの?」など様々な質問をいただくので、それに応える形で日本の文化をお伝えしていますね。
着物を着たら、日傘を差して近くの神社まで一緒に歩きます。
——一緒に行かれるのですね。着物が初めての方でも安心ですね。
山村さん 私はただ着物のビジネスをしたいわけではなくて、やはり海外の方に日本文化を知っていただきたい、体験してより好きになっていただきたいんですね。
着物のレンタルショップはたくさんありますが、多くは「着せたらさようなら、何時までに帰ってきてね」という形なんです。その点があきざくらの特徴ですね。
一緒に神社まで歩きながら、着物を着たときの正しい歩き方や、日本文化のお話をします。神社に着いたらお参りの仕方や「真ん中は神様の道だから歩いちゃダメだよ」などをお伝えして、それから写真撮影を行います。
ただ着物を着て可愛いというだけではなく、表面的ではないところもお伝えさせていただくことが、お客様に喜んでいただいている要因だと思います。
——寄付のお着物ならではのことはありますか?
山村さん 「あきざくらの着物は本物だね」と仰ってくださる方は多いですね。一般的な体験用の着物、観光客向けの着物というのは、ポリエステル製や薄い生地のものが多いのです。
あきざくらの着物はシルクですし、浴衣についても綿のものを使用するなど素材にこだわっています。着心地も全然違うので、気づいて言及してくださる方が多いです。
その際は必ず「これはドネーション、つまり寄付によって私のところに来てもらったものなので、だから良いものなんです」「新たに購入したものではなく、日本人がタンスで眠らせていた着物を、使う人がいれば寄付したいという想いから提供していただいて、だから本物の着物を体験していただけるのです」とご説明します。
すると、なるほどとご理解いただけます。そのようにご満足いただける点は寄付ならではですね。
アップサイクルならではの挑戦
現在に至るまで、どのような道のりがあったのでしょうか。
大変だったことやその理由について質問します。
大量生産が当然の時代に、着物の特徴に合わせて手作業で制作するということ
——これまでに大変だったことを教えてください。
山村さん 全て楽しみながら行っているのでつらさを感じたことはないですが、大変だったことを挙げるとすれば、立ち上げ当初の職人さん探しです。
あきざくらを立ち上げたときは、日傘をメインに取り扱う、着物のアップサイクルブランドでした。ですから職人さんに一本一本傘を作っていただく必要があるのですが、引き受けてくださるところが本当になかったのです。
やはり工場というのは大量生産が当たり前で、千本単位などの大きなロットで、同じものをたくさん作って生産性を上げることを求めているんですね。
あきざくらの場合は着物それぞれが異なるため、一つひとつを手作りする必要があります。お客様からお預かりしたお着物のどの部分をどのように使用するか、また生地も縦横斜めで伸び方が異なるのです。傘の骨に貼る際も「この部分はもう少し細めに切らなきゃいけないな」などの微調整で大変な手間がかかります。
——アップサイクルならではの手作業ですね。
山村さん はい。金銭的な問題ではなく、手間と特殊性がネックでした。工場を何件も訪れたのですが、引き受けていただけるところが本当に見つかりませんでしたね。
業界の方々はとても優しくて、「うちではできないけれど、ここならできるかも」とお知り合いの工場を紹介してくださいました。私の周囲にも傘職人さんの知り合いがいないか、いたら紹介してほしいと探し回りました。
その結果、現在の職人さんに出会えました。
日本古来の精神性がSDGsにつながる
ここまで、具体的な取り組みの内容をお話いただきました。ここからは、今後の展開についてお伺いします。
この記事を読んでいる皆さんへのメッセージもいただきました。
日本文化の普及と海外展開
——あきざくらの今後の展開を教えてください。
山村さん 着物の体験ツアーを始めた理由は二つありまして、一つは先ほどお話した、傘を多くの人に使ってほしいという理由です。
もう一つは、海外の方々に日本文化を知って好きになってもらうことで、日本人にもその素晴らしさを再認識してほしいという理由です。
日本の中にいると、日本文化は当たり前になっていて、ちょっと廃れているようなイメージを持っている方もいらっしゃると思います。
ですが、海外の方にアメイジング!ワンダフル!とお喜びいただくことで、その姿を見て日本人が「日本文化はすごいことなんだな」と気づくきっかけになるのではないでしょうか。
そのような理由があるため、あきざくらを始めた当初から海外展開を考えていました。現在はシンガポールを中心に展開していますが、さらに拡大していきたいと考えています。
この夏はフランスを訪れ、日本の着物や着物のアップサイクルについて多くの方に知ってもらう機会を作るための準備を行う予定です。アジアだけではなく、ヨーロッパに日本の着物文化、アップサイクルの着物を広めていきたいですね。
皆さんへのメッセージ
——最後に、メッセージをお願いします。
山村さん 日本には古くから、ものを大切にする考えが根付いていました。先ほどの着物の再利用もそうですし、有名なところですと金継ぎがありますよね。陶器が割れてしまったとき、ただ捨てるのではなく、接着してまた新たな命を吹き込み大切に使っていくという文化です。
八百万の神という言葉の通り、例えばコップにも、着物にもカーテンにも、神様や心が宿っている。そのような考えの中で生きてきたからこそ「ものも自分も相手も大切にする」「自然を敬い、大切にする」という精神性を本来持っているのです。
今はSDGsという海外から入ってきた言葉を聞いて、自分たちもやらなきゃとなっているのと思うのですが、もっと簡単なことではないでしょうか。日本人の本来の精神性を思い出して、行動に移せば、自ずとSDGsの達成につながるのだと思います。
自然と共に生きること、他者を思いやって生きていくことなど、昔大切にしていたことを今改めて皆さんに思い出していただき、大切にしていただきたいと思います。
——ありがとうございました!
着物のアップサイクルを通じて、世界を明るく元気に
着物のアップサイクルを通じて日本古来の精神性を体現するあきざくら。
その華やかさで人々を笑顔にする取り組みは「つくる責任 つかう責任」だけではなく、海外の方に伝統文化に触れていただくことで「住み続けられるまちづくりを」にもつながります。
アップサイクルの着物や日傘、扇子などの小物類、また着物ツアーに興味がある方は、ぜひ一度あきざくらのホームページも覗いてみてくださいね。
▼あきざくらのホームページはこちら
着物アップサイクル【あきざくら -AKIZAKURA-】
▼あきざくらのインスタグラムはこちら
instagram-akizakura.official
▼着物体験ツアーの詳細はこちら
japan.walking
▼着物体験ツアー『japan.walking』のインスタグラムはこちら
instagram-japan.walking
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。