上士幌町のSDGsは先進技術を駆使した人に優しいまちづくり
北海道のほぼ中央に位置する上士幌町は豊かな自然に囲まれた美しい町で、早くからSDGsに取り組んでいる町としても知られています。
今回は上士幌町ゼロカーボン推進課の木川さんに、上士幌町の特色やSDGsへのさまざまな取り組み、今後の展望やSDGsへの想いをお聞きしました。
目次
自然豊かな上士幌町は早くからSDGsに取り組んできた町
上士幌町はSDGsへの取り組みで有名な町ですが、いったいどのような特色のある町なのでしょうか。ここではまず上士幌町の特色、そしてSDGsに取り組むことになったきっかけや地方創生に関する取り組みなどについて聞いていきます。
上士幌町は酪農をはじめとした農業が盛んな自然豊かな町
───本日はよろしくお願いします。まずは、上士幌町の概要を教えてください。
木川さん 上士幌町ゼロカーボン推進課の木川と申します。
上士幌町は北海道の中央、十勝地方の最北部に位置しており、人口4,934人(2022年度)の小さな町です。
一方、牛の飼養頭数が人口の7倍以上にも及ぶほど酪農業をはじめとした農業が盛んな土地になっています。北海道の中央部にそびえる大雪山の東に位置していて、町の76%が森林地帯の自然豊かな町です。
───観光など、上士幌町の特色にはどのようなものがありますか?
木川さん 観光地では、日本一広い公共牧場であるナイタイ高原牧場や、最近メジャーになってきたタウシュベツ川橋梁があります。
タウシュベツ川橋梁は旧国鉄士幌線の線路跡の橋梁で、あえて保存活動をせずに朽ちていくのを見守るという形をとっており、ここ最近は崩落が進んでいる姿を見せています。
他にも三国峠という大樹海などがあります。こうした観光地を見ていただくと、自然豊かな町ということがお分かりいただけると思います。
「ゼロカーボン推進課」はSDGs全体の取り組みを行っている
───木川さんの所属されている「ゼロカーボン推進課」について教えていただけますか?
木川さん もともと上士幌町では企画財政課の1部門として、SDGs推進や地球温暖化対策への取り組みを進めてきました。そして、今後の脱炭素の取組に係る提案内容が評価され、2022年4月に環境省の第1回脱炭素先行地域に選定していただき、本格的にゼロカーボンの取り組みを推進することになりました。
その後、2022年7月にゼロカーボン推進課を新設して現在に至っています。現在は8名体制(非常勤含む)で業務を行っており、環境面だけではなく、SDGs全体の普及啓発や推進も行っています。
SDGsに取り組むきっかけは平成の大合併
───SDGsに取り組むようになったきっかけは、どのようなことだったのですか?
木川さん 上士幌町は現在、SDGsの三側面といわれる経済・社会・環境を調和させた、持続可能なまちづくりを進めているのですが、もともとは平成の大合併がきっかけです。
当時、上士幌町も隣町などとの合併の検討は行ったのですが、最終的には自立していくことを選択しました。しかし、少子高齢化による人口減少は上士幌町でも課題であり、独立して町を存続させていくために、今のSDGsに近い様々な取組を進めてきました。また、ふるさと納税に注力するなどして財源を確保してきました。
その後、民間のシンクタンクが発表した「消滅可能性都市」にもリストアップされたこともあり、地方創生の取り組みをSDGsという言葉が普及する前から行ってきました。例えば2015年から2019年にかけての第1期地方創生では、1番に子育て・教育・文化、2番に移住・定住・交流、3番に医療・福祉・安心と定めて取り組みました。
SDGsという概念を意識して当初は取り組んできたわけではなく、さまざまな取り組みが結果的にSDGsにつながったと考えています。
第1期地方創生で他の自治体に先駆けた取り組みを行った
───第1期地方創生では、具体的にはどのような施策が行われたのですか?
木川さん 第1期地方創生では、まず認定こども園を無料にする施策を行いました。こうした施策は、今でこそ他の町でも行われていますが、上士幌町では他の自治体に先立ち取り組んできました。
また、高校世代までの医療費の無料化や、生活体験住宅を用意するなど移住や定住の促進、ふるさと納税の寄付者との東京での交流会、賃貸住宅の建設費補助制度などで、民間の雇用創出などを行いました。
───認定こども園の無料化、高校世代までの医療費の無料化は、町民の方からするととても助かる施策ですね。他にも取り組まれたことはありますか?
木川さん 第3セクターを設立し、「だれもが生涯活躍できるまちづくり」という上士幌町のテーマの1つにも取り組みました。まちづくり会社として「(株)生涯活躍のまち かみしほろ」、地域が稼ぐ力を発揮するために「(株)karch」を設立しています。
また、上士幌町のこれまでのさまざまな取り組みがどのような評価を受けるかという観点から、2020年に開催された第4回SDGsアワードに応募しましたところ、内閣官房長官賞を受賞することができました。この受賞をきっかけにSDGsを軸としたまちづくりを本格的に進めていくことになりました。
第2期地方創生ではSDGsを意識したまちづくりをしている
───第1期地方創生が2019年までということでしたが、その後2020年からはどのような取り組みをされているのでしょうか。
木川さん 2020年から2024年の第2期地方創生では、第1期とは違いSDGsを意識したまちづくりに取り組んでいます。
2021年5月には「SDGs未来都市」に選定され、「自治体SDGsモデル事業」にも選定されました。
第2期地方創生は5つの柱から成り立っています。
上の図の通り、01は第1期でも取り組んでいた、「だれもが生涯活躍できるまちづくり」を、02が「環境と調和した農業やエネルギーの地産地消」などになっています。そして03は「地域が稼ぐ力の発揮・地域経営」、04が「人の都市・地方循環による地域活性化」で、05が「次世代高度技術の実装によるスマートタウン実現」です。
この01から05の取り組みを有機的につなげて、現在まちづくりを行っているところです。
私達の考えとして、新たにSDGsの取り組みを作るよりも、今まで行ってきた取り組みにSDGsの視点を取り入れることで深度化させ、町の価値を高めていこうというものがあります。上士幌町の価値を高めつつ、周辺の町、北海道、日本、世界へとつながっていければと思っています。
SDGsの3側面のためのさまざまな取組をしている
平成の大合併をきっかけにSDGsにつながる取り組みを始めた上士幌町ですが、具体的にはどのような取り組みを行っているのでしょうか。ここでは、上士幌町が行っているSDGsの3側面に関した取り組みについて、それぞれ詳しく聞いていきます。
経済面での取り組みは関係人口や交流機会の創出のため
───経済・社会・環境を調和させた持続可能なまちづくりをしているとのお話でしたが、こちらについて詳しくお聞かせください。
木川さん 経済、社会、環境面からなるSDGsの3側面では、ストックホルムのレジリエントセンターが提唱しているSDGsウェディングケーキモデルを重視して取り組んでいます。また、役場内にSDGs推進本部を立ち上げ、本町のSDGsに関連する取り組み状況の確認や連携などを行っています。
───経済面ではどのような取り組みを行っていますか?
木川さん 経済面では、都市部から人を呼び込んで関係人口を創出していくために、郊外の町ではなかなか見かけないようなシェアオフィスを開設しています。年間契約も可能で、今は10社を超える企業にご契約いただいています。
また、「縁(エン)ハンスプロジェクト」という取り組みも行っています。
エンハンスという言葉には「強化させる」「向上させる」という意味合いがあり、「ご縁」の「縁」とかけている言葉です。町内の事業者だけでは解決できないような課題に対して、協力可能な都市部の人材に来ていただく、ビジネスマッチングプロジェクトです。
例えば、町内にあるはちみつ農家と都市部の化粧品会社が手を結んではちみつを利用した化粧品を開発するなど、新たなつながりが生まれている取り組みです。
さらに、企業滞在型交流施設ということで、シェアオフィスの仕事の場としての機能に宿泊機能を追加した、1棟貸しの施設である「にっぽうの家」を開設しています。ワーケーションや2拠点居住でご利用いただき、交流機会の創出にもつながればと思っています。
───たしかに、シェアオフィスは都会の街中にあるイメージですが、需要は大きいですよね。他にも経済面の取り組みはありますか?
木川さん 「MY MICHIプロジェクト」では、「おとなの体験留学」をコンセプトに、1か月上士幌町で過ごし、町民と関わりながら、自分自身の可能性を見つけていただくという取り組みを行っており、「ハレタ」という建物の2階で共同生活を送っていただきます。2023年10月から始まる第10期では7名の方が来られています。
また、上士幌町版のハローワークとも言える「上士幌町無料職業紹介所」も運営しています。
1番近いハローワークは帯広市にあるのですが、40キロほど離れており遠く、上士幌町の求人も少ない状況でした。そのため、本町の求人を集約して紹介する「まちのハローワーク」を開設しました。
「まちジョブハレタ」は、仕事とまではいかないけれど、例えば草むしりや日本語レッスンなど、ちょっとした仕事や困りごとがある人と、空き時間や得意ごとを持った人をマッチングさせる取り組みです。
自動運転バスの運行を社会面の取り組みとして行っている
───社会面では、どのような取り組みをされていますか?
木川さん 社会面における取り組みでは、「MaaSプロジェクト」、例えば自動運転バスの取り組みを行っています。冬の上士幌町は、市街地は雪はそこまで降らないのですが、路面の凍結はかなりあります。そうした点も留意した形の運行実証を2019年から重ねています。2022年8月には国土交通省の調査事業に採択されました。補助率10/10の事業で、車両の購入等を行い、同年12月から町内巡回の自動運転バスの定期運行をしています。2023年9月には、引き続き調査事業に採択していただいています。
また、農村部に住んでいる高齢者で希望される方にはタブレットを配布し、予約があった時にバスが出向いて運行するという取り組みも行っています。こちらは自宅からタブレットで簡単にバスの予約ができる便利なサービスであるとともに、もともとは定時定路線で運行していた農村部のバスの運行コストやCO2排出量の削減にも資するものです。
───バスの自動運転はすごいですね。完全に自動運転なのですか?
木川さん 基本的には自動運転ですが、車両が駐車していたり、何か障害があったりといった細かなところは、現在はゲーム機のコントローラーのようなものでオペレーターが操作しています。今後は、完全自動運転やルートの拡充に向け、実証を進めています。
ドローン活用で夜間の山岳救助や配送代行が可能に
───他にも社会面の取り組みがあればお聞かせください。
木川さん ドローンの活用も進めています。民間会社と連携し、山岳遭難救助コンテストなどで実証を重ね、2021年4月に一般社団法人「Japan Innovation Challenge」が設立、5月より「NIGHT HAWKS」という夜間捜索支援サービスの提供を開始しています。山岳での遭難では、夜になるとどうしても捜索を打ち切らねばならない場合が多いですが、ドローンであれば、夜間でも赤外線などを活用した捜索活動が可能です。
また遭難救助だけではなく、観光商品開発のデモ飛行支援や日本初の買い物代行配送、世界初の牛の受精卵の配送の実証も行っています。農村部では「1kmに1軒」など農家が点在しており、トラックによる陸送では輸送効率も悪く、CO2を多く排出します。市街地は陸送、農村部はドローンの空送などとミックスすることで物流の最適化を目指します。ドローンによる農村部への新聞の配送も先日開始しました。
また、ドローンを町の方にも楽しんでもらうために、ドローンショーも開催しました。
フードデリバリーやスマートストアも行っている
───ドローンを活用することで、そこまで暮らしが便利になるのですね。
木川さん 自動運転バスやドローンを活用した取り組みは、上士幌町以外の自治体でも行っているところがあります。このような新スマート物流の社会実装による豊かな地域社会づくりを推進していくため、「全国新スマート物流推進協議会」という協議会が立ち上がっています。
協議会は本町の町長が会長になっており、ほか福井県敦賀市、茨城県境町、北海道東川町や民間企業などが構成員となっています。
また、上士幌町には大手のフードデリバリーサービスはありませんが、民間企業により町内の人気店舗のフードを自宅や勤務先に届けてくれる「かみしほろEATS」という独自のサービスも展開しています。
郊外の町では珍しい、無人店舗であるスマートストア「かみしほろマルシェ」も、朝の6時から深夜2時まで営業しています。
こちらも民間との連携で、例えば道の駅は夕方には閉まってしまいますが、それ以降の時間帯にも観光客の方が買い物できるように特産品を置くなどしたりするなど、町内にある大手コンビニなどとも差別化を行っています。
また、今はホテルのサイトなどでもAIのチャットボットが導入されているところが多いですが、上士幌町でも夜間や土日の対応などの目的で、チャットボットを導入しています。
環境面で行っているのは牛のふん尿から電気を作る取り組み
───環境面の取り組みにはどのようなものがありますか?
木川さん 環境面での取り組みは、上士幌町が特に注力している分野です。取り組みの1つに資源循環型農業とバイオガス発電の地産地消があり、これはSDGsに本格的に取り組む前から行っていたものです。
上士幌町には大規模な酪農事業者も多く、事業拡大による牛の増頭増産に伴い、増加するふん尿の適正処理が課題になっていました。
そこで、農協や農家等の町内関係者で組織された「上士幌町農業再生協議会」で調査研究を行い、ふん尿を活用して電力を生み出す、バイオガスプラントの整備に着手しました。
現在町内には、6か所7基のプラントが整備されており、合計で年間2,270kwの発電能力を有しています。
現在、「株式会社上士幌町資源循環センター」と「有限会社ドリームヒル」が計6基の運営を行っており、残りの一基は上士幌町が整備し、上士幌町資源循環センターに運営や管理を委託しています。
───牛のふん尿から電気が作れるのは驚きです。資源循環型農業とは、具体的にはどのような形で行われるのですか?
木川さん まず、家畜のふん尿を集めてメタン発酵槽に投入します。投入されたふん尿は40℃で40日間ゆっくり発酵させるとバイオガスが発生し、ガスエンジンを回すことで電力に変えるという形です。作られた電力はいったん売電されますが、それを買い戻し、地域商社「(株)karch」が運営する「かみしほろ電力」が町内に供給するという形で電力の地産地消を進めています。
発電に使われたふん尿は、固体や液体という形で残ってしまうのですが、固体については牛の寝わらとして再利用が可能で、においの問題についても、40℃で40日間ゆっくり発酵させるとほぼなくなります。
また、液体は液肥貯留槽に貯められ、牛が食べるトウモロコシの畑や牧草地などに散布されます。散布された畑で作られた草やトウモロコシを牛が食べて、またふん尿をするというサイクルが資源循環型農業の流れです。プラントでは、町内で発生する牛のふん尿の約半分を処理しています。
───作られた電気はどのような形で町内に供給されているのですか?
木川さん 作られた電気は、基本的に北海道電力に一旦売られた後、連携先の北海道ガスが買い戻し、受給調整を行っています。そこから、かみしほろ電力に卸し町内に供給するという形になっています。
脱炭素先行地域に選定されたことで多額の補助金が可能に
───第1回「脱炭素先行地域」に選定されたというお話を伺いました。
木川さん 環境省の第1回脱炭素先行地域には、全国79地域の応募の中から26地域が選定されています。北海道では上士幌町のほか、隣町の鹿追町や札幌市の北隣にある石狩市が選定されています。この第1回脱炭素先行地域で、「町内全域」を脱炭素の取り組み対象地域としたのは上士幌町が唯一と聞いています。
───脱炭素先行地域に選定されたことで、どのようなメリットがありましたか?
木川さん 各市町村で太陽光発電の導入補助金はあるかと思いますが、上士幌町では脱炭素先行地域に選ばれたことで、環境省から支援いただける上限50億円の補助金を活用しており、一般住宅で最大300万円、事業所・工場などで最大3000万円という、他自治体と比べると大きな支援が受けられる制度です。
このような金額を支援している自治体は数少ないと思います。ただ、太陽光発電は3分の1、蓄電池などは4分の1の自己負担金は発生します。しかし自己負担額についても、「太陽光等導入資金貸付制度」という地元金融機関と協力した無利子の融資制度の利用が可能です。
一般住宅のみにはなりますが、利子分については上士幌町で負担しており、最大150万円の貸付を無利子で受けられます。
───これだけ手厚い支援が受けられるなら、太陽光発電を導入される方が多いのではないですか?
木川さん 太陽光発電の導入支援はとても好評で、2023年度については6月に申請受付を開始したのですが、3日で予算に達してしまい受付停止になったほどです。
第2回目は7月末に予算が確保できたため申請受付を行いましたが、ここでもやはり抽選から漏れてしまった方がいたので、現在、第3回目に向けて財源確保の調整を環境省と行っています。
また、太陽光発電設備を設置される方、すでに設置されている方がかみしほろ電力と契約した場合、商品券10万円分を進呈するなど、再生可能エネルギーの普及促進に向けて取り組みを進めています。
───他にも脱炭素に関して補助金が受けられる制度はありますか?
木川さん 「ZEH(ゼッチ)」という、環境に配慮した一定以上の基準を満たした住宅やビルに使われるワードがあるのですが、上士幌町ではZEHと「北方型住宅2020」という基準を組み合わせた独自の基準を設定しています。基準を満たした新築住宅では150万円の助成金が支給されます。
既存の助成制度と組み合わせることも可能で、例えば子ども2人の家庭が基準を満たした家を新築すると、最大700万円が助成されるなど、非常に手厚い支援が受けられる制度です。
また、電動生ごみ処理機やコンポスター(生ごみ堆肥化容器)の導入補助も進めています。80パーセントが水分で構成され、重量がある生ごみを極力減らすための施策として、こちらも課税世帯では5分の4というかなり高額の補助額になっています。
普及啓発や外部・企業とのつながりを大切にしている
さまざまな側面からSDGsを軸とした取り組みを進める上士幌町ですが、さらに多くの取り組みがあるようです。ここでは、「プロジェクトチーム」での取り組みや普及啓発活動、外部や企業とのつながりについて聞いていきます。
「プロジェクトチーム」での取り組みは普及啓発活動
───SDGsに関する取り組みには、他にはどのようなものがありますか?
木川さん 2021年に発足した「SDGs推進プロジェクトチーム」では、町内の若者たちをメンバーとして、上士幌町を舞台にしたボードゲームを制作し、町の課題と解決策をボードゲームで楽しく知ってもらう取り組みを行いました。2022年度からは、環境面の取り組み検討に特化した「ゼロカーボン推進プロジェクトチーム」に形を変え、町内の若者たちで引き続き各種取り組みの検討を続けています。
また、SDGsに関する動画やツアーの作成、出前授業を通して普及啓発活動にも注力しています。中でも出前授業には力を入れていて、町の皆さんにSDGsを知ってもらうために小学校や中学校、高校、認定子ども園、高齢者サークル、商工会、町職員・議員など至るところで行っている取り組みです。
特に、小学5年生においては、2021年から年間30時間のSDGs授業を実施しており、座学だけではなくバイオガスプラントの見学や自動運転バスの試乗などの現地授業も交えつつ、楽しくSDGsを学ぶことができる取り組みを行っています。
熱気球大会で脱炭素の取り組みが行われた
───子どものうちからSDGsに触れるのは大切なことですね。他にも取り組みはありますか?
木川さん 上士幌町は熱気球が非常に有名で、1974年に日本で初めて熱気球大会が開催された町です。
50回目の節目の年にあたる2023年8月の大会では、気球などから排出されるCO2を相殺するカーボン・オフセットを行ったり、竹繊維のスプーンやフォーク、箸のセットを来場者に無料配布したりといった脱炭素の取り組みを行いました。
役場の職員に向けても啓発活動をしている
───CO2排出を完全に抑えるのは難しいですし、カーボン・オフセットの考え方も大切ですね。
木川さん 他にも、町民に「自分ごと」としてSDGsを捉えてもらうには、役場の職員が率先して行動しなければならないという考えから、SDGsバッジの装着といった意識醸成や、広報誌はSDGsのゴールを必ず設定して記事を提出、また、毎週金曜日は役場独自で「ノーカーDAYかみしほろ」を設定し、職員への徒歩・自転車通勤を促しています。
上士幌町役場は、市街地にありながら車通勤の人が多いのですが、コンパクトな町でもあるので歩いても出勤できる方が大半です。そういう職員に向けて、ぜひ自転車や徒歩で出勤しましょうという啓発を実施しています。
外部への発信や啓発活動の実績が豊富
───外部への発信や普及啓発に関しては、どのような取り組みが行われてきましたか?
木川さん 特に脱炭素先行地域に選定されて以降、マスコミなどで400回以上も上士幌町の取り組みを紹介いただいています。また、視察受け入れや講演などの普及啓発も積極的に行っており、菅元内閣総理大臣をはじめとした全国の自治体・団体の視察、大阪・関西万博のプレフォーラムによる町長の講演等、積極的に活動しています。
他にも、「世界気候エネルギー首長誓約」にも2022年6月に署名をしています。また、2023年10月末には、上士幌町を舞台に、気候変動をテーマとした世界気候エネルギー首長誓約の国際ワークショップが開催され、国内外の関係者が一堂に会する場となります。
また、韓国で行われた「GCoM(世界気候エネルギー首長誓約)アジア地域会議」でも上士幌町の取り組みを紹介、「サンパウロ日本祭り」という世界最大といわれる日系のお祭りでも外務省を通じて取り組みの紹介を行っています。
参照:世界首長誓約/日本 世界気候エネルギー首長誓約について
───さまざまな発信の実績があるのですね。企業版ふるさと納税についても拝見しました。
木川さん 上士幌町の取り組みに賛同いただいた多くの企業に、企業版ふるさと納税による寄付を行っていただいており、まちづくりの大きな力となっています。
また、三菱UFJ銀行(MUFG)の企画「北海道推しごとオーディション」にも応募を行い、上士幌町を含め予選を勝ち抜いた北海道内6市町の投票が行われました。
Z世代に向けてそれぞれの自治体の取り組みをラブストーリー仕立てでTikTokにアップし、「いいね」や「コメント数」などの反応により寄付額を決めるという面白い取り組みであり、こちらも大きなご支援をいただきました。
未来につなぐ持続可能なまちづくりのために多くの施策を準備
様々な取り組みで先端技術を駆使し、人にやさしいまちづくりを行う上士幌町ですが、今後についてはどのように考えているのでしょうか。ここでは、上士幌町の今後の展望やSDGsへの想いについてお聞きします。
環境に配慮した役場庁舎の改修や「公共施設マイクログリッド構築」が進行中
───今後取り組んでいきたいことを教えてください。
木川さん まず、役場庁舎の改修に関してです。庁舎の老朽化や耐震の問題から、完全新築にするという案もありました。しかし、解体時に大量のCO2が排出されるため、大学の教授なども交えつつ協議した結果、一部減築・一部新築することに決まり、環境に配慮した改修を進めているところです。
また、「公共施設マイクログリッド構築」という取り組みも現在行っています。
2018年9月に起きた胆振東部地震では北海道全体が数日間ブラックアウトし、発電機がない避難所は、夜は真っ暗で何もできないという状況に陥りました。
そうした事態を打開するために、停電時でも自己で電力が供給できるネットワークの構想が上がりました。本町では防災拠点として、役場庁舎をはじめ、周辺にある「認定こども園」や「ふれあいプラザ」、「スポーツセンター」「交通ターミナル」で、停電時にも電力が供給できるというシステムの構築を目指しています。
太陽光発電や蓄電池を設置することで、再生可能エネルギーによる自前の電力の供給網を構築し、レジリエンスの強化を図ることを検討しています。
温泉のお湯の有効活用を検討中
───停電時に電気が使える施設が複数あるのは心強いですね。他にも検討していることはありますか?
木川さん 未利用エネルギーの活用を検討しています。
上士幌町には「ぬかびら源泉郷」という各宿源泉かけ流しの温泉街があります。歓楽的要素を廃した、本当に静かな温泉街です。しかし、源泉かけ流しということはお湯がそのまま捨てられているということですので、何かに利用できないだろうかと検討しています。
温泉街の施設や住民を対象とした未利用エネルギー活用勉強会を開催したり、そのほかにも町全体で、生ごみなどの有効利用を検討したりもしています。
食品残渣の有効利用や水平リサイクルにも取り組んでいる
───たしかにかけ流し温泉はそのまま捨てられてしまっていますね。このお湯が有効利用できれば、かなり有益な取り組みになりそうです。
木川さん また、現在はお隣の士幌町と共同でごみ処理を行っていますが、帯広のごみ処理場を新しく建て替えて十勝全体のごみを集積する計画が進んでいます。しかし帯広までは50kmほどあるので、ごみの運搬にはトラックからのCO2排出が問題になりますし、生ごみも約80%は水分です。ですので、できるだけ自分たちの町で処理できるよう食品残渣を何かに活用できないかと考えて取り組んでいます。
他には、ボトルtoボトルの取り組みを行うために、北海道コカ・コーラボトリングと協定を締結しました。ペットボトルは裁断されて、主に服やペンの繊維商品などにリサイクルされていますが、もう1度ペットボトルに再生する「水平リサイクル」にこれから取り組んでいくところです。
ポイント制度でSDGsを身近なものに
───SDGsへの貢献を「見える化」する取り組みを考えていると伺いました。こちらの取り組みについてお聞かせください。
木川さん 先ほども話題に出てきた、2022年より開始した「ゼロカーボン推進プロジェクトチーム」において、2022年度は環境をはじめSDGsに資する行動に応じて付与するポイント制度構築に向けての検討を行っています。
10代から30代の若い世代がメンバーとなり、グラフィックレコーディング(議論内容などを絵や図でリアルタイムにまとめる手法)なども取り入れながらワークショップ形式で楽しく検討しています。
また、小中学生や高校生にも、どのような行動にSDGsポイントが付与されるのが良いのかというウェブアンケートも行っており、プロジェクトチームとアンケートを合わせると、全体で330件ものアイデアが集まりました。これを今選別し、実現可能性に向けて検討しているところです。
───具体的なポイントがもらえる行動には、どのような案がありますか?
木川さん あくまでもまだ検討中ですが、地域の清掃活動への参加やレンタサイクルの利用、給食を残さないことなど、SDGsや環境に資する行動をしていただいたらポイントを付与して、町内で使えるようにしていこうと考えています。
すでに行っていることがSDGsや脱炭素につながっているという意識があまりない方もいらっしゃるので、意識の変化や行動の変化、自発的な取り組みを促して、さらに普及させていくことを目指します。
「SDGs未来都市ワーキンググループ」は町民の意見を募るため
───身近なことでポイントがもらえるのは嬉しいですね。他にもSDGsに関して行っていきたい取り組みはありますか?
木川さん 2021年度に制定したSDGs未来都市計画は、3か年計画なので今年度で終了になります。2024年度以降も第2期として計画を立てているところです。
現在の第1期では、町民の皆さんの意見を伺う機会がなかったので、第2期では町民の皆さんからも意見をいただくために、プロジェクトチームとは別に、町内の様々な世代や団体の方、元議員の方、商工会の方、外国人の方、移住者の方々で構成された「SDGs未来都市ワーキンググループ」を立ち上げました。
ワーキンググループの1つ目の目的である「未来都市計画の各段階案に対する意見」にプラスして、2つ目の目的として「コミュニケーション・世代間交流の醸成」をワークショップ形式で行っています。こちらは、計画の促進として効果的な町民参加型の活動を考えるもので、現在第2回まで開催されているところです。
SDGsマスター制度で活動の輪の拡大も
───やはり、町民の皆さんからの意見は大切ですよね。
木川さん 他にも町民向けのSDGsマスター制度を開始予定です。役場だけでは町内の普及活動のペースに限界がありますので、町民の皆さんにマスターになってもらい、ゼロカーボンをはじめとしたSDGsに資する活動の輪を広げていくという取り組みです。
これは、先ほども出てきた「ゼロカーボン推進プロジェクトチーム」の2023年度の検討内容として現在構築を進めています。2022年度よりも人数を絞り少人数でいろいろな意見を出し合うという形で開催しています。
SDGsを「自分ごと」として取り組むための環境を整えていきたい
───SDGsへの想いをお聞かせください。
木川さん 今まで町としてさまざまな取り組みを行ってきましたが、実は、「町民が置いていかれている」という声もあります。やはり町民の皆さんも一体となって「自分ごと」として考えていただき、町全体でSDGsに取り組むことが重要だと考えています。
町民の皆さんにもSDGsや環境への意識を持っていただけるように普及啓発や働きかけをさらに積極的に行っていきたいと考えます。
2022年に実施した町民アンケートでは、SDGsの認知度は全体で91.6%という結果が出ました。全国平均79.8%、北海道平均66%と比べると非常に高くなっていますが、今後は実際に行動に移していく方々を増やしていくことが課題であると思っています。
ポイント制度やマスター制度、未来都市計画などで仕組みを作り、環境を整えていきたいです。
これからも良い事例となるべくSDGsに貢献していく
───最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします。
木川さん 上士幌町は北海道の郊外にある小さな町で、酪農や農業、観光が基幹産業ですが、全国にもこのような同規模の自治体は数多くあります。
上士幌町の特色をフルに生かした取り組みを、他の町にも波及していき良い事例となるように、今後もステークホルダーと連携しつつSDGsを軸とした持続可能なまちづくりを進めてまいります。
───本日は貴重なお話をありがとうございました。
上士幌町はSDGsと未来を牽引していく
上士幌町はSDGsへの取り組みが有名ですが、実際にお話を伺うことでその取り組みの多様さや内容の素晴らしさを改めて実感しました。今後についても本当にさまざまな取り組みを計画されています。地方の自治体を引っ張っていくような活躍を期待したいと思います。
上士幌町の町や取り組みに興味がある方は、ぜひ1度ホームページを覗いてみてはいかがでしょうか。
▼上士幌町のホームページはこちら
北海道 上士幌町-未来につなぐ 笑顔かがやく 元気まち上士幌
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。