環境問題の現状と原因|6つの種類と発生理由、私たちにできること

環境問題は、国境を超えた世界共通の課題であり、地球温暖化、気候変動、大気汚染や環境破壊は、地球上のすべての人々に影響を与えます。
SDGs(持続可能な開発目標)においても多くの項目で地球環境について問題提起されています。2021年の気候変動に関する政府間パネルの報告書について、グテーレス国連事務総長は「人類に対する厳戒警報」と強い言葉で評しました。
国や地域を超えて環境保護に向けた取り組みを行い、SDGsの達成に向けた国際的な連携と共同努力が求められています。
本記事では、環境問題と解決に向けた取り組みについて紹介します。
目次
環境問題とは?発生理由と種類をそれぞれ解説
1962年に世界で初めて環境問題を提起したレイチェル・カーソンの著書「沈黙の春」が出版されました。日本でも1967年に、環境問題に関する初の法律である「公害対策基本法」が制定され、環境問題への取り組みが始まりました。(注1)
環境問題には、大気汚染、水質汚染、森林破壊、オゾン層の破壊、地球温暖化、気候変動などがあります。
環境問題の原因の大部分は私たち人間の生活を豊かにするために起こっていますが、結果として、将来の私たちの生活を崩壊させる可能性があるのです。
現在、私たちの生活のために地球が供給できる資源量を上回る勢いで資源を使い、さらに人口も爆発的に増加しており資源と食料の確保が懸念されています。
そのため、環境問題を解決し、自然環境を守ることで、持続可能な資源と食料の確保が急がれているのです。
(注1)参考:独立行政法人環境再生保全機構 公害対策基本法の成立(1967年)
大気汚染の原因と現状
大気汚染は、大気中に存在する有害な物質や汚染物質の増加によって引き起こされる環境問題です。これらの物質は、産業活動、交通機関、発電所などからの排出、農業の害虫駆除剤や家庭での調理による排ガスなどさまざまな要因で起こります。
大気汚染にはいくつかの種類があります。一つは大気中の微小粒子であるPM2.5やPM10による粒子状汚染です。これらの微小粒子は呼吸器系や心血管系に影響を及ぼし、健康問題を引き起こす可能性があります。
また、二酸化硫黄(SO2)、窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOCs)などの有害ガスの排出による酸性化や光化学スモッグの形成も大気汚染の一因です。(注1)
現在の大気汚染の現状は、地域によって異なりますが、都市部や工業地帯では特に深刻です。大気汚染は人々の健康や環境に深刻な影響を及ぼし、呼吸器疾患、心血管疾患、アレルギー反応、植物や動物への影響などを引き起こすことがあります。(注2)
そのため、多くの国や地域が大気汚染対策に取り組んでおり、大気汚染物質の排出規制や環境基準の強化、クリーンエネルギーの推進などが行われています。
しかし、WHOによると2019年には世界の99%の人がWHOの大気品質のガイドラインを達成していない場所で生活しており、2022年には大気汚染が原因で死亡した人が670万人にもなると発表されました。(注3)
特に開発途上国や新興国などでは、ゴミの処理施設などが足りておらず、そのまま焼却することで大気汚染物質が発生するなど、深刻な問題となっているのが現状です。
(注1)参考:環境省 大気汚染に係わる環境基準
(注2)参考:独立行政法人 環境再生保全機構
(注3)参考:公益社団法人 日本WHO協会
水質汚染の原因と現状
水質汚染の主な原因は、工業、農業からの排水、また、汚染された雨水が直接河川や海に流入することで引き起こされます。
特に地下水への流出は長期に渡って影響を及ぼし、私たちが口にする農作物にも影響を与えてしまいます。
開発途上国や新興国では、下水処理施設などが整備されていない地域も多く、安全な飲料水を確保できない人々が世界中に16億人もいるのです。
2015年には、世界で汚染された水が原因とされる下痢症、赤痢、コレラなどで約50万人が死亡したとされています。(注1)
主な排水の種類は以下の通りです。
<工業排水>
工場や製造施設からの廃水や、有害物質の排出は水質汚染の主な原因の一つです。有害物質や化学物質が排水中に含まれ、河川や海に放出されることで生態系へ悪影響を及ぼします。日本では、工場排水の処理を適正化するため昭和45年に水質汚濁防止法が制定されています。(注2)
<農業排水>
農薬や化学肥料、畜産施設からの排泄物が水質汚染の要因となります。これらの物質が雨などにより水域に流入し、水中の酸素濃度の低下や水生生物の生息条件の悪化を引き起こすことにつながるのです。(注3)
<生活排水>
日本での排水量は一人一日当たり約250リットルであり、このうち、トイレの排水を除いたものを生活雑排水といいます。生活排水の約70%が生活雑排水が占め、台所から出る汚れは生活雑排水全体の約40%と最も多くなっています。それらはすべて側溝や下水管などを通って、処理され海や川へと流れていくのです。(注3)
また、生活排水に多く含まれる窒素やリンが河川や海へ流入し増えすぎると、富栄養化の原因となり植物プランクトンが増え、その結果アオコや植物プランクトンの死骸などによって更に水質汚染が進行するのです。(注4)
(注1)参考:国際協力機構(JICA)汚水処理の途上国における開発課題
(注2)参考:環境省 水質汚濁防止法関係資料
(注3)参考:環境省 生活排水読本
(注4)参考:国立研究開発法人 国立環境研究所 富栄養化対策
森林破壊の現状
森林面積は陸地の約3分の1を占め、陸上生物の半分以上が生息し、世界の淡水の75%を生み出しています。
また、森林は人間が排出する二酸化炭素の7倍の量を貯留し、一年で1.8ギガトンもの二酸化炭素を吸収しているのです。
しかし、人間による開発行為や資源確保のための農業や畜産業、大規模な火災などによって多くの森林が消失しています。2004年から2017年の間に失われた森林面積は、モロッコの国土面積にも匹敵する4,300万ヘクタール以上にもなるのです。
特に、熱帯地域と亜熱帯地域は消失した森林面積の3分の2を占めており、消失による森林の分断も深刻な問題となっています。
森林が分断されると、野生動物の生息地が分断されることから生物多様性の消失にもつながるのです。
森林を守るために保護区や保全地域の設定など、国や地域ごとにさまざまな取り組みが行われています。森林環境を守って製造された製品への認証制度や、森林破壊ゼロを掲げる企業なども増えています。
しかし、大規模な違法伐採も多く行われています。違法伐採とは「各国の法令に違反して行われる森林の伐採」であり、持続可能ではない伐採方法で行われることや、人権侵害などの問題もあるのです。
さらに違法伐採で得られた木材は安価で取引されるため、環境に配慮した伐採によって得られた木材は価格競争に負けてしまいます。そして、違法伐採によって得られた資金は、さらなる違法伐採につながるのです。
参考:外務省 違法伐採問題
参考:WWF 森林破壊の最前線
フロンガスによるオゾン層の現状
オゾン層とは、地上10〜50㎞の上空にあるオゾン濃度が高い部分のことであり、生物に有害な紫外線の大部分を吸収してくれるものです。
オゾン層ではオゾンが常に分解、生成を繰り返し一定のバランスが保たれていました。しかし、冷蔵庫やエアコンの冷媒、電子部品の洗浄剤などとして使用されていたCFC(クロロフルオロカーボン)、消火剤のハロンなどが放出され、成層圏(地上10〜50㎞の空気層)に達すると、紫外線によって化学物質が分解され、塩素原子などが放出されます。
そして、この塩素原子などがオゾン層を破壊する分解反応を引き起こすのです。
オゾン層の破壊により、地上に届く有害な紫外線の量が増加することで、さまざまな被害が引き起こされます。
人間の健康への影響としては、白内障や皮膚癌の発生率の増加が挙げられます。
また、自然の生態系にも影響を与えます。例えば、穀物の収穫量の減少や、プランクトンの減少により魚介類の減少につながるのです。(注1)
1980年代から1990年代前半に、オゾン層の破壊が特に深刻となりました。そして、オゾン層保護のための国際的な取り組みとして1985年に「オゾン層の保護のためのウィーン条約」、1987年に「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択され、CFCやハロンの生産と使用が制限されました。
この取り組みにより、オゾン層の破壊は抑制され、回復の兆しが見られていますが、オゾンの量は現在も少ない状態が続いています。
現在のオゾン層の状況は、地理的な要素や季節変動によって異なりますが、以下のような状況になっています。
【南極上空におけるオゾンホール】
オゾン層が最も薄くなり、CFCなどの化学物質によりオゾン層の破壊が進行していることを示す現象を「オゾンホール」といいます。
2021年のオゾンホールは南極大陸の1.8倍にもなる最大2,480万キロ平方メートルにもなり、近年10年間の平均値と比べ大きい状態となりました。
【北極上空におけるオゾン減少】
北極上空でも一部地域でオゾン層の減少が観測されていますが、南極ほどの大規模なオゾンホールは形成されていません。しかし、1990年代以降はそれ以前に比べ、オゾンの量が少ない年が多くなっているのが現状です。(注2)
また、「モントリオール議定書」に基づき、2030年までに開発途上国でのオゾン層破壊物質の削減に向け先進国が資金を拠出する多数国間基金を作り、開発途上国での取り組みを支援しています。
(注1)参考:外務省 オゾン層保護
(注2)参考:環境省 オゾン層を守ろう
地球温暖化の現状
近年よく耳にする「地球温暖化」ですが、その原因は2021年の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次報告書において「人間活動の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断定されました。
以下のグラフは平均気温の推移を表しています。このように、気温は年々上昇しています。
参考:気象庁 大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化
このような地球温暖化の影響として、以下の事項が挙げられます。
<農作物への影響>
高温による品質の低下、収穫量の低下、果物の着色不良、日焼け、発芽不良などがあります。また、小麦の収穫量も減少しています。
<生態系への影響>
野生生物の分布域の変化や、植物が影響を受けることでエサが減ることで生息数の減少などの影響が出ています。
<豪雨や台風の強大化>
短時間豪雨などの増加により、土砂災害、水害も増加しています。
<海氷の減少>
海氷が減少することで野生生物の生息地がなくなり、生態系への影響が出ています。
<海面水位の上昇>
海氷が溶けることにより、海水面が上昇してしまいます。そのため海抜の低い地域や島では、土地消失の危機に脅かされています。
<感染症の拡大>
温暖化により、蚊が活動しやすい環境になったことからマラリアやテング熱が拡大しています。
また、水質悪化により水を媒介としているコレラやサルモネラも拡大しています。
<極端現象や災害発生数の増加>
極端現象とは、極端に気温が高いことや低いこと、強い雨などの特定の指標を越える現象のことを指します。具体的には、最高気温が35℃以上の日(猛暑日)や一時間の降水量が50mm以上の強い雨などのことです。また、30〜50mm未満の雨を激しい雨、50〜80mm未満の雨を非常に激しい雨、80mm以上の雨を猛烈な雨と表現しています。
実際に大雨の発生回数は統計開始の1976年から増加傾向にあります。また、最高気温35℃以上の年間日数も統計開始の1910年から3倍ほどに増えています。(注1)
日本では、温暖化対策の目標として、温室効果ガスの排出量の削減と吸収量を、2030年までに最も温室効果ガスの排出が多かった2013年度の46%に抑えることとしています。
さらに、2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指しています。(注2)
(注1)参考:気象庁 大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化
(注2)参考:外務省 日本の排出削減目標
気候変動の現状
18世紀半ばに起こった産業革命以降、石油や石炭などの化石燃料をエネルギーとして利用することで、さまざまな発展を遂げることができました。しかし、化石燃料の利用は温室効果ガスを増加させ、地球温暖化が進み最高気温の上昇や集中豪雨の発生などの気候変動の問題につながりました。
実際に産業革命前後(1850年〜1900年)に比べ、近年(2011年〜2020年)では1.09℃も平均気温が上昇しているのです。
今後、世界で地球温暖化に対し何も対策を取らない場合、21世紀末には4.4℃もの上昇が予想されています。(注1)
気候変動は、私たちの生活にもさまざまな影響をもたらします。例えば、干ばつの影響で2030年までに推定7億人が故郷を追われ、さらに、中規模災害、大規模災害の発生が2015年〜2030年で40%増加すると予測されています。(注2)
気候変動への世界的な取り組みとして、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)があります。1994年に198の国と機関が締約し、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化することを目的とした気候変動枠組条約国会議(COP)が1995年から毎年開催されています。(注3)
また、気候変動に関する科学的な情報を政府や国際社会に提供する役割として、1988年に「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が設立されました。
IPCCは、195の国と地域が参加する政府間組織であり、IPCCの報告書は世界中の政府や国際社会の意思決定に大きな影響を与え、国際的な気候変動対策の枠組みであるパリ協定や、持続可能なエネルギー政策の策定などに活用されています。(注4)
日本では、気候変動に対して緩和と適応が行われています。気候変動に対する緩和とは、省エネや、再生可能エネルギーによって温室効果ガスの排出を抑制することや、植林などによって温室効果ガスの吸収量を増加させることです。
適応とは気候変動に対処し、被害を少なくすることです。災害への備えとして、森林の保水力を高めるための森林保全活動や治水施設の建設、高温でも育つ農作物の品種開発や栽培などが行われています。(注5)
(注1)参考:神奈川県気候変動適応センター 気候変動の影響
(注2)参考:国際連合広報センター 持続可能な開発目標(SDGs)報告2022
(注3)参考:外務省 気候変動に関する国際枠組み
(注4)参考:神奈川県気候変動適応センター IPCC 気候変動に関する政府間パネル
(注5)参考:気候変動適応情報プラットフォーム 気候変動と適応
参考:神奈川県気候変動適応センター 映像教材 自然災害編
人による自然環境の消費量を数字で確認
私たちの生活において、自然環境からの資源は必要不可欠です。そのため、私たちの生活による消費行動が、地球の資源や生態系にどのような影響を与えているかを知っておくことも必要です。
現在のペースで資源を消費する生活を続けていくことは、将来的に不可能であること、そして、世界中で環境問題に取り組む必要性を具体的な数字で確認して行きましょう。
資源を使い尽くしてしまう日「アース・オーバーシュートデー」
アース・オーバーシュートデーとは、地球が一年間で生産できる資源を人間が使い尽くしてしまう日のことです。
アース・オーバーシュートデーは国際シンクタンクであるアメリカのグローバル・フットプリント・ネットワークが、人間の生活が地球の許容量を超えて資源利用していることを人々に広く知らせ、改善を促すことを目的として発表しているものです。
アース・オーバーシュートデーは、毎年、国ごとに発表されており、先進国や中東ほど資源の使用量が多く、一年分の資源を使い切るのが早い傾向にあります。
2023年の発表では、一番早くオーバーシュートデーを迎える国はカタールの2月10日、一番遅い国は12月20日のジャマイカです。
日本のオーバーシュートデーは、5月6日となっており、世界全体では8月2日とされています。
アースオーバーシュートデーは、人間の自然資源に対する需要と環境への圧力を示す「エコロジカル・フットプリント」のデータを基に、日にちが計算されます。
2020年は、新型新型コロナウィルスによる経済活動の縮小により、2019年に比べ3週間ほど遅いアース・オーバーシュートデーとなっていますが、アース・オーバーシュートデーは年々早くなっており、現在は一年で地球1.75個分の資源を消費しているのが現状です。
参考:WWFジャパン 「地球の使いすぎ」コロナ禍で、前年より3週間遅く到来
参考:EARTH OVERSHOOT DAY PAST EARTH OVERSHOOT DAYS
資源と生態系への影響を測るエコロジカル・フットプリント
エコロジカル・フットプリントとは、アメリカの環境研究機関であるグローバル・フットプリント・ネットワークによって開発され、私たちの生活による消費活動が、地球の資源と生態系に与える影響を測る指標となっています。
エコロジカル・フットプリントは、次の4つを合計した値で計算されます。
- 化石燃料の消費によって排出される二酸化炭素を吸収するために必要な森林面積
- 道路、建築物等に使われる土地面積
- 食糧の生産に必要な土地面積
- 紙、木材等の生産に必要な土地面積
この計算の結果、一人が必要とする生産可能な土地面積は、世界平均2.8haとされました。
エコロジカル・フットプリントのランキングは、先進国の資源の過剰消費を示しています。エコロジカル・フットプリントは、地球上で生態系が必要とする面積であるグローバル・ヘクタール(gha)で表され、グローバル・ヘクタールが大きいほど、環境への負荷が高いことになります。
国別のエコロジカルフットプリントランキング
1 | 中国 | 5,100,000,000 gha |
2 | アメリカ合衆国 | 2,600,000,000 gha |
3 | インド | 1,480,000,000 gha |
4 | ロシア連邦 | 848,000,000 gha |
5 | ブラジル | 551,000,000 gha |
6 | 日本 | 533,000,000 gha |
7 | インドネシア | 454,000,000 gha |
8 | ドイツ | 392,000,000 gha |
9 | メキシコ | 315,000,000 gha |
10 | フランス | 312,000,000 gha |
参考:Global Footprint Network Open Data Platform
エコロジカル・フットプリントとバイオキャパシティ(生物生産力)を比べることで、私たちの生活がどれほど多くの環境負荷を与えているのかがわかります。
そして、エコロジカル・フットプリントを通し、持続可能な社会と地球一個分での生活のために何を改善すべきかがわかるのです。
参考:PLANET ALLIANCE エコロジカルフットプリント, バイオキャパシティとは
参考:WWFジャパン 地球1個分の暮らしの指標
参考:環境省 「持続可能な未来をつくるエコロジカル・フットプリント」~マティース・ワケナゲル氏来日講演会(全3部)~について
水環境への影響を測るウォーターフットプリント
ウォーターフットプリントとは、原材料の栽培・生産、製造・加工、輸送・流通、消費、廃棄・リサイクルまでの一連のプロセスにおいて、消費や汚染された水の量を計算するものです。
また、ウォーターフットプリントは、環境への影響を評価することが目的であるため、単純に水の使用量を計算するのではなく、水の利用によって生じる水量の変化、水質の変化からも環境への影響を表すものです。
水環境への影響の大きさを表すウォーターフットプリントの量は「m3」という単位で表します。
また、ウォーターフットプリントでは、農産物、畜産物に対し3つのウォーターフットプリントを設定しています。
1.グリーンウォーター(天水)
農産物が取り込み蒸散、消費した水(雨水)の量
飼料となる穀物や牧草の生産のために、農産物が蒸散、消費した雨水の量
2.ブルーウォーター(灌漑用水)
農産物が取り込み蒸散、消費した地表水や地下水の量
飼料となる穀物の生産の際に農作物が取り込み蒸散、消費した地表水や地下水。家畜により、直接消費されたり、飼育のために消費されたりした地表水や地下水の量
3.グレーウォーター(廃水)
農産物や飼料となる穀物の生産に使用され、肥料や農薬による水質汚濁物質を一定の環境基準未満に抑えるために必要な水の量
世界の水問題や水資源の保全に向けた取り組みや、企業のサプライチェーン(製品の原材料の生産、製造、輸送、販売に至る一連の流れ)の改善などへの活用が注目されています。
そして、ウォーターフットプリントを使うことで、日本が輸入し消費している製品が、どのような負荷を水環境に与えているかを把握することができます。(注1)
2018年の日本の輸入、消費によって生じたウォーターフットプリント
グリーンウォーター(百万m3) | ブルーウォーター(百万m3) | |
トウモロコシ | 9,612 | 981 |
小麦 | 9,722 | 289 |
大豆 | 5,384 | 221 |
コーヒー豆 | 4,894 | 29 |
参考:WWFジャパン 日本が世界の水環境に及ぼす影響を明らかにする「ウォーターフットプリント」
世界では水の70%が農業に使われ、工業に20%、生活用水が10%の割合で使われています。
農業には大量の水を使うため、多くの食料を輸入している日本は、世界での大規模な干ばつや水不足は無関係ではないのです。(注2)
(注1)参考:WWFジャパン 日本が世界の水環境に及ぼす影響を明らかにする「ウォーターフットプリント」
(注2)参考:環境省 virtual water
環境問題への取り組み
環境問題の解決は、世界全体で協力して取り組んでいく必要がある切迫した問題となっています。
私たちの生活によって世界中の自然環境が大きな影響を受け、温暖化や気候変動が起こっていることを、私たち自身もゲリラ豪雨や台風の強大化などによって実感することが増えてきました。
環境問題の解決に向けた世界と日本の取り組みとして行われていることを紹介します。
環境問題への世界の取り組み
<SDGs(持続可能な開発目標)>
世界全体での環境問題への取り組みとして「SDGs(持続可能な開発目標)」が挙げられます。誰一人取り残さないために、世界中のすべての人々でよりよい持続可能な社会を目指すものです。
貧困、不平等、環境、平和、気候変動などの問題を2030年までに解決することを目指しています。
<脱炭素社会>
日本でも聞く機会が増えてきた「脱炭素社会」という考え方も環境問題への取り組みです。世界でも同様の動きがあり、その一つとして「カーボンプライシング」というものがあります。
カーボンプライシングとは、炭素などの温室効果ガスの排出量に対し税金を設けることで、温室効果ガスの排出量を削減するよう、排出者の行動を変容させることを目的としています。
カナダでは2030年までに伝統的な石炭火力発電所を段階的に廃止することを目指しています。これにより削減される温室効果ガスは、自動車130万台を廃棄することに匹敵します。
フランスでは、森林伐採につながる製品の輸入をストップすることや2040年までにガソリン、ディーゼル車の販売を終了、また、国家の最優先事項として断熱改修を行うことでエネルギー貧困の撲滅することを掲げています。(注1)
<パリ協定>
気候変動問題に関する国際的な枠組みとして、国連気候変動枠組み条約国会議(COP21)で、2015年に国連で採択された「パリ協定」があります。
パリ協定とは、2020年までの温暖化に対する国際的な取り組みのための国際条約であった京都議定書の後継にあたる協定です。世界共通の長期的な目標として「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度より十分低く保ち、1.5度以内に抑える努力をする」が掲げられています。
京都議定書での対象国は先進国のみでしたが、パリ協定では締結国すべてに5年ごとに世界全体の実施状況を検討することや、先進国による資金の提供などが盛り込まれています。(注2)
(注1)参考:環境省 「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」取りまとめ 参考資料集 P25、26
(注2)参考:外務省 2020年以降の枠組み:パリ協定
環境問題への日本の取り組み
日本での環境問題への取り組みとしては、温暖化や気候変動、生物多様性、森林保全、廃棄物の処理など、さまざまな取り組みがあります。
日本政府の環境問題への取り組みについて紹介します。
地球温暖化対策計画 | 国連気候変動枠組条約事務局に提出された「日本の約束草案」に基づいて、国内の温室効果ガスの排出量の削減と、森林などへの吸収量の確保を行い、2030年度において、最も温室効果ガスの排出量が多かった2013年度と比べ46%削減することを目指しています。(注1) |
生物多様性条約、生物多様性国家戦略 | 生物多様性と生息環境を守り、生物資源の持続可能な利用を目指します。 |
ラムサール条約 | 水鳥と水鳥の生息環境として重要な湿地の保全を目的としています。 |
ワシントン条約 | 絶滅危惧種の国際的な取引を規制し、種の保護を目指します。 |
木材の違法伐採対策 | 日本では「違法に伐採された木材は使用すべきではない」としており、違法伐採対策も含めた持続可能な森林経営を推進しています。 |
国際熱帯木材機関(ITTO) | 熱帯林の持続可能な経営、熱帯木材貿易の発展の両立を目指すものです。日本は、ITTOの政策に積極的に関与し、多数のプロジェクトに資金の拠出を行っています。 |
アジア森林パートナーシップ(AFP) | アジアの持続可能な森林経営を促進し、政府や国際機関などが、違法伐採対策、森林火災予防、植林などを行い荒廃地の復旧などを通じ協力していくためのパートナーシップです。 |
砂漠化対処条約(UNCCD) | 干ばつや砂漠化の問題を抱える国が砂漠化に対処するため、国家行動計画を作成、実施することです。また、このような取り組みを先進締約国や国際機関が支援することを規定した条約です。 |
ウィーン条約 | オゾン層の保護を目的とした国際協力を行うための基本的枠組みを定めた条約です。 |
モントリオール議定書 | オゾン層を破壊する物質を特定し、その物質の生産と消費の全廃スケジュールを作成、また非締約国との貿易規制なども設定されています。 |
バーゼル条約 | 有害廃棄物や他の廃棄物の国境を越える移動、また、その処分の規制や、これらの廃棄物によって生じる人の健康と環境への被害を防止することを目的としています。 |
ストックホルム条約(POPs条約) | 残留性や生物蓄積性、難分解性、また、人や生物への毒性が高く、長距離移動の性質を持つ物質である残留性有機汚染物質(POPs)の、製造や使用の廃絶、制限、排出の削減、これらの物質を含む廃棄物などの適正処理を規定し、人の健康と環境保護を目的としている条約です。 |
ロッテルダム条約 | 先進国で使用が禁止または厳しく制限されている有害な化学物質や駆除剤が、開発途上国にむやみに輸出されることを防ぐために、締約国間の輸出に当たっての事前通報・同意手続(Prior Informed Consent)等を設けた条約です。 |
南極条約 | 南極地域の平和的利用、科学的調査の自由と調査結果の共有、また領土権主張の凍結などを定めた条約です。 |
環境保護議定書 | 南極の環境と生態系の包括的な保護を目的としています。南極地域での活動によって、南極の環境と生態系への悪影響を回避することを目的としています。 |
北西大西洋地域海行動計画(NOWPAP) | 日本、勧告、中国、ロシア4カ国によって策定され、日本海および黄海の海洋環境保護を目的としています。 |
東アジア酸性雨モニタリング・ネットワーク(EANET) | 東アジア各国の共通の手法での酸性雨のモニタリングの実施、またそのネットワーク化を目的としたものです。 |
環境協議 | 日本は、韓国、中国、ロシアとの環境保護合同委員会などの二国間協議や多国間の枠組みを通じ、環境政策などの話し合いを行っています。また、政府開発援助(ODA)を通じ、開発途上国などへ資金援助や技術支援などを行い、持続可能な開発の実現に貢献しています。 |
(注1)参考:環境省「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」取りまとめ 参考資料集 P38
(注2)参考:外務省 地球環境問題に対する日本の取組
企業や団体による環境問題への取り組み
企業の環境への取り組みにはさまざまなものがあります。
飲料会社では、ペットボトルをリサイクルし、再度ペットボトルにする技術である「ボトルtoボトル」があります。この技術により、新たな資源の採掘を減らし、さらに温室効果ガスの削減も行うことができるのです。
日本コカ・コーラでは、製品の原液輸送時に使用する容器をリサイクルPET樹脂に切り替えており、この取り組みの結果、石油から新たに製造されるプラスチックの使用量を年間約51トン、二酸化炭素を約27トン削減することができています。
参考:日本コカ・コーラ株式会社 コカ·コーラシステム、「ボトルtoボトル」を推進 2020年のリサイクルPET樹脂使用率が28%に 循環型社会へのさらなる貢献を目指し「リサイクルしてね」ロゴを順次導入
衣料品を扱うユニクロ、GUなどの株式会社ファーストリテイリングでは、気候変動への対応としてさまざまな取り組みを行っています。
不要になった衣類を店舗に設置した回収ボックスで回収し、リユースとして難民キャンプや被災地への支援活動につなげています。また、リユースに適さない衣類は燃料やリサイクル素材としての活用することを進めています。
サプライチェーンにおいても、輸送する時期が近い製品を集約することで、年間約一万本ものコンテナを削減することや、非効率である少量配送を防ぐために一店舗へ配送できる最小値を設置すること、さらに配送時の積載効率を上げるために配送用段ボールの種類を減らす取り組みも行っています。
参考:株式会社ファーストリテイリング 気候変動への対応
また、民間の団体も、多くの取り組みを行っています。
例えば、海岸や街中でのゴミ拾い活動も環境問題への取り組みです。海岸や街中に落ちているゴミは、土壌汚染や海洋ゴミなどの問題につながります。実際に、海洋ゴミの7〜8割が街から発生しているといわれ、雨や風によって河川に流入し、海へと流出しているのです。
参考:日本財団ジャーナル 【増え続ける海洋ごみ】今さら聞けない海洋ごみ問題。私たちにできること
環境問題の解決のために、私たちにできること
世界規模でのさまざまな環境問題に多くの国、企業、団体などが取り組んでいますが、家庭や個人での環境問題への取り組みも重要です。
日本における、家庭からの二酸化炭素の年間の平均排出量は、約3,730kgCO2/世帯とされています。
家庭からも多くの温室効果ガスが排出されているということは、家庭でも環境へ配慮した生活に変えることで、大きな成果につなげることができるということです。
実際に、環境問題に対して生活の中で取り組めることを紹介します。
参考:全国地球温暖化防止活動推進センター 4-06 家庭からの二酸化炭素排出量(2021年度)
「ゼロカーボンアクション30」に取り組む
ゼロカーボンアクション30とは、環境省が脱炭素社会の実現に向けて日常生活で取り組むべきことを「ゼロカーボンアクション30」アクションリストとして紹介しているものです。
- 電気等のエネルギーを節約・転換しよう!
- 太陽光パネル付き・省エネ住宅に住もう!
- CO2の少ない交通手段を選ぼう!
- 食品ロスをなくそう!
- 環境保全活動に積極的に参加しよう!
- CO2の少ない製品・サービス等を選ぼう!
- 3R(リデュース、リユース、リサイクル)
- サステナブルなファッションを!
この8つの項目について、省エネや、食品ロスなどの取り組みについて紹介しています。
取り組めることがないか、ゼロカーボンアクション30のサイトを見て確認してみましょう。
ゴミの分別とリサイクルに取り組む
家庭から出るゴミを減らすことや、再資源化できるものを分別してリサイクルすることは、将来の資源の確保と私たちの生活を守ることにつながります。
ゴミの分別方法は自治体によって違います。リサイクルできる素材やリサイクル方法もさまざまであるため、自治体のゴミの分別方法を確認してみましょう。
また、リサイクル技術が発達していても、ムダな買い物は控えるなど、まずはゴミを増やさないようにすることが大切です。
買い物を見直す
買い物の際、商品を選ぶ基準として環境に配慮された製品を選ぶことも環境を守る活動です。企業が温室効果ガスを削減し、環境問題に配慮して製造した製品や、森林資源や水産資源の持続可能な利用を考慮して生産された製品を選ぶことも重要です。
不要なものは買わない、代用品があるのであれば購入を控えることも考えながら買い物をしましょう。
捨てる時まで考え、リサイクル可能な製品やリサイクルされた素材で作られているかを確認することも、資源を守ることにつながります。
環境問題への取り組みに無関係な人はいません
環境問題への取り組みは国や企業、専門の団体などが行うことであり、なんとなく他人事と感じている人も多いでしょう。
しかし、環境問題は地球規模の大きな問題であり、世界中が一丸となって取り組まなければならない問題なのです。
まずはどのような環境問題があるのかを知り、一人ひとりが取り組めることを考え、生活の中でできることから実践していきましょう。

身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。