地球温暖化を防ぐ「カーボンニュートラル」の重要性と取り組みについて解説

地球温暖化を防ぐ「カーボンニュートラル」の重要性と取り組みについて解説

2023.07.20(最終更新日:2024.06.24)
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2020年、地球は1900年ごろから比べ平均気温が約1.1℃上昇しています。たった1.1℃と思われるかもしれませんが、世界平均1.1℃の気温上昇が世界に与える影響はとても大きく、私たちの身近なところにもさまざまな影響を与えているのです。
2020年10月、日本政府は2050年までに、地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。
「カーボンニュートラル」とは、どのようなものでしょうか。本記事では、地球温暖化への対策として取り組まれているカーボンニュートラルと、地球温暖化の現状について解説します。

地球温暖化対策としての「カーボンニュートラル」

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では、2021年8月に第6次評価報告書第I作業部会報告書(自然科学的根拠)が公表されました。その報告書において「人間の影響が気候システムを温暖化させてきたのは疑う余地がない」とされたのです。
地球温暖化は、私たちの生活にも大きな影響を与えるため、多くの国や地域、民間団体などが温暖化への対策に取り組んでいるのです。日本では、温暖化対策の一つとして「カーボンニュートラル」が宣言され、多くの取り組みが行われています。
「カーボンニュートラル」とは何か、地球温暖化が私たちの暮らしに与える影響とはどのようなものなのかを見てみましょう。

カーボンニュートラルとは排出と吸収の均衡

私たちが生きていくために、温暖化に影響を与える「温室効果ガス」の排出をゼロにするということは困難です。そこで、温室効果ガスの排出量の削減を行いつつ、どうしても排出してしまう温室効果ガスは「吸収」して、実質ゼロにするという考え方がカーボンニュートラルです。
生活に欠かせない電気や製品などを作る際にも、多くの温室効果ガスが排出されてしまいます。そのため、カーボンニュートラルの達成のために、技術の改良や温室効果ガスの排出がより少ない方法に代替することで、温室効果ガスをできる限り減らし、排出した温室効果ガスは森林管理などによって森林に吸収してもらうことで、実質の排出量をゼロにするということです。

地球温暖化の原因と仕組み

地球温暖化の原因は「温室効果ガス」が増えたことです。温室効果ガスは1890年ごろに始まった産業革命以降に急激に増え始めました。産業革命以降、さまざまな技術などの開発により私たちの暮らしはとても豊かになりましたが、多くのエネルギーが必要となったのです。そのため、石炭や石油といった化石燃料を燃やすことで、エネルギーを賄うようになりました。
化石燃料を燃やすと、多くの温室効果ガスが排出されます。この温室効果ガスが増えすぎたことで、本来宇宙に放出されるはずの熱が地表にたまってしまうのです。温室効果ガスがビニールハウスのような役割となり、温められた空気がビニールによって放出されずに、温度が上がります。温室効果ガスによって温められるとは、このような状態なのです。
気温の上昇は、世界全体で均等ではなく南極や北極、標高の高い地域などは特に気温の上昇率が高くなっています

参考:WWFジャパン 地球温暖化とは?温暖化の原因と仕組みを解説

温室効果ガスは、まったく必要がないわけではありません。もし、温室効果ガスがなければ地球の平均気温は-18℃となってしまうのです。しかし、適量の温室効果ガスのおかげで、本来の地球の平均気温は15℃に保たれていたのです。
しかし、人間の活動により温室効果ガスが増えすぎたことで、地球の地球の平均気温が高くなりました。これが、大きな問題となっている地球温暖化なのです。

温室効果ガスの種類

温室効果ガスには、どのような種類があるのかを見てみましょう。

温室効果ガス 特徴 2021年排出量・割合 2013年度比
二酸化炭素(CO2) ・地球温暖化に最も影響を及ぼす
・化石燃料の消費などで発生
10億64万トン(90.9%) -2億5350万トン(-19.2%)
メタン(CH4) ・二酸化炭素の次に地球温暖化に影響を与える
・水田やバイオマス燃焼など多くの放出源がある
2740万トン(2.3%) -180万トン(-6.4%)
一酸化二窒素(N2O) ・一時的に濃度が増加すると影響が小さくなるまで109年と長くかかる
・海洋、土壌、窒素肥料や工業活動により放出される
1,950万トン(1.7%) -180万トン(-6.1%)
ハイドロフルオロカーボン類(HFCs) ・強力な温室効果ガス
・冷媒や発泡剤、洗浄剤として使われる
5,360万トン(4.6%) 2,140万トン(+66.7%) ※オゾン層への影響があるハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)からハイドロフルオロカーボン類(HFCs)への代替に伴い、大幅な増加傾向にある
パーフルオロカーボン類(PFCs) ・大気に残存する期間が長い
・温室効果は二酸化炭素の数千倍
・現在は排出することが厳しく監視されている
320万トン(0.3%) -14万トン(-4.1%)
六ふっ化硫黄(SF6) ・大気に残存する期間が3,200年と長い
・温室効果は二酸化炭素の23,900倍
200万トン(0.2%) -3万トン(-1.3%)
三ふっ化窒素(NF3) ・窒素とフッ素からなる無機化合物
・強力な温室効果ガス
・半導体の製造過程で発生
38万トン(0.003%) -120万トン(-76.5%)

参考:気象庁 温室効果ガス
参考:全国地球温暖化防止活動推進センター 1-02 温室効果ガスの特徴
参考:宮城県環境情報提供ポータルサイト みやぎ環境ウェブ

カーボンニュートラルの問題点

多くの国が温室効果ガスの削減に取り組んでいますが、先進国は人件費などを抑えるために、工場を開発途上国に作り、製品などを生産して先進国に輸入するということがあります。
しかし、二酸化炭素排出量の計算方法では、排出理由などは考慮されていません。そのため、先進国で利用するものを生産することや、輸出の際に排出される温室効果ガスは開発途上国からの排出として計算されてしまうのです。このようなことから、先進国では排出量が削減されても、途上国での排出量が増加するということが起こっています。

地球温暖化を抑えるためのパリ協定では、参加国であるすべての国に温室効果ガスの削減努力が求められています。しかし、開発途上国では経済、技術発展により排出量が増えているのが現状なのです。

参考:経済産業省資源エネルギー省 温暖化は今どうなっている?目標は達成できそう?「IPCC」の最新報告書

パリ協定
気候変動問題に取り組むため、197の国と地域が参加する2020年に始まった国際協定です。

パリ協定の長期目標
・産業革命以降の世界の気温上昇を2℃より十分低く抑える(1.5℃以下に抑える努力をする)
・21世紀後半に、人間による温室効果ガスの実質的排出量をゼロにする
そのために、各国が5年ごとに状況を把握することや、先進国が開発途上国に技術や資金提供を行うこと、途上国でも自主的な資金提供をすることが求められています。

カーボンニュートラルに取り組む必要性

温室効果ガスを減らす取り組みが行われていますが、温室効果ガスが増えることで起こる問題や、私たちの生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。身近な問題として、地球温暖化の影響を感じていない人もいるかも知れません。しかし、私たちの身近にも地球温暖化の影響はあるのです。
ここでは、地球温暖化による影響と現状について解説します。

温室効果ガス排出による地球温暖化の影響

産業革命前に比べ、約1℃気温が上昇したことで、地球温暖化の影響が世界中で発生しています。どのような影響が出ているのかを見てみましょう。

北極海の海氷が減少
気温上昇により、海氷面積が減少しています。そのため、ホッキョクグマやアザラシなどの生息地が減少しています。

海面上昇
海氷が溶けることや、地球温暖化によって海が膨張するため海面が上昇します。これにより、小さな島などが消失してしまう危機となっています。
海は温室効果ガスからの熱を90%吸収しているため、大きな負担となっているのです。2021年には、海の表層に蓄積された熱量である海洋貯熱量(OHC)が過去最高を更新しています。
実際に、海面は1880年以降に世界で平均23センチ以上上昇し、そのうちの8センチは過去25年間で起こっており、海面上昇のスピードが早まっているのです。現在も毎年0.32センチずつ海面上昇が起こっています。(注1)

極端現象・災害
大雨、干ばつ、ハリケーンなどの極端現象による災害の増加や降雨パターンの変動が起こっています。

食料
気温の上昇により、小麦の収穫量が減少しています。そのため、小麦価格の上昇などの影響が出ています。また、気候の変化などにより、農作物が育ちにくい地域も拡大しています。

感染症
温暖化により、蚊の生息域が広がることで感染症が増え、マラリアやテング熱などが拡大してしまいます。
水質悪化により、コレラやサルモネラなども拡大してしまいます。

日本でも、次のような温暖化の影響がすでに見られています。

熱中症
熱中症による救急搬送の患者や死亡者数が増加しています。

農業
水温が上がったことで、稲の品質が低下しています。
りんごやぶどうの着色不良、みかんの浮皮、日焼け、梨の発芽不良なども発生しています。

水産業
日本海のブリ、サワラの漁獲量が増え、スルメイカの漁獲量は減っています

頻発する豪雨と台風の強大化
短時間で降る強い雨や大雨の増加に伴い、土砂災害、水害の頻度が増加し、農地においても、不要な水が溜まる湛水被害が増加しています。

水供給(地表水)
激しい雨の回数は増えていますが、年間の降水日数は減少しています。そのため、渇水が発生し、毎年のように取水制限が行われています。

生態系
温暖化により東京湾で南方系の魚がみられるなど野生生物の分布が変化しています。サンゴの白化現象も発生しています。

さらに、海面水位の上昇は少なくとも過去3000年で最も急速に上昇しており、世界の平均気温は過去2000年で例がない上昇速度となっています。2011〜2020年の晩夏の北極海の海氷は過去1000年で最も少なく、氷河は過去2000年でも前例がないほど後退し、海洋酸性化は過去200万年でも異例の状況となっています。
そして、現在より気温が上昇すると現在起こっている温暖化の影響がさらに悪化し、米の収穫量減少や、野生生物の生息域が変化することで絶滅の危機にもつながるのです。(注2)

(注1)参考:ナショナルジオグラフィック 海面上昇が加速、2050年までに25~30cm上昇、米NOAA報告
(注3)参考:環境省地球環境局 「おしえて!地球温暖化」

各国の温室効果ガス排出量

2020年世界の二酸化炭素排出量の円グラフ(中国32.1%、アメリカ13.6%など)
参考:全国地球温暖化防止活動推進センター 3-01 世界の二酸化炭素排出量(2020年)

2020年、世界の二酸化炭素排出量は約314億トンとなりました。もっとも多く排出していた国は中国で、排出量は約100.9億トンとなりました。日本は世界5位の排出量で、約9.9億トンでした。上位3カ国で、世界の半分以上の二酸化炭素を排出しています。
過去20年間での二酸化炭素濃度の増加理由は、4分の3以上が石炭、石油などの化石燃料の燃焼です。そのため、アメリカ、ロシア、日本などの工業化の進んだ国の排出量が多くなっています。
さらに、各国一人あたりの排出量を見るとアメリカ、ロシア、韓国が多く、日本は4位の排出量となっています。
途上国での一人当たりの排出量は少ないですが、経済発展により急速に増加しつつあるのが現状です

各国の一人当たりの排出量(2020年)

国名 一人当たりの排出量
アメリカ 12.8トン
ロシア 10.8トン
韓国 10.5トン
日本 7.9トン
中国 7.2トン
ドイツ 7.1トン
インド 1.5トン
アフリカ合計 0.89トン

参考:全国地球温暖化防止活動推進センター データで見る温室効果ガス排出量(世界)

カーボンニュートラルに欠かすことのできない吸収量はどのようになっているでしょうか。日本での二酸化炭素吸収量は次のようになっています。

日本での二酸化炭素吸収量

年度 二酸化炭素吸収量
2014 5,750万トン
2015 5,460万トン
2016 5,300万トン
2017 5,380万トン
2018 5,330万トン
2019 4,850万トン
2020 4,600万トン
2021 4,760万トン

参考:環境省 国立研究開発法人国立環境研究所 2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要

二酸化炭素の吸収量は、2021年に4年ぶりに増加傾向となりました。これは、森林管理や木材利用の推進などが主な要因と考えられます。

そして、2023年11月30日から12月12日まで開催された、第28回国連気候変動会議(COP28)において、伊藤環境大臣が2022年度の温室効果ガスの排出量、吸収量に関する報告書に、世界初となるブルーカーボン(海藻や海草)による温室効果ガスの吸収量を計上すると表明しました。
港湾空港技術研究所などの研究によると、浅海生態系である海草藻場やマングローブ、干潟での二酸化炭素の年間吸収量は平均132万トン、最大404万トンと見積もられています。
これにより、森林などの吸収量に加え、ブルーカーボンによる吸収量も計上される仕組みとなり、吸収量の増加が期待されます。

参考:港湾空港技術研究所 浅海生態系における年間二酸化炭素吸収量の全国推計

将来の世界平均気温の予測

現在のまま、温室効果ガスが排出され続けると、将来はどれほど温暖化が進むのでしょうか。将来の気温上昇の予測は温室効果ガスの排出量によって、5つのパターンで行われています。社会経済的傾向(SSPx)と、それによりもたらされる2100年の放射強制力の大きさ(y)の組み合わせ(SSPx-y)で表されます。

SSPx-y 排出量 予測されること
SSP5-8.5 排出が非常に多い 化石燃料依存型の発展を続け、気候政策を導入しない場合、2021年〜2040年に世界の平均気温が工業化前と比べて1.5℃を超える可能性が非常に高く、21世紀中に2℃を超えるとされている。
SSP3-7.0 排出が多い 地域対立的な発展を続け、気候政策を導入しない場合、2021年〜2040年に世界の平均気温が工業化前と比べて1.5℃を超える可能性が高く、21世紀中に2℃を超えるとされている。
SSP2-4.5 排出が中程度 中道的な発展を行い、気候政策を導入する場合、2021年〜2040年に世界の平均気温が工業化前と比べて1.5℃を超える可能性が高く、21世紀中に2℃を超える可能性が非常に高い。
SSP1-2.6 排出が少ない 持続可能な発展を行い、2℃未満に抑える気候政策を導入する場合、2021年〜2040年に世界の平均気温が工業化前と比べて1.5℃を超える可能性がどちらかといえば高いが、21世紀中に2℃を超える可能性は低い。
SSP1-1.9 非常に少ない 持続可能な発展を行い、1.5℃未満に抑える気候政策を導入した場合、2021年〜2040年に世界の平均気温が工業化前と比べて1.5℃に達する可能性がどちらかといえば高いが、21世紀中に2℃を超える可能性は極めて低い。

参考:文部科学省 気象庁 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書(AR6)第1作業部会(WG1)報告書「気候変動2021 自然科学的根拠」解説資料
温暖化は、海洋よりも陸、南半球よりも北半球で強く、北大西洋亜寒帯域中部と太平洋南端では弱くなっています。これは、海や陸がどのように熱を吸収し、保持するのかということや、北半球では陸地面積が広いこと、海洋の循環の影響などによるものです。特に北半球の高緯度な場所では、地球全体の平均よりも2〜4倍もの温暖化が予測されています

二酸化炭素の増加速度が減少すると、気温の上昇は10年以内に減速するとされています。しかし、温暖化速度の減速は自然変動に隠され、数十年は検出が困難な可能性があります。

参考:文部科学省 気象庁 よくある質問と解説 P24~P26

資源の枯渇問題

世界では、人口の増加に伴いエネルギー消費量の大幅な増加が見込まれています。発展途上国を中心に化石燃料の消費が増えることなど、2040年のエネルギー需要量は2014年の1.3倍になることが予測され、資源の獲得競争の激化が懸念されています。しかし、化石燃料は無限の資源ではないため、枯渇の問題があるのです。

世界のエネルギー資源の埋蔵量は次のように試算されています。

  • 石油
    2020年末で1兆7,324億バーレル 枯渇まで54年
  • 天然ガス
    2020年末で188兆m3 枯渇まで49年
  • 石炭
    2020年末で1兆741億トン 枯渇まで139年
  • ウラン
    2019年1月で615万トン 枯渇まで115年

資源には限りがあるため、省資源や省エネに取り組むことも重要な課題となっています。また、化石燃料から再生可能エネルギー、水素やアンモニアといった新エネルギーへの移行は、資源を枯渇から守ることにつながるのです。

参考:一般財団法人日本原子力文化財団 エネ百科 【1-1-06】 世界のエネルギー資源確認埋蔵量

カーボンニュートラルの実現に向けた取り組み

地球環境の保護と気候変動への対応がますます重要となる中、各国や企業、民間団体などが積極的にカーボンニュートラルへの取り組みを行っています。
日本では2030年度において、温室効果ガスの排出の多かった2013年度に比べ46%削減すること、さらに50%の高みに向けた挑戦を続けることを表明しました。また、世界の多くの国でもカーボンニュートラルを目指した政策などを行っています。
ここでは、カーボンニュートラルの実現にむけた新たな技術や政策、各国の取り組み、私たちが日常生活の中でできることについて解説します。

地球温暖化対策推進法

令和3年6月に地球温暖化対策の推進に関する法律の一部が改正され、令和4年4月に施行されました。この法律は、平成10年に、地球温暖化への対策を国、自治体、企業、国民が一体となって取り組むために制定されたものです。
この法律は、「大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させ地球温暖化を防止すること」を重要な課題としています。そのために、地球温暖化対策計画の策定や、温室効果ガスの排出量削減などを促進するための措置により地球温暖化対策の推進や、現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保などが目的です。(注1)

令和3年度の改正でのポイントは3つあります。

  • 2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念に
    2050年カーボンニュートラル宣言や、パリ協定に定める目標などを踏まえ、2050年までのカーボンニュートラルの実現が明記されました。これにより、国の政策の継続性が高まり、国、自治体、企業などはより確信を持った地球温暖化対策に取り組めるようになりました。
  • 地方創生につながる再エネ導入を促進
    2050年までにカーボンニュートラルを実現させるために、再生可能エネルギーは不可欠です。しかし、再生可能エネルギー事業に対する地域トラブルが見られており、事業対象地域での合意形成が課題となっています。
    このような課題を解決するため、地方自治体が策定する地方公共団体実行計画において、地域の脱炭素化などの問題解決に貢献する事業の認定制度を作り、関係する手続きをワンストップ化(手続きの簡略化)するなどの円滑な合意形成により再生可能エネルギーの利用を促進します。
  • 企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化
    一定以上の温室効果ガスを排出する事業者が国に排出量を報告し、国がとりまとめて公表する制度があります。この制度のデジタル化を進めることで報告する側とデータを使う側の利便性の向上を図ります。
    デジタル化にすることで開示請求を不要とし、オープンデータ化を進めることで、企業の脱炭素に向けた前向きな取り組みが評価されやすい環境を整備します。(注2)

令和3年度の改定では、新たに2050年のカーボンニュートラルを含む地球温暖化対策の「基本理念」規定が追加されています。カーボンニュートラルの実現に向け、長期的な展望に立ち、国際的に認められた知見を踏まえつつ、今後も必要に応じた法改正を行う予定です。

(注1)参考:環境省 脱炭素ポータル 地球温暖化対策推進法について
(注2)参考:環境省 脱炭素ポータル 改正地球温暖化対策推進法 成立

脱炭素に向けた「地域脱炭素ロードマップ」

2021年6月に、国と地方が協働、共創することで2050年のカーボンニュートラルを実現するための「地域脱炭素ロードマップ」が策定されました。地域脱炭素ロードマップでは、地域の脱炭素は成長の機会と考え、環境に優しい取り組みを進めることが地域の発展に繋がる成長戦略と考えられています。
自治体、地域企業、市民など地域関係者が主体となり再生可能エネルギーなどの地域資源を最大限活用し、経済を循環させ、防災や暮らしの質を向上させるなど、地域の課題を合わせて解決することで地方創生に貢献できるとされているのです。

地域脱炭素ロードマップの主な内容は、次のようなものです。

  • 2020年から2025年の5年間に政策を総動員し、人材、技術、情報、資金などを積極的に支援する。
  • 2030年度までに少なくとも100カ所の「※脱炭素先行地域」を作り、全国で重点対策を実施する。
  • 3つの基盤的施策を実施する。継続的、包括的支援、※ライフスタイルイノベーション、制度改革(みどりの食料システム戦略、国土交通グリーンチャレンジなど)
  • これらのモデル事業を全国に伝搬し、2050年を待たずに脱炭素達成を目指す。(脱炭素ドミノ)(注1)

※脱炭素先行地域とは、地域特性に応じて効果的で効率的な方法で2030年までに、地域と暮らしに関わる分野の温室効果ガスの削減、家庭や業務などの民生部門における電力消費による二酸化炭素の排出実質ゼロを実現するために、先行的な取り組みを行う地域です。(2023年4月脱炭素先行地域として選定されている地域は46カ所)
※ライフスタイルイノベーションとは、低炭素型の社会を実現するための高断熱住宅や空調制御、地域資源の利用などの新たなライフスタイル(注2)

脱炭素先行地域である長野県伊那市のモデル事業を紹介します。
伊那市では「伊那から減らそうCO2!!促進事業」が取り組まれており、既存の建物の再エネ設備の普及などを行っています。
家庭用太陽光発電や、太陽熱利用システム、薪ストーブやペレットストーブなどに対し補助金を出すこと、公共施設への再エネ設備の設置などに対する助成が行われています。
さらに、豊富な森林資源を活かし、燃料としてのペレットや木質チップの製造設備の充実に取り組み、安定的な燃料の供給も進めています。(注2)

(注1)参考:国・地方脱炭素実現会議 地域脱炭素ロードマップ【概要】
(注2)参考:環境省 ライフスタイルイノベーション
(注3)参考:環境省 ecojin【特集】カーボンニュートラルの未来を地域から

CO2を除去するネガティブエミッション技術(NETs)

ネガティブエミッション技術とは、大気中の二酸化炭素を回収、吸収、貯留、固定化することで、大気中の二酸化炭素を除去(CDR、Carbon Dioxide Removal)する技術のことであり、自然環境での二酸化炭素の吸収、固定化の過程に人為的な工程を加えることで加速させる技術やプロセスのことです。

主な技術内容には、次のようなものがあります。

  • 植林、再生林
    植林による新規エリアの森林化、再生林により自然や人間活動で減少した森林の再生と回復を行う
  • 土壌炭素貯留
    バイオマス中の炭素を土壌に貯留し管理する技術
  • バイオ炭
    バイオマスを炭化して炭素を固定する技術
  • BECCS
    バイオマスエネルギー利用時の燃焼により発生する二酸化炭素を回収、貯留する技術
  • DACCS
    大気中の二酸化炭素を直接回収して貯留する技術
  • 風化促進
    玄武岩などの岩石を粉砕、散布し、風化を人工的に促進する技術
    岩石の風化の過程で二酸化炭素を吸収する
  • 海洋肥沃・生育促進
    海洋への養分散布や優良な生物などを利用し、生物学的生産を促し二酸化炭素の吸収、固定を人工的に加速させる技術
    大気中からの二酸化炭素の吸収量の増加を見込んでいる
  • 植物残渣海洋隔離
    海洋中の植物残渣(植物の成長過程で不要になった部分など)に含まれる炭素を半永久的に隔離し、自然分解による二酸化炭素の発生を防ぐ方法、ブルーカーボン(海藻やマングローブなどの海洋植物が二酸化炭素を取り込み地下に貯留するプロセス)のみではなく外部からの投入を含む
  • 海洋アルカリ化
    海水にアルカリ性の物質を添加し、海洋の自然な炭素吸収を促進する方法

これらの方法の一例として、人工交配により従来よりも約1.5倍で成長するエリートツリーの開発や、ゲノム編集などの技術を応用し、光合成能力の高い作物を開発することなどがあります。
ネガティブエミッション技術は、まだ開発段階であるため多くの可能性がありますが、それぞれの二酸化炭素固定量についての正しい評価方法などの課題もあります。

参考:産業技術環境局 ネガティブエミッション技術について

カーボンニュートラルを表明している国と各国の取り組み

日本では2050年にカーボンニュートラルの実現を目指しています。世界でも、145の国と地域が2050年〜2070年までにカーボンニュートラルを目標に掲げました。
ここでは、各国のカーボンニュートラルへの取り組みについて解説します。

アメリカ
2050年のカーボンニュートラル実現を目標としています。
2021年には「2030年までに2005年に比べ温室効果ガスを50〜52%削減」と発表しました。
高収入の雇用の創出とクリーンエネルギーにより、持続可能なインフラを構築し、連邦政府全体で科学的完全性と証拠に基づいた政策立案を行いながら、国内外の気候変動対策に取り組むとしています。また、再生可能エネルギーによる雇用の創出、インフラのクリーンエネルギー化などによる経済成長も掲げています。
アメリカでは、気候変動への配慮を外交政策と国家安全保障の不可欠な要素と位置付けています

EU
2050年にカーボンニュートラルの実現を目標としています。
EUは「欧州グリーンディール」を策定しています。これは、EU全体の持続可能な経済への移行を促進する枠組みであり、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの拡大、交通手段の環境への配慮、産業のグリーン化などが含まれています。
さらに、化石燃料からの脱却の支援としてJust Transition Fundが設けられています。この資金は、化石燃料に依存している国や地域を支援するものであり、いかなる化石燃料の開発にも使用することはできません。
2050年には、カーボンニュートラルを実現し、経済成長が資源の使用から切り離された、近代的で資源効率が高い競争力のある経済を目指しています。

参考:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構 欧州:EUは175億ユーロのグリーン移行基金を承認

イギリス
2050年までにカーボンニュートラルの実現を目標としています。
イギリスでは、電気自動車や熱需要の電化などの影響で、電力需要が現在の3,000億kWhから2050年には5,700億〜6,700億kWhと増加することが見込まれています。増加する電力需要に対応するため、炭素の排出を抑えた電源での発電を4倍に増やす必要があるとしています。
そのために、2030年までにガソリン、ディーゼル車の新車販売を禁止することや、クリーンテクノロジーである風力、炭素回収、水素、原子力、電気自動車などに120億ポンド(約2兆1,955億円)を投資し、25万人の雇用創出と支援の「グリーン産業革命」を推し進めるとしています。

参考:JETRO 「グリーン産業革命」を発表、ガソリン、ディーゼル車は2030年に販売禁止へ

中国
2060年までにカーボンニュートラルの実現を目標としています。
2025年までに重点産業のエネルギー効率を上昇させ、経済活動に対するエネルギーの利用効率を示す指標である単位GDP当たりのエネルギー消費量を2020年に比べ13.5%削減、二酸化炭素排出量を18%引き下げ、非化石エネルギーの割合を約20%、森林カバー率を24.1%に引き上げるとしています。
さらに、2030年までに重点産業のエネルギー利用効率を国際先進水準にまで上げること、太陽光、風力発電設備容量を12kW以上、森林カバー率を約25%にすることを目指しています。
そして、2060年にはエネルギー利用効率効率を国際先進水準に到達させ、非化石エネルギーの消費割合を80%以上に上げ、カーボンニュートラル目標を実現するとしています。

参考:JETRO カーボンニュートラルへの取り組み方針発表、具体的な目標も明示(中国)

韓国
2050年までにカーボンニュートラルの実現を目標としています。
韓国では、2020年7月に「韓国版ニューディール政策」を発表しました。この政策は、産業構造の転換手段としてのデジタル化、グリーン化を推進し、主に産業と雇用の創出を行うものです。また、2020年12月に発表された「カーボンニュートラル推進戦略」は、温室効果ガスの削減によりパリ協定を着実に実行するための総合的な政策で、地球温暖化の対策として進んでいます。
韓国では、2030年までに温室効果ガスを2017年に比べ24.4%削減するという目標を掲げています。

参考:JETRO 【コラム】韓国のグリーン政策を読み解く
参考:資源エネルギー庁 「カーボンニュートラル」って何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?
参考:資源エネルギー庁 第2節 諸外国における脱炭素化の動向

日常生活でもできる地球温暖化対策

多くの国や地域、企業などが取り組んでいるカーボンニュートラルですが、家庭からの二酸化炭素の排出割合は14.7%にもなるため、家庭でも取り組むことが大切です。ここでは、日常生活でもカーボンニュートラルに取り組める節電などの方法を紹介します。(注1)

家の中で取り組めること

  • エアコンの設定温度を適切にする(約68円/月の節約)
  • エアコンのフィルターをきれいにする(約72円/月の節約)
  • 設定温度を「強」から「中」にするなど適切にする(約139円/月の節約)
  • 冷蔵庫に詰め込みすぎない(約98円/月の節約)
  • テレビの明るさを控えめにする(約61円/月の節約)
  • 電気ポットの保温時間をなくす(約242円/月の節約)
  • 洗濯は何回もせず、まとめて回数を減らす(約13円/月の節約)
  • 洗濯物の乾燥はまとめて行う(約94円/月の節約)(注2)

これらのほかにも、古い家電を省エネ家電に買い替えることや、太陽光発電の設置などもカーボンニュートラルへの取り組みになります。

外で取り組めること

  • 自家用車ではなく、公共交通機関を使う
  • 地産地消の生産物を選ぶ
  • 自動車に乗る際はエコドライブをする
  • 低燃費、低排出ガス車を利用する

(注1)参考:全国地球温暖化防止活動推進センター 4-04 日本の部門別二酸化炭素排出量(2021年度)
(注2)参考:全国地球温暖化防止活動推進センター くらしを豊かにする節エネ・節電アクション!!

カーボンニュートラルの実現のためにできることからはじめてみましょう

カーボンニュートラルは、身近に迫る異常気象や食料難から私たちの生活を守るために重要な取り組みです。世界中で頻発する地球温暖化の影響は、私たちの日常生活にも大きな影響を与えます。
多くの国や企業の取り組みに加え、日常生活においても行動を起こすことが不可欠であり、少しでも意識を変え、行動を変えていくことが私たちの将来を守ることにつながるのです。
多くの国が2050年のカーボンニュートラルの実現を目指しています。2050年、世界がどのように変わるのか、私たちの生活はどのようになっているのか、将来のためにできることからはじめてみましょう。

この記事の執筆者
EARTH NOTE編集部
SDGs情報メディア
「SDGsの取り組みを共有し、循環させる」がコンセプトのWEBメディア。SDGsの基礎知識や最新情報、達成に取り組む企業・自治体・学校へのインタビューをお伝えし、私たちにできることを紹介します。
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。
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