いじめ問題とは。その原因や対策を知り、いじめのない学校や社会を目指そう

いじめは、毎年後を絶たず、深刻な社会問題となっています。
国は法整備を行い、時代の流れに合わせていじめの定義も変化してきました。
いじめは学校や職場などの組織的な環境で発生しやすく、刑事事件に発展する場合もあることから、早急で適切な対応が求められています。
SDGsにも関わる課題であり、一人一人が向き合い行動していくことが大切です。
本記事では、いじめの定義やその原因について触れながら、日本におけるいじめの現状や対策、その取組を分かりやすく解説します。
目次
受けた側が心身の苦しみを感じたら「いじめ」に
いじめにはいくつかのパターンがあり、その定義は時代によって変遷しています。
被害者や加害者にも深刻な問題を引き起こす場合があり、その原因を知り対応していくことが求められます。
これらをご紹介していく前に、そもそも「いじめ」とは何を指すのかを確認してきましょう。
現在、「いじめ防止対策推進法」によると、文科省はいじめを以下のように説明しています。
“「いじめ」とは、「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。」とする。”
出典:文科省-いじめの定義
起こった場所は学校の内外を問わず、いじめを受けた側が辛く感じていれば、いじめと定義されることになります。
「たいしたことない」と思われるような行為であっても、人の感受性はそれぞれなので、相手の立場になってよく考える必要があります。
さらに、いじめの中には児童の生命や身体などに危険が及ぶような重要な事案もあり、警察への早期の相談や通報が必要なものもあります。
状況に応じて、教育的な配慮や被害者の意向を踏まえた上で、警察と上手く連携をとることが必要とされています。
いじめの定義は変化してきている
平成25年度以降から現在におけるいじめの定義は前項でご紹介しましたが、これまでの定義がどのように変遷してきたのか見ていきましょう。
昭和61年からのいじめの定義
自分より弱い者に対して一方的に、身体・心理的な攻撃を継続的に与え、受け手が深刻な苦痛を感じているもの。学校がその事実(いじめの内容等)を確認しているもの。起こった場所が学校の内外を問わない。
平成6年度からのいじめの定義
自分より弱い者に対して一方的に、身体・心理的な攻撃を継続的に加え、受け手が深刻な苦痛を感じているもの。起こった場所は学校の内外を問わない。いじめかどうかの判断を表面的・形式的に行うのではなく、いじめられた側の立場として行う。
平成18年度からのいじめの定義
児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。 起こった場所は学校の内外を問わない。いじめかどうかの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた側の立場として行う。
出典:文科省-いじめの定義
昭和61年から平成17年までの定義においては、「自分より弱い者に対して一方的な攻撃を継続的に与え、受け手が深刻な苦痛を感じている」ことが強調されており、学校の先生や周囲の大人によって判断されていました。
平成6年度からは、「学校がいじめの事実を把握している」ことが削除され、いじめかどうかの判断は、いじめられた側の立場として行うと明記されていることが特徴的です。
さらに平成18年度からは、「一方的に」「継続的な(攻撃)」「深刻な(苦痛)」といった限定的な表記が削除され、「一定の人間関係のある者」「精神的な苦痛」などの記載に変更されました。
そして、平成25年度から現在に至るまでの定義では、「インターネットを通じて行われるもの」等の表記が追加され、犯罪行為として認められる重大ないじめに対しては警察と連携した対応をとることが追加されました。
このように、第三者が表面的にいじめを認定していた以前に比べ、いじめられた側の立場に寄り添うようにいじめの定義が変更されていき、攻撃の度合いに関わらず、被害者がどう感じたのかが尊重されるようになりました。
いじめには種類がある
文科省によると、いじめには大きく3つのタイプがあると公表しています。
1.リーダー争いによるいじめ
「さる山のボス争い型」ともいわれますが、教師やスクールカウンセラーなどの協力によって対応が可能なタイプとされています。
学年当初に発生しやすく、リーダー争いや嫉妬によって起こることもあり、新しいリーダーが決まるなどして子供間で解決する場合もあります。
大人が介入すべきか、集団内での解決を見守るのか、状況に応じて判断することが求められます。
2.異質を排除して集団の結びつきを強めるいじめ
いくつかのタイプが混ざり合っていて対応が難しく、「みにくいアヒルの子型」ともいわれます。
集団の中で異質とされる子どもの特性がターゲットとなり、体形や人種、アトピーなどの見た目の特徴、性格や家庭状況、転校生、学習能力などの特徴的なものを排除し、集団の平均化を図ることで、集団の繋がりを強めようとします。
解決されない限りターゲットは変わりながら発生し続け、表面化せず発見しにくく、集団のリーダーが指示を出して自身の優位性を維持しようとする場合もあります。
3.犯罪型のいじめ
暴行や恐喝、窃盗、万引きの強要など、犯罪性のあるいじめは児童相談所や警察と速やかに協力して対応する必要があります。
上記の「さる山のボス争い型」や「みにくいアヒルの子型」のいじめがエスカレートして犯罪型になる場合もあり、表面上ではその深刻度が判断できないので注意が必要です。
いじめは子どもの集団で起こりやすく、その構造は複雑
学校のクラスなどの集団内では、メンバー間で不和や不適応が起こると、異質なものを排除して集団のつながりを強めようとする傾向があり、人間関係の歪みが表れやすいです。
一人一人が自分の状態に満足し、人間関係を適切にすることを学んでいれば大きな不和は起きにくいですが、そうでない場合は、適応できていない人に同調するように周囲もいじめに加担することがあります。
そうすると、いじめる人、いじめられる人、傍観者(見てみぬふりをする)、観衆(面白がる等)、といった構造になりやすくなります。
いじめに加担したくない場合であっても、力関係で弱い立場にある人や自分の身を守りたい人は同調せざるを得ない場合もあり、その構造は複雑となっていることを把握しておく必要があります。
いじめが起こる原因の一つは「ストレスや不満のはけ口」
児童が感じている様々なストレスや不満を発散するために、いじめが起こりやすいといわれています。
周囲に認めてもらいたい、といった承認欲求や、自分や他人を大切にする思いやりの欠如などが内面にあり、感情のコントロールや上手に気持ちの表現ができないと、八つ当たりや自己防衛として、いじめに発展することがあります。
児童の家庭環境が影響を与えている場合、親の過干渉や過保護、コミュニケーション不足、価値観の変化などにより児童がストレスや不満を感じ、学校で八つ当たりしてしまうケースもあります。
そのため、いじめをしたことに対してただ罰を与えるのではなく、健やかな内面を育むためのサポートも必要であると指摘されています。
いじめの被害者と加害者に起こりうる問題
いじめの被害者に起こりうる問題として、いじめが原因で学校に通うことが難しくなり、不登校になってしまう場合や、そのまま社会に出る機会を失い、引きこもりから抜けられなくなる場合があります。
いじめによって受けた心理的なストレスが深刻であるほど、一生の傷となって心に残り、日常生活でのコミュニケーション等に支障をきたし、最悪の場合は自ら命を絶ってしまう重大なケースもあります。
いじめは、いじめる側にも問題が起こることがあり、相手の気持ちを考えることができないまま社会に出ることで、周囲と協調できないなどのリスクも考えられます。
自分の思い通りにできないと気が済まない、何をしても許される、などと感じてしまうことにも問題があります。
日本の学校におけるいじめの現状
実際に、令和3年度の日本の学校におけるいじめの発生状況を見ていきましょう。
文部科学省の調査結果による数値を基に分かりやすく解説しますが、あくまでいじめの認知件数であり、放置されているいじめも存在している懸念は念頭に置いておく必要があります。
いじめの認知件数や重大事態は増加傾向にある
小・中・高等学校、特別支援学校におけるいじめの認知件数は以下の結果となっています。
- いじめの認知件数は615,351件(前年度517,163件に比べ、98,188件(19.0%)増加)
- 児童生徒1,000人当たりの認知件数は47.7件(前年度39.7件に比べ、8件増加)
- いじめの重大事態の件数は705件(前年度514件に比べ、191件(37.2%)増加)
- 年度末時点でのいじめの解消状況は、493,154件(80.1%)
学校全体の状況としては、いじめの認知件数や重大事態の件数が前年度に比べ増加傾向にあり、過去最多となっています。(なお前年度は減少傾向)
新型コロナウイルス感染症の影響により、感染症対策をしながら学校行事や部活動などの活動が再開された頃であることから、児童同士の接触が増えたことや、いじめの積極的な認知や理解が広がったことも増加傾向にある原因と考えられます。
いじめの解消状況が高いことから、早期発見・対応ができた件数も多くなっていますが、引き続きいじめの認知を広げ、重大事態を防ぐことが必要です。
いじめのピークは小学校2年生と低年齢化している
学校全体におけるいじめ状況をご紹介しましたが、続いては、令和3年度の学校ごとにおけるいじめの認知件数を比較してみましょう。
- 小学校のいじめ認知件数は、500,562件(前年度420,897件に比べ、79,665件増加)
- 中学校のいじめ認知件数は、97,937件(前年度80,877件に比べ、17,060件増加)
- 高等学校のいじめ認知件数は、14,157件(前年度13,126件に比べ、1,031件増加)
- 支援学校のいじめ認知件数は、2,695件(前年度2,263件に比べ、432件増加)
いじめの認知件数は、小学校が圧倒的に多く、学年ごとに見ていくと小2をピークに、学年が上がるにつれて減少していく傾向にあります。
いじめの解消状況としては、小学校が80.4%、中学校が79.1%、高等学校が80%、支援学校が80.6%となっており、いずれも高い数値となっています。
出典:文部科学省-令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要
いじめで一番多いのは「言葉の暴力」
いじめの内容については、以下のことが分かっています。
- 小・中・高等学校、特別支援学校において最も多いのは、「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」
- 小・中学校、特別支援学校において2番目に多いのは、「軽くぶつかられたり、遊ぶふりをしてたたかれたり、蹴られたりする」
- 高等学校において2番目に多いのは、「パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる」
- 「パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる」の件数は全体で21,900件と増加傾向
言葉による嫌がらせがいじめの中で最も多く、ほとんどの学校において半分以上の割合を占めています。
小・中学校、特別支援学校においては、軽くぶつかられる等の行為が次いで多くなりますが、高等学校ではネットを使ったいじめが多くなっています。
その次に多いのは、「仲間はずれ、集団による無視をされる」「嫌なことや恥ずかしいこと、危険なことをされたり、させられたりする」が挙げられます。
パソコンや携帯などによるいじめは、学校全体の件数としても増加しており、平成28年度と比べると2倍以上の件数となっています。
いじめ原因による不登校や自殺も発生している
いじめが原因で不登校となっている児童数は、小学校は245件(不登校全体の0.3%)、中学校は271件(不登校全体の0.2%)あることが分かっています。
いじめが原因で自殺をした児童数は、中学校は4件、高等学校は2件あることが分かっていますが、自殺原因が不明な件数が学校全体で213件あり、周囲が把握できていなかった様々な要因も考えられます。
学校におけるいじめ問題への取り組み方
いじめと向き合うためには、学校や教育者が自身の問題として真摯に捉え、徹底して取り組む必要があります。
日頃の授業や生活において、子供達への深い理解をしながら個人に合わせた学びを行い、楽しく学べるよう工夫しつつ、良い学校生活を送れるようにしていくことが大切です。
いじめを防止し取り組んでいく上で、学校や指導者が意識すべきことやポイント、教育委員会による支援をご紹介します。
認識すべき5つのこと
文部科学省によると、以下の5つのことを踏まえて、いじめ問題に取り組むよう示しています。
1.「弱いものをいじめることは人間として絶対に許されない」との強い認識を持つこと。
どのような場合であっても、「いじめは許されない」ことを全体に周知する必要があり、子供の成長にいじめが必要であるという考えは認めず、いじめを面白がり傍観する行動も同等に許されていません。
2.いじめられている子どもの立場に立った親身の指導を行うこと。
子供の悩みを真摯に受け止めつつ、SOSに気付けるよう鋭敏に察知することに努め、自分の周囲で重大ないじめが起こりうるという危機感を持つ必要があります。
3.いじめは家庭教育の在り方に大きな関わりを有していること。
いじめ問題には家庭の役割が大きく関わっており、いじめの解決には家庭が徹底して取り組む必要があります。家族の深い愛情や心の支え、信頼による厳しさ、家族の会話やコミュニケーションをとることが大切です。
4.いじめの問題は、教師の児童生徒観や指導の在り方が問われる問題であること。
個性や一人一人の違いを尊重する価値観を育てる学びを進め、道徳や心の教育を通して生命や生きることの大切さ、喜びなどについて指導することが必要です。
5.家庭、学校、地域社会など全ての関係者がそれぞれの役割を果たし、一体となって真剣に取り組むことが必要であること。
いじめの解決や防止のために、全ての様々な関係者が各立場から責任を果たす必要があり、地域を巻き込んだ取組も急務とされています。
学校がいじめに取り組むための5つのポイント
上記のいじめに関する基本的意識に基づきながら、学校においては以下のポイントをぬかりなく推進する必要があります。
1.実効性ある指導体制の確立
・学校を挙げた対応として、いじめ件数の多い・少ないに関わらず、いじめが発生した際の迅速で適切な対応、根本解決に繋がることができたかどうかが重要になります。
・学校や教育委員会が密に連絡を取り合いながら、いじめの発生に関する状況把握と適切な対応をとる必要があります。
・校長のリーダーシップの下、教職員の役割分担や責任を明確にし、情報交換や認識を共有しつつ、全指導者が協力して有効な体制を築くことが大切です。
・校長や教頭などは、いじめに関して担当教員へ指示を出し情報共有を受けるなど、解決までフォローを行い、担当教員が一人で抱え込まないよう報告を受けることが必要です。
・事例探求やカウンセリング演習などの実践的な校内研修を行うことにより、いじめに関する共通理解や指導力向上を図ります。
2.適切な教育指導
・全ての児童に対して、いじめは絶対に許されない、という認識を徹底し、いじめをはやし立て傍観する行為も同等に許されず、大人にいじめを伝えることは正しいという認識を持たせます。
・いじめられている児童や、いじめを報告した児童がいじめられる不安がないよう守ることを教員は示す必要があり、いじめられている場合は一人で悩まないよう周囲への相談や、自分を傷つけたり命を絶ったりすることが絶対にないよう伝えます。
・全ての学校活動において、お互いを尊重して思いやり、一人一人の生命を大切にする認識を育み、友情や信頼の育成、生きることの喜びや素晴らしさについて指導します。
・児童自身がいじめの解決のためにどう関わるべきか考える機会を作り、主体的に取り組むことは大きな意味があります。
・いじめをする児童に対して、孤独感を感じさせないような教育的配慮をするとともに、いじめは他人の人権を脅かす行為であることに気付いてもらい、他人の気持ちや痛みを理解できるよう指導を続けます。
・いじめをする児童の中には、一定の間、他の生徒達と異なる場所で指導することが効果的な場合もあり、いじめの状況が限度を超えれば、いじめをする児童を出席停止とし、警察等を連携して厳しい対応をとることも必要です。そのため、日頃から保護者や教育委員会と共通理解をしておくことが大切です。
・いじめをさせない学級経営をしていくために、一人一人の指導者がいじめの重大さを理解して危機意識を持つことが必要であり、教師の何気ない一言が児童に影響を与えることに留意し、児童を傷つけてしまうことやいじめを助長することがないよう注意します。
・いじめが解決したと思われる場合でも、気付かない場所で隠れていじめが起こっている可能性を認識し、いじめが解決したと決めつけるのではなく、該当児童が卒業するまで十分な注意を続け、その都度必要な指導を行います。
3.いじめの早期発見・早期対応
・教員は問題兆候をいち早く把握する必要があり、児童の悩みを受けるには、全人格的な接し方を心掛け、日頃から児童との深い信頼関係を築くことが不可欠です。
・児童の生活状況について細かく把握することに努め、いじめを見つけるための取組を行うとともに、スクールカウンセラー等の校内の専門家と連携しながら、いじめの把握に努めます。
・いじめを把握した場合、教育委員会への速やかな報告、必要があれば教育センター、児童相談所、警察等の関係機関と協力します。
・生徒や保護者からの報告はもちろん、どんな些細であっても兆候やSOSを真剣に受け止め、速やかに関係者等と情報共有をするなど、適切な対応をとる必要があります。
・問題行動等が生じている場合、同時に他のいじめが行われている可能性に留意します。
・事実関係を確かめるためには、いじめられた児童の心理的苦痛を受け止め、当事者だけでなく友人等からの情報収集により、正確で迅速な事実把握に努めます。
・いじめの兆候を発見した場合、いじめられる児童の主張が弱いことを理由に軽視したり、双方の主張が異なることを理由に適切な対応を欠くことがないよう注意します。
4.いじめを受けた児童生徒へのケアと弾力的な対応
・心のケアについて、スクールカウンセラーや養護教諭などとの連携を積極的に行い、教育相談室は児童が相談しやすい環境に整える必要があります。
・いじめを継続させないための対応として、いじめられる生徒の緊急避難としての欠席が認められる場合があり、保護者と協力しながら学習に支障がないよう工夫をするなど必要な措置を講じます。
・いじめられる児童といじめをする児童の座席替えや学級替えも必要であり、学級編成替えの工夫も認められています。
・保護者の希望や校長等の意見を踏まえ、いじめから守るために必要であれば、区域外就学を認める措置をする配慮が必要です。
5.家庭・地域社会との連携
・いじめ問題は、学校内で解決することにこだわるのではなく、保護者や教育委員会と共有し連携することが必要です。
・学校のいじめに関する方針や対処法などの情報は日頃から公表し、保護者等の理解と協力を促すとともに、各家庭で活用できるよう工夫をします。
・学校へ寄せられたいじめの情報については、誠実に対応し、学校や保護者、地域の関係者などと意見交換を行う場や、PTAとの連絡協議の場を確保、家庭や地域と連携を積極的に図ります。事実を隠蔽するような対応は許されません。
教育委員会がいじめに取り組む5つの支援
1.学校の取組への支援と取組状況の点検
・恒常的な支援として、各学校の状況に応じて教育相談の専門家や研修講師の派遣などを行い、学校の取組を支援します。学校の教育機能を充実させるため、スクールカウンセラー等の派遣など支援を行います。
・個別事件の支援として、学校や保護者などからいじめの報告があった場合、迅速な情報把握と学校への支援、保護者への対応を行います。困難な問題を抱える学校に対しては、正常な教育活動を確保し問題が解決できるよう、担当主事の派遣等を行い指導と助言に当たります。
・国や教育委員会が発行した資料等が学校でどのように活用されたか、周知徹底されているかなどの取組を点検し、助言や指導とともに積極的な取組を促します。いじめ問題に関する研修や児童への指導内容についても点検が必要です。
2.効果的な教員研修の実施
・多くの教師がいじめに関する実践的な研修を受けれるよう配慮し、管理職や養護教諭、初任者などの区分に応じた細やかなプログラムを用意、学級経営や生徒指導に関する研修の充実を図ります。
・研修は講義形式のみにならないよう実践的な知識や経験が得られるよう工夫し、心理や医療など様々な分野からの講師を招くなど配慮します。
3.組織体制・相談体制の充実
・学校指導事務担当課だけでなく、他の関係する部課においてもいじめ問題を自身の課題として向き合い、教育委員会が一丸となって問題に取り組む必要があります。
・教育委員会や教育センターなどにおける相談体制の充実と整備を図りながら、利用者の相談ニーズをくみ取り、相談時間の延長などの工夫をする必要があります。臨床心理士等の助言の下、教員養成学部の学生など生徒と年齢の近い者を相談相手とする対策も検討します。
・民間施設や適応指導教室との連携を図るとともに、校内研修や教員研修への講師派遣を求めることも大切であり、児童福祉や警察など相談機関との定期的な情報共有等と人材の有効活用を通して、相談機関と学校のより深い連携を図ります。
4.深刻ないじめへの対応
・深刻ないじめをする生徒に対して、やむを得ず出席停止を含む厳しい指導が必要なこともあり、その場合は児童や保護者に対して十分な説明と意見の聞き取りをするよう配慮し、その期間中には必要な指導を行います。
5.家庭教育に対する支援
・家庭での教育活動を支援するために、学習機会や情報提供、親子の共同体験の充実、父親の家庭教育への参加支援など、様々な施策を進める必要があります。家庭教育に関心がない、または学校に協力的でない保護者に対して、子育てネットワークづくりのための細やかな施策を講じます。
いじめに対する国の施策
深刻な問題となっているいじめを解決・防止するために、文科省は「いじめ防止対策推進法」を制定し、いじめに対処するためのガイドラインや行動指針の公表や、対策会議等を行い、国を挙げていじめに取り組んでいます。
その他、関係省庁の取組も含めて分かりやすくご紹介します。
社会全体でいじめと向き合う「いじめ防止対策推進法」
平成25年9月に施行された「いじめ防止対策推進法」は、社会総がかりでいじめ問題に取り組むため、基本的な理念や体制、行動指針を定めた法律です。
それぞれの地域や学校において、いじめに関する基本方針が策定され、法律や方針に基づいて取組が行われています。
学校が行う施策として、「早期発見のための措置」や「インターネットを通じて行われるいじめに対する対策の推進」などの基本的施策や、個別のいじめに対しての措置として、いじめられた児童や保護者の支援や、いじめをした児童や保護者への指導等を定めています。
また、いじめの重大事態への対処として、専門家を含めた調査組織を設置し、事実関係の調査や必要な措置を講ずることなどが求められています。
各種会議の設置
いじめ防止に関する基本方針を策定する「いじめ防止基本方針策定協議会」や、いじめの現状把握や対策、防止について話し合う「いじめ防止対策協議会」が開催され、関係者間の連携強化を図り、より効果的な対策を講じることなどが行われています。
さらに、近年はネットでの誹謗中傷等のいじめが深刻となっており、個人情報の取り扱いなども含め、早期の対策を講じるために「学校ネットパトロールに関する調査研究協力者会議」が開催されています。
こども家庭庁による取組
令和5年4月に「こども家庭庁」が発足され、「こどもまんなか」をスローガンに、子供や子育て当事者の視点で行う政策の企画作りや調整、情報発信、広報、研究などが行われています。
こども家庭庁では、文部科学省や関係省庁と連携協力していじめに関する施策を進めており、いじめ対策における地域の体制づくりや対策強化に取り組んでいます。
また、こども家庭庁においては、令和3月12月に「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」が閣議決定され、主に以下3つのことに取り組んでいます。
1.学校外からのアプローチによるいじめ解消の仕組みづくり
学校内のアプローチと合わせて、いじめの長期化や重大化を防止する取組をモデル化する仕組みづくりを行います。
2.第三者性確保による重大ないじめ事案への対応強化
いじめ防止対策推進法における対応と合わせて、重大化した事案の適切な対処を進めます。
3.こども政策の司令塔としての政府全体の体制づくり
いじめは政府全体の課題として捉え、文部科学省などの関係省庁との連携をしながら、社会全体でいじめの防止を推進します。
「24時間子供SOSダイヤル」による相談対応
子供のSOSの相談窓口が設けられており、いじめで困っている時や、学校や家庭のことで悩んでいる時に気軽に相談をすることができます。
SNSでの相談や電話での相談、児童だけでなく保護者も相談できる地域の相談窓口もあり、文部科学省のサイトにて各相談に関する情報がまとめられています。
法務省によるこどもの人権相談
法務省では子供の人権に関する相談窓口を設けており、いじめや不登校などの悩みを身近な人に相談できない場合、子供はもちろん大人も相談をすることができます。
「こどもの人権110番」では電話相談が可能で、「こどもの人権SOSミニレター」は学校で配られポスト投函にて相談することができ、「SOS-eメール」ではネットで24時間いつでも相談することができます。
いじめを防ぎ、なくすためにできること
いじめが起こる原因として、様々なストレスや不満のはけ口があるとお伝えしましたが、そういった欲求不満の解消や承認欲求を満たすことなどが、いじめ解消には必要であり、子供達と対話を深め、悩みを解消していくことが大切です。
これまでいじめ防止や対策について、学校や教育委員会、国の取組をご紹介してきましたが、各学校における細やかないじめへの取組や、地域やNPOと連携した取組も重要となります。
そこで、実際に行われている具体的な取組をご紹介します。
学校におけるいじめの特徴的な取組事例
茅ヶ崎市立浜須賀中学校では、いじめをなくすために、教師からの働きかけだけでは難しいと考え、友達とのコミュニケーションを学ぶ「いじめ防止教室」や、いじめをする人やいじめられた人についてワークショップで学ぶ「いじめ防止プログラム」を行いました。
さらに希望者には、生徒同士が主体的に支え合い自治的にいじめを防止できるよう、相談スキルを身に付ける「スクール・バディ・トレーニング」を実施し、修了後はスクール・バディとして活動しました。
取組成果として、生徒がいじめを様々な角度からより具体的に考えることができるようになり、「いじめを絶対に許さない校風」が生徒に定着しつつあるとの報告がされています。
生徒が主体的にいじめの撲滅に取り組み、いじめの未然防止や早期発見・対応する取組事例として成果をあげています。
NPOのいじめの取組事例
特定非営利活動法人Protect Childrenは、いじめによって傷つき苦しむ子供が増えている中、いじめだけでなく児童虐待も増えている状況を受け、「子供たちの命や尊厳を守るための活動」を目的に設立されました。
児童や保護者からの相談に対しては、問題解決のための助言やサポートを行い、学校や教育委員会からの相談に対しては、生徒・保護者対応、登校・学習支援、様々な問題への対応を行っています。
その他、こども庁創設に向けた提案・意見等、関係機関や省庁への実態報告・意見交換、児童虐待に関する相談・連携対応、教員研修での講師など、個別のいじめ対応から政策提言まで幅広く活動しています。
学校や地域の取組を活用しながら、いじめ問題に取り組もう
いじめ問題はいまだ増加傾向にあり、いじめの認知が広まったことも増加原因にありますが、不登校や自殺につながったケースもあることから、深刻な問題として取り組む必要があります。
こうした状況を受け、いじめの定義は時代によって変遷し、以前は周囲の大人によっていじめの判断がされていましたが、現在はいじめられた人が苦痛を感じればいじめと判断されるようになりました。
いじめが生じる原因として、様々なストレスや不満のはけ口が挙げられ、複雑な家庭環境やコミュニケーション不足などによる不満の発散として引き起こる場合もあります。
そのため、いじめの早期発見・対応はもちろん、未然防止として子供達の健やかな心を育むための支援も同時に必要となります。
国や教育委員会、民間の取組をうまく活用し、学校と協力しながら、全員が一丸となっていじめの撲滅に取り組んでいくことが大切です。
いじめは学校だけでなく、職場や組織の中でも起こりうることなので、一人一人がいじめと真剣に向き合い、被害者や加害者が出ないように取り組みましょう。
<参考文献/参考資料>
出典:文科省-いじめ対策Q&A
出典:文科省-いじめへの対応のヒント
出典:文部科学省-令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要
出典:文部科学省-学校におけるいじめ問題に関する基本的認識と取組のポイント
出典:文部科学省-いじめ防止対策推進法(概要)
出典:文部科学省-いじめの問題に対する施策
出典:こども家庭庁-こども家庭庁におけるいじめ防止対策
出典:文部科学省-子供のSOSの相談窓口
出典:法務省-「いじめ」をなくすために
出典:文部科学省-特徴的なプログラム
出典:特定非営利活動法人Protect Children-活動状況等

身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。