ESGとは?SDGsとの違いや関係性を解説

SDGsに向けた取り組みはここ数年で大きく進展し、企業や個人の認知度も高まってきました。それでは、「ESG」という言葉を知っている人はどれだけいるでしょうか。SDGsと関連する言葉なのかな?と思いつつも、何を意味するのかまでは知らない人が多いかもしれません。
この記事では、ESGという言葉の意味とその概要、SDGsとの違いや、どのように関係しているのかを詳しくご紹介します。
目次
- 1 ESGは経営・投資の観点から考えるべき3つの指標
- 2 企業の視点で見るESG経営のメリットとポイント
- 3 投資家の視点で見るESG投資を行うメリット
- 4 ESGの取り組みがSDGsの目標達成につながる
- 5 ESG投資には7つの種類がある
- 5.1 ネガティブ・スクリーニング(Negative/exclusionary screening)
- 5.2 ポジティブ・スクリーニング(Positive/best-in-class screening)
- 5.3 規範に基づくスクリーニング(Norms-based screening)
- 5.4 ESGインテグレーション型(ESG integration)
- 5.5 サステナビリティ・テーマ投資型(Sustainability-themed investing)
- 5.6 インパクト投資型(Impact/community investing)
- 5.7 エンゲージメント・議決権行使型(Corporate engagement and shareholder action)
- 6 ESG投資のデメリットと課題
- 7 ESGの具体的な取り組み事例
- 8 ESGの観点で自分ができることを考えてみよう
ESGは経営・投資の観点から考えるべき3つの指標
ESGとは、Environment (環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)の頭文字を取った言葉です。ESG経営やESG投資という場合、この3つの指標を基に経営・事業活動や投資活動を行うことを指します。
昨今、気候変動などの環境問題や、ジェンダーや差別などの社会問題が表面化する中で、企業にはESGに配慮した事業活動が求められるようになってきました。
ESGに配慮した経営を行うことは企業にとって長期的な成長につながり、投資家も企業価値を判断する重要な要素とみなす動きが高まっています。
それでは、ESGの3つの指標を詳しく見ていきましょう。
Environment(環境)
これまで世界の経済は、化石燃料に依存したエネルギーシステムの上で成り立っていました。しかし急速な経済成長と引き換えに、気候変動や水質汚染、野生動物の絶滅危惧など多くの環境問題が引き起こされている現実があります。
例えば、ニュースなどで見聞きすることも多いように、地球温暖化で世界の平均気温は著しく上昇しています。2011年から2020年の間で1.09℃上昇しており、工業化前に比べると確実に加速しています。
出典:全国地球温暖化防止活動推進センター 温暖化とは?地球温暖化の原因と予測
また、水質汚染による水資源の枯渇などで、深刻な水不足になる河川流域の人口が、2050年には39億人にまで達すると懸念されています。
出典:国土交通省 水質問題の原因
企業はこれらの様々な環境問題を解決するために、積極的な取り組みを行うことが求められています。具体的に挙げられるのは、以下のような取り組みです。
- 二酸化炭素(CO2)排出量の削減
- 廃棄物の削減(プラスチックによる海洋汚染)
- 水資源の確保(水不足の解消、安全な飲水の確保)
- 生物多様性の確保(絶滅が危惧される野生動物の保護)
Social(社会)
企業が事業を存続するために、利益を上げることは不可欠です。しかし利益のみを追求する企業や個人の行動が、社会の不平等や不均衡の問題を引き起こしていることも事実です。
誰もが安心して生活できる豊かな社会を追求することが、企業活動において大きな課題になっています。
- ダイバーシティ(企業採用における性別・国籍の偏り)
- 人口問題(少子高齢化・人口集中と過疎化)
- 格差(所得格差の拡大、貧困の増加)
- 労働問題(児童労働、過労死)
特に日本では、男女平等の度合いを示すジェンダーギャップ指数が、2022年時点で世界146カ国中116位と下位に位置しています。
出典:内閣府男女共同参画局 ジェンダーギャップ指数(GCI)2022年
また格差の面では、貧困や紛争など様々な理由で学校に行けない子どもが全世界で約1億2100万人、さらに教育が行き届かず、文字の読み書きができないまま大人になった人は、約7億7300万人います。
出典:日本ユネスコ協会連盟 世界寺子屋運動について
Governance(ガバナンス=企業統治)
近年、不正会計や不適切営業など企業の不祥事が相次いで問題になっています。企業と社会の持続可能な発展のためには、企業が健全な経営を行うための自己管理体制の構築が重要であり、企業統治はその大前提であると言えます。
- 取締役会(経営の透明性・公平性)
- 権利保護(株主だけでなく従業員や取引先の権利保護)
- 法令遵守(汚職・贈収賄、不透明な会計や税務の是正)
- 情報開示(中期経営計画の設定、役員報酬の開示)
例えば、取締役会において社外取締役が占める割合は、アメリカが86.3%、イギリスが72.3%なのに対し、日本は42.8%です。先進国の中でも過半数を下回る比率に留まっており、経営の透明性が課題であると言えます。
出典:日本総研 ガバナンス構造の比較
ESGの構成要素 | 具体的な取り組み | |
E | 環境 Environment | 二酸化炭素(CO2)排出量の削減、廃棄物の削減、水資源の確保、生物多様性の確保 |
S | 社会 Social | ダイバーシティ、人口問題、格差、労働問題 |
G | 企業統治 Governance | 取締役会、権利保護、法令遵守、情報開示 |
企業の視点で見るESG経営のメリットとポイント
ESGは企業、投資家双方にとって大きなメリットがあります。それでは企業にとってESG経営を行うメリットを見ていきましょう。
メリット1:投資家から評価される
ESG投資は、非財務情報を判断基準とするため投資家にとって長期的な利益獲得の手段として注目されています。そのため、企業は積極的にESGに取り組むことで投資家から評価され、資金調達がしやすくなるというメリットがあります。企業は調達した資金でさらに社会問題解決に向けた事業を広げることが可能となり、この好循環が長期的な成長につながります。
メリット2:企業価値が高まる
ESG経営とは、ESGの構成要素である社会課題への配慮を念頭に置き、すべての人が豊かに暮らせる社会実現に向けた経営を行うことを意味します。すなわちESG経営に取り組む姿勢は、これまで以上に消費者からの信頼・評価を得られ、企業イメージの向上、ブランド強化につながります。
企業イメージの向上は、投資家からの出資だけではなく自社の商品・サービスの購入や利用の増加、優秀な人材の確保も期待できるでしょう。
メリット3:経営リスクを抑えられる
ESGにおける企業のコーポレートガバナンスの取り組みは、管理体制や法令遵守の強化により、企業の経営リスクを軽減できます。
また、環境問題、社会問題の解決に資するか否かということは、長期的な視点で見ると事業の存続に大きな影響を及ぼすと言えるでしょう。不確実性が高く未来が予測困難と言われる現代において、ESG経営はリスク軽減の有用な手段とも言えるでしょう。
ESG経営を導入するポイント
ESG経営を行う上で欠かせない視点は「持続可能性」です。環境問題、社会課題、経済を長期的な視点でとらえ、「持続可能性」を実現するための問題解決に取り組むことが必要です。
環境問題の面では、温室効果ガスの排出量削減、再生可能なエネルギーや資源の活用、プラスチックごみによる海洋汚染の対策などを主要な課題として事業活動に組み込むことが必要でしょう。
また、ダイバーシティ(多様性)や労働環境の改善も、組織の生産性を上げ、活発な企業活動を行う上で必要な課題です。人種や国籍、年齢や性別を問わない人材登用、労働待遇改善といった対応が求められます。
そしてガバナンスは、こういった環境活動や社会課題への取り組みを行う上での前提条件と言っても良いでしょう。情報開示を行い、透明性の高い企業として認知されることで、よりその活動が高く評価され、信頼性の担保に大きな役割を果たすことになります。
投資家の視点で見るESG投資を行うメリット
企業がESG経営を行うメリットを見てきましたが、投資家の視点ではどのようなメリットがあるでしょうか。
ESG投資という考え方がどういう経緯で生まれ、世界的に広がってきたのか。それらの背景を踏まえながら解説していきます。
ESG投資の歴史
ESG投資の起源は、1920年代にまで遡ると言われています。
当時、アメリカのキリスト教協会では、宗教上の教義からタバコ、アルコール、ギャンブル等の産業への投資を禁止しました。これは、あえて収益性が高い関連産業を投資対象から排除する、「倫理的」側面を持った投資行動でした。
これが1960年代頃から社会課題を踏まえたものとなり、さらに1990年代から環境課題へと広がり今日に至るESGの考え方を形作りました。
ESG投資の世界的な広がり
2020年時点で、世界のESG投資額はおよそ35.3兆ドル(約3,900兆円)です。全世界の投資額の3分の1を占めており、直近4年間でおよそ1.5倍に増えています。
参考:日興リサーチセンター ESG投資の残高推移
世界のESG投資は、2006年に国連が「責任投資原則(PRI)」を提唱したことで急激に増加し始めました。PRIは、投資家が投資をする際にESGの観点を考慮し意思決定をすべきであるとする世界共通のガイドラインで、6つの原則で構成されています。
- 私たちは、投資分析と意思決定のプロセスに ESG の課題を 組み込みます
- 私たちは、活動的な所有者となり所有方針と所有習慣に ESG の課題を組み入れます
- 私たちは、投資対象の主体に対して ESG の課題について 適切な開示を求めます
- 私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ 実行に移されるように働きかけを行います
- 私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために 協働します
- 私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に 関して報告します
出典:環境省 責任投資原則
PRIには2023年現在で5,300を超える機関が署名しており、署名機関の総資産運用残高は121.3兆ドル(約1京6000兆円)にも及びます。
出典:PRI公式サイトより
日本でもここ数年で、急速にESG投資への関心が高まってきています。
2015年に世界最大規模の投資運用機関である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、PRIに署名したことが大きな契機となりました。これを境に日本のESG投資額は増え続け、2020年の段階でおよそ320兆円にのぼっています。
出典:GSIA公式サイトより
それでは投資家の観点から、ESG投資のメリットを見ていきましょう。
ESG投資のメリット1:長期投資の重要な判断材料になる
ESG投資で重視される内容は、短期間で効果を測ることは難しい反面、長期的には環境や社会に良い影響をもたらすとされています。
これまでの投資は、業績など財務情報のみ考慮されるケースがほとんどでしたが、ESGにおける非財務情報を判断材料にすることで長期投資においても十分なリターンが期待できるようになりました。
ESG投資のメリット2:市場の拡大が期待できる
ESG投資は、2兆ドルほどに留まる日本や他の地域ではまだそれほど多くない状況ですが、2020年のGSIA(世界持続的投資連合)の調査によると、アメリカで約17兆ドル、ヨーロッパでは約12兆ドルと世界規模で大きく拡大しています。
出典:GSIA公式サイトより
今後さらに世界全体でESG投資の機運が高まれば、市場の拡大によって多くのリターンが見込めるでしょう。
ESG投資のメリット3:社会貢献に参加できる
ESG投資は、財務情報のみに着目していたこれまでの投資とは違い、ESGに配慮した企業を評価する投資手法です。
ESG経営に取り組む企業への投資は、社会貢献活動の促進に直結すると言えます。つまり、ESGの観点で投資をするということは、間接的に社会貢献へ参加できると言い換えることができるでしょう。
ESGの取り組みがSDGsの目標達成につながる
ESGは、SDGsと具体的にどのような関係があり、どう違うのでしょうか。また、CSRやSRI、サステナビリティといった似たような言葉を耳にすることも多いでしょう。
これらはSDGsの目標達成と密接な関係があります。それぞれの言葉が持つ意味、SDGsとの関係や違いを見ていきましょう。
ESGとSDGsの違い
ESGとSDGsの大きな違いは「視点」が異なることです。
SDGsは国や企業という単位から一個人に至るまであらゆる人の視点で、世界の社会課題解決に取り組むための目標ですが、ESGは企業と企業に投資する投資家の視点の考え方であると言えます。
また、SDGsが2015年の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットを対象としているのに対し、ESGでは環境・社会・企業統治を重点要素にしています。
SDGs目標を達成するための要素としてESGがあり、ESGという行動指針の先にSDGsという大きな目標があるという関係性だと言えるでしょう。
ESGとCSRの違い
CSRとは「企業の社会的責任」を意味する、Corporate Social Responsibilityの略です。
企業の社会的責任は、従業員、消費者、投資者への配慮に留まらず、社会全体に至るまで広範にわたる影響力を考慮しなければならないという考え方です。そのために、各企業がそれぞれの役割、課題を見つけ社会貢献活動に取り組むというものです。
食品の産地偽装や賞味期限の改ざんなどの企業不祥事が相次いだことで、CSRは注目されるようになりました。
ESGとSRIの違い
SRIは「社会的責任投資」を意味する、Socially Responsible Investmentの略です。名前の通り投資をする観点に立った言葉です。これまでの投資は企業の成長性や財務情報を基準にしたものでしたが、SRIは先述したCSR(社会的責任)に企業が配慮しているかどうかも同時に重視します。
このSRIという考え方が時代を経て発展し、ESGという考え方になっていきました。
ESGとサステナビリティの違い
サステナビリティ(sustainability)は、持続可能性という意味の言葉です。持続可能性というのは、環境・社会・経済などにおいて、その機能を失わずに活動を行なっていくことができるシステムやプロセスを指します。一時的な利益やパフォーマンスではなく、長期的な視点で物事を捉えていくことが必要という考え方です。
サステナビリティ経営という場合、その観点から持続可能な状態を実現する経営指針を指します。
いわばサステナビリティを実現させる行動目標がSDGであり、ESGはサステナビリティを実現させるために様々な社会的課題に取り組む具体的な行動指針であると言い換えることができるでしょう。
ESG投資には7つの種類がある
ESG投資は、様々な種類に分類されます。世界持続可能投資連合(GSIA)が定義した7つの手法があるので見ていきましょう。
ネガティブ・スクリーニング(Negative/exclusionary screening)
ネガティブ・スクリーニングはSRIの考え方に基づく投資手法で、ESGの礎とも言えるものです。
アルコールやたばこ、武器製造、動物実験など、環境問題や社会問題に悪影響を及ぼすと定義される特定の産業を投資対象から排除する手法です。
ESG投資の中では最も古いものですが、「ESGと逆行するものを対象から除外する」という性格から、世界的に見ても依然として高い割合を占める投資スタンスとなっています。
ポジティブ・スクリーニング(Positive/best-in-class screening)
ネガティブ・スクリーニングとは反対に、社会へ良い影響を与える産業に積極的に投資を行う方法がポジティブ・スクリーニングです。すなわちESG経営の評価が高い企業や業界に投資することと言い換えられます。
例えば、リサイクルなどの再生エネルギー事業、ダイバーシティを重視した経営を行う企業などが挙げられます。同業種の中でESG評価の高い銘柄を選別して投資を行うことを「ベスト・イン・クラス」と呼び、これもポジティブ・スクリーニングの一種です。
規範に基づくスクリーニング(Norms-based screening)
国際的なルールに基づき、それに反している企業を投資対象から外す投資スタンスです。
以下のような国際団体が定めたルールを規範にしています。
- 国連グローバルコンパクト10原則(UNCG)
- OECD多国籍企業行動指針
- 国際労働機関(ILO)
ネガティブ・スクリーニングに似ていますが、こちらは必ずしも業界全体を対象にはしていません。
ESGインテグレーション型(ESG integration)
インテグレーションには、「2つ以上のものを組み合わせて1つのものにする」という意味があります。ESGインテグレーション型の投資は、従来の財務情報を中心に考慮した投資と、非財務情報を考慮したESG投資、この両方を踏まえた投資手法です。
ESGインテグレーション型投資は、国連責任投資原則(PRI)にも明記された投資方法で、アメリカでは主流の投資手法です。日本も2020年時点で35%がESGインテグレーション型の投資で、最大の割合となっています。
出典:Global Sustainable Investment Review 2020
サステナビリティ・テーマ投資型(Sustainability-themed investing)
ESGの中でも、サステナビリティに関するテーマに重点を置いて取り組む企業や業界を対象とした投資手法です。
例えば、太陽光発電事業への投資ファンド、グリーンボンドファンドなどが代表的です。
グリーンボンドとは、企業や自治体が環境保全活動に必要な資金を調達するために発行する債権(環境債)を指します。用途が明確で透明性が高いことから、企業にとって資金調達がしやすいのが特徴です。
サステナビリティに向けた取り組みはSDGsの目標達成に直結するため、日本でも年々増加傾向にあります。
インパクト投資型(Impact/community investing)
財務的リターンを追求しながらも、社会問題、環境問題の解決を目的として事業をおこなっている、企業・業界に投資する手法です。
例えば社会問題では、貧困層・低所得者層を対象に医療・教育を供給する小規模金融のマイクロファイナンスやコミュニティ開発金融に対する投資、環境問題では、再生可能エネルギー、持続可能な農業への投資があります。
投資家が自ら投資対象の企業の株主となり、経営層とのエンゲージメントを図ることでESG経営への取り組みを働きかける手法です。
ESG投資においてエンゲージメントと言う場合、「建設的な目的を持った対話」を指します。具体的には役員との面談、株主提案、議決権行使などで、ESG課題に対する取り組みや改善の要求を行います。
ESG投資のデメリットと課題
ESG投資には多くのメリットがありますが、それと同時にデメリットになる点もあります。ESG投資を行う上では、メリットだけではなくデメリットについても理解、把握しておくことが必要でしょう。
短期的な効果を判断しにくい
ESG投資は持続可能性の追求という点で、長期的な視点を前提にしています。したがって、株やFXなど短期的なリターンを得ることは難しいと言えます。そもそもESG投資は、株式投資やFXとは投資目的が違うので、短期的なリターンを期待してESG投資を行うこと自体少ないとも言えるでしょう。
一方短期的な影響が小さいこともあり、一時的な企業の業績悪化はあまり影響を受けないというのは利点でもあります。
基準が乱立している
ESG投資は歴史がまだ浅いこともあり、企業から十分な情報が開示されておらず基準が乱立しているという問題があります。よって投資対象として最適かどうかという情報を集め、投資判断をするまでに時間がかかってしまうことがデメリットです。
ESGへの取り組みは財務諸表では判断しづらいため、各調査会社等が決めた指標を基にすることが一般的です。例えばアメリカのMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)やS&P Global、イギリスの非営利団体CDPなどがESGの評価機関として知られています。
ここ数年でようやく企業側でも上場企業を中心として、ESGに関する非財務情報の情報開示の仕組みが整備されてきています。今後、よりその動きが進んでいけば問題の解消が進んでいくでしょう。
中小企業に浸透しにくい
資金力がある大企業に対して財務規模の小さい中小企業は、設備投資などの面で取り組みを始めたり、継続したりするハードルが高いという問題があります。
ただ、企業のブランディング強化や資金調達がしやくなるという点から、中小企業がコストをかけてESG経営を行うメリットは非常に大きいと言えます。1つ1つの企業が意識的に取り組みを進めていくことで、今後中小企業に対するESG投資の動きも広がっていくでしょう。
グリーンウォッシュ企業に投資してしまうリスクがある
環境保全に配慮した経営を行なっているように見せかけて実態がない、もしくは過剰に報告している企業のことをグリーンウォッシングと呼びます。こういったグリーンウォッシュ企業に投資してしまう可能性があるのも、ESG投資においてのリスクと言えます。
ESG経営が投資家に評価されるということを悪用し、IR情報やホームページなどで実際には行われていない活動や取り組みを過剰に広報するケースは実際に起きています。グリーンウォッシュ企業であるかの真偽をすぐに判別することは難しく、信頼できるソースを探す手間が発生するというのもESG投資のデメリットと言えるでしょう。
ESGの具体的な取り組み事例
SDGsへの関心の高まりから、ESG経営を行う企業は年々増加しています。ESGにおける環境・社会・企業統治の観点から、取り組み方は企業によって様々です。
実際にESGに取り組んでいる企業を5社ピックアップして、具体的な事例をご紹介します。
SOMPOホールディングスの環境への取り組み
SOMPOホールディングスは、2006年の国連の責任投資原則(PRI) 発足時から日本の保険会社として初めて署名、参画しています。中でも環境問題に対する活動を重点的に行なっており、SOMPO気候アクションと掲げる「気候変動への適応、緩和、社会のトランスフォーメーション」を目指すとしています。
出典: SOMPOホールディングス SOMPO気候アクション
また、企業としてのESG経営だけではなく、投融資や保険引受けなど機関投資家としてもESGへの配慮を推進し、持続可能な社会の実現を目指しています。
環境債(グリーンボンド)、社会貢献債(ソーシャルボンド)など、再生可能エネルギー事業への投資を積極的に行なっており、基礎インフラの開発、途上地域の経済や社会の発展に貢献するとしています。
具体的な取り組みとして、農業保険のグローバル統合プラットフォーム『AgriSompo』があります。これは、東南アジアで展開されている「天候インデックス保険」などをはじめとする、農業マーケットへの保険提供です。これらの取り組みは、国連開発計画(UNDP)が主導する、従来の収益活動とサステナビリティの両立促進を行う「ビジネス行動要請(BCtA)」に2015年に認定されています。
出典: SOMPOホールディングス農業保険のグローバル統合プラットフォーム『AgriSompo』
出典: SOMPOホールディングス農業事業者向け保険の提供
花王の環境への取り組み
花王では、2019年に「Kirei Lifestyle Plan」と題したESGの活動方針を発表しました。「快適な暮らしを自分らしく送るために」「思いやりのある選択を社会のために」「よりすこやかな地球のために」という3つの基本方針を柱として、2030年までの目標達成に向けた具体的なアクションを策定しています。
ユニバーサルデザインに配慮した製品の比率を、2030年までに100%にする目標を掲げた「ユニバーサルプロダクトデザイン」や、ライフスタイルに大きくポジティブなインパクトを与える製品の提案を、2030年までに10件以上発表する「暮らしを変えるイノベーション」などの具体的なアクションを推進しています。
出典:花王、ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」を発表
これまでの取り組みが評価され、2022年には国際NGOのCDPから「気候変動」「森林」「水」への対応に関する調査において、すべての分野で最高評価の「Aリスト企業」に選定されました。 CDPの評価企業である約10,000社の中で、わずか12社というトリプルA企業の評価を獲得しています。
出典:花王 外部評価 CDP
日本郵政が力を入れるコーポレートガバナンス
2007年の郵便事業民営化に伴い誕生した日本郵政は、積極的なESG経営を行なっています。
カーボンニュートラルを実現する長期目標「JPビジョン2025」を掲げ、2030年までに2019年比で温室効果ガスの排出量を46%削減する取り組みを行なっています。
環境負荷の低減を目指すアクションとして、郵便配送に使用する車やバイクにEV車両を導入。2025年までに約34,000台をEV車両へ切り替えるとしています。
出典:日本郵政 環境マネジメントシステム
日本郵政は特にガバナンスの取り組みに力を入れています。グループガバナンス、グループコンプライアンス、リスク管理、内部監査、お客様満足推進の観点を重視し、経営の透明化による適切な企業統治の実現に向けて取り組んでいます。
不適切な料金収納や不祥事を防止するため、グループコンプライアンス委員会を新設。また、グループオペレーショナルリスク管理連絡会を設置し、グループ会社同士での連携を推進、グループ全体のリスクを統括管理しています。
富士フイルムホールディングスのE(環境)とS(社会)の取り組み
富士フイルムでは、温室効果ガス排出量削減の目標達成に向けて、新たな環境戦略「Green Value Climate Strategy」を策定し活動を行っています。具体的なアクションとして「Green Value Products」という環境配慮認定製品の開発や、インターナルカーボンプライシング制度の活用が挙げられます。
※インターナルカーボンプライシング(ICP)‥‥脱炭素推進のために、企業が独自でCO2排出量に価格を付けて、投資判断等に活用する仕組み
出典:富士フイルムホールディングス サステナビリティ CSR活動報告 環境
また、重点課題としている「多様な人材の育成と活用」としてダイバーシティを推進。育児・介護者に向けた在宅勤務制度や時間単位有給制度の支援策、女性の管理職採用、外国人の基幹ポスト登用、障害者雇用を積極的に行なっています。
取り組みの結果、女性役職者比率は2020年度の15.4%から2021年度には16.1%に向上、育児・介護休職からの復帰3年後の定着率は2021年度で95.1%という高い数字を達成しています。
出典:富士フイルムホールディングス サステナビリティ CSR活動報告 働き方
オムロンのカーボンニュートラル
オムロンでは、「オムロン カーボンゼロ」を設定し、2050年に温室効果ガス排出量ゼロを目指すとしています。2024年に2016年比で温室効果ガス排出量を53%削減するという明確な指標と取り組みは、科学的な根拠に基づいた温室効果ガスの削減目標を推奨する国際機関SBTiにも認定されています。
また再生可能エネルギーの事業にも積極的に取り組んでいます。
太陽光発電などで発電した電力を一般送配電事業社の送配電ネットワークを通じて離れた場所に送る「自己託送」方式を採用し、これまでスペース不足により電力調達が難しかったケースの解消に成功しました。
さらに、事業における成功事例をエネルギーマネジメントとして顧客と共有することで、社会全体でカーボンニュートラルの実現を目指すという指針を示しています。
出典:オムロン「自己託送」システムで再生可能エネルギー導入を加速
キヤノンの「共生」への取り組み
キヤノンは、1988年より企業理念を「共生」として、社会的責任を担うことを宣言しています。
省エネルギー設計のオフィス機器や医療機器の開発を進めている他、2008年には環境ビジョンとして「Action for Green」を制定。Scope1、2のみならずScope3を含めた「ライフサイクルCO2製品1台当たりの改善指数年平均3%改善」という目標が立てられました。 2030年までに2008年比で50%を改善、2050年までには排出量ゼロを目指しています。また、TCFDの提言にも賛同し推奨される情報を開示しています。
※Scope:事業者が事業によって排出する温室効果ガスの排出量(サプライチェーン排出量)を3つに分類したもの。Scope1は企業が直接排出しているものを指し、ESGにおける環境の取り組みでは必須項目とも言えます。Scope2、3は間接的な排出を指します。
※TCFD (気候関連財務情報開示タスクフォース): TCFDは、G20の要請を請け金融安定理事会(FSB)によって2015年に設立。2015年のパリ協定に基づき、投資家が適切な投資判断ができるように、企業に気候関連財務情報開示を促すことを目的としています。
社会課題に向けた取り組みとしては、従業員の人権・労務管理、差別の禁止、ダイバーシティの推進、児童労働や強制労働の禁止などを基本方針として明示しています。事例としては、性的マイノリティの理解促進のための「心のバリアフリー研修」の実施などがあります。
コーポレートガバナンスの取り組みとしては、執行役員制度の導入や取締役数の減員、独立社外役員の独立性判断基準の制定など体制強化が図られています。また財務リスク分科会・コンプライアンス分科会、事業リスク分科会を置き、リスクマネジメントを行なっています。
ESGの観点で自分ができることを考えてみよう
SDGsの目標を達成する上でESGに配慮することは、企業や投資家にとって欠かせない考え方になってきています。自社の状況や役割を意識し、明確な目標設定を行い、社会に貢献する活動を行なっていくことが今後ますます求められるでしょう。
重要なのは、大手企業の経営者層や一部の投資家だけではなく、社会の成員である1人1人が主体性を持って積極的に取り組む意識を持つことです。ESGの観点で自分ができることがないかを日々考え、小さなことからでも始めてみましょう。

身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。