マルカン酢株式会社のSDGs|昔ながらの製法でエネルギーを削減する取り組み
江戸時代から続く長い歴史と伝統を持ち、私たちの食卓に欠かせない美味しいお酢を作り続けるマルカン酢株式会社(以下、マルカン酢)。そのこだわりのお酢は職人が昔ながらの製法で手掛け、SDGsにも寄与する素晴らしいものです。
また、マルカン酢は海外にも活躍の場を広げており、海を越えて美味しいお酢を届けていることでも知られます。
今回はそんなマルカン酢の髙岡さんと今津さんに、マルカン酢の沿革やこだわりの商品、SDGsに関する取り組みや今後の展望についてお聞きしました。
目次
マルカン酢の沿革と主な製品

まずはマルカン酢の歴史を紐解き、美味しいお酢の原点を探ることで、その秘密に迫ります。また、マルカン酢の商品が海外でも人気を博している理由もお聞きしました。
江戸時代から続く老舗のお酢メーカー

───本日はよろしくお願いいたします。まずはお二方の自己紹介をお願いできますか?
髙岡さん マルカン酢株式会社、研究開発部所属の髙岡と申します。本日はよろしくお願いいたします。
今津さん 同じくマルカン酢株式会社、ブランド開発部の今津と申します。よろしくお願いいたします。
───マルカン酢はかなり長い歴史を持つ企業だと伺っています。これまでの沿革についてお聞かせいただけますか?
髙岡さん マルカン酢株式会社は 1649年(慶安2年)に創業し、今年(2025年)で376年続くお酢の会社です。弊社のマークは、創業当時の当主の名前である勘三郎の「勘」の字を取って、花押風に崩して作られました。元祖丸勘の名にかけて、お酢作りに励んでおります。
───このよく目にする丸勘のマークは、昔から変わらず使われているものなのでしょうか?
髙岡さん 創業した江戸時代には、丸勘は良いお酢の代名詞となっていたため、同業者に勝手に丸勘マークを使われるという事案が発生していました。その後、明治に商標登録制度が始まったことで、丸勘マークはマルカン酢のものだと認められ、それ以来弊社のみがこのマークを使用しております。

───同業者がこぞって使うということは、それだけ良いお酢だと評判だったということですね。どういった点で、良いお酢だと言われていたのだと思いますか?
髙岡さん 安定して同じような品質のお酢を製造しているところだと思います。醸造業界は、お酒にしろ味噌や醤油にしろ、家庭でも作れるというところから始まっているのですが、良質な米酢を量産した最初のメーカーが弊社でした。
こういった、大量に安定した品質のお酢を製造していたことが「良いお酢」と言われることに繋がったと考えています。もちろん、純粋に味が良かったこともあると思いますし、今でも「マルカン酢のお酢はまろやかで美味しい」とよく言っていただきます。
───現代のような設備がない江戸時代に、美味しくて安定した品質のお酢を大量生産していたのは大変なことですね。当時から、現在の兵庫県でお酢作りをされているのですか?
髙岡さん 1893年(明治26年)に、創業の地である尾張の清洲(現在の愛知県清洲市にあたる場所)から、現在の兵庫県神戸市東灘区に移ってきました。移ってきた当時に東灘区青木(おおぎ)に工場を設立し、 1908年(明治41年)には宮内庁御用達となっています。
現在は神戸市東灘区の六甲アイランドに本社工場、そして茨城県稲敷郡阿見町に関東工場があります。日本ではこの2拠点で製造を行っております。

幅広い用途の製品でアメリカにも進出

───マルカン酢といえば、ご家庭で使われているお酢が有名ですが、それ以外にはどのような製品を作られているのでしょうか?
髙岡さん 弊社の売上構成比は、みなさんに直接お目にかかる家庭用商品が30%程度となっており、残りの70%が業務用と原料用です。
業務用とは、例えば回転寿司やレストラン、スーパーマーケットのバックヤードなどで使われる、酢飯用のお酢などを指します。また原料用は調味料メーカー様向けに作っており、ソースやマヨネーズ、ケチャップ、ドレッシングなどの原料として使われている物です。みなさんが意識していないところでも、どこかで口にされていることがあると思います。
───ご家庭でも、外食の際にも、マルカン酢のお酢をみなさん使われているのですね。海外にも進出されているそうですが、こちらについて詳しくお聞かせいただけますか?

髙岡さん 弊社では早くからアメリカに進出しており、進出からすでに50年以上が経ちます。現在アメリカで構えているのは、西海岸カリフォルニア州のパラマウント工場、東海岸ジョージア州のグリフィン工場の2拠点です。お陰様でアメリカでの売り上げは順調に伸びておりWhole Foodsをはじめとした多くの有名なスーパーで取り扱っていただいております。
───世界的に有名な大手にも卸されているのですね。アメリカでの業績が好調な理由は、どういった点にあるとお考えですか?
髙岡さん アメリカでは、リンゴ酢やホワイトビネガーが主流です。それに対して弊社では米酢を製造しているため、フレーバーの部分で差別化ができております。また、近年、アメリカでは寿司をはじめとした日本食が特別なものではなくなり、一般的にどんどん食されるようになっているのも大きな要因です。日本食の広がりとともに、弊社の商品もアメリカの中で浸透して行っている現状があります。

マルカン酢のSDGsに寄与する事業
マルカン酢は長い歴史を持ち、その伝統の製法は現在まで引き継がれています。ここでは、さまざまな点でSDGsともつながる製法や、マルカン酢のフラッグシップである「丹波篠山純米酢」について詳しくお聞きします。
SDGsに寄与する農家との出会いから生まれた丹波篠山純米酢

───ここからは、SDGsに関する事業についてお聞きします。今年新たに発売された丹波篠山純米酢は、そのこだわりの製法や原料がSDGsにも寄与するものであると拝見しました。どういった経緯で作られることになったのでしょうか?
髙岡さん 丹波篠山純米酢は、弊社が米酢から始まった企業であることもあって、純米酢でフラッグシップになるような商品を作りたいという想いから始まりました。そして、原料である米は地元兵庫県産のものを使いたいと考え、米を吟味して行ったという流れです。
そんな中、神戸から六甲山を越えて行った所にある、丹波篠山という農業が盛んな地域で美味しいお米が作られていると聞きつけ「丹波篠山産特別栽培米コシヒカリ」を作っていらっしゃる「丹波たぶち農場」さんとご縁をいただくことができました。

この丹波たぶち農場さんは、非常に精力的に農業をされている農家さんです。若い方もどんどん雇用して、SDGsになるような作り方をされているところに弊社の経営陣が共感し、実際に食べてとても美味しく、是非このお米を使用した商品を作りたいと考えました。
酢粕は酒粕にお酢が加わったもの

───素晴らしいお米を作っている農家さんとの出会いがあって、こだわりの美味しいお酢が生まれたのですね。こちらの取り組みでは、お酢作りで作られる「酢粕」が再利用されることでもSDGsになっているそうですが、この酢粕とはどういったものなのでしょうか?
髙岡さん 「酒が酢っぱくなったもの」というのが英語のVinegarや漢字『酢』の語源であるように、お酢はお酒から作られており、中でも純米酢は日本酒からできています。日本酒を作るためにはまずお米を蒸して、麹を作って、酵母を添加してアルコールが生成されます。このアルコール発酵が終わるとできる「酒もろみ」を圧搾濾過(あっさくろか)すると清酒ができ、このとき残った搾りかすが「酒粕」です。
次にお酢作りですが、お米からアルコール発酵するところまでは同じで、その後、酢酸発酵を行います。その酢酸発酵の手前でやはりもろみを搾らないといけないのですが、ここで酒造メーカーさんのようにそのままもろみを搾ってしまうと、酒税がかかってしまい、非常に価格が高くなってしまうのです。
そこで「飲めなくしてから搾る不可飲処置を施す」ことが必要になります。不可飲処置をするときには、例えばみりんならお塩などを入れるのですが、お酢の場合はすでにできあがっているお酢をもろみに混ぜ込みます。
これを「変性」と呼び、一度変性をして飲めなくしたお酒を搾ります。そこで出てきた酒粕のようなものが「酢粕」です。ですので、酢粕というものは「お酢が混じった酒粕」と考えていただければ良いかと思います。

廃棄していた酢粕を農業で再利用
───酒粕は耳にしたことがある方も多いと思いますが、酢粕もお酢が混じっているかどうかの違いだけというのは驚きました。この酢粕をどういった経緯で再利用することになったのですか?
髙岡さん 酒粕にも言えることなのですが、酢粕にもお米由来の糖分やアミノ酸、タンパク質成分、ミネラルなどの栄養素が多く含まれています。こういった栄養素が、お米作りの場合は稲の栄養になり、良い土壌を作る素にもなるのです。
これまでは、酢粕はそのまま廃棄処分をしていましたが、今回お話を進めていく中で、丹波たぶち農場さんは農業で出た廃棄物を再利用という形で肥料にされていると伺いました。そこで、酢粕も再利用してみようという話になったのです。
───酢粕の再利用の効果はどの程度出ているのでしょうか?
髙岡さん 酢粕は栄養源になるため、理屈の上ではお米が良く育つはずなのですが、始めて1、2年ということで、まだ影響はわからないというのが正直なところです。ただ、今後どんどん積み重ねていくことで土壌も良くなり、稲の成長に良い方向に働くというのは大いに期待できると伺っております。
それぞれのメリット・デメリットを補う2つの製法

───マルカン酢では、お酢の製法にもこだわっていると伺っています。昔ながらの「静置発酵法」と、現代的な「通気発酵法」の主に2つの製法をとっているそうですが、この両者それぞれのメリット・デメリットや特徴などについて詳しく教えてください。
髙岡さん 静置発酵法では、発酵槽にお酢の混じったお酒を入れ、そこに酢酸菌を植えて1か月ほどかけてお酢を作っていきます。その間、発酵がきちんと行われているか見守ったり、手を加えたりはしますが、基本的には動力や冷却、加熱といったエネルギーは使いません。酢酸菌は発酵している間に自ら熱を出し、その熱で最も適した30℃くらいに保たれるという性質があります。
デメリットとしては、発酵槽を設置するための広い場所が必要なこと、そしてお酢ができるまでに1か月ほどの時間がかかってしまうことです。酢酸菌は人間と同様に生育に酸素が必要であるため、酸素に触れている液の表面にしか生えてきません。液の表面でプカプカ浮かび、空気を取り込みながらゆっくり発酵するため、1ヶ月もの時間がかかるのです。
───エネルギーをあまり使わないメリットがある代わりに、場所や時間の制約というデメリットがあるのですね。他にも何かメリット・デメリットはありますか?
髙岡さん もう一点デメリットを挙げると、濃いお酢が作れないことです。「酸度」と呼ばれる酸っぱさの指標が、一般的にご家庭で使われているお酢で4.5%から5%のところ、この静置発酵法では家庭用をわずかに上回るおよそ5%から6%のものしか作ることができません。
私たちが業務用原料として製造している商品は、できるだけ濃いものを作ることで輸送コストを下げたいのですが、静置発酵法ではそれが叶いません。そしてその問題を解決するのが、酢酸菌が必要とする酸素を強制的に送り込んで撹拌する通気発酵法という手法です。発酵を行うタンクの中を、ジャグジーのように細かい気泡で充満させることで、酢酸菌が液の表面だけではなく中にも入り込みます。
こうして酸素を送り込むことで酢酸菌の能力を最大限に引き出すことができ、静置発酵法のおよそ3倍の、約15%もの酸度の濃いお酢を作ることができるのです。また通気発酵法には、およそ2日から3日と、短時間でお酢を作ることができるメリットもあります。
───通気発酵法は静置発酵法の足りないところを補うような製法ですね。輸送コストや時間の面でとても優れていると感じます。
髙岡さん ただ、この通気発酵法にも大きなデメリットがあり、それはエネルギーコストが非常にかかることです。酢酸菌は発熱するというお話をしましたが、そのまま放っておくと自分の出した熱で死滅してしまうため、それを防ぐための冷却にコストがかかります。
また、撹拌(かくはん)や通気のためにも電気を使うため、トータルで大量に電気を使う作り方です。一方で静置発酵法には、エネルギーをほぼ使わないため地球に優しい作り方であるというメリットと、よりマイルドな味のお酢ができるというメリットがあります。
───どちらの製法にも一長一短がありますが、静置発酵法の方がよりSDGsに通じる製法だと言えそうですね。他にも何かSDGsにつながる取り組みはありますか?
髙岡さん お酢の約95%は水であるため、水はとても大切です。丹波篠山純米酢は、丹波篠山で長年営まれている造り酒屋さんの井戸水を使わせていただいております。
静置発酵法には職人の細かな管理が必須

───静置発酵法は電気をあまり使わない分、大変なことも多いかと思います。職人さんはどういった形で日々お酢作りに励んでらっしゃるのでしょうか?
髙岡さん 静置発酵法は基本的に酢酸菌の活動が重要ですから、酢酸菌ががんばれる環境を作ってあげないといけません。たとえば寒い時期は周りを防寒材で覆ってあげたり、暑い時期は発酵槽の蓋を開けて熱気を逃してあげたりといった処置をしています。
また、酢酸発酵をする酢酸菌は一種類だけではなく、静置発酵法では複合菌叢(ふくごうきんそう)というさまざまな菌がいることで、複雑な味を作り出しています。しかし油断していると、お酢作りにはあまり良くない菌が増えてしまうのが問題です。これは体に悪いわけではなく、お酢の風味が悪くなるという意味です。
酢酸菌には、紅茶キノコやコンブチャと呼ばれるブヨブヨした、膜をたくさん作ってしまう種類の菌も一部混ざっています。きちんと発酵しているとそういった菌が減って、お酢作りにとって良い菌が優先菌になるのですが、ちょっと油断するとブヨブヨの膜を作る菌が増えてしまうのです。ですのでこうしたときには、目視して取り除くという原始的な方法をとっています。
他にも、綺麗に発酵している発酵層から菌を植え直すなど、表面の菌膜を見ながら職人さんは日々発酵の管理をしています。
───電気を使った冷却をしていないのですから、昨今の夏の暑さはかなり管理が大変になりそうですね。
髙岡さん 静置発酵法では、環境を良くしてあげたくてもやはり限度があります。酢酸菌は35℃くらいまでは大丈夫ですので今は問題ありませんが、将来的に一日の平均気温が35℃を超えるようになってくると、少々難しくなるかもしれません。
丹波篠山純米酢を多くのご家庭へ
───丹波篠山純米酢は「ひょうご産業SDGs宣言商品」に登録されていますが、どういった流れで登録されるに至ったのでしょうか?
髙岡さん 弊社では、丹波篠山純米酢を作る以前から、兵庫県の有機栽培米を使った純米酢を作ってきました。そういった商品が兵庫県の推奨商品という形で採用していただいた経緯がございまして、その流れでひょうご産業SDGs宣言商品に登録されたという経緯です。 SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」に向けて取り組んでいます。
今津さん ただ、丹波篠山純米酢は現在、限定生産商品であり、まだまだみなさまに行き届いていない、あまり認知されていないのが現状です。しかし、来年以降は生産量を増やし「美味しさ」「こだわり」「SDGs」の3点で、多くの方たちから認められる商品として、ご家庭で活用していただきたいと思っております。
今後の事業や取り組み
古くからの伝統を大切にしながら、新たな伝統となり得る商品も開発しているマルカン酢。今後に関しては、どのような取り組みや事業展開を考えているのでしょうか。
既存の商品を大切にしながら新商品にも取り組む
───今後の展望や、行いたい取り組みについてお聞かせください。
髙岡さん 弊社はできるだけエネルギーを使わずに、自然のものを使って、農業の延長のような感じで醸造や発酵を基にした食品を作っています。ですので、 SDGsを意識し過ぎるのではなく、今までの流れをそのまま将来につないでいきながら、片肘張らずに続けていくことが大切だと考えています。今後も持続可能な作り方で、会社も持続させながら取り組んで行きたいです。
今津さん 静置発酵法は伝統的な製法であり、電力などのエネルギーをあまり使わないなど、SDGsに寄与する製法であり、弊社が大切にしている製法です。また、お酢本来の芳醇な香りを含めた風味がありますので、既存の商品を大事にしながら、新商品もこれからどんどん発売していきたいと考えております。
───新商品として、どのようなものを考えていらっしゃるのでしょうか?
今津さん あくまで丹波篠山純米酢が会社の核となる商品ですが、近年ブームになっているリンゴ酢も、注力商品として今後広めて行きたいと考えています。また、ご家庭で日常的に「飲むお酢」を飲まれているという需要があるため、そちらも注力しながら展開していきたいです。
日本文化を含めたSDGsを発信していく
───最後に、読者のみなさんへのメッセージをお願いします。
今津さん お酢作りは、SDGsととても親和性が高いものです。また、静置発酵法にはお客様に知られていない部分、美味しさや香り、米の料理との親和性があるので、日本の文化も含めて弊社から今後もSDGsを発信して行きたいと思っております。
長い歴史を持つマルカン酢株式会社は、昔ながらの静置発酵法を大事にしつつ、他ではできないお酢作りに日々精進しながら、みなさんに素晴らしい商品を提供して行きます。
───本日は貴重なお話をありがとうございました。
伝統を守り新たな歴史を創るマルカン酢
今回お話を伺ったことで、マルカン酢の歴史や伝統、お酢の美味しさの秘密について知ることができました。原料を厳選し、製法にもこだわっている丹波篠山純米酢は、みなさんにもぜひ一度試してみていただきたいです。
SDGsに寄与する伝統の製法を未来につなげ、日本の文化とともにSDGsを発信するマルカン酢の今後の活躍から目が離せませんね。
マルカン酢のお酢や取り組みに興味を持たれた方は、ぜひホームページからその素晴らしさに触れてみてはいかがでしょうか?
マルカン酢株式会社のホームページはこちら|
マルカン酢株式会社 Marukan Vinegar 伝統の品質を守り続けたマルカン酢の三世紀半
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。
