SDGsに取り組む「幸海ヒーローズ」は、コンブの利活用で人と世界をリレーする
「コンブで”GOOD”をリレーする」をコンセプトにコンブの養殖と利活用を行う幸海ヒーローズ。SDGsの取り組みについて、共同代表の富本さんにお話を伺いました。
コンブが環境に与える影響から取り組みのきっかけ、今後の展開まで、幅広く語っていただきました。
目次
幸海ヒーローズはコンブの養殖を通じて環境問題を考えている
幸海ヒーローズとはどんな企業なのでしょうか?
まずは生まれたきっかけや経緯、そして環境問題への想いについて伺います。
幸海ヒーローズ誕生のきっかけは磯焼け問題
──本日はよろしくお願いします。まずは幸海ヒーローズが生まれたきっかけについてお聞かせいただけますか?
富本さん よろしくお願いします。まず、きっかけは「磯焼け問題」でした。現在では少しずつ社会性が出てきた、ブルーカーボンという海の温暖化対策の概念を当時の私たちは認識しておらず、「磯焼け問題を解決するにはどうしたら良いのか」という想いが活動の原点です。
大気中のCO2の排出量と吸収量を同じにすることで、実質的な排出をゼロにしようという考え方をカーボンニュートラルといいます。このカーボンニュートラルに深く関わる要素に、「グリーンカーボン」と「ブルーカーボン」があります。植物は光合成によって大気中のCO2を吸収して、炭素を隔離します。森林をはじめとした陸上の植物が隔離する炭素を「グリーンカーボン」といいます。対して「ブルーカーボン」は、海草や海藻、植物プランクトンをはじめとした海の生物の作用により海中に取り込まれる炭素のことを指します。
参照:国土交通省 港湾:ブルーカーボンとは
──では、なぜコンブを扱うようになったのでしょうか。
富本さん 一般的にもそうだと思いますが、私もそれまでコンブと言えば「だしを取る」「おにぎりの具材」「おせちのコンブ巻き」など食のイメージしか持っていませんでした。
しかしあるとき、コンブが環境にも良いという話を聞いたことでスイッチが入りました。以来7年間、横浜市金沢区で、温暖化対策の一環として地元の漁師さんたちとコンブの養殖を行っています。
横浜で始めたのは、コンブの生育にも検証にも最適だったから
──コンブの養殖を横浜で始めたのはなぜだったのでしょうか。横浜と言えば都会のイメージで、コンブの養殖に向いているのか疑問もありそうですが。
富本さん 横浜で始めたのは、一緒に活動させていただいている漁師さんたちの元々の現場に、海苔やワカメ、その他の海藻の素地があったため、事業がスタートしやすかったためです。
また、海水温が高過ぎると、コンブは海の中で溶けてしまったり枯れてしまったりするのですが、横浜の海がコンブの養殖に適した水温であったことも大きかったです。
結果として、収穫量も毎年安定しています。
──海の環境面が大きかったのですね。他にも何か理由がありますか?
富本さん 横浜がおよそ380万の人口を抱える日本有数の大都市であることも大きな理由の1つでした。中華街をはじめとした大きなマーケットがあるので、生産が成功した後に「横浜モデル」として、消費まで含めた検証が比較的スムーズに行えそうであるという観点からも横浜を選びました。
ゼロからのスタート。環境問題への不理解もハードルに
──事業を始めるにあたって苦労されたこと、大変だったことをお聞かせください。
富本さん 最初は人脈もなく、資金もないところからスタートしました。さらに漁師さんとの関係もなく、始めるためのノウハウもない状態でした。
また現在では、水産業界全体に、資源の枯渇やプラスチック問題、生態系を良くしていく考えが徐々に浸透しつつありますが、当時はそのような考えもまだまだ浸透しておらず、納得してご理解いただくためのハードルも高かったです。
活動を通してブランド認定や環境関連の受賞歴も
──受賞歴があるとお聞きしましたが、どのような賞か教えていただけますか?
富本さん まず、横浜市金沢区の認定ブランドである、「金沢ブランド」に認定していただきました。活動開始から4年目には横浜市から「環境活動賞」もいただいています。さらに、環境省から「環境大臣賞」もいただくことができました。
幸海ヒーローズはさまざまな活動を通して環境問題に取り組んでいる
環境への想いを胸に活動を始めた幸海ヒーローズ。さまざまな活動を通して環境問題に取り組んでいますが、実際の活動にはどのようなものがあるのでしょうか。具体的な活動内容を質問していきます。
コンブは温暖化問題に良い影響を与える
──コンブが環境に与える影響を教えてください。
富本さん まず前提として、コンブも陸上の植物と同じく海中で光合成をしています。海に溶け込んだ二酸化炭素はコンブに取り込まれ、光合成により酸素に作り換えられます。このときコンブに取り込まれた二酸化炭素はコンブの栄養になり、コンブの成長にも繋がっているのです。
コンブの光合成は杉の木の光合成と比べられることが多々あるのですが、杉の木の植林の面積とコンブの養殖の面積が同じだとした場合、コンブの方が5倍の二酸化炭素の吸収量があるんです。
──杉の木の5倍はすごいですね。
富本さん そうなんです。さらに現在問題になっている磯焼けの問題も、コンブの養殖によって改善させることができます。まず、磯焼けとは海草や海藻が死滅することによって、結果として魚や貝類などが取れなくなる現象です。そこでコンブを養殖することでプランクトンが増え、プランクトンが増えるとそれを食べるために小魚が集まります。さらにその小魚を食べに大型の魚も集まるようになるので、結果としてコンブの養殖は磯焼け問題の解決策になり得るのです。
コンブの利活用はさまざまな活動に繋がっている
──幸海ヒーローズの具体的な活動内容について教えてください。
富本さん 幸海ヒーローズは金沢漁港の漁師さんたちと一緒に、温暖化対策の観点からコンブの養殖をしていますが、ただ作って終わりではなく「コンブの利活用」を行う組織です。利活用をするためにいろいろなチャレンジをしています。
──例えばどのようなものがありますか?
富本さん コンブについて考える中で、日本人の「食」は外せません。なのでいろいろな食品や加工食品の展開をしています。
また、銭湯さんにご協力いただいて「コンブ湯」という取り組みもしています。その中で、一般の方にコンブ湯に入っていただいた後に「海の環境問題が今大変なんですよ」というメッセージを伝える取り組みも行っているんです。
あとは、肥料や畜産の飼料としての利活用もしています。
食への利活用が興味や共感を生んでいる
──ありがとうございます。コンブにはこんなに多くの活用法があったのですね。それぞれの活用法を具体的にお聞かせいただけますか?
富本さん まず食品への利活用なのですが、加工品だとコンブのアイスクリームやコンブを練り込んだラーメン、飴を作っています。一般の方が普段から手に取りやすい商品作りをしています。
また、コンブと言えば通常は乾燥コンブのイメージが強いと思いますが、水揚げしたコンブを通年流通させられるよう洗浄、湯通しをして、生で食べられるコンブとしても提供しています。
──なかなか珍しい商品だと思いますが、お客様からはどのような反応がありましたか?
富本さん 味に対する評価ももちろんありましたが、なぜわざわざコンブにこだわって商品を作っているのかに興味を持っていただくことが多いですね。そしてありがたいことに、取り組んでいる活動に共感して商品を購入いただけるお客様が多くいらっしゃいます。
──活動に共感してもらえるのは嬉しいですね。これらの幸海ヒーローズの商品は、どこで購入することができますか?
富本さん 今は主にレストランや販売店さんで卸販売させていただいていますが、今後はECサイトでの販売など、もっと皆さんが手に取りやすい方法での販売もしていきたいです。
コンブ湯への利活用で良いサイクルが生まれている
──次にコンブ湯についてお聞かせください。面白い取り組みですね。
富本さん コンブ湯は、コンブを水揚げして冷凍保存したものを銭湯さんに送らせていただき、銭湯さんの方で洗ったコンブをお湯に入れてもらっています。処理方法によっては乾燥コンブを使ってもらうこともあります。
──コンブ湯に入ることによって、体にどのような効果があるのか教えてください。
富本さん 美肌成分によって肌がツルツルになったり、保湿成分もあるので乾燥しにくい肌になります。さらにコンブの成分には傷の治りを少し早める効果もあるんです。あと、コンブのヌルヌルには保温効果もあると感じています。あんかけ焼きそばなどを想像してもらうとイメージしやすいかもしれません。
──実際にコンブ湯を利用されたお客様の感想はどうでしたか?
富本さん 実際に体験されたお客様からは「ヌルヌルしていて気持ち良い」とか「だし汁の気分」「おでんになったみたい」などといった感想をいただいていて、みなさん喜んでくださっています。
──確かにちょっと楽しそうですね。
富本さん コンブ湯を行っている銭湯さんでは、どんな背景のコンブを使っているのか、どんな取り組みが行われているのかといったことを、POPで貼らせていただいています。
それをコンブ湯に入りながら読んでくださり、「横浜でコンブが取れるなんて」「コンブがプランクトンを増やして魚が集まってきて、生態系や海が良くなるんだ」など、コンブについて知らなかった情報や環境問題について、改めて認識してくださるきっかけにもなっているんです。
その認識を周りに伝えてくれて、情報が広まっていきます。当初は私たちの団体だけで「コンブ良いよね」と言っていてなかなか広がりが無かったので、銭湯さんのご協力は非常にありがたいと思っています。
コンブはたい肥や肥料にも利活用されている
──コンブ湯の取り組みを通して輪が広がっているのですね。その他の利活用についてもお聞かせいただけますか?
富本さん 昔から日本には海藻農法という、浜辺に打ち上げられた海藻を農家が拾って畑に撒く手法があります。それを現代的にできないかと思い、横浜にある無農薬栽培の農家さんのご協力をいただき、コンブをたい肥にしたものを畑に撒いてホウレンソウやレタスを作っていただいています。コンブを撒いてから、実際に作物の味が濃くなったり色味が鮮やかになったりといった結果が出ました。
──コンブを撒いて野菜の味が良くなるとは驚きです。
富本さん 農業の観点では他にも、コンブ湯で使った後のコンブを埼玉県の「狭山茶」というブランドのお茶で利活用しているんです。5月の新茶のシーズンには、実際にコンブを肥料に使った新茶も取れました。
昔ながらのコンブ茶でもなく、アメリカやヨーロッパなどで流行っている発酵したお茶でもない、土壌にミネラルを加えるお茶の製法も行っています。地球と人の健康にフォーカスした、土から良くしていくコンブ茶にも取り組んでいるんです。
環境問題だけではなくその他のSDGsにも繋がる、幸海ヒーローズのこれから
さまざまな活動を通して環境問題を考えている幸海ヒーローズ。今後はどのような活動を考えているのでしょうか。その想いと、この記事を読んでいる皆さんへのメッセージもお聞きします。
「コンブで”GOOD”をリレーする」は環境問題や人の生活の循環を表したコンセプト
──今後の展開についてお聞かせください。
富本さん 私自身、日々コンブの新しい可能性に驚いているのですが、海の生態系が抱える問題を解決していくだけでなく、生活にもポジティブな影響を及ぼせるコンブの利活用に一層取り組んでいきたいです。
コンブの養殖は北は北海道から南は九州まで可能であることがわかったので、横浜で取り組んできたことを「横浜モデル」として日本全国に横展開していきたいです。
幸海ヒーローズでは、環境問題や磯焼けの問題などを解決しながら人の生活にも寄与していく循環を「コンブで”GOOD”をリレーする」と表現しています。これまで行ってきた活動を、ますます厚みをもたせて行きたいと思っています。
幸海ヒーローズは、広い視野で未来を見据えている
──日本全国に広がることで、さらに素晴らしい活動になりそうですね。他にはございますか?
富本さん 第一次産業と障がい者さんとの間に「農福連携」という考えがあります。農業と福祉の間ではそうした取り組みが進んでいる認識があるのですが、水産分野になるとまだまだ進んでいない現状があるんです。
海での作業やリモートでできる作業については業界的にもあまり進んでいないと思いますが、コンブを乾燥させる作業などはあまり難しくないと思います。ですので、障がい者さんにも積極的に仕事に関われる環境を作っていけたらと思っています。
──環境問題だけではなく、福祉の視点からも取り組みを広げていかれるのですね。
富本さん そうですね。他にも、コンブのヌルヌル成分に整腸作用があり、水族館のウミガメの便秘が改善されたという報告もありました。今後はペット業界などでもお役に立てればと考えています。
──動物の健康にも良い影響があるのであれば、可能性も広がりそうですね。
富本さん 動物と言えば、牛のゲップやおならが、二酸化炭素の20倍も環境に悪いと言われるメタンガスを発生させている問題もあります。しかし、牛の餌に数%の海藻を混ぜるだけで、8割から9割ものメタンガスを減少させられるという結果が海外を中心に出ているので、日本のコンブで解決できないかと模索していました。現在はサステナブルな取り組みに共感していただいている畜産農家さんと協力し、牛と羊におやつをあげる程度の少量からの実験を九州で始めています。
皆さんへのメッセージ
──最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。
富本さん 活動を始めて7年になりますが、コンブに対しての興味や、コンブが環境に与えるポジティブな影響の認識が薄いと感じています。しかし、海外の方からコンブの養殖ができないか相談をいただくなど、少しずつ社会性は上がってきているとも感じているんです。
今後は他の企業様との連携を強化し、世の中にポジティブな影響を与えられるチャレンジをしていきたいと思います。
──本日は貴重なお話をありがとうございました!
幸海ヒーローズは人を、世界をリレーする
コンブの利活用を通して、環境問題をはじめ多くの問題に取り組んでいる幸海ヒーローズ。さらに人や業界など、多くの人を巻き込んでいく様子は、まさに”GOOD”をリレーしていると言えるのではないでしょうか。幸海ヒーローズの活躍から今後も目が離せませんね。
幸海ヒーローズの活動や取り組みに興味がある方は、ぜひ一度ホームページを覗いてみてください。
▼幸海ヒーローズのホームページはこちら
幸海(さちうみ)ヒーローズ
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。