生態系を脅かす外来種問題

生態系を脅かす外来種問題

2023.08.31(最終更新日:2024.06.20)
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生物は、地球の歴史と共に長い時間をかけ、食物連鎖や共存という関係性を築いてきました。しかし、長距離の物資の運搬や旅行、害獣駆除の目的などの人間の活動によって、多くの生物が本来の生息地ではない場所へ移動することが増えました。本来の生息地の環境と異なる場所に適応できず、死んでしまう生物が多くいる一方で、新たな場所で生き抜き、定着した生物を外来種といいます。
そして、外来種の中から、本来その場所で生きていた在来種の生物に影響を与えてしまう生物が出てきました。この在来種に影響を与えてしまう外来種が、生態系を脅かす大きな問題となっており、持続可能な開発目標(SDGs)の達成においても重要な問題となっています。

外来種による問題は、世界中で起こっており、さまざまな取り組みが行われています。本記事では、外来種による問題と問題解決への取り組みについて紹介します。

外来種とは人によって連れてこられた生物

外来種とは、本来その地域に生息していなかった生物が、害獣駆除の目的やペットとして飼育するために、人によって連れてこられた生物であり、また、人が移動する際に荷物に紛れたり、船などに付着し、本来の生息地とは別の場所に意図せずに運ばれた生物のことです。
外来種とは海外からだけではなく、国内でも本来の生息地から、別の場所へ生物が持ち込まれた場合も外来種といいます。

外来種が発生する理由

外来種が持ち込まれる理由はさまざまですが、害獣駆除や飼育、食料などの目的で人が意図的に持ち込むことがあります。例えば、奄美地方にハブを駆除する目的で持ち込まれ問題となったマングースや、食料として持ち込まれたウシガエル、そのウシガエルのエサとして持ち込まれたアメリカザリガニ、ペットとして持ち込まれたアライグマやミシシッピアカミミガメ、食用や飼料として持ち込まれたセイヨウタンポポなどがあります。
そして、人が意図せず、海外からの荷物などに紛れ日本国内に持ち込まれてしまう外来種も多くいます。このような人が意図せずに持ち込んでしまう場合は、植物の種子や小さな昆虫が多く、近年の例では、人体への影響があり問題となったセアカゴケグモやヒアリなどが挙げられます。
マングースが倒木に寄りかかって座っている様子

船の安定のためのバラスト水は外来種を生むことにつながっていました。そのため、現在は外来種問題への対策のためにバラスト水に入った生物は、紫外線や電気分解、薬剤などで殺菌処理を行い海へと排水されています。
参考:国立研究開発法人 国立環境研究所 バラスト水処理技術

外来種が引き起こす問題

外来種は、本来その地域に生息している在来種の生物への影響など、さまざまな問題を引き起こします。外来種が問題となる理由は、大きく分けて4つあります。

<捕食>
捕食の問題とは、外来種が本来その地域に生息している在来種を食べてしまうことです。長い時間をかけてその地域の食物連鎖のバランスを作り上げた中に、外来種が入ることで食物連鎖のバランスが大きく崩れてしまうのです。
実際に、ハブの駆除を目的として奄美地方に持ち込まれた小型哺乳類のマングースは、ハブを捕食することはほとんどなく、奄美の固有種であるアマミノクロウサギなどを捕食し、調査開始の2003年にはアマミノクロウサギが約2,000~4,800匹まで減少しました。(注1)文部科学省、農林水産省、環境省では、2025年にマングースの根絶を目指しており、2023年現在は、ワナにマングースがかからない状態が続き、ほぼ根絶されたとされています。それに伴い、アマミノクロウサギも生息数が回復傾向にあり、1万1,549〜3万9,162匹が生息していると推定されています。(注2)

(注1)参考:環境省 アマミノクロウサギ
(注2)参考:環境省 アマミノクロウサギ及びアマミヤマシギの個体数が推定されました!

<在来種との競合>
競合とは、外来種と在来種との間で生息域やエサの取り合いが起こることです。
実際に、ペットとして飼育する目的や、動物園での飼育のために1930年以降日本に連れてこられたタイワンリスが、飼育放棄や脱走により野生化しました。そして、食べられるエサの範囲が広いタイワンリスは、在来種のニホンリスのエサや生息域を奪ってしまいました。理由はタイワンリスだけではありませんが、タイワンリスが増えたことなどによって、ニホンリスは現在、絶滅危惧種となっています。

参考:農林水産省 タイワンリス

<遺伝子汚染>
遺伝子汚染とは、種類の近い外来種と在来種が交雑して、雑種を生むことです。交雑により種としての純血が失われることや、長い年月をかけて獲得した生息地での病気に対する抗体が失われる可能性があります。
実際に、タイワンザルは1940年頃に日本に連れてこられ、1954年頃に閉鎖した動物園で飼育されていたものが野生化しました。そのほかの地域でも、観光目的で放し飼い状態にされた結果、ニホンザルとの間で交雑が起こっています。外来種のタイワンザルと在来種のニホンザルの交雑で生まれた子供は、特定外来生物とされています。(注1)また、同じ種の生物であっても生息地が遠ければ遺伝的な違いが起こります。植林や魚の放流においては、その地に生息する種と遺伝的に同じ種を用いることが求められています。

(注1)参考:国立研究開発法人 国立環境研究所  タイワンザル

<新たな感染症を持ち込む>
外来種は、本来その地域には存在しない感染症を持ち込むことがあります。その地域に存在していない感染症なので、在来種は抗体を持っておらず被害が拡大してしまう可能性があるのです。
1970年代から日本に多く輸入されたアライグマは人と動物の共通感染症である、狂犬病、レストピア症、アライグマ回虫症の媒介の可能性があります。実際に、平成23年から24年にかけて奈良県で捕獲されたアライグマの調査では、30匹中10匹がレストピア症の陽性となっています。(注1)
また、アメリカでの狂犬病はフロリダ州やジョージア州に限ったものでしたが、狩猟を目的として3,500頭以上のアライグマがバージニア州に持ち込まれ狂犬病が拡散することが起こっています。(注2)

(注1)参考:奈良県 アライグマの感染症について
(注2)参考:農林水産省 第I章 特定外来生物とは何か?

外来種がもたらす影響

外来種は生態系や人への影響ももたらします。外来種が侵入することによって、生態系のバランスが崩れてしまうことや、農林水産業への影響、人体への被害なども出ています。

<生物多様性への影響>
外来種が持ち込まれることで、その地域の生態系が崩れてしまいます。天敵のいない地域に生息している種は、天敵から逃げる手段を持たない場合があります。その環境に肉食の生物が入ると、天敵のいない環境に適した生物は簡単に捕えられてしまうのです。
例えば、沖縄島北部にのみ生息するヤンバルクイナは、天敵がいないために飛ばない進化をした鳥です。そこに肉食の小型哺乳類であるマングースが持ち込まれ、飛んで逃げることができないヤンバルクイナは捕食され、絶滅の危機を迎えました。マングースから多くの生物を守るために行われた、マングースの駆除事業の進展により2011年以降、ヤンバルクイナの生息数が回復傾向にあり、絶滅への危機的状況は回避できたと考えられています。(注1)

(注1)参考:環境省 ヤンバルクイナ
草の上にいる2羽のヤンバルクイナ

<農林水産業への影響>
外来種の問題は動物だけではなく、植物においても多くの影響をあたえます。
侵略性の高い外来種の植物は在来種の生息地を奪い、さらに農林水産業への被害が発生しています。外来種のオオフサモや、ブラジルチドメグサという水辺に繁殖する植物は、農業用水路を覆い通水障害を引き起こし、水の氾濫の原因となっています。また、大量に発生することで、水量を調整する水門の開閉障害も引き起こしています。(注1)

(注1)参考:農林水産省 外来種が農業う水利施設に及ぼす影響と対策

<人体への影響>
外来種は種類によっては、人への直接的な影響も与えます。
2017年に日本国内で初めて確認された南米に生息するヒアリは、船や飛行機で日本へ運ばれてきました。ヒアリに刺されると強い痛みや、アレルギー反応を引き起こします。また、電気設備内部に巣を作ることで、信号機などを故障させることや、ショートさせ火災の原因になることもあるのです。(注1)

(注1)参考:環境省 要緊急対処特定外来生物ヒアリに関する情報

外来種は問題を起こすこともありますが、東京大学大学院の研究により、外来種であるコイが同じく外来種であるウシガエルのオタマジャクシを捕食していたため、在来種であるツチガエル捕食されることがほとんどなかったという結果が出ています。
これは、外来種が在来種を保護することにつながった珍しい例です。
参考:東京大学大学院農学生命科学研究科 プレスリリース 敵の敵は味方:外来種が別の外来種の勢力拡大を防ぐ

さまざまな影響を及ぼす特定外来生物

外来種はさまざまな影響をもたらしますが、新しい土地に定着し影響を与える種は一部です。現在、日本に生息する外来種は約2,000種にもなります。
そして、実際に生態系や、農林水産業、人体へ影響のある外来種を侵略的外来種といいます。また、外来生物法では、生態系、農林水産業、人体への影響を及ぼすもの、または及ぼすおそれのあるものを特定外来生物と指定しています。
特定外来種に指定されている種は令和5年6月に、条件付特定外来生物として、新たにアカミミガメ、アメリカザリガニが追加され157種となっています。(注1)

(注1)参考:環境省 特定外来生物等一覧

日本で指定されている特定外来種

分類 種数
哺乳類 25種 ハリネズミ、タイワンザル
鳥類 7種 ガビチョウ、ソウシチョウ
爬虫類 22種 アカミミガメ、カミツキガメ
両生類 15種 オオヒキガエル、ウシガエル
魚類 26種 ブルーギル、オオクチバス
昆虫類 25種 アカボシゴマダラ、アカカミアリ
甲殻類 6種 アメリカザリガニ、ウチダザリガニ
クモ・サソリ類 7種 セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ
軟体動物等 5種 カワヒバリガイ、ヤマヒタチオビ
植物 19種 ブラジルチドメグサ、アレチウリ

参考:環境省 日本の外来種一覧

外来種への対策

新たな環境に定着し、在来種や生態系へ影響を及ぼす外来種に対し、駆除などの対策を行っていますが、外来種が新たな土地に適応して多く繁殖した場合、完全に駆除し生態系の回復を図ることはほとんど不可能に近いといわれています。
そのため、外来種がどのように定着し、分布するのかを解明することで、どの外来種が侵略に成功しやすいのかがわかります。

外来種の輸入の際に有害であることの証拠がなければ、輸入が許可されてきました。しかし、無害であることを証明することは難しく、有害であることの証拠がなければ、今後も輸入される可能性があるのです。

そのため、危険な生物の侵入を防ぐために、どのような外来生物が侵略的な生物であるか、その法則性を明らかにすることが重要です。
また、国際自然保護連合(IUCN)では、2000年に「外来種によって引き起こされる生物多様性減少防止のためのIUCNガイドライン」を採択しました。これは、各国の「生物多様性条約」の第8条である「生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅すること」の履行を支援することを目的としています。

種の保存委員会では「世界の侵略的外来種ワースト100」を発表し、世界中の深刻な外来種問題をリストアップすることで、問題提起を行っています。(注1)

(注1)参考:国立研究開発法人 国立環境研究所 外来生物問題、世界の視点と動向

特定外来生物による被害を防ぐための外来生物法

外来種によるさまざまな被害を防止するための「外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)では、生態系、農林水産業、人体へ大きな害を及ぼす外来種の指定や、外来種の取り扱いに関する規制、防除に関することなどが規定されています。
外来生物法に基づき、環境省がまとめた「特定外来生物被害基本方針」には次のようなものがあります。

  • 飼養、栽培、保管、運搬が禁止
  • 許可者以外は輸入禁止
  • 許可者以外への譲渡禁止
  • 野外への放出等禁止(大臣の許可が必要)
  • 国、都道府県(共同実施の市町村を含む)は公示し、防除を実施
  • 市町村、民間等は国の確認、認定を受けて防除を行う(注1)

また、令和5年4月1日から要緊急対処特定外来生物(著しく重大な被害、国民生活の安定に著しく支障を及ぼすおそれがあり、発見時には拡散防止の措置を緊急に行う必要があるもの)としてヒアリ類(トフシアリ属4種群と、それらの交雑種)が指定されました。
ヒアリによる影響は人体への影響や農産物への被害、また、電気設備での営巣、電線をかじることによる停電や火災の誘発があります。さらに在来の昆虫、爬虫類、小型哺乳類を集団で攻撃、捕食してしまう被害もあります。

そのため、要緊急対処特定外来生物に対する新たに3つの権限が設けられました。

1.通関後の検査等
主務大臣は要緊急対処特定外来生物が付着している可能性の高い物や土地、施設については、通関後も立ち入り検査や消毒、廃棄の指示を行うことができる。

2.移動の制限・禁止
主務大臣は、要緊急対処特定外来生物の疑いがある生物が付着している物品等について、専門家が種の特定を行う作業中も物品等の移動停止をさせることができる。

3.対処指針の策定
主務大臣および国土交通大臣は、要緊急対処特定外来生物による生態系への被害を防止するため、国が対処指針を定めることを法定化することで、事業者との連携を強化する。(注1)

また、特定外来生物の中に、条件付特定外来生物としてアカミミガメとアメリカザリガニの2種の規制があります。アカミミガメとアメリカザリガニは飼育者が多く、特定外来生物に指定し飼育を禁止すると、手続きなどの理由から野外へ逃がす飼育者が多くなることを懸念し設けられたものです。条件付特定外来生物は、捕獲、飼育、無償譲渡は可能ですが、野外への放出、販売、頒布、購入は禁止されています。(注2)

(注1)参考:環境省 日本の外来種対策
(注2)参考:環境省 要緊急対処特定外来生物について
(注2)参考:環境省 2023年6月1日よりアカミミガメ・アメリカザリガニの規制が始まりました!

外来種被害予防三原則

外来種被害予防三原則とは、外来種を入れない、捨てない、拡げないことをさします。

入れない 生態系や農林水産業、人体への影響をあたえる外来種を、本来の自然分布域から、分布域ではない場所へ入れないこと。
捨てない ペットとして飼育している動物や、観葉植物として栽培している植物を野外に逃がさず、放さず、脱走させないこと。
拡げない すでに生息している外来種を運ぶなど、他の地域にさらに拡げることを避けること。外来種を捕獲した際に、捕獲した場所から移動させることも禁止されています。

すでにペットとして飼育している生物が、特定外来種に指定された場合は、半年以内に主務大臣への届け出が必要となります。(注1)
また、特定外来生物以外にも未判定外来生物(被害を及ぼす可能性があるもの、または実態がわかっていないもの)も輸入の際には届け出の義務があります。(注2)

(注1)参考:環境省 外来生物法
(注2)参考:農林水産省 第Ⅰ章特定外来生物とは何か?

身近な外来種を知る

日本にいる外来種の数は2,000種を超えるといわれています。しかし、すべての外来種が悪影響を及ぼすわけではありません。外来種の中には、農作物や家畜、ペットなどわたしたちの生活に欠かすことのできない種も多く存在しています。(注1)

多くの外来種は、定着せず子孫を残すことができないといわれていますが、私たちの生活が便利になり海外、国内の移動が便利になったことで多くの生物が人の活動によって移動しているのです。
そのため、特定外来種も身近に多く存在しており、ニュースなどで取り上げられることもあるヒアリやセアカゴケグモは認知度が高くなっていますが、それら以外にも植物、動物、昆虫などさまざまな外来種が身近に存在することを知っておきましょう。

特に人体への影響を及ぼす外来生物を知っておくことは身を守るためにも必要です。また、特定外来種を発見した場合には、捕獲や採取を行わず、土地の管理者や行政機関に相談しましょう。ただし、特定外来生物を捕まえてしまった場合でも、その場ですぐに放せば問題ありません。また、釣りなどのレジャーでも特定外来生物である魚をその場で絞め、持ち帰ることは可能ですが、持ち帰り飼育することは禁止されています。(注2)

すでに定着している外来種は、他の生物との相互関係を持っている場合も考えられます。ある外来種を駆除した場合に予期しない影響が生じる可能性もあるため、駆除などは慎重に検討する必要があるのです。

(注1)参考:環境省 侵略的な外来種(注2)参考:環境省 外来生物法に関するQ&A

海外で生態系への被害を及ぼす日本の生物

外来種の問題は、日本だけではなく世界中で大きな問題となっています。また、日本原産の生物が海外で外来種となり、大きな影響を与えていることもあります。日本では食用など、適度に利用され問題となっていない生物も、海外では食用などの利用をされずに繁殖し、海外の在来種へ影響を与えてしまうことがあります。本来の生息地である日本では天敵となる生物がいることで、生態系のバランスがとれていても、海外では天敵となる生物がいない場合、生態系のバランスを崩してしまうほど繁殖してしまうこともあるのです。

海外で影響を及ぼす日本の動物

海外でも、日本からの外来種として生態系や農林水産業に影響を与えている種が多くいます。

<タヌキ>
タヌキはアジアからロシア南東部に生息する生物ですが、毛皮やペットとしての飼育を目的としていたものが、飼育放棄や脱走により野生化してしまいました。タヌキは適応能力が高く、雑食であるため農作物を荒らすことが問題となっています。また、狂犬病の媒介者としても問題視されています。(注1)

<アゲハチョウ(ナミアゲハ)>
日本でよく見かけるチョウであるアゲハチョウも、外来種として影響を与えています。アゲハチョウはハワイ諸島に渡り、幼虫が野菜や柑橘類の葉を食べてしまうことが問題となっています。

そのほかにも、ニホンジカやコイ、キンギョなどのなじみのある生物も海外では外来種として問題となっています。

(注1)参考:国立研究開発法人 国立環境研究所 タヌキ

海外で影響を及ぼす日本の植物

海外で生態系や農林水産業に影響を与えるものは動物だけではなく、日本原産の植物も外来種として問題になっています。

<クズ>
日本では食用のくず粉として利用されているクズは、マメ科のツル性の植物であり、日本、東〜東南アジアに広く分布しています。アメリカでは、ガーデニング用や家畜の飼料として持ち込まれました。しかし、成長の速さや、ほかの植物の成長を阻害するなどの問題が起こっています。(注1)

<ワカメ>
ワカメは日本沿岸や朝鮮半島に分布している海藻ですが、オーストラリアやニュージーランド、南米など多くの国で確認されており、船のバランスを保つバラスト水に混ざったり、船底に付着したりする方法で運ばれたと考えられています。
ワカメを食べる習慣のない国では、ワカメが増え過ぎ他の生物の成長を阻害しています。また、漁業用の機械に絡まるなどの影響も出ています。(注2)

(注1)参考:日本応用動物昆虫学会誌 北米侵入種クズの原産地における天敵層相
(注2)参考:環境省せとうちネット ワカメ

世界の侵略的外来種ワースト100

世界で問題となっている外来種ワースト100を国際自然保護連合(IUCN)が発表しています。
選考基準は、生物多様性および人間活動に対する深刻な影響の度合いと、生物学的侵入の重要な典型事例の2つです。
また、多くの種が外来種として問題になっていることから、生物を分類する一つの属という分類の中から、一つの種のみが選ばれリストに掲載されています。そのため、ワースト100に名前が掲載されていない場合でも、問題となっている場合があります。例えば、オオクチバスという属の中で、オオクチバスという種が掲載されている場合でも、リストに名前のない同じオオクチバス属のコクチバスに問題がないという訳ではないのです。(注1)
世界の侵略的外来種ワースト100に、日本原産の生物であるクズやワカメなども選ばれています。

(注1)参考:日本自然保護協会 「世界の外来新入種ワースト100」IUCN侵入種専門家グループが発表

世界での外来種への対策や動き

外来種による影響は世界中で問題となっています。日本でも、法整備を行い罰則を設けることや、駆除作業などのさまざまな対策を行っています。
海外でも同じように外来種への法整備や検疫での検査などの対策を行っています。特に島国であるニュージーランドやオーストラリアでは固有種(特定の地域にのみ生息する種)を守るための外来種対策に取り組んでいます。
ニュージーランドとオーストラリアの外来種問題への取り組みについて紹介します。

ニュージーランドの取り組み

島国であるニュージーランドの固有種は、捕食哺乳類がいない環境で進化しました。そのため鳥類は飛ばない進化をした種も多く、人によって持ち込まれた外来の捕食哺乳類に対し弱く、捕食されてしまい絶滅などの被害が多く起こっています。そのため、世界の中でも特に外来種の対策に力をいれている国です。また、ニュージーランド政府は、2050年までに外来種を根絶することを目指すと発表しています。(注1)(注2)

日本の外来生物法では、危険な外来生物をリストアップしたブラックリスト方式であるのに対し、ニュージーランドでは国内に入っても問題のない生物をリストアップしたホワイトリスト方式を行っています。問題がないと判断されていない生物の持ち込みがすべて禁止され、とても厳しい管理を行っています。また、生物安全保障法(BS法)では、植物防疫を中心に、生物多様性の保全や人の健康までを組み込み生物安全保障として、外来種対策が行われています。(注3)

さらに、有害物質及び新生物法(HSNO法)では、環境リスク管理局(ERMA)が、新生物(微生物や生殖細胞を含む)の輸入や開発に関する制限を行っています。この法律により、環境リスク管理局の許可がなければ、外来種は一切の輸入、所持、野外への放出が禁止されています。(注4)
さらに、ニュージーランドは、多くの島々から構成された国であるため、同じ種でも島ごとに進化した遺伝子の交雑を防ぐため、国内間でも生物の移動が厳しく管理されています。

(注1)参考:一般社団法人バードライフ・インターナショナル東京 ニュージーランドが2050年には外来種のいない国に? 
(注2)参考:ナショナルジオグラフィック ニュージーランド、2050年までに外来種を根絶へ 
(注3)参考:環境省 雑草リスク評価(Weed Risk Assessment: WRA)について 
(注4)参考:環境省 外来種の輸入、移動、利用に関する各国規制制度について(検疫制度以外の制度)

オーストラリアの取り組み

オーストラリアは島国であり、哺乳類でも卵を産むカモノハシや、有袋類など、独自に進化した動植物が世界一多い国です。
しかし、人間により持ち込まれた外来種などによりオーストラリアでは1788年以降、約100種の野生生物が絶滅しています。(注1)

そのため、オーストラリアでは、固有種を守るための取り組みが行われています。オーストラリアでは最も侵略的な有害生物としてコイを指定しており、コイを排除するためにコイヘルペスウイルスによる全滅計画があります。コイヘルペスウイルスとは、マゴイとニシキゴイに発生する死亡率の高いウイルスです。(注2)
しかし、推測で20万トン〜35万6000トンに達するとされるコイの死体の処置や新型コロナウイルスの影響によって計画開始が遅れています。(注3)

オーストラリアでは固有の動植物を守るために、厳しい検疫措置を行っています。オーストラリアに入国する際には、動植物、動植物でできた食品、物品などを申告する必要があります。また、申告漏れや虚偽の申告を行った場合には罰金、罰則が課されます。
また、国内の州間を含む、生体輸入に適した生物種の輸入や取引に関する法律である「環境保護および生物多様性保全に関する法律(EPBC法)」などの法律によって、オーストラリアでは固有種の保護を行っています。
(注4)

(注1)参考:WWFジャパン よみがえれ、オーストラリアの自然
(注2)参考:農林水産省 コイヘルペスウイルスに関するQ&A
(注3)参考:一般社団法人予防衛生協会 139オーストラリア政府による外来種コイの排除のためのウイルス放出計画
(注4)参考:外務省 海外の主要国における外来生物対策に資する法律と主な規制内容

外来種問題への取り組みは生物多様性を守ることにつながります

多くの国で取り組まれている外来種問題ですが、どの外来種も生物の責任ではなく、人の活動によって連れてこられ、適応できずに死んでしまうことや駆除の対象になっているのが現状です。私たちの生活に欠かすことのできない外来種も存在し、すべての外来種が問題を起こしているわけではありませんが、外来種が引き起こす生態系への問題は、私たち人間が取り組まなければならない問題なのです。

身近なところでも外来種が存在しているため、まずはどのような生物が外来種であるのかを知り、ペットとして生物を飼う場合は必ず最期まで責任を持つことが求められます。
新たな外来種を招かず、健全な生態系を維持することが持続可能な社会の実現のために重要なのです。

この記事の執筆者
EARTH NOTE編集部
SDGs情報メディア
「SDGsの取り組みを共有し、循環させる」がコンセプトのWEBメディア。SDGsの基礎知識や最新情報、達成に取り組む企業・自治体・学校へのインタビューをお伝えし、私たちにできることを紹介します。
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。
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