水質汚染とは?現状と私たちにできることを初心者向けに徹底解説

みなさんは水質汚染と聞いて、「私には関係ない」と感じてはいませんでしょうか。
日常生活で水質汚染しているつもりがなくても、実は意外な行動が汚染につながっていることがあるのです。
そこで本記事では
- 水質汚染の原因
- 水質汚染に関する基準や法律
- 水質汚染がもたらす影響
- 水質汚染とSDGsの関係
- 私たちができる水質汚染対策
についてわかりやすく解説します。
この記事を読めば、水質汚染に関する知識が身につき、読んだその日から水質汚染対策の行動に移せます。水質汚染の現状を知り、私たちにできる簡単なことからはじめていきましょう。
目次
水質汚染と主な原因
水質汚染とは主に人間の活動によって河川や湖沼、海洋などの水質が悪化することです。近年話題の「SDGs」とも大きく関わります。
水質汚染が進むと私たちの生活はどうなるでしょうか。例えば、水道水が入浴や飲み水として使えなくなったり、海や河川の生物が生息できなくなります。実例をあげると、2018年にメキシコのタバスコ州ではフロリダマナティーが大量死しました。河川沿いにある石油工場からの排水による水質汚染がマナティーの命を奪ったと考えられています。
(出典:WWFジャパン-フロリダマナティーが大量死。命を奪ったものとは?-)
このように、水質汚染は私たちの生活、そして海や河川の生き物たちを危険に晒しているのです。
では、水質汚染の原因はいったい何なのでしょうか。主な原因は以下の3つです。
- 産業排水
- 生活排水
- 気候変動
水質汚染はひと昔前では産業排水が主な原因でした。その後規制が強化され、産業排水の対策が強化されてきていますので、現在は生活排水が最も大きな原因となっています。
また、地球温暖化などの気候変動は海や河川が汚染されることと密接に関わっているのです。
それぞれの原因が「なぜ水質汚染につながっているのか」を、水質汚染の現状を踏まえながら詳しく解説していきます。
水質汚染の現状
では実際に現在ではどのくらい水質汚染が進んでいるのか、まずは日本の現状を見ていきましょう。
海上保安庁では毎年、海洋汚染の現状について調査・報告を行っています。令和4年の海洋汚染は468件と前年度よりは減少するも、高止まり状態が続いていることが報告されました。
詳細を見ていくと、油による汚染は299件、廃棄物による汚染は148件にものぼります。油排出の原因は、作業中の取扱不注意、船舶海難、機械の破損で、廃棄物の原因は一般市民や漁業関係者による不法投棄になります。つまり、「人間の活動」によって汚染が進んでいるのです。
(出典:海上保安庁-令和4年の海洋汚染の現状(確定値)-)
上記の結果を踏まえ、国としては以下の活動に今後取り組んでいくとしています。
- 海洋汚染について 海事・漁業関係者に講習会の開催
- 漁業関係者、若年層を含む一般市民に、不法投棄防止の呼びかけ
- 廃棄物や海洋プラスチックごみ等が海洋環境に与える影響などについての啓発活動
油による汚染には関係者に講習会を、廃棄物による汚染には関係者や一般市民に啓発活動を行い、水質汚染改善をめざします。
(出典:海上保安庁-令和4年の海洋汚染の現状(確定値)-)
そして、世界に目を向けると、世界の生活排水の90%は、未処理のまま放流されているのが実態です。特にアジアやアフリカの途上国で排水処理率が低く、トイレからのし尿・排水管理は難航しています。
(出典:国土交通省-下水道分野の国際展開に関する現状分析と課題-)
さらに、水質汚染が原因で毎年350万人もの人々が病気になり亡くなっているのです。
(出典:東北大学原田秀樹-今、そこにある危機:途上国の”水と衛生”と下水処理の適正技術の開発-)
このように水質汚染の現状は、悪化した状態が続いており、早急に改善に取り組むべき課題であることがわかります。
原因①:産業排水
水質汚染の原因として、産業排水があげられます。産業排水とは工場や農場などから排出される汚水のことです。
では、なぜ産業排水が海や河川に流れ出てしまうのでしょうか。理由は大きく2つあります。
私たちが口にする食品や日常生活でかかせない洗剤などを工場で作る際、必ず水を使います。その使用された水が排水として直接海や河川に流れ出るのが1つの理由です。
もう1つは汚染された土地の排水が土にしみ込んで地下水となり、水質汚染するケースです。現在稼働している工場だけでなく、以前工場があったところにも有害物質が残っている場所があります。
その地下水が海や河川に流れ出し、水質汚染に繋がります。よって地下水を飲み水に使っている人々も危険に晒されることになるのです。
産業排水には化学薬品が混じっており、中には水銀やカドミウムなど生物に有害な物質を含んでいることがあります。そのような産業排水が人体に影響をおよぼした代表例として「水俣病」や「イタイイタイ病」が有名です。
水俣病は、有害な水銀を含む産業排水が海に流れ、その海の魚がまず汚染されます。その汚染された魚を食べた人々の体に感覚障害や運動失調などの症状を引き起こしました。
イタイイタイ病は、鉱山から排出されたカドミウムが河川へ流出し、流域で栽培された農作物を人間が食べることで発症ました。腰や肩、ひざなどに痛みが出る病気です。
かつての犠牲を繰り返さないために、現在では、敷地内できれいな水に処理してから排水するようになりました。1970年の水質汚濁防止法成立によって、工場などに対する規制が強化され排水処理対策が進んでいます。
原因②:生活排水
生活排水とは、キッチンやお風呂、洗濯、トイレなど日常生活から出る排水のことです。
生活排水は下記のとおり2種類にわかれます。
- 生活雑排水:トイレを除く排水で、風呂や洗濯、炊事などにより出されるもの
- し尿:生活排水のうちトイレから出るもの
これらの生活排水が各家庭やし尿処理場、下水処理場などから排出され、河川・湖沼や海に流れ込み、水質が汚染されるのです。
では生活排水でどれくらい海や川が汚染されているのでしょうか。
農林水産省が「汚水処理人口普及状況」という各年度末時点の生活排水処理施設を利用できる人口の割合を表した指標があります。数値が高いほど生活排水を処理できていることになりますが、令和3年度末における汚水処理人口普及率は92.6%です。
この数値から、約930万人が汚水処理施設を利用できない状況であることがわかっています。日本でもいまだに生活処理水が未処理のまま河川に放流されている地域が多くあるのです。
(出典:農林水産省-令和3年度末の汚水処理人口普及状況について-)
生活排水が海や川に流出すると「富栄養化」という問題が生じます。富栄養化とは、河川や湖沼、海水に含まれる栄養分(リン・窒素・炭素など)が増えすぎてしまうことです。
富栄養化が進むと次の2点が発生やすくなります。
- アオコ
- 赤潮
両者とも多発すると水中の酸素濃度が低下し、水域の生物が大量死してしまいます。
また、生活排水は規制が難しいことも特徴で、法律では住民が排出する生活排水の規制に関しては努力義務で罰則などはありません。
(出典:環境省-水質汚濁防止法等の一部を改正する法律の施行について-)
このように生活排水で海や川は汚染され続けており、なかなか改善することが難しい課題となっています。
原因③:地球温暖化
地球温暖化という言葉はよく聞きますが、どういう仕組みで発生しているのでしょうか。
地球が温かいのは太陽光のおかげです。太陽エネルギーにより温められ、地球の平均気温が15℃前後に保たれています。そのおかげで人や生き物が生きやすい環境ができているのです。
その太陽光の熱の一部は宇宙に自然放出され、残りは温室効果ガス(二酸化炭素やメタンガスなど)により大気中にとどまります。
しかし、温室効果ガスが増えすぎると吸収する熱量が増えることになり、地球の温度が上昇するのです。これを地球温暖化とよびます。
では地球温暖化が進むと水質にどのような影響を与えるのでしょうか。大きく以下の3点があげられます。
- 酸性雨
- 森林破壊
- アオコの発生
【酸性雨】
まず、地球温暖化と酸性雨はどのようなかかわりがあるのでしょうか。
雨は大気中の二酸化炭素を吸収する性質があります。二酸化炭素を吸収すると酸性になるので、もともと雨は酸性を示します。ただし、大気中の二酸化炭素濃度が濃くなるとそれだけ雨が二酸化炭素を吸収することになり、酸性の度合いが強くなるわけです。これが地球温暖化と酸性雨の関係になります(一般的にはpH※が5.6以下の場合を酸性雨という)。
※pHとは、水溶液の性質(酸性、アルカリ性)の程度をあらわす単位で数値が低いほど酸性になる。
(出典:国土交通省-酸性雨に関する基礎的な知識-)
よって地球温暖化が進むと酸性雨が降ることになります。酸性雨が海や川に入ると水質汚染につながるのです。例えば、酸性の水域では魚類だけでなく貝類や藻類、水中のプランクトンなどの生態系が破壊され、水質汚染につながります。また、私たち人間も汚染された河川の魚類を体内に摂取することで、健康被害が生じるのです。
【森林破壊】
地球温暖化が進むと森林破壊につながり、水質が汚染されます。では、それぞれがどのようにつながってくるのでしょうか。
IPCC※の最新報告書で地球温暖化は大雨、干ばつ、台風などの異常気象の発生につながると発表されています。その大雨や干ばつなどの異常気象により、森林の生態系が破壊され、森林は水を浄化する機能を果たせなくなります。そして水質汚染につながるのです。
※IPCCとは国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)の略。1988 年に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立された組織。気候変化の科学的、技術的、社会経済学的観点から評価を行う。
(出典:日本財団-2022年に世界で起きた異常気象を振り返る。原因は地球温暖化?私たちの暮らしにある?-)
【アオコの発生】
地球温暖化で水温が上昇すると、植物プランクトンが増加し、アオコが発生します。
アオコが異常発生すると、水中の酸素濃度が低下し、水域の生物が酸素を得られなくなり窒息死につながるのです。生態系が悪化すると水質がきれいに保てなくなるため、水質悪化につながります。
このように、地球温暖化を皮切りにさまざまな水質汚染につながるのです。
水質汚染の基準
「水質汚染」といわれても、どのレベルから汚染されているのか気になる方も多いのではないでしょうか。
水質汚染の基準は環境基本法第16条により定めらており、健康と環境を維持できる基準が望ましいとされています。
(出典:e-GOV法令検索-環境基本法-)
ここでは環境基本法をもとに、水質はどんな基準で「汚れている」とされるのか以下3点をみていきます。
- 健康項目
- 環境項目
- 湖・沼の水質
水質汚染の基準を知り、環境問題への意識向上につなげていきましょう。
健康項目
健康項目とは水質汚染にかかわる環境基準のうち、人の健康保護を直接の目的として定められた基準です。
健康項目についての項目と基準値は以下の通りです。健康に有害とされる項目に環境基準が設定されています。
項目 | 基準値 |
---|---|
カドミウム | 0.003mg/L以下 |
全シアン | 検出されないこと |
鉛 | 0.01mg/L以下 |
六価クロム | 0.05mg/L以下 |
砒素 | 0.01mg/L以下 |
総水銀 | 0.0005mg/L以下 |
アルキル水銀 | 検出されないこと |
PCB | 検出されないこと |
ジクロロメタン | 0.02mg/L以下 |
四塩化炭素 | 0.002mg/L以下 |
塩化ビニルモノマー(地下水のみ) | 0.002mg/L以下 |
1,2-ジクロロエタン | 0.004mg/L以下 |
1,1-ジクロロエチレン | 0.1mg/L以下 |
シス-1,2-ジクロロエチレン(公共用水域のみ) | 0.04mg/L以下 |
1,2-ジクロロエチレン(地下水のみ) | 0.04mg/L以下 |
1,1,1-トリクロロエタン | 1mg/L以下 |
1,1,2-トリクロロエタン | 0.006mg/L以下 |
トリクロロエチレン | 0.01mg/L以下 |
テトラクロロエチレン | 0.01mg/L以下 |
1,3-ジクロロプロペン | 0.002mg/L以下 |
チウラム | 0.006mg/L以下 |
シマジン | 0.003mg/L以下 |
チオベンカルブ | 0.02mg/L以下 |
ベンゼン | 0.01mg/L以下 |
セレン | 0.01g/L以下 |
硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素 | 10mg/L以下 |
ふっ素 | 0.8mg/L以下 |
ほう素 | 1mg/L以下 |
1,4-ジオキサン | 0.05mg/L以下 |
(出典:環境省-水質汚濁対策 きよらかな水の保全を目指して-)
基準を超えると、水は健康に適さないこととなり、人体への悪影響が懸念されるでしょう。
生活環境項目
生活環境項目についての基準は以下の通りです。環境省の告示では、水域の類型※ごとに基準が分かれています。
※水域の類型とは一級河川・二級河川などの河川
項目 | 河川 | 湖沼 | 海域 |
BOD | ≦1~10mg/L | – | – |
COD | – | ≦1~8mg/L | ≦2~8mg/L |
pH | 6.0~8.5 | 6.0~8.5 | 7.0~8.3 |
SS | ≦25~100mg/L等 | ≦1~15mg/L等 | – |
DO | 2~7.5mg/L≦ | 2~7.5mg/L≦L | 2~7.5mg/L≦ |
大腸菌群数 | ≦50~5,000MPN/100mL | ≦50~1,000MPN/100mL | ≦1,000MPN/100mL |
n-ヘキサン抽出物質 | – | – | 検出されないこと |
全窒素 | – | ≦0.1~1mg/L | ≦0.2~1mg/L |
全りん | – | ≦0.005~0.1mg/L | ≦0.02~0.09mg/L |
全亜鉛 | ≦0.03mg/L | ≦0.03mg/L | ≦0.01~0.02mg/L |
ノニルフェノール | ≦0.0006~0.002mg/L | ≦0.0006~0.002mg/L | ≦0.0007~0.001mg/L |
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩 | ≦0.02~0.05mg/L | ≦0.02~0.05mg/L | ≦0.006~0.01mg/L |
(出典:環境省-水質汚濁対策 きよらかな水の保全を目指して-)
生活環境項目は人の健康の保護・生活環境を保全し、大気、水、土壌、騒音をどの程度にしていくべきか数値化してあらわしています。こちらも基準を超えると、人・環境に影響が懸念されることになるのです。
湖・沼の水質
湖や沼は「閉鎖性水域」と呼ばれ、水の循環が起こりにくい特徴があります。そのため、1度汚染されてしまうと改善が難しいのです。
湖・沼はその特徴を加味して、専用の保全してくための法律「湖沼水質保全特別措置法」が1984年に制定さました。健康項目に関しては上記のものと同じですが、生活環境項目は湖沼用の生活環境項目が設定されています。
湖沼用の生活環境項目は環境省の生活環境の保全に関する環境基準(湖沼)を参照してください。
実際の調査例:埼玉県
では実際に生活項目・環境項目を調査した例をみてみましょう。
埼玉県では令和3年度に水質測定を実施し、ホームぺージに公表しています。環境基準の維持達成状況を把握し、人の健康の保護と生活環境の保全を図ることを目的に実施しました。
結果は以下のとおりです。
- 健康項目は、測定を行なった44河川93地点全てで基準を達成
- 生活環境項目は34河川44水域のうち、38水域で環境基準を達成
- 湖沼の健康項目は、測定を行なった3湖沼全てで環境基準を達成
- 湖沼の生活環境項目のCOD※1について、環境基準の類型指定がされている3湖沼のうち、2湖沼で環境基準を達成
- 全りん※2について、環境基準の類型指定がされている3湖沼全てで環境基準を達成
- 全亜鉛※3について、水生生物保全に係る環境基準の類型指定がされている2湖沼全てで環境基準を達成
※1.CODとは水質汚染の指標のひとつで日本語では化学的酸素消費量と呼ばれる。CODは、水中に有機物などの物質がどれくらい含まれるか表しており、CODが大きいほど水質汚染が進んでいる。
※2.全リンは産業系排水などによってわずかな量でも河川に流出すると、自然界のリンの濃度が変動してしまい、富栄養化する可能性がある。 そのため、排水する際には決められた基準値まで含有量を減らすことが求められる。
※3.全亜鉛は含まれすぎると有害であり、さらに亜鉛の化合物のいくつかは「劇薬」に指定されているものもある。よって全亜鉛の水質基準値は「1.0mg/L以下」。
埼玉県では上記の結果を受けて下記の対応を実施予定としています。
- 引き続き水質調査を実施し、水質汚染防止につとめる
- 環境基準超過があった地点は、原因究明のための追跡調査等を実施
- 生活排水処理施設の整備
- 立入検査等により、水質汚濁防止法、埼玉県生活環境保全条例の規制対象工場・事業場に対する排水規制の遵守を徹底
- 関係機関等と緊密な連携を図りながら、河川の状況に応じた水質改善に総合的に取り組み
- 川との共生や保全を目的に、川の国応援団、個人、企業が連携して取り組む「SAITAMAリバーサポーターズプロジェクト」を推進
埼玉県のように一定の水質基準を満たしているか定期的に水質を調査し、対策を講じることは水質改善につながります。水質汚染の基準を徹底することが水質汚染改善に求められているのです。
(出典:埼玉県-令和3年度公共用水域(河川及び湖沼)の水質測定結果について-)
水質汚染対策の法律
ここまでみてきたのは、水質汚染の「基準」ですが、日本では法律により水質汚染を防止することが定められているので紹介します。
水質汚濁防止法
1970年に水質汚染への対策として制定されたのが水質汚濁防止法です。
制定のきっかけとなったのは水俣病やイタイイタイ病が問題となったことです。排水規制のしくみを全般的に強化し健康と生活環境に被害を及ぼさないようにする事を目的に、水質汚濁防止法が制定されました。
工場や事業場からの排出水に関する基準は、大きく分けると以下の3つで定められています。
基準 | 内容 |
一律排水基準 | 全国一律の基準 |
上乗せ排水基準 | 汚染源が集中している地域における一律排水基準よりも厳しい基準 |
総量規制基準 | 濃度規制だけでは環境基準の達成が困難な水域において、排出水の濃度規制に加えて汚濁負荷量の許容限度として適用される基準 |
基準が定められたことで、工場や事業場からの排水に対して、基準以下の濃度で排水することが求められることになり、水質改善のきっかけとなりました。
環境基本法
環境基本法は1993年に定められましたが、もともとは公害対策基本法という法律がありました。公害対策基本法は1967年に制定され、水俣病やイタイイタイ病の発生がきっかけです。
公害とは「大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、振動、騒音、地盤沈下、悪臭により人の生活環境や健康に被害が生じること」です。
(出典:総務省-「公害」とは?-)
その公害を防止するために公害対策基本法が定められ、1993年の環境基本法制定とともに廃止されました。そのため現在は、環境基本法が公害対策の法律になります。
環境基本法の内容は、環境保全の基本理念と施策の基本となる事項を定める法律で環境行政の目標や基準を示しています。行政・事業者・国民の責務を明らかにし、環境基本計画という環境の保全に関する基本的な計画を策定しているのです。
いわば日本の環境保全の土台ともいえる法律で、地球環境問題解決のための国際協力の推進なども定められています。
湖沼水質保全特別措置法
湖や沼は海や川のように水の流れがありません。そのため、いったん汚染物質が溜まってしまうと元に戻りにくい性質があるのです。上記で紹介した「水質汚濁防止法」だけでは湖沼汚染を防ぐことができませんでした。
そこで、湖沼に特化した法律が必要となり、「湖沼水質保全特別措置法」という法律が1985年から施行されています。
内容は、閉鎖性の水域である湖沼を守るため、下記のことを定めています。
- 湖沼の水質保全のための施策に関する計画の策定
- 水質の汚濁の原因となる物を排出する施設に係る必要な規制
湖沼水質保全特別措置法により、湖沼への環境負荷の規制、下水道・浄化槽の整備といった施策が行われているのです。
水質汚染がもたらす影響
水質汚染は世界中で発生していますが、実際どのような影響がでているのでしょうか。ここでは具体的に生き物・人・気候の観点からどのような影響があるかみていきましょう。
生き物への影響:サンゴや魚
プラスチックごみはいったん海や川に流出すると自然で分解されない性質があります。そのため、流出した後は永久に海や川に残り続け、長い年月をかけて細かくなっていき、「マイクロプラスチック」になります。
サンゴは海水から養分を吸収しますが、その海水にマイクロプラスチックが含まれているとどうなるでしょうか。サンゴの体内にマイクロプラスチックはが侵入し、最悪の場合死滅してしまうのです。
サンゴは水中の二酸化炭素濃度を調整してくれており、そのおかげで他の水棲生物が生きられる環境を生み出しています。そのサンゴが死滅してしまうと他の水棲生物も生きていけないことにつながるのです。
(出典:日本財団ジャーナル-【増え続ける海洋ごみ】マイクロプラスチックが人体に与える影響は?東京大学教授に問う-)
水質汚染はサンゴだけでなく、魚たちにも影響をあたえます。例えば、窒素やリンを含む洗剤や農薬が流出することで、水中の栄養素が高くなる「富栄養化」が発生します。
「栄養が高いといいのではないか」と思うかもしれませんが、実は魚たちには下記のような悪影響をおよぼすのです。
- プランクトンの増殖により、エラにプランクトンが詰まり、魚が死んでしまう
- プランクトンの増殖で水中の酸素が不足し、酸欠になる
(出典:農林水産省-赤潮は(あかしお)はなぜ発生するのですか。-)
このように水質汚染は、サンゴや魚などの水棲生物に深刻な影響を与えるのです。
人への影響
水質汚染は、下記2点において人に影響をおよぼします。
- 不衛生な水環境による健康被害
- 汚染された魚による健康や食への被害
水質汚染が進むと不衛生な水環境へとつながり、その汚染された水を使用せざるを得ない状況を生み出します。その汚染水が健康被害や重篤な感染症を引き起こす原因になるのです。
現在でも発展途上国などでは、水道施設や浄化施設の整備が進んでおらず、感染症を引き起こす原因となっています。
日本では水がきれいなために想像しにくいですが、世界に目を向けると不衛生な水の被害を受けている人も多くいるというのが現状なのです。
世界中に安全な水を供給し健康被害を防ぐには、私たち自身が水質汚染に対して知り、できることから始めていくことが大切です。
(出典:日本ユニセフ協会-どんなに汚くてもこの水を飲むしかない…-)
また、生き物への影響のところでも紹介した「マイクロプラスチック」は人間にも影響をあたえます。マイクロプラスチックには化学物質が含まれており、魚がマイクロプラスチックを食べると体内に蓄積されるのです。
その魚を人間が食べると、健康被害につながる恐れがあります。
つまり、水質汚染の改善は魚などの生態系、人間の健康にも関わる重要な課題なのです。
地球温暖化への影響
最後に水質汚染と地球温暖化への影響を解説します。地球温暖化は排気ガスなどにより大気中の温室効果ガス(二酸化炭素やメタンガスなど)濃度が上がることによって引き起こされます。
プラスチックごみが海や川に流出し、日光に晒されると、メタンガスなどの温室効果ガスが発生するという研究結果があります。よって水質汚染が進むと大気中にメタンガスなどの温室効果ガスが増え、地球温暖化につながるのです。
(出典:一般社団法人環境金融研究機構-海洋廃プラスチック、太陽光、水による劣化で温室効果ガス放出量増大。 これまでの温暖化効果に反映せず。米ハワイ大研究チームが突き止める。温暖化対策と廃プラ対策の連動不可欠に(RIEF)-)
(出典:JCCCA-4-4地球温暖化係数(GWP)について-)
水質汚染とSDGsとの関係
SDGsとは、2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)のことです。目標が17個に分類されており、水質汚染とかかわりが深い目標があります。具体的には以下のとおりです。
- 目標6「安全な水とトイレをみんなに」
- 目標13「気候変動に具体的な対策を」
- 目標14「海の豊かさを守ろう」
目標6、13、14のそれぞれが水質汚染と密接にかかわります。ここでは目標の概要と水質汚染がSDGsとどのようにかかわるのか解説します。
目標6「安全な水とトイレをみんなに」との関係
目標6「安全な水とトイレをみんなに」には、より具体的な行動指針を示すターゲットが8項目あります。
目標・ターゲット番号 | 内容 |
6.1 | 2030年までに、だれもが安全な水を、安い値段で利用できるようにする。 |
6.2 | 2030年までに、だれもがトイレを利用できるようにして、屋外で用を足す人がいなくなるようにする。女性や女の子、弱い立場にある人がどんなことを必要としているのかについて、特に注意する。 |
6.3 | 2030年までに、汚染を減らす、ゴミが捨てられないようにする、有害な化学物質が流れ込むことを最低限にする、処理しないまま流す排水を半分に減らす、世界中で水の安全な再利用を大きく増やすなどの取り組みによって、水質を改善する。 |
6.4 | 2030年までに、今よりもはるかに効率よく水を使えるようにし、淡水を持続可能な形で利用し、水不足で苦しむ人の数を大きく減らす。 |
6.5 | 2030年までに、必要な時は国境を越えて協力して、あらゆるレベルで水源を管理できるようにする。 |
6.6 | 2020年までに、山や森林、湿地、川、地下水を含んでいる地層、湖などの水に関わる生態系を守り、回復させる。 |
6.a | 2030年までに、集水、海水から真水を作る技術や、水の効率的な利用、排水の処理、リサイクル・再利用技術など、水やトイレに関する活動への国際協力を増やし、開発途上国がそれらに対応できる力を高める。 |
6.b | 水やトイレをよりよく管理できるように、コミュニティの参加をすすめ、強化する。 |
(出典:日本ユニセフ協会-6.安全な水とトイレを世界中に-)
つまり、安全な水やトイレを世界中に供給することが目標です。では目標6が水質汚染とどうかかわってくるのでしょうか。
そもそも安全な水や衛生的に管理されたトイレが使えないのは、水質が汚染しているためです。よって目標6と水質汚染のかかわりが想像しやすいでしょう。
世界に目を向けると、22億人が安全な水を確保できていません。また、42億人が清潔なトイレを使うことができおらず、30億人が手洗い施設のない暮らしを強いられています。
(出典:日本ユニセフ協会-水と衛生進歩と格差22億人、安全に管理された飲み水入手できず42億人、安全に管理された衛生施設(トイレ)使えずユニセフとWHO共同監査報告書発表-)
それでは、なぜ汚染した水をそのまま利用しなければならないのでしょうか。
発展途上国では汚染された水を浄化するシステム自体が整っていないからです。そのため、汚染された水がそのまま海や河川に流れ出しており、それを利用せざるを得ない状況があるのです。
よって目標6を達成することは、そのような国や人々に水をきれいにするシステムを整え、安全な水を提供します。目標6が水質汚染と密接にかかわってくるのはこのためです。
目標6を達成し、水質汚染を改善していくためには世界各国が足並みをそろえ、協力する姿勢が求められます。
さらに、国だけではなく、私たち個人が取り組めることもあります。例えば、洗剤を使いすぎないとか食べ残しをしないなど、簡単なことも水質の改善につながり、SDGsに貢献していることになるのです。自分に何ができるのか考え、水質改善のために行動していきましょう。
目標13「気候変動に具体的な対策を」との関係
SDGs13の目標「気候変動に具体的な対策を」は、ターゲットが5つあります。
目標・ターゲット番号 | 内容 |
13.1 | 気候に関する災害や自然災害が起きたときに、対応したり立ち直ったりできるような力を、すべての国でそなえる。 |
13.2 | 気候変動への対応を、それぞれの国が、国の政策や、戦略、計画に入れる。 |
13.3 | 気候変動が起きるスピードをゆるめたり、気候変動の影響に備えたり、影響を減らしたり、早くから警戒するための、教育や啓発をより良いものにし、人や組織の能力を高める。 |
13.a | 開発途上国が、だれにでも分かるような形で、気候変動のスピードをゆるめるための行動をとれるように、UNFCCC※で先進国が約束したとおり、2020年までに、協力してあらゆるところから年間1,000億ドルを集めて使えるようにする。また、できるだけ早く「緑の気候基金」を本格的に立ち上げる。 ※国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は、大気中の温室効果ガス濃度の安定などを目的につくられた条約で、1992年採択、1994年発効。 |
13.b | もっとも開発が遅れている国や小さな島国で、女性や若者、地方、社会から取り残されているコミュニティに重点をおきながら、気候変動に関する効果的な計画を立てたり管理したりする能力を向上させる仕組みづくりをすすめる。 |
(出典:日本ユニセフ協会-13.気候変動に具体的な対策を-)
気候変動要因の抑制から、気候変動による悪影響の軽減まで、5つの具体策を実行することを目標にしています。
「気候変動」と「水質汚染」は一見かかわりがないようにみえますが、どのような関係があるのでしょうか。それは皆さんも1度は聞いたことがある地球温暖化です。地球温暖化は排気ガスなどにより大気中の温室効果ガス濃度が上がることによって引き起こされます。
大気中の二酸化炭素濃度が上がると温室効果ガスが地球の周りにたまり、太陽からの熱を吸収しすぎて気温上昇につながるのです。気温上昇は水温上昇にもつながり、植物プランクトンの増殖や生態系の悪化を引き起こします。それが水質の悪化につながっているのです。
では具体的にどのくらい気温上昇し温室効果ガスが増えているのでしょうか。
地球の平均気温は産業革命以前の1880年と比較して0.85℃も上昇しています。原因は、人間の生活から排出される二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素などといった温室効果ガスです。
(出典:環境省-第2章地球温暖化の実態-)
上記の温室効果ガスの中でも二酸化炭素は総排出量の約76%を占め、地球温暖化に最も大きな影響をおよぼしているとされています。
(出典:南房総市-温室効果ガスってどんなもの?-)
また、大気中の二酸化炭素濃度は、18世紀の産業革命時と比べると約40%も上昇しました。
(出典:環境省-IPCC第5次評価報告書の概要-)
このような気温上昇の影響は水質汚染だけにとどまりません。具体的には下記のことが危惧されています。
- 水温上昇により、海面上昇し、島が沈んでなくなる
- 気温に左右され、農業の取れ高が不安定になり、食料不足におちいる
- 北極の氷が溶け、温度に対応できない生態が危機に晒される
水質だけでなく、私たちの生活や動物の生息地も奪ってしまうのです。
では私たちは気候変動を改善するためにどのような行動をとっていくべきなのでしょうか。例えば下記のようなことです。
- クールビスで冷暖房に頼らない生活をする
- コンセントを抜いたり、使用していない電気は節約する
- 近場に行くときは車やバイクを使わずに徒歩で行くようにする
私たちも目標13達成に向けて簡単にできることから貢献していきましょう。
目標14「海の豊かさを守ろう」との関係
SDGs14「海の豊かさを守ろう」は、ターゲットが10個あり、下記のとおりです。
目標・ターゲット番号 | 内容 |
14.1 | 2025年までに、海洋ごみや富栄養化※など、特に陸上の人間の活動によるものをふくめ、あらゆる海の汚染をふせぎ、大きく減らす。 ※富栄養化:水の中に、プランクトンなどの生物にとって栄養となる成分(リンやちっ素など)が増えすぎてしまうこと。赤潮の原因になるなど、生態系に影響を与える。 |
14.2 | 2020年までに、海と沿岸の生態系に重大な悪い影響がでないように、回復力を高めることなどによって、持続的な管理や保護をおこなう。健全で生産的な海を実現できるように、海と沿岸の生態系を回復させるための取り組みをおこなう。 |
14.3 | あらゆるレベルでの科学的な協力をすすめるなどして、海洋酸性化※の影響が最小限になるようにし、対策をとる。 ※海洋酸性化:人間の活動によって大気中に放出された二酸化炭素を海が吸収し、海水がより酸性になること。これによってたとえばサンゴが育たなくなると、サンゴをすみかにしているさまざまな生き物も影響をうけるなど、海の生態系に大きな影響をおよぼすといわれている。 |
14.4 | 魚介類など水産資源を、種ごとの特ちょうを考えながら、少なくともその種の全体の数を減らさずに漁ができる最大のレベルにまで、できるだけ早く回復できるようにする。そのために、2020年までに、魚をとる量を効果的に制限し、魚のとりすぎ、法に反した漁業や破壊的な漁業などをなくし、科学的な管理計画を実施する。 |
14.5 | 国内法や国際法を守りながら、手に入るもっともよい科学的な情報に基づいて、2020年までに、少なくとも世界中の沿岸域(海岸線をはさんだ陸と海からなる区域)や海域の10%を保全する。 |
14.6 | 2020年までに、必要以上の量の魚をとる能力や、魚のとりすぎを助長するような漁業への補助金を禁止し、法に反した、または報告や規制のない漁業につながるような漁業補助金をなくし、そのような補助金を新たに作らないようにする。その際、開発途上国やもっとも開発が遅れている国ぐにに対する適切で効果的な、特別な先進国と異なる扱いが、世界貿易機関(WTO)の漁業補助金についての交渉の重要な点であることを認識する。 |
14.7 | 漁業や水産物の養殖、観光を持続的に管理できるようにし、2030年までに、開発途上の小さい島国や、もっとも開発が遅れている国ぐにが、海洋資源を持続的に利用することで、より大きな経済的利益を得られるようにする。 |
14.a | より健全な海をつくり、開発途上国、特に開発途上の小さい島国や、もっとも開発が遅れている国ぐににおいて、海洋生物の多様性がその国の開発により貢献できるように、ユネスコ政府間海洋学委員会の基準・ガイドラインを考えに入れながら、科学的知識を増やしたり、研究能力を向上させたり、海洋技術が開発途上国で使えるようにしたりする。 |
14.b | 小規模で漁業をおこなう漁師たちが、海洋資源や市場を利用できるようにする。 |
14.c | 「私たちが望む未来」※で言及されたように、海と海洋資源の保全と持続可能な利用のための法的な枠組みを定めた国際法(国連海洋法条約)を実施して、海と海洋資源の保護、持続可能な利用を強化する。 ※「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」で採択された文書。158段落目で国連海洋法条約や海洋保全の大切さを述べている。 |
海洋と海洋資源を守り持続可能な形を作り上げることがSDGs14の目標になります。
では目標14と水質汚染はどのようにかかわるのでしょうか。大きく以下の2点がかかわります。
- 海洋プラスチックごみの増加
- 海洋酸性化による海洋生物への影響
【海洋プラスチックごみの増加】
現在の海はどのくらいプラスチックごみで汚染されているのでしょうか。なんと毎年800万トンものプラスチックごみが海洋に流出しているという試算があります。
そして2050年には、海洋プラスチックごみの重量が海に生きる魚の重量を超える可能性も示唆されています。
(出典:環境省-第3章プラスチックを取り巻く状況と資源循環体制の構築に向けて-)
プラスチックごみで海が汚染されるとどのようなことが起こるのでしょうか。例えば下記のようなことが起きます。
- ビニール袋などをウミガメなどが誤飲し死亡する
- 細かくなった「マイクロプラスチック」を海の生物がエサと間違えて誤飲する
- 「マイクロプラスチック」誤飲した魚を人間が食べ、健康被害が出る
プラスチックは自然界で分解されることがありません。そのため、長い期間漂流し、小さく砕けていきます。細かくなったプラスチックは「マイクロプラスチック」とよばれ、汚染物質などが付着しやすいのが特徴です。
その汚染されたマイクロプラスチックが魚や人間の体内に入り、害をおよぼす恐れがあります。
【海洋酸性化による海洋生物への影響】
海は地球温暖化緩和に効果があり、大気中の二酸化炭素濃度を調整する機能があります。しかし近年は、大量に放出された二酸化炭素が海に溶け込み過ぎて、汚染されています。すると、海が酸性化する現象が起き、これを海洋酸性化とよびます。
海洋酸性化が進むと、サンゴなどの海洋生物が生存できなくなるのです。サンゴは海の二酸化炭素濃度を一定に保つ役割があります。そのサンゴが死滅すると海中の二酸化炭素濃度が保てなくなり、海洋生物に悪影響をおよぼします。
(出典:国土交通省-海洋酸性化-)
このように水質汚染は、人体や生態系に悪影響をおよぼすため、目標14の達成は水質汚染改善に密接にかかわるのです。
では、目標14達成のために私たちにできることとは何なのでしょうか。例えば下記のような行動です。
- バーベキューなどで出たごみを海に捨てない
- プラスチックごみをリサイクルする
- エコバックで買い物し、レジ袋を使わない
私たちでも簡単にできることから取り組み、目標14に貢献することで水質汚染改善につなげていきましょう。
私たちができる水質汚染対策の取り組み
ここまで水質汚染にかかわる法律や制度の説明をしましたが、水質汚染を防ぐために、何か行動を起こしたい人もいるでしょう。ここでは、実際に私たちができる取り組みを具体的に紹介していきます。
食べ残し・飲み残しをしない
食べ残しをしないことは水質汚染対策につながります。例えば、私たちが食べ残し・飲み残しをそのまま捨てると下記のような水が必要になるのです。
食べ残し・飲み残し | 魚がすめる水質にする水の量 |
みそ汁(おわん1杯、200ml) | 浴槽約4.1杯(6,200倍) |
牛乳(コップ1杯、200ml) | 浴槽16杯(24,000倍) |
ジュース(コップ1杯、200ml) | 浴槽15杯(22,000倍) |
(出典:豊田市-水のよごれ(水質汚だく)-)
他にも水の汚れを表す「BOD」という指標があります。BODとは、水中のプランクトンなどの微生物が水の汚れを分解する際に必要な酸素の量です。
このBODが高いとそれだけ微生物が汚れを分解するのに酸素を必要とすることになり、水中の酸素濃度の低下を招きます。すると他の魚が酸素を吸収できなくなり、窒息につながるのです。
私たちの日常生活で馴染みのある製品のBODは下記のとおりです。
生活排水 | BOD(mg) | 魚がすめる風呂桶換算の水の量 |
使用済み天ぷら油20ml | 1,000,000 | 330杯 |
マヨネーズ10ml | 1,200,000 | 8杯 |
牛乳コップ1杯 | 78,000 | 10杯 |
醤油15ml | 150,000 | 1.5杯 |
みそ汁お椀1杯 | 35,000 | 4.7杯 |
※風呂桶1杯は300リットルとして計算
(出典:高浜市-食品による汚れってどのくらい?-)
特に天ぷら油はBODが高い上に必要な水の量も膨大になります。これだけの生活排水が各家庭から流れ出ていると水質汚染の大きな要因になります。
水質汚染改善のために私たちができることは、できるだけ食べ残し・飲み残しをしないことです。
自宅で料理する際は食べきれる分だけ作り、買い物でも無駄な食材は買わないように注意しましょう。また、外食であれば食べきれる量だけ注文することも大切です。
食べ残し・飲み残しを減らし、水質汚染改善と持続可能な社会の実現に貢献していきましょう。
油汚れをしっかりふき取る
先ほども紹介しましたが、油は非常に汚れており、水質汚染に多大な影響をおよぼします。料理に使う油などを適量にすることや適切に処理することは水質汚染を防ぐうえで大切なポイントです。
私たちにできることとしては、油をそのまま排水溝に流さないことです。具体的には下記2点の方法で油を適切に処分しましょう。
- 凝固剤を使い固めてから捨てる
- 布や紙に吸収させてから捨てる
それぞれの自治体の定める処分方法を確認しながら、適切に油を処分することで環境の負荷を軽減できます。
天然由来の洗剤を使用し、使い過ぎに気をつける
食器洗いや衣類の洗濯時の洗剤を使い過ぎないことも水質汚染改善につながります。
では洗剤によってどのように水質汚染されてしまうのでしょうか。下記2つの観点から解説します。
- ABS(アルキルベンゼンスルホン酸塩)
- LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)
昭和に使われていた洗剤によく含まれていたのがABS(アルキルベンゼンスルホン酸塩)という成分です。ABSは泡立ちがよくて洗浄力が高いので人気でしたが、デメリットとして、微生物により分解されにくい成分という特徴があります。
そのため、現在ほど下水処理施設が整備されていなかった当時は、分解されにくい洗剤が河川へと流れ出る問題が発生しました。
その後、ABSにかわって、分解されやすい性質のLAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)が普及し始めます。現在の合成洗剤はほとんどがLASです。しかし、LASにはリン酸塩という成分が含まれており、このリン酸塩を餌にプランクトンが大量に発生してしまう「富栄養化」という別の問題を引き起こします。この富栄養化で水中の酸素が不足し、水棲生物が生息できなくなる事態が発生するのです。
(出典:界面活性剤とは[6]: LAS(アルキルベンゼンスルホン酸塩)-横浜国立大学教育人間科学部 大矢 勝-)
また、上記にあげた2つの成分は界面活性剤とよばれ、3つの効果があります。
- 水と油を混ぜ合わせる(乳化作用)
- 粉末などの汚れを水に散らばらす(分散作用)
- 繊維と水をなじませる(浸透作用)
これらの効果から、食器や衣類の汚れを落とすのに非常に優れています。その反面、人の肌に触れると肌荒れや赤ギレ、アトピーなどの皮膚疾患を発症することもあるのです。
ここまで洗剤と水質汚染の関係をみてきましたが、では実際に私たちが日常生活でできる対策はどんなことでしょうか。ここでは下記2点を紹介します。
- 天然由来の洗剤を使う
- 洗剤を使いすぎない
天然成分で作られた洗剤は、主に植物由来の再生可能な成分で作られています。天然成分は排水後も分解されるため、水質を汚染しにくいのが特徴です。
天然成分の洗剤かどうかの見分け方は、容器の「家庭用品品質表示法」という表示をみます。その欄が「界面活性剤」と書かれていれば合成洗剤です。一方、そのような表記がなく「石けん」と書かれていれば天然成分でできています。
容器の表示を確認し、天然由来の洗剤を使うように心がけましょう。
また、洗剤そのものを使いすぎないことも水質汚染の改善につながります。無駄に多くの洗剤を使用しない意識が大切です。
お米のとぎ汁の再利用
お米のとぎ汁をそのまま流しに捨てている方も多いのではないでしょうか。実はとぎ汁には豊富な栄養があるため、海や川に流出すると「富栄養化」で水質汚染を引き起こしかねません。
ではどのような再利用方法があるのでしょうか。ここでは下記3点の再利用方法を紹介します。
- 洗浄・掃除用
- 料理のしたごしらえ
- 洗髪、洗顔、手洗い
お米のとぎ汁に含まれる脂質やでんぷん、タンパク質は食器の汚れを落としやすくしてくれる特徴があります。食器を洗う際にとぎ汁ですすぐことで、汚れを落としやすくし、少量の洗剤できれいになるので大変エコです。
とぎ汁を桶にためて、つけ置き洗いするのもおすすめです。汚れのひどいフライパンや鍋をあらかじめつけ置きしておき、汚れを落としやすくしておきましょう。
掃除にも活躍し、とぎ汁に含まれる脂質は床のワックス効果があり、床掃除にも一役買ってくれます。霧吹きに入れて窓を拭くのもいいでしょう。
また、お米に含まれる豊富なカルシウムは野菜のえぐみと結合する性質があります。たけのこやゴボウなど、苦みやえぐみがある野菜を茹でるとアク抜きができるのです。
さらに、お米のとぎ汁には美容成分が含まれており、下記のような効果があります。
とぎ汁に含まれる成分 | 効果 |
ビタミンB1 | 代謝に関わり、皮膚や粘膜の健康維持に効果あり |
ビタミンB2 | 肌の新陳代謝を促進し、脂のテカリなどを防止 |
ビタミンB6 | 皮膚の新陳代謝を促し、ビタミンB2同様皮脂を抑制 |
ビタミンE | 脂質の酸化を防ぎ、老化を防止 |
マグネシウム | 肌表面の老廃物を取り、くすみを防止 |
カルシウム | 肌表面の保湿成分を活性化 |
脂質 | 肌にハリと潤いを与え、体内の代謝を上げる |
(出典:オリーブオイルをひとまわし-【米のとぎ汁】は栄養抜群!アク抜きから洗顔まで活用アイデア7選-)
豊富な栄養素を洗顔に使ったり、洗髪に使ったり、手洗いに有効活用できます。
お米のとぎ汁を再利用する際は下記点に注意してください。
- 雑巾などに浸す際はとぎ汁を薄めてから浸し、固く絞る(とぎ汁が濃すぎると設備を傷めてしまうことがある)
- 2回目以降のとぎ汁を使う(1回目のとぎ汁には、お米の汚れが混ざっているため)
- 長時間放置せず、すぐ使う
- 肌に使用する場合、使用前にパッチテストをする
注意点は忘れず、無駄なく上手にとぎ汁を再利用しましょう。
お風呂の残り湯の再利用
汚れは水よりも湯の方がとれやすいため、お風呂の残り湯を掃除や洗濯に再利用するのは水質汚染改善に有効です。
たとえば、浴槽には約200リットルの水が入ります。仮に365日浴槽を使用してお風呂に入ったとすると、200リットル×365日=73,000リットルもの水を使用することになるのです。水道料金に換算すると1万円は超えるので、節水・節約の両面で有効活用できます。
では具体的な再利用方法を2点紹介します。
- 掃除・洗濯で再利用
- 植物の水やりで再利用
掃除や洗濯で再利用する場合、お風呂から上がった直後の温かい残り湯がより洗浄力があるためおすすめです。残り湯をお風呂やトイレの清掃、壁や床の拭き掃除に活用しましょう。
しつこい汚れにはつけ置きも有効で、湯船に衣類などをつけ置きしておくだけでも汚れの落ちやすさが大きく変わります。
また、車やバイクの洗車にも活躍するでしょう。洗車には大量の水を使うため、最初に残り湯で汚れを落とし、最後に新しい水を使って綺麗に洗い流すだけでも洗剤や水の節約につながります。寒い季節には車のフロントガラスに出来た霜取りにお風呂の残り湯を使うのもいいでしょう。
人間の皮脂は植物にとっては高い栄養分なため、お風呂の残り湯はガーデニングにも適しています。ただし、植物はお湯に弱い性質があるため、水やりに使用する場合はしっかり冷ましてから使用しましょう。
お米のとぎ汁と同様に、お風呂の残り湯も下記の注意点があります。
- 洗濯の場合、すすぎには使わない
- 入浴剤が入った残り湯は使用しない
- 髪の毛などのゴミは事前に取り除いておく
- 1日経った後の残り湯は使用しない
すすぎに残り湯を使用すると衣類に雑菌が繁殖し、臭いの原因になるので、すすぎには再利用しないようにしましょう。
入浴剤は植物に悪影響をおよぼす可能性があります。そのため、入浴剤を入れた場合はガーデニングには使用しないようにしてください。また、洗濯に利用すると色移りすることもあるので、避けた方が無難でしょう。
髪の毛などのわかりやすい汚れは事前に取り除くことで雑菌の繁殖を抑えられます。水やりに利用する際も髪の毛などの汚れがないほうが見た目もよく衛生的です。洗車に使う場合はゴミが車を傷つける恐れがあるので、事前にできるだけ汚れを取り除きましょう。
また、お風呂のお湯に含まれている菌の数は時間の経過とともに増加します。そのため、1日経った場合は使用を避けてください。
以上の注意点を踏まえ、残り湯を再利用し、水質汚染改善に貢献していきましょう。
バーベキューで洗剤やごみを流さない
楽しくバーベキューをした後には大量のゴミが出ます。そのゴミを海や川へ捨てたり、洗ったりすることは水質汚染につながります。
例えばバーベキューで出たペットボトルなどのプラスチックごみを捨てると水生生物が生活できなくなるのです。ペットボトルは自然に分解されず、細かく砕けて魚たちの体内に入り、悪影響をおよぼします。また、その魚を人間が食べて健康被害につながることも大いに考えられます。
そのようなことにならないためにも、バーベキューで出たごみは指定の場所で処分するか持ち帰りましょう。また、食器の汚れや洗剤も川に直接流すようなことは絶対にやめてください。
アウトドアを楽しむとは大切ですが、始める前にゴミの後始末のことを考えておくのもアウトドアのマナーです。ごみを残さない、片づけを徹底するなど、水質汚染につながらないようにしましょう。
水質汚染しないよう私たちができることから取り組む
水質汚染は産業排水、生活排水、地球の温暖化が大きな原因です。その中でも特に生活排水における水質汚染が深刻とされています。
基準や法律の整備により、少しずつ水質汚染は軽減されつつありますが、生活排水による汚染はまだまだ課題が多いのが現実です。
水質汚染は私たちの生活や健康を脅かすだけでなく、何の罪もない水棲生物の生活も危険に晒しています。SDGsはそのような危険を防ぎ、持続可能な社会を実現するために目標が掲げられているのです。
国際的な取り組みだけでなく、私たち個人が水質汚染に関心を持ち、改善できることはたくさんあります。
本記事で紹介したような、無理のない対策に取り組み、水質汚染の進行させないように心がけていきましょう。

身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。