災害とは?災害に強いまちづくりと私たちにもできること
SDGsとも深い関係がある「災害」は、世界中の人びとが、誰1人取り残すことなく持続可能な生活を送るために解決しなければならない問題です。毎年多くの人が犠牲となり、住み慣れた家や故郷を追われる原因になっている災害に立ち向かうことは、SDGsの他の目標の達成とも密接に関わっています。
この記事では、主な災害の現状や原因、災害に強いまちづくりに必要なことや私たちにもできることについて詳しく解説します。
目次
年々拡大する災害に立ち向かうには強靭さのあるまちづくりが必要
自然現象の最たるものとも言える災害は、自然現象であるが故に対策が非常に難しい問題でもあります。ですが、人びとが持続可能な生活を送るために、災害に負けない都市づくりが重要であることは、想像に難くないと思います。
ここでは、災害とSDGsの関係、災害に強いまちとはどのようなまちなのか、災害の現状と今後の予測について見ていきます。
住み続けられるまちには災害への強さが必要
まず、「SDGsの目標11.住み続けられるまちづくりを」のターゲットには、次の7つの達成目標と3つの実現方法が規定されています。
11-1 2030年までに、すべての人が、住むのに十分で安全な家に、安い値段で住むことができ、基本的なサービスが使えるようにし、都市の貧しい人びとが住む地域(スラム)の状況をよくする。
11-2 2030年までに、女性や子ども、障害のある人、お年寄りなど、弱い立場にある人びとが必要としていることを特によく考え、公共の交通手段を広げるなどして、すべての人が、安い値段で、安全に、持続可能な交通手段を使えるようにする。
11-3 2030年までに、だれも取り残さない持続可能なまちづくりをすすめる。すべての国で、だれもが参加できる形で持続可能なまちづくりを計画し実行できるような能力を高める。
11-4 世界の文化遺産や自然遺産を保護し、保っていくための努力を強化する。
11-5 2030年までに、貧しい人びとや、特に弱い立場にある人びとを守ることを特に考えて、水害などの災害によって命を失う人や被害を受ける人の数を大きく減らす。世界の国内総生産(GDP)に対して災害が直接もたらす経済的な損害を大きく減らす。
11-6 2030年までに、大気の質やごみの処理などに特に注意をはらるなどして、年に住む人(一人当たり)が環境に与える影響を減らす。
11-7 2030年までに、特に女性や子ども、お年寄りや障害のある人などをふくめて、だれもが、安全で使いやすい緑地や公共の場所を使えるようにする。
11-a 国や地域の開発の計画を強化して、都市部とそのまわりの地域と農村部とが、経済的、社会的、環境的にうまくつながりあうことを支援する。
11-b 2020年までに、だれも取り残さず、資源を効率的に使い、気候変動への対策や災害への備えをすすめる総合的な政策や計画をつくり、実施する都市やまちの数を大きく増やす。「仙台防災枠組2015-2030」にしたがって、あらゆるレベルで災害のリスクの管理について定め、実施する。
11-c お金や技術の支援などによって、もっとも開発の遅れている国ぐにで、その国にある資材を使って、持続可能で災害にも強い建物をつくることを支援する。
このように、「SDGsの目標11.住み続けられるまちづくりを」は人間が生きていくために必要な「衣食住」の「住」の部分を、だれも取り残さない全ての人に対して、都市の環境の部分から変えていくための目標です。この記事では、中でも主にターゲット11-5に関わる「災害」に焦点を当てていくのですが、いくら時間や費用、労力を使って他のターゲットを達成しても、1度の災害で崩れ去ってしまっては水の泡です。それどころか、災害の規模によっては多くの人命にも関わってくる非常に大きな問題と言えます。災害について考え、災害に負けない都市環境を整えるのは、人びとの持続可能な生活を守るためにとても大切なことなのです。
SDGsのターゲット11-5達成には強靭さ(レジリエント)が鍵
では、災害に強い都市とは具体的にはどのような都市なのでしょうか。災害に強い都市と聞くと、巨大地震や数十年に1度といったレベルの豪雨が発生したときでも、ほとんどダメージを受けずに済む都市の姿を想像する人も居るかもしれません。しかし、現在人類が持っている科学力、技術力をもってしても、全ての災害を完全に防ぐことが不可能であることは、世界的に見ても高い技術力を持つ日本が、地震や台風、水害などによってたびたび甚大な被害を出していることからも明白です。
SDGsの観点から言及される災害に強い都市とは、災害からいち早く立ち直る強靭さ(レジリエント:回復力・しなやかさ)を備えた都市のことを指します。ここで誤解してほしくないのですが、災害を防ぐ、被害を最小限に抑えることはもちろん重要です。ただ、全てを防ぎきれない以上、1日でも早く復興できる都市づくりをしようということです。災害に対する準備を最大限行い、災害が発生したときでもいち早く元の生活を取り戻すことが、持続可能な都市づくりの観点から見ると必要になります。
災害に強い都市づくりの具体的な例としては、ダムや堤防の設置による水害への備え、建物を頑丈にする、免震構造にするなど大地震への備え、救急車や消防車が活動しやすくなる、万一のときに避難しやすくするための道路の整備などが挙げられます。そして、都市を整備するだけではなく、都市に暮らす人びとの日頃の防災意識を高めることもまた重要です。人びとの防災意識の高さは災害の被害を減らし、災害からの復興を早めることにもつながります。強靭さ(レジリエント)を持った都市を作るには、都市の構造と人びとの防災意識の両方が不可欠な要素なのです。
地球温暖化の影響で災害は規模も被害も拡大傾向にある
現在や未来の災害について語るとき、避けては通れないのが地球温暖化の影響です。私たちが暮らす日本に限定して考えても、豪雨や台風による災害が年々増大していることを実感として感じられると思います。文部科学省・気象庁が発表した「日本の気候変動2020」では、20世紀末と21世紀末の日本を比較した場合、次のような予測がされています。
- 年平均気温が約1.5℃~4.5℃上昇し、猛暑日や熱帯夜がますます増加する。また、冬日は減少する
- 台風による雨と風が強まる
- 沿岸の海面水位が、約0.39m~0.71m上昇する
- 日降水量の年最大値が約12%(約15mm)~約27%(約33mm)増加
- 50mm/h以上の雨の頻度が約1.6倍~約2.3倍増加
数字だけを見ると、たいして大きな差ではないと感じる方もいるかもしれませんが、長い地球の歴史を考えると、たった100年ほどの間にこれだけの変動が起きるのは極めて異常な事態と言えます。極めて速いスピードで進む地球温暖化の影響を受ける災害に対処するためには、対処する側にも相応のスピードが求められるのです。
しかし、地球温暖化の影響はもちろん日本だけに限った話ではなく、世界の全ての国と地域にとって重要な問題と言えます。災害から都市や人びとの生活を守るためには、地球温暖化を始めとした地球環境の悪化を食い止めて、災害そのものをできる限り起こさないようにすることもまた大切なことです。
また、災害は貧困や飢饉の大きな原因になるなど、他のSDGsの目標とも密接に関わっていますし、SDGs全体を考えるときにも非常に重要な課題の1つです。災害の観点からSDGsを考え、SDGsの観点からも災害を考える。SDGsに関する問題を考えるときには、常に包括的な視点を持つことが必要とされます。
参照:国土交通省「国土交通白書2022 第1部-2 気候変動に伴う気象災害リスクの高まり」
世界と日本それぞれの災害と歴史を知ることが大切
災害に強いまちづくりには強靭さが必要であることは分かっても、災害と一括りにして対策ができるわけではありません。それは、災害にも種類があり、それぞれの災害に応じた細やかな対応が求められるからです。そして、災害への対策を講じるためにはやはりそれぞれの災害について詳しく知る必要があります。
ここでは、災害を知ることの必要性と、被害の大きな災害の主なものである洪水、干ばつ・熱波・地震、ハリケーン・サイクロン・台風それぞれの特徴や被害、代表的な例を見ていきます。
災害を知ることが災害に強いまちづくりへの第一歩
住み続けられるまち、災害に強いまちを作るためには、具体的にどのような災害に対して備えれば良いのでしょうか。地球規模で考えたとき、大きな被害をもたらす主な災害には、洪水、干ばつ・熱波、地震、ハリケーン・サイクロン・台風が挙げられます。アジアでは風水害、中南米では地震・津波、アフリカでは干ばつが多いなど、国や地域によって起こりやすい災害に違いはありますが、いずれの災害も経済的にも人的にも甚大な被害をもたらすものです。
過去をさかのぼって見てみても、1967年から2016年の50年間に約8000件もの大規模災害が起こっており、被害額は全体で約7300億ドルにも上ります。さらに、同期間には280万人もの尊い人命が災害によって失われています。
世界の災害の被害を考えたとき、やはり低所得国や中所得国は被害が甚大になる傾向があり、災害と貧困の連鎖も災害問題の大きな課題です。所得が低い国は、インフラの整備さえ満足に行えるだけの経済力がないので、当然災害対策にかけられる金額は先進国と比べると微々たるものです。満足な対策ができていないところに大規模な災害が起こるので、被害は想像を絶するものとなりますし、先進国や支援団体の支援がなければ復興もままなりません。誰1人取り残すことなく災害に強いまちを作るためには、こうした低所得国・中所得国の災害対策が急務です。
そして、災害に対する備えをしようと思うなら、災害自体をよく知らなければなりません。想定し得る最大規模の災害に備えられなければ、万全の災害対策とは言えないからです。例えば日本で地震への対策を考えるときには、現在であれば東日本大震災が基準になるはずです。実際にあれほど巨大で甚大な被害を引き起こした地震が発生したのですから、同規模の地震が起こる可能性は十分あるという前提の元に計画を立てる必要性があります。
ここからは、世界で過去に起こった大規模災害を通して、それぞれの災害について考えていこうと思います。
洪水は最も発生率が高く被害が拡大している災害
まず見ていくのは洪水です。世界規模で見ると、もともと洪水が起こりやすい地域だけではなく、それまで洪水などほとんど起こったことがない国や地域での被害も近年目立ちます。原因として、地球温暖化の影響で大気中の水蒸気量が増えたことが、極端な降雨や致命的な洪水の発生につながっていると考えられています。
洪水というのは、世界の自然災害の中で最も発生率が高く、経済的・人的に甚大な被害をもたらすものです。特に途上国では、リスクが高い都市部で人口が急増していることもあり、今後も被害が拡大していく懸念がされています。
近年起こった大規模な洪水として挙げられるパキスタンでの洪水は、ニュースなどで大きく取り上げられたこともあり、記憶に新しいのではないでしょうか。2022年6月から続くモンスーンの影響により、パキスタンは記録的な豪雨に見舞われ甚大な被害が発生しました。数千万人が被災し、負傷者1万2800人、1700人以上の死者を出した大災害です。他にも、200万棟以上の家屋が被害を受け、110万頭以上の家畜が死亡し、1万4000平方キロメートルにも及ぶ農作物の被害も出ています。2023年3月の時点でも、依然として1000万人を超える人びとが、安全な飲水すら手に入らない生活を余儀なくされています。
熱波・干ばつは食糧不足や健康被害をも引き起こす災害
次に見ていくのは、洪水とは対照的とも言える熱波や干ばつです。熱波や干ばつもやはり、根本的な原因と考えられているのは地球温暖化の影響で、僅か0.5℃の平均気温の上昇が被害を大きく増大させると言われています。熱波や干ばつがもたらす被害は、作物が育たなくなることによる食料不足、水不足、生態系への影響、森林火災、さらには被災地域に住む人びとの直接的な死因や健康障害にまで及びます。その被害は、2000年から2017年の期間に年平均約5873万人が被災し、その内1361人が亡くなったほど甚大なものです。
WMO(世界気象機関)が2023年4月にリリースした年次報告書では、東アフリカで雨季の降水量が5年連続で平年を下回り、2023年1月時点で干ばつに関する影響により、東アフリカ全域で推定2000万人以上が深刻な食糧不足に陥っていると報告されました。また同報告書では、前例のない熱波により、スペイン、ドイツ、英国、フランス、ポルトガル、合わせて1万5000人以上の方が亡くなったとの報告もあります。さらにインドやパキスタンでは、2022年の熱波により作物の収穫量が減少するなど、人的、経済的に甚大な被害をもたらすのが熱波や干ばつなのです。
参照:国際連合広報センター 2018年:異常気象が6,000万人に影響
参照:国際連合広報センター 世界気象機関(WMO)年次報告書:気候変動は進行し続けている
地震は火災や津波などの二次被害も厄介な災害
日本は地震大国と呼ばれるほど地震の多い国ですが、世界に目を向けると日本以外にも地震被害が多い国は存在します。日本では国の政策や建築物を免震構造にするなど、その経済力や技術力を使った地震対策が取られていますが、経済的に豊かとは言えない国が巨大地震に見舞われると、街や建物に対策がほとんどされていないために被害がより甚大になる傾向があります。
例えば記憶にも新しい2023年のトルコ地震は、4万5000人以上もの人が亡くなり、被害総額はGDP(国内総生産)の2.5%から4%に相当する250億ドルから342億ドルにも上ると推計されるほどです。他にも近年大きな被害を出した地震では、2004年のスマトラ島沖地震や2010年のチリ地震などがあり、いずれの地震も経済的・人的な大きな被害を出しました。
地震による被害にはいくつかの要因があり、地震の揺れそのものに起因する建物の倒壊などによる被害、火災が発生することによる二次被害、そして震源が海底の場合に発生する津波による被害が主な要因です。そして地震というのは、年に数センチずつ動く大陸プレートの歪みが限界を迎え、元に戻ったり亀裂が入ったりすることにより起こりますので、発生そのものを防ぐことは現代の科学では不可能です。起こらないようにするという意味での予防はできませんので、起きた地震の被害をいかに減らすかがとても大切になってきます。
参照:JETRO(日本貿易振興機構) 国際機関などが地震の経済への影響を予測
ハリケーン・サイクロン・台風は年々大型化している災害
ハリケーンやサイクロンも大きな被害を発生させる災害の1つで、日本では台風と呼ばれています。国によって呼び方は違いますが、熱帯低気圧が発達したものとして同種の区分をされる災害です。台風は東経180度より西の北大西洋および南シナ海、ハリケーンは北大西洋、カリブ海、メキシコ湾および西経180度より東の北東太平洋、サイクロンはベンガル湾やアラビア海などの北インド洋に発生したものを指します。
強い風と大雨が特徴で、勢力が強いものでは車がひっくり返ったり、家屋が倒壊したりするほどの甚大な被害を引き起こす災害です。また、いくつもの国や地域、都道府県などに渡って被害が起こるので、その進路や移動スピードによっても被害の規模が変わってくる、とても厄介な災害になっています。
また、そもそもの発生原因が海水が温められて水蒸気になることですので、地球温暖化の影響で海水温が高くなったことにより、近年ではどんどん大型化している傾向にあります。例えば、大型で深刻な被害をもたらす強力なハリケーンの数が、100年前と比較して3倍に増えているという研究結果もあるほどです。
近年大きな被害をもたらした事例として有名なものに、2005年にアメリカで3か月連続で発生したハリケーンが挙げられます。8月に「カトリーナ」、9月に「リタ」、10月に「ウィルマ」と、立て続けにアメリカ本土を襲った大型のハリケーンにより、経済的にも人的にも甚大な被害が発生しました。カトリーナは歴史的な被害をもたらした最悪級のものとして、ウィルマは観測史上最強の勢力を誇ったものとして、耳にした方も多いのではないのでしょうか。
特に、最大風速78m/s、最低気圧902hPaにまで猛烈に発達したカトリーナの被害は深刻で、ルイジアナ州ニューオーリンズだけでも市の8割が水没し、1000人以上の死者と100万人以上の避難者を出す結果となりました。
地震と同様、地域によって発生数や被害に大きな差はありますが、恒常的に発生する地域ではこの上ないほど厄介な災害と言えるのが、台風やハリケーン、サイクロンです。
参照:米国科学アカデミー紀要(PNAS) 全壊面積を使用した正規化された米国のハリケーン被害推定、1900-2018
日本で多い災害は地震・台風・豪雨による水害
ここまで世界での災害を見てきましたが、私たちが暮らす日本ではどのような災害があるのでしょうか。日本での災害と聞いてまず浮かぶのは「地震」や「台風」、そして近年被害が拡大している「豪雨による水害」ではないでしょうか。
特に多くの人が真っ先に思い浮かべるのが「東日本大震災」だと思いますが、2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0という国内観測史上最大規模の巨大地震によって、多くの尊い命が奪われました。その数は令和4年3月1日時点で死者19,759名、行方不明者2,553名、負傷者6,242名にも上ります。また、住宅被害も全壊122,006棟、半壊283,160棟、一部損壊749,934という莫大なものでした。
東日本大震災では地震の揺れそのものよりも、震源が海底だったために引き起こされた巨大津波での被害がより甚大なものとなりました。地震発生から僅かな時間で押し寄せた10メートル以上、場所によっては40メートルにも及んだとされる津波に、多くの方が逃げる間もなく飲み込まれてしまいました。
そして東日本大震災は、福島第一原発での事故などにより、今もなお深い爪痕を残しています。処理水を巡る問題で地元の漁師の方が廃業に追い込まれたり、避難者が未だに数万人いたりと、10年以上経った今でさえ完全な復旧には至っていないのです。
また台風は、毎年多くのものが沖縄や九州を始めとした多くの地域に被害をもたらしますし、線状降水帯が発生することなどによる豪雨被害も年々被害を増しています。いくら災害が多い国だとはいえ、経済的に豊かで高い技術力を誇る日本でさえこれだけの被害を受けていることを考えれば、災害に強いまちを作ることがどれほど難しいかが分かると思います。
参照:総務省 平成23年(2011年)東北地方太平洋地震(東日本大震災)の被害状況(令和4年3月1日現在)
災害に強いまちづくりには都市レベル個人レベルそれぞれの対策が必要
過去に世界中で猛威を振るった災害を見てきましたが、これほどの規模の災害から人びとの暮らしを守るためにはどのような対策を講じれば良いのでしょうか。形がなく、発生を止めることができない災害への対処は不可能に感じるかもしれませんが、都市レベル、個人レベルでの対策を適切に行えば、被害を最小限に食い止めることは可能です。
ここでは、災害に強いまちづくりに必要な「予防」「復興」それぞれの詳細と私たちが個人でもできる災害対策について見ていきます。
災害に強いまちづくりには予防と復興が大切
ここまでさまざまな自然災害を見て来ましたが、それを踏まえて災害に強いまちを作るためにはどうすれば良いのかを考えていきます。自然災害の発生そのものを食い止めるのが不可能であることは間違いのない事実です。何百年、何千年先の世界なら可能になっているかもしれませんが、現在人類が手にしている技術力では災害を発生させなくすることは残念ながらできません。
ですので、私たちができる災害対策は「災害の規模を可能な限り小さなものにする」ことと「発生した災害の被害を可能な限り抑える」ことの2つが主になります。ここでは、「SDGsの目標11.住み続けられるまちづくりを」から考える「発生した災害の被害を可能な限り抑える」ことに焦点を当てていきたいと思います。
被害を抑えるためには「予防」と「復興」が大切ですが、予防には建築物の堅牢化や都市の整備、復旧にはいかに早く元の暮らしに戻れるかという都市の強靭化などが必要です。この、予防と復旧をそれぞれ詳しく見ていきましょう。
災害予防には都市構造の整備や建築物の堅牢化が必要
まず災害に対する予防ですが、自然災害という予測が困難なものを予防しようというのですから、勝手に規模を決めつけて「これだけやったから大丈夫だろう」という思い込みをするのは命取りです。その想定を上回ってくるのが災害というものですし、想定を上回ってきたからこそ過去にも災害によって甚大な被害が発生し続けてきたのです。だからこそ、現状で可能な限りの対策を講じなければなりません。
都市の災害予防を考えると、やはり都市自体の構造的な対策は必須です。例えば洪水被害を防ぐためにはダムや堤防を建設するなどの治水は欠かせませんし、山林の手入れも土砂崩れを起こさないために必要です。また、災害に対する早期警戒システムの導入、住民への教育や啓発、地域のコミュニティの強化なども、被害を最小限にするための大きな力になります。
そして、建築物を災害に負けない頑丈なものにすることも大切です。建築基準を強化することで建築物の耐震性、耐風性、耐洪水性などを高めることは、人的にも経済的にも被害を軽減させることにつながります。こうして、都市レベルの予防と建築物個別の予防を並行して、出来得る限りの対策を行うことが災害に強いまちづくりには必要なのです。
都市の復興には準備と実行、持続可能で環境に配慮した取り組みが求められる
そして災害からの復興に対して対策を施すことも、強靭なまちづくりの観点からは重要です。予防することによって最小限に抑えた被害を万全の体制によって1日でも早く復興し、災害前と変わらないレベルの暮らしを取り戻すことが、強靭なまちづくりには求められるのです。
復興を万全なものにするためには、やはり事前の準備が大切で、それは次の4つのステップから成り立ちます。まず災害リスクの評価をして脆弱な点を洗い出し、次に洗い出したリスクを軽減するための計画の策定や、計画に必要なリソースの確保を行います。そして計画に基づいたアクションを実行して、持続可能で強靭な都市やコミュニティを構築し、復興におけるプロセスの定期的な見直しを行うことで改善点を探してより万全を期すのです。
このように強靭な都市を作るためには、復旧におけるプランニングと実行双方が求められますが、それを可能にするのは行政や企業、市民が一体となった体制です。そして災害というものは繰り返し何度でも襲ってくるものですので、持続可能な技術や素材を利用することも重要になります。また、SDGsの観点から考えると、使用する技術や素材はもちろんできる限り環境に配慮したものであるのが望ましいのは言うまでもありません。
個人でできることには防災意識の増進や家庭での準備などいろいろある
ここまで、災害に強いまちづくりを主に都市の観点から見てきましたが、では私たち個人にできることはないのでしょうか。たしかに行政レベル、企業や団体レベルでできることと比べてしまうと、個人でできることには限界があります。ですが、その小さな行動や意識の改善が、自身や家族の、誰かの命や生活を守ることにもつながるのです。そして、こうした小さな力を1つでも多く集めることが、災害に強いまちづくりのためには必要不可欠なのです。
では、災害に強いまちをつくるために私たちができることには、具体的にどのようなことがあるのでしょうか。1番簡単で今すぐに実践できるものは、防災意識を高めることや情報収集です。今はインターネット社会ですので、必要な情報はピンポイントでいつでも集められます。あなたが今この記事を読んでいることも、立派な情報収集や防災意識を高める行動です。このように、まずは災害に対する知識・情報を集め、防災意識を高めることから始めることは、他の行動を取る上でも役に立ちます。
情報収集や防災意識を高めるためにさらに行動したい人は、地域の防災訓練やセミナーに参加するのがお勧めです。インターネットや書籍などでは得られない生の声や情報、実際に体験することで始めて得られる実感というものは、他の何者にも変えられない価値があります。いろいろな人と関わってコミュニティに参加することは、地域の防災を強化することにもつながります。家族や友人などを誘って1度試しに参加してみると、新たな情報や知識、発見、つながりが得られるかもしれません。
また、それぞれの家庭で災害への対策をしておくのも大切なポイントです。大きな災害が起こったときには、迅速な避難が求められることもありますし、インフラや流通網が打撃を受けると水や食料を始めとした生活に必要な物資の入手が困難になることもあります。日頃から準備をしておけば、いざ災害が起こったときでも安心です。
まず避難指示などが出されて避難せざるを得なくなったときに備えて、避難所に持っていくものを見ていきましょう。
項目 | 説明、注意点 |
飲料水 | 災害が起きてみないとライフラインがどうなるのか分からないため、万一に備えて1人あたり3リットルを目安に。 |
非常食 | 賞味期限が長く、カロリーの高いものを。腹持ちもするなら尚良い。 |
携帯電話の充電器・モバイルバッテリー | 電源もどの程度使えるか分からないため、モバイルバッテリーがあると便利。太陽光で発電できるものだとさらに使い勝手が良い。 |
懐中電灯・電池式ランタン・予備の電池 | 電気の使用が制限されることが想定されるため、夜間の照明用に。 |
救急キット・常備薬 | 絆創膏・包帯・必要な処方薬・痛み止めなど。 |
ラジオ・イヤホン | 情報の入手に必須。手回し充電式のものを準備しておきたい。周囲に配慮するためにイヤホンも欲しい。 |
マスク | 避難所では不特定多数の人がひしめき合うため、感染症予防のために必須。 |
手袋・軍手 | さまざまな作業をすることを想定して、厚手の物があると便利。防寒具としても。 |
ゴミ袋 | ゴミを入れる本来の用途の他にも、雨具の代わりなどさまざまな用途に使える。 |
ウェットティッシュ・アルコールジェル | 衛生面を考えて常備しておきたい。 |
個包装のティッシュペーパー・トイレットペーパー | トイレに流せるタイプのティッシュペーパーをある程度用意しておくと安心。 |
身分証のコピー | 万一に備えて運転免許証やマイナンバーカードの控えを持っておきたい。 |
健康保険証のコピー | こちらも身分証のコピーと同様、万一に備えて。 |
家族などの連絡先リスト | 自分に何かあったときに、連絡が取れるように。 |
現金 | キャッシュカードや電子マネーが使えなくなる事態に備えて、ある程度は用意しておきたい。 |
多機能ナイフなどの便利ツール | 十徳ナイフのようなものが1つあると、いざというときに便利。 |
防寒具 | 冬期は特に必須。ヒートテックなどの防寒性が高いものを準備しておきたい。 |
着替え・下着・タオル類 | 数が多いとかさばるため、最低限必要な数。 |
寝袋・毛布類 | 特に冬場は欲しい。毛布が1人1枚あると便利。 |
メモ・筆記用具 | 携帯電話が使えない場合に備えて、準備しておくと安心。 |
子どもや高齢者用のアイテム | おむつや介護用品など、事情に合わせて準備。 |
この表はあくまで需要が多いものの例として参考にしてください。他にも個人や家族の事情に合わせて、実際に避難所に行ったときを想定して必要なものを考えてみましょう。
準備したものは非常用の持ち出し袋(手がふさがらないように背負えるもの)に入れて、緊急時にすぐに持ち出せるようにしておくのが大切です。万が一の事態に備えての避難なら時間の余裕もありますが、一刻を争う時は、準備しておいた持ち出し袋を急いで背負って逃げなければなりません。そのような事態に備えるため、普段使っているものの持ち出しは考えず、あくまで持ち出し袋の中のものと携帯電話くらいに考えて準備をしておきましょう。ただし、東日本大震災で発生した津波のように、1分1秒を争う事態だと判断した時には、持ち出し袋も諦め、その瞬間に生命を守る行動を取ることだけに集中してください。
また、避難所には行かずに家にいることができても、ライフラインが断絶されて水や電気、ガスの供給が長期に渡って止まってしまう事態への備えも必要です。このとき1番重要になるのはやはり水なので、1人1日2~3リットルを目安に最低でも1週間、できれば2週間分を備蓄しておきましょう。次に重要なのは食料ですが、缶詰やレトルト食品などの長期保存が可能なものを準備しておきましょう。電気やガスが使えない場合に備えて、カセットコンロとカセットボンベがあるととても重宝します。また、太陽光で充電できるタイプのポータブル電源があると、電気が止まっていてもある程度電気が使えますので、準備できれば快適性が上がります。
そして、非常用持ち出し袋にも自宅での備えにも言える大切なことは、不備などがないか定期的に点検することです。定期的に点検することで賞味期限が迫っている食料の入れ替えもできますし、懐中電灯やラジオの不具合にも気づけます。また、災害に備えて物資の点検をすることは、低下していた防災意識を再び高めることにもつながりますので、数ヶ月に1度は点検するようにしましょう。
支援団体をサポートすることで多様な支援が可能になる
個人でできる対策は大切なことですが、それはあくまで自分や家族、身近にいる人を守るための行動です。しかし、世界中で災害に苦しんでいる人びとを直接助けるのは、個人レベルでは不可能に近いので、支援団体を通して支援をするのが現実的です。
ここでは、災害に強いまちづくりの観点での支援を世界で行っている団体を4つ紹介します。それぞれの団体に特徴があるので、取り組みに共感できる団体があればホームページをのぞいてみてはいかがでしょうか。
誰1人取り残さないためには支援団体へのサポートが確実
ここまで、個人でできる災害に強いまちづくりを見てきましたが、SDGsが掲げる「誰1人取り残さない」という理念にもあるように、自分や自分の家族、自分が住んでいる街だけではなく、災害によって苦しんでいる誰かのために何かできないかと考える人もいるのではないでしょうか。特に途上国では災害対策に回せる予算がかなり限られますので、そこに暮らす人びとは常に自然災害の脅威と隣り合わせの生活を送っていますが、遠く離れた途上国の人たちへできることはどうしても限られてしまいます。
ですので、直接的に助けようとするのではなく、直接的な支援を行っている団体を支えることで間接的な支援を行うことをお勧めします。専門知識があり、現地で直接地域や人をサポートすることができる体制が整っている団体を支援することで、さまざまな地域や人を助けることができますし、SDGsにも貢献することができるのです。
ここでは代表的なものとして、ODA(政府開発援助)実施機関の1つである「JICA」、日本有数のネットワークNGOである「JANIC」、気候変動に対応した災害リスクの軽減を目的とした「IFRC(国際赤十字・赤新月社連盟)」、災害に強いコミュニティ作りなどを行っている「Habitat for Humanity Japan(ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパン)」の4つの団体を紹介します。
JICA-国際協力機構
JICAは、日本のODAにおける直接的な実施機関で、開発途上国のSDGs達成を支援する組織でもあります。その活動は、開発途上国の技術協力、有償・無償資金協力、人材養成、調査・研究など多岐にわたります。災害に強い都市づくりに関した活動でも、パキスタンで行っている、災害大国である日本の知見を活かした国家レベルの防災対策の支援、サイクロンや洪水といった自然災害に対して脆弱であるバングラデシュへの災害対策支援、頻発するハリケーンなどの自然災害を受けやすいジャマイカでの防災・環境整備など、さまざまな国や地域で活躍しています。
JICAは国で運営している組織なので規模が大きく、知らない団体を支援することに不安がある人でも安心して支援できる組織とも言えると思います。主に国からの交付金で活動資金が賄われているJICAですが、個人、法人、団体からの寄付金も大きな財源ですので、JICAに寄付することでさまざまな国や地域の災害に強いまちづくりを手助けすることができます。
1度きりの寄付と毎月自動で寄付できるものがあり、支払い方法はクレジットカード、コンビニ払い、Pay-easy(ネットバンキング)の中から選べます。
JICA:世界の人びとのためのJICA基金
JANIC
JANICは日本でも有数のネットワークNGOで、400以上にも及ぶといわれる日本の国際協力NGOや、政府、企業などをつなぐ役割を担っています。日本のNGOは、欧米のNGOと比較すると1つひとつの規模が小さいため、ネットワークを作ることで力を最大化し、さまざまな社会課題の解決を目指しています。
JANICへの支援はNGOのネットワークへの支援となりますので、日本のNGO全体を広く支援することと同義であるとも言えます。また、JANIC自体も国内外で防災・減災の提言・普及啓発活動などに取り組み、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」の達成に尽力しています。
JANICへの寄付も1度きりの寄付と毎月定額で行えるものがあり、クレジットカード決済や郵便振込が利用できます。また、物品での寄付もできるのが大きな特徴で、書き損じや未使用のハガキ、未使用切手、未使用テレホンカード・図書券、各種商品券を送ると、JANICの活動費に充てられます。
JANIC:寄付する|国際協力NGOセンターJANIC
IFRC(国際赤十字・赤新月社連盟)
IFRC(国際赤十字・赤新月社連盟)は世界最大の人道支援ネットワークで、191か国以上で地元の赤十字と赤新月社の活動を支援している団体です。ボランティアのネットワークやコミュニティベースの専門知識、独立性や専門性が特徴で、何百万人といるボランティアが機構関連の危険にさらされているコミュニティと緊密な協力体制を築いています。
災害に強いまちづくりの観点でも、災害に対する備えや都市の回復力を高めるための支援、復興活動などを行ったり、災害リスクを軽減させるために生態系の保護を行ったりしています。例えば、取り組みの1つに「グローバル気候レジリエンスプログラム」があり、「気候変動に対応した防災、早期警戒、予測行動と準備のスケールアップ」「気候変動による公衆衛生への影響を減らす」「気候変動への対処」「気候変動に強靭な生計手段と生態系サービスの実現」の4つを柱として、世界約100か国で展開している活動です。
IFRCへの寄付はクレジットカードで行うことができ、IFRCの活動資金のための寄付から災害救援緊急基金(DREF)への寄付、世界各地の特定の緊急支援から選んでの寄付など、自分が支援したい項目を選んで寄付できる仕組みが作られています。
IFRC(国際赤十字・赤新月社連盟):寄付|国際赤十字社
Habitat for Humanity Japan
そして、今回紹介した支援団体の中でも、災害に強いまちづくりに最も特化した活動を展開しているのがHabitat for Humanity Japanです。Habitat for Humanityは世界70か国以上の国で住宅支援を行っている国際NGOで、人口増加や急激な都市化、度重なる自然災害によって深刻化しているアジアの住宅問題を解消するために2001年に発足したのがHabitat for Humanity Japanです。
また、2003年には特定非営利活動法人格を取得しており、アジア太平洋地域におけるHabitat for Humanityの活動を資金的に支援し、日本国内から海外の支援地にボランティアを派遣するなどの活動も行っています。国内でも、災害発生時の緊急支援や、高齢者世帯・1人親世帯への住まいの問題に取り組んでいます。
Habitat for Humanity Japanへ個人で支援する方法にはいろいろあり、職員として、インターンとして、翻訳ボランティアや国内外でのボランティアとしてなど、自分の環境や技能に合った支援が可能です。直接的な活動での支援以外にも、イベントへの参加、会員になって支える、リサイクルでの支援など多様な支援方法が用意されています。
1番手軽なのはやはり寄付で、マンスリーサポーターになって毎月定額を自動で支援したり、クレジットカードや郵便振替・銀行振込でその都度寄付したりできます。また現在、遺贈や相続財産による寄付や募金サイトからの寄付も準備中なので、さらに支援の方法が増えていくこともポイントです。
Habitat for Humanity Japan:支援する|ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパン
私たちの小さな行動が災害から人びとを守る力になる
世界には、災害によって命を落としてしまう人、住む家や街を失って難民とならざるを得なくなってしまう人などが大勢います。私たちが暮らす日本でも、毎年多くの人たちが災害に命を奪われたり、住み慣れた家を失ったりしています。
SDGsではさまざまな分野での目標が掲げられていますが、目標達成のために人びとが日々努力してきたことでさえ、災害は無慈悲に破壊してしまうのです。そして、災害という自然の猛威と戦い、災害に強いまちをつくるためには、長い年月、多額の資金、多くの人の協力が欠かせません。
多くの人が災害に対する意識を高め、自分や身の回りの人を守ることも災害に強いまちづくりには大切ですし、あなたが世界の誰かを想ってとった小さな行動が、災害と戦う大きな力になるのです。どんなことでも良いので、まずは小さなことから始めてみませんか?
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。