食品ロスの現状から原因・対策、私たちにできることまで徹底解説
食品の賞味期限が切れたら、危ないのですぐに捨てなければならないと思っていませんか?
実は、食品の賞味期限は切れてもまだ食べられる状態なのです。普段から「捨てずに消費する」という意識が食品ロス削減につながります。
そこで、本記事では
- 食品ロスの状況
- 食品ロスとSDGsの関係
- 食品ロスの原因や対策
- 食品ロス削減の取り組み事例
- 食品ロス削減にむけて私たち個人ができること
などについて解説します。
本記事を読めば、食品ロスの現状を知り、ロスを減らすための意識が高まるでしょう。私たち個人ができる食品ロス削減の取り組みも紹介しますので、ぜひチャレンジしてみてください。
食品ロスとは
食品ロスとは、簡単にいえば「まだ食べられるのに捨てられてしまう食べ物」です。そのような食品ロスはなぜ発生し、どのような影響があるのでしょうか。
食品ロスについて詳しくみていきましょう。
食品ロスの原因
食品ロスの原因は2つあり、家庭から出るものと小売店や飲食店から出る食品ロスです。それぞれ、家庭系食品ロス、事業系食品ロスとよびます。発生する食品ロスや量については下記のとおりです。
食品ロスが出る場所 | 食品ロス例 | 量(令和3年度) | |
家庭系食品ロス | 家庭 | 料理の作りすぎ、食べ残し、購入したのに使わずに捨てる、調理時の皮のむきすぎ | 244万トン |
事業系食品ロス | スーパーマーケット、コンビニエンスストア、飲食店 | 売れ残り、返品、食べ残し、売り物にならない規格外品 | 279万トン |
上記は日本などの先進国での食品ロスの原因です。先進国では上記のような食品ロスが出る一方で、開発途上国でも食品ロスがみられます。
開発途上国での食品ロスの原因は「市場に出回る前に腐ってしまうこと」です。では、なぜ市場に出る前に腐ってしまうのでしょうか。それは、開発途上国ではインフラが整っていないことに加え、技術的にも先進国のような収穫技術がないためです。インフラが整っていないことによる不衛生と非効率な収穫により、農作物が腐ってしまいます。
つまり、先進国では「売れ残り」「食べ残し」「作りすぎ」など、食品が市場に出回ってから捨てられています。一方で、開発途上国では市場に出回る前に腐ってしまい、捨てられてしまうのです。
食品ロスが注目される背景
それでは、近年食品ロスに注目されている背景とはいったい何なのでしょうか。それは、食品ロスを放置することによって発生する環境問題や社会問題が背景にあるのです。具体的には下記のようなことが懸念されています。
- 飢餓と食料不足の課題
- 焼却・埋め立てによる環境負荷
- 資源が無駄になる
- 地球温暖化の原因
現在(2023年)、世界人口は80億4500万人いますが、その内の8億人以上はまともに食事を食べられず、飢餓に苦しんでいるのです。8億人は世界人口の10人に1人の割合です。今後さらに人口は増えると予想され、飢餓で苦しむ人も増加するでしょう。
一方で日本などの先進国では、大量の食糧をまだ食べられるにも関わらず、廃棄している状況です。その廃棄している食品ロスを使い、世界の飢餓などの社会問題解決に役立てられないかという観点から、注目が集まりました。
さらに、食品ロスは、事業者や家庭からごみとして出されます。ごみとして出されるということは、食品を作る際に使用するエネルギー資源や包装などの容器はすべて無駄になるのです。
また、ごみは焼却の際に二酸化炭素を発生させ、環境負荷を増大させます。二酸化炭素は温室効果ガスとよばれ、大気中の濃度が上がると地球温暖化の原因にもなり得ます。
このように、食品ロスは現代の環境や社会問題が浮き彫りになるとともに、注目されだしました。
食品ロスの現状
続いて、食品ロスの現状をみていきましょう。
世界では毎年、なんと13憶トンもの食べられる食料が捨てられています。日本に限定してみてみると、毎年約523万トン(令和3年度)もの食品がまだ食べれるにも関わらず、捨てられているのです。
523万トンを国民1人あたりに換算してみると、日本国民全員が毎日お茶碗約1杯分ほどの量を捨てていることになります。想像するだけでも、とんでもない量の食品が捨てられている現状がわかるでしょう。
食品ロスとフードウェイストの違い
食品ロスとよく似た言葉として、「フードウェイスト」という言葉があります。両者の違いは下記のとおりです。
意味 | 違い | |
食品ロス | 小売業者・食品サービス事業者・消費者を除く食品供給者による食品の量や質の低下 | 引き起こされる要因が「小売業者・食品サービス事業者・消費者を除く供給者」。つまり、生産・貯蔵・加工・製造・流通などによる食品の質の低下を指す。 |
フードウェイスト | 小売業者・食品サービス事業者・消費者の判断や行動による食品の量や質の低下 | 引き起こされる要因が「小売業者・食品サービス事業者・消費者」。 |
食品ロスは生産・貯蔵・加工・製造・流通などの過程で食品の量や質の低下による食品の廃棄です。一方でフードウェイストは飲食店や小売店、私たち消費者によって引き起こされた食品の廃棄を指します。
食品ロスとSDGs
食品ロスは、近年注目されているSDGsとも関係があります。SDGsとは「持続可能な形で環境問題や社会問題を解決するための目標」のことです。SDGsには17の目標と169のターゲットがあります。そして、17の目標の中でも食品ロスに大きく関係するのが、目標12「つくる責任つかう責任」です。
目標12「つくる責任つかう責任」をみてみると「お店や消費者のところで捨てられる食料を半分に減らす」あります。また、「食料が捨てられたり、失われたりすることを減らす」という内容も書かれているのです。
事業者や消費者が食品ロスについて対策をし、食品ロスを減らすことは捨てられる食品が減ることを意味します。よって、食品ロス削減とSDGsの目標12は大きな関わりがあるといえるでしょう。
食品ロスの対策
では、ここまでみてきた食品ロスに対してどのような対策ができるのでしょうか。
食品ロス削減の法律
まずは、法律面での食品ロス対策です。食品ロスに関わる法律は2つあり、食品ロス削減推進法と食品リサイクル法です。以下にそれぞれの特徴をまとめました。
法律名 | 目的 | 内容 |
食品リサイクル法 | 食品廃棄物等の発生を抑えて少なくする。再生利用(リサイクル)等の取り組みを食品関連事業者に促す。 | 発生した食品廃棄物を飼料や肥料等へ利用すること。熱回収等の再生利用など。 |
食品ロス削減推進法 | 国、地方公共団体、事業者、消費者が一丸となって食品ロス削減を推進できるよう協力すること。国民の食品ロス削減意識の向上。 | 事業者としての食品ロス削減の責務。規格外・未利用の農林資産物の有効活用。納品期限の緩和や賞味期限の延長についてなど。 |
食品リサイクル法は平成13年に施行され、食品ロス削減推進法は令和元年に施行されました。食品ロス削減推進法が成立したことにより、国で食品ロス削減推進会議という新たな会議も開催されています。
このように日本政府は、法律を整備し、議論の場を設け、食品ロス削減へ動き出しているのです。
フードバンクの活用
フードバンクを活用することも食品ロス削減につながります。フードバンクとは、まだ利用していない食品を企業や農家から受け取り、必要としている施設や団体へ提供することです。
つまり、本来廃棄となるはずだった食品が食品ロスにならずに消費されるため、食品ロス削減につながるのです。フードバンクは新型コロナウイルスの流行の中、生活困窮者へ食品をスムーズへ届けられるとしてその重要性が高まっています。日本国内では2000年の1団体から始まり、2023年5月時点では、なんと233もの団体が活動しており、広がりをみせているのです。
そのようなフードバンクは国からのサポートも厚く、下記のような支援があります。
支援 | 内容 |
フードバンク活動団体のスタートアップ支援 | 設立間もない団体等に対して、検討会や研修会を開催する。運搬用車両や一時保管用倉庫(冷蔵庫や冷凍庫など)の賃借料を2分の1補助する。 |
フードバンク活動団体の先進的取り組み支援 | 先進的な取り組みを行うフードバンクに対して、取り組みに必要な経費の2分の1を補助。先進的な取り組みとは、広域での連携など。 |
食品の受け入れ・提供拡大への支援 | 子ども食堂などに向けた食品の受け入れ・提供のための運搬用車両、一時保管用倉庫の賃借料、輸配送日を支援。 |
フードバンク活動強化に向けた専門家派遣等の支援 | フードバンク活動に必要なノウハウ獲得のために、専門家派遣等のサポートを実施。ノウハウには食品の取扱量拡大、企業や子ども食堂とのマッチング、活動計画策定などがある。 |
上記支援はフードバンク活動をする側への支援ですが、フードバンクへ食品を提供する側にも税制上で優遇されるのです。例えば、下記のような優遇があります。
- フードバンクへの食品提供に要する費用を損金の額に算入できる
- 広告宣伝のために食品を提供する場合、広告宣伝に必要な費用は広告宣伝費として損金にできる
- 法人がフードバンクに支出した寄付金については、一般の寄附金として損金にできる
損金とは経費に近い概念で、損金に算入できると法人税が安く済むのです。
このように、国からの後押しを受けているフードバンクは、食品ロス削減への貢献が期待できるでしょう。
3分の1ルールや賞味期限の見直し
3分の1ルールとは、賞味期間の3分の1を超えたものを入荷しない、3分の2を超えたものを販売しないというルールです。食品小売業にみられる暗黙のルールで、特に法律で定められているわけではありません。
3分の1ルールを理解するには、まず下記3点の「期限」を把握しましょう。
- 納品期限:卸売業者※が小売店(コンビニなど)に納品する期限
- 販売期限:小売店が商品を店頭に並べてよい期限
- 賞味期限:私たち消費者がその商品をおいしく食べられる期限
※メーカーから商品を仕入れ、小売業へ商品を提供する業者
例えば、製造したその日から6か月先が賞味期限だったとしましょう。卸売業者はその商品を最初の2か月でコンビニなどの小売店へ納品しなければなりません。そして、受け取ったコンビニは製造日から4か月先まで販売できますが、販売期限が切れた商品は廃棄するのです。
では、運搬などでトラブルがあり、納品期限までに卸売業者が小売店に商品を納品できなかったとしましょう。その場合もその商品は廃棄されてしまうのです。
つまり、この3分の1ルールにより、大量の食品ロスが発生するといえます。
この問題を解決するために、国は下記取り組みを推奨しています。
- 納品期限の緩和
- 賞味期限の年月表示
- 賞味期限の延長
まず3分の1ルールに縛られず、納品期限を緩和することが大切です。納品期限が延びれば、それだけ卸売業者が小売店に納品する期間に猶予ができ、廃棄が減ります。
続いて、賞味期限が「年月日表示」から「年月表示」に変更されれば、食品ロス減少につながります。小売店が抱えている在庫の賞味期限よりも卸売業者が新たに納品した商品の賞味期限が短いと、その時点で廃棄されることが多いのです。そこで賞味期限を「R5.10」のように年月で表示すれば、これまで賞味期限が同月だったにも関わらず廃棄となっていた商品のロスを防げます。
さらに、食品ロスを大きく改善するのが賞味期限の延長です。賞味期限を延長すれば、納品期限は延びます。つまり、卸売業者により、小売店へ納品できる商品が増え、商品の廃棄が減るのです。
上記のような取り組みは少しずつ広がりをみせており、令和4年度時点で取り組んでいる事業者数は下記のとおりです。
取り組み | 事業者数(令和4年度) |
納品期限の緩和 | 240(昨年よりも54増加) |
賞味期限の年月表示 | 267(昨年よりも44増加) |
賞味期限の延長 | 182(令和4年度より初集計) |
このように、事業者が賞味期限や納品期限の延長に取り組むことで、食品ロスは減少するといえるでしょう。
フードシェアリングサービスの利用
フードシェアリングサービスとは、消費者に廃棄される予定だった商品を提供するサービスです。食品ロスとなるはずだった商品が私たち消費者のもとへ届き、活用されるため、食品ロスの減少につながります。
例えば、横浜市は株式会社クラダシという企業と提携し、消費者にお手頃な価格で食品ロス予定の商品を販売しているのです。
同社は、食品ロス削減に賛同するメーカーから協賛価格で商品の提供を受けています。よって、消費者に販売する際も低価格で販売できるシステムです。
さらに消費者が購入した代金の一部は横浜市内で活動するフードバンク団体に寄付されます。横浜市のように、行政・企業・フードバンク団体が連携することで、食品ロス削減につながるのです。
また、横浜市では、株式会社コークッキングという企業とも連携しています。同社は「TABETE」というアプリを通して、登録しているユーザーに廃棄予定だった商品を提供しているのです。閉店時間や賞味期限などの理由からお店が捨てざるを得ない料理や食品をアプリに掲載しています。
このように、フードシェアリングサービスを活用することで、食品ロス削減につながるといえるでしょう。
食品ロス削減の取り組み事例
では、食品ロスの削減のために、企業ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。
キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングス株式会社は「キリン一番搾り生ビール」などの飲料水で有名な会社です。コンビニやスーパーで同社の商品を目にすることが多いでしょう。
そのようなキリンホールディングス株式会社では、下記取り組みにより、食品ロス削減へ尽力しています。
取り組み | 内容 |
商慣習の見直し | 賞味期限や製造時期表示を年月表示へ移行。非効率な作業や運搬がなくなることで、二酸化炭素排出等の環境負荷が軽減。納品期限が長くなるので、食品ロスも削減される。 |
ブドウの搾り粕の再利用 | ブドウの搾り粕を切り返しという作業を繰り返し、堆肥にする。有機肥料として再利用されている。 |
ビール仕込粕の飼料化 | 仕込粕とはビールの製造工程で麦汁を搾った後に残った搾り粕。仕込粕の中には栄養成分が残っているおり、牛の飼料やキノコ培地※に有効活用されている。 |
※培地:細胞や微生物が成長しやすいよう人工的に作られた環境
同社では、賞味期限などの商慣習を見直し、製造過程で不要になったものを再利用することで食品ロス削減に貢献してるのです。
味の素株式会社
続いて紹介するのは、冷凍食品などで私たちの生活に豊かさをもたらしてくれる味の素株式会社です。同社では、賞味期限表示を年月日表示から年月表示に変更したり、賞味期限を延長したりして、食品ロス削減に取り組んでいます。具体的には、下記商品の賞味期限表記を変更しました。
実施時期 | 商品 |
2017年2月 | 「味の素KKふんわりかに玉の素」、「味の素KK麻婆春雨」などの3品目 |
2017年8月 | 「クノール🄬カップスープ」、「味の素KKコンソメ」、「鍋キューブ🄬」などの70品目 |
2018年2月 | 「Cook Do🄬」、「Cook Do🄬きょうの大皿🄬」などの54品目 |
2018年8月 | 「ほんだし🄬」、「味の素KK中華あじ」、「丸鶏がらスープ」などの49品目 |
賞味期限表示変更の取り組みを実施するにあたり、同社では各部門が連携し、年月表示への移行を進めました。各部門の役割は下記のとおりです。
部門 | 役割 |
広報・渉外 | 業界団体・メディア対応 |
情報システム | 基幹システム・各種情報システムやインターフェース※改修 |
開発 | 賞味期限延長、技術標準書改訂 |
生産 | 検査装置・管理システムの改修、生産・出荷管理方法の見直し |
物流 | 倉庫CPU・物流システムの改修、入出庫・検品オペレーションの見直し |
販売 | 得意先への案内 |
品質保証 | 賞味期限表示ルール改訂 |
お客様相談センター | お問い合わせ対応手銃見直し |
※インターフェース:「境界面」「接点」などの意味で、システム同士やシステムと人をつなぐこと
賞味期限の年月表示化にあたっては、賞味期限が1年以上の家庭用製品を対象に行っています。また、消費者に対しては食品ロス削減の取り組みであることをアナウンスしました。
上記取り組みにより、下記のような効果が得られました。
- 商品管理区分が月単位になり、検品時間が短縮され、納品時間が効率化された
- 賞味期限の「日」ごとに在庫管理する必要がなくなるため、在庫管理が簡素化され、災害への対応力が向上
商品管理の区分が「日」から「月」単位になることで、検品作業などの業務時間が短縮します。納品時には必ず検品を行いますが、それが「日」から「月」単位になり、検品量自体が減るためです。
また、在庫も賞味期限の「日」ごとに管理していると、在庫をまとめる際の「運搬」が大きな負担となっていました。しかし、賞味期限表示が「月」なり、管理区分が大括りになることで、その運搬の負担軽減につながるのです。災害時にも在庫がまとめやすくなり、緊急時等の対応力向上にもつながります。
このように、味の素株式会社では賞味期限表示を変更することで食品ロス削減に貢献しているのです。
山崎製パン株式会社
ランチパックなどのパンで有名な山崎製パン株式会社では、食パンの「耳」を利用した食品ロス削減に取り組んでいます。
ランチパックの製造過程で発生した食パンの耳は、なんと100%再利用されているのです。では、どのように再利用されているのでしょうか。
その答えは、食パンの耳をラスクやパン粉として生まれ変わらせ、再利用されているのです。ランチパックの製造過程で出たパンの耳は、同社のグループ会社である、株式会社末広製菓の「ちょいパクラスク」で使用されます。また、委託先のパン粉メーカーで業務用のパン粉としても製品化されているのです。
さらに「ランチパック」シリーズは包装面でも工夫があります。ランチパックは開封するまで中が空気で膨らんでいますよね。あの仕組みは、商品の品質を保てるようにパッケージにエアーが充填されており、通常よりも厚いフィルムが採用されているのです。
このパッケージが採用されることで、持ち運び時に商品が潰れることでの廃棄が減少します。理由は、商品に衝撃が加わっても、パッケージ内のエアーがクッションとなり、商品が潰れにくくなるためです。
同社では、ランチパック以外にも、製造過程で出た食品の再利用がみられます。例えば「まるごとバナナ」の製造過程で出たバナナの切れ端は「切れてるバナナパウンドケーキ」の生地に練り込まれるのです。バナナを包んでいるスポンジケーキのカット部分は「りんごのパイケーキ」として再利用されています。
このように、山崎製パン株式会社では、製品の製造過程で出た不要な部分をうまく有効活用することで食品ロスを削減しています。
株式会社星野リゾート
株式会社星野リゾートは、質の高いサービスや普段体験できないようなリゾート感覚を提供し、私たちの日常を豊かにしてくれます。
そのような同社では、「顧客1人1人に対応する」という方法で食品ロス削減に取り組んでいるのです。顧客1人1人に対応することと食品ロスはどのように関わるのでしょうか。以下2つの顧客に対応する取り組みが、食品ロス削減につながっています。
- 披露宴料理の当日選択制
- ワンテーブル・ワンシェフ
まず、披露宴の料理を参列当日に席についてから和食・洋食を選択できるようにしました。この仕組みにより、当日の気分に合わせた料理を提供できるため、食べ残し減少につながります。同時に顧客満足度上昇にもつながり、一石二鳥です。
さらに、同社ではテーブルごとにスタッフ1人をつけました。担当のスタッフがテーブルごと料理の切り分けや仕上げを行うので、顧客1人1人に合わせた料理を提供できます。つまり、料理の大きさや好みを顧客に合わせられるので、食べ残し減少につながるのです。
このように、星野リゾートでは、顧客の1人1人に向き合い、的確なサービスを提供することで食品ロスを削減しています。
松坂屋
百貨店として有名で、全国に店舗を持つ松坂屋では、販売方法を工夫し、食品ロスを削減に貢献しています。
例えば、松坂屋上野店では「もったいないセール」を2010年から開始しました。もったいないセールでは下記の商品が販売されるのです。
- 賞味期限間近の商品
- 販売を終了した商品
- メーカー・卸売業者から集めた納品期限切れ・過剰在庫の商品
これまで店頭から撤去され、活用されていなかった商品に目をつけ、再販売し、食品ロスを減らす取り組みをしています。また、メーカーや卸売業者から廃棄予定の商品を回収し、それらをもったいないセールで販売するのです。
百貨店にとっては、普段セールにしないような商品を販売できる利点があります。また、メーカーや卸売業者にとっては、廃棄コスト削減につながり、消費者が今まで知らなった商品を知るきっかけにもなるのです。つまり、百貨店と取引先、そして消費者にもメリットがある取り組みといえるでしょう。
もったいないセールは年3回開催され、1日に約5,000人もの客が訪れる人気セールとなりました。このように、松坂屋では販売方法の工夫を通して、食品ロス削減につなげています。
サトウ食品株式会社
「サトウの切り餅」で有名なサトウ食品株式会社では、包装の工夫により、食品ロス削減につなげています。
同社の代表商品である「サトウの切り餅」、「サトウのまる餅」の包装にはバイバリアフィルムというフィルムが採用されています。バイバリアフィルムは個包装の中に酸素を吸収し、内部の水分蒸発を抑えるフィルムです。餅の鮮度を保つには、水分量を維持することが必須ですが、このバイバリアフィルムはその水分量維持に役立ちます。
この包装を採用することで、餅の賞味期限を15か月からなんと24か月にまで延長できました。バイバリアフィルムにより、餅の酸化が防がれ、高い水分量が保持されたためです。
また、従来では鮮度保持剤とよばれる、食材の鮮度を保つものが必要でしたが、それも不要となり、環境負荷も軽減されました。
このように、サトウ食品では、包装の工夫で食材の鮮度を保ち、食品ロス軽減に貢献しています。
ワケあり食品専門店 エコロマルシェ
エコロマルシェは本来廃棄される予定だった商品を専門的に扱う、まさに食品ロス削減に貢献している事業者です。
そんなエコロマルシェのポイントは、賞味期限切れの商品をメインに扱うことです。賞味期限が近い商品を扱う店はたくさんありますが、賞味期限切れの商品をメインに扱うのはかなり珍しいでしょう。いったいどのような商品を扱っているのでしょうか。例えば、下記のような商品です。
- 缶詰
- カップラーメン
- スナック菓子
- チョコレート
上記商品には常温保存可能という特徴があります。冷凍や冷蔵が必要な商品や、消費期限表示の生鮮食品などは期限が切れると食さない方がよいとされているため、扱っていません。
しかし、賞味期限切れの商品はまだ食べられるという特徴があります。さらに同社では、店内で販売する賞味期限切れの商品はスタッフが試食して、安全性の確認まで行っているのです。
このように、常温保存可能な食品のみを扱い、安全性を徹底することで賞味期限切れの商品をメインに扱うことが可能になりました。
商品は、業者から連絡をもらい、買い取りもしくは引き取りで回収します。商品を買い取る際も「必ず売りきれる量」のみを買い取り、廃棄を出さないよう徹底しています。
さらにエコロマルシェは、通信販売にも精通しており、全国各地から注文が入っているのです。つまり、店舗だけではなく、通信販売も通して全国各地に賞味期限切れ商品を流通させ、食品ロス削減に貢献しています。
消費者などの買い手が満足のいく商品を手頃な値段で販売し、売り手であるエコロマルシェがその販売を通して利益を上げます。さらに、販売する商品は本来廃棄予定だったものなので、販売を通して「食品ロス削減」という社会貢献も果たしているのです。
食品ロスを減らすために私たち個人や家庭でできること
ここまで企業の食品ロス削減に関する取り組みをみてきましたが、私たち個人にもできることはたくさんあります。
ここで紹介するような簡単にできる取り組みを通じて、食品ロス削減に貢献していきましょう。
賞味期限と消費期限の違いを理解する
皆さんは「賞味期限と消費期限の違い」と聞き、瞬時に判断できますか。
両者の違いを理解するだけでも、食品ロス削減に貢献できるのです。賞味期限と消費期限には下記の違いがあります。
違い | 詳細 | 表示されている食品例 | |
賞味期限 | 食品をおいしく食べられる期限 | 賞味期限内であれば、商品ごとに定められている保存方法を守ることで、品質が保持されている。ただし、賞味期限を過ぎても品質が保持されることもある。 | お菓子、カップ麺、缶詰など日持ちするもの |
消費期限 | 期限を過ぎたら食べない方がよい期限 | 消費期限を過ぎてしまうと、商品の劣化が進み、安全性を欠く恐れがある。 | 弁当、サンドイッチ、惣菜など傷みやすいもの |
賞味期限は劣化が比較的遅い、カップ麺や缶詰に表記されています。「おいしく食べられる期限」なので、仮に多少過ぎてしまってもまだ食べられることが特徴です。
一方で消費期限は弁当やサンドイッチなど、劣化が早い食品に表示されます。消費期限を過ぎてしまったら、食品の劣化が進んでいるので、食べることは控えましょう。
つまり、「賞味期限を少しだけ過ぎてしまった…」からといってすぐに商品を捨てることは食品ロス増加につながります。捨てるのではなく、その日にその商品を使うなどして、消費することが大切です。
食材を買い過ぎず、食べきり、使いきる
私たちが食品を「買い過ぎない」「食べきる」「使いきる」ことを意識するだけで食品ロスは削減できます。下記にそれぞれの具体的な行動をまとめてみました。
食品ロス削減の意識 | 具体的な行動 |
食材を買い過ぎない | 買い物する際は家にある食材を事前に調べて必要な分だけ購入する。買い物の前に冷蔵庫の中をスマホで撮影して見られるようにしておくと、今ある在庫をすぐに確認できる。 |
食材を食べきる | 体調や予定を考慮し、食べられる分だけ作る。外食に行く際も、食べきれる量だけ注文する。最近では注文時に小盛やハーフサイズを受け付けている飲食店も増えているので、食べきれないと思ったら積極的に活用する。また、自分が苦手な食べ物を事前に把握しておき、注文時に入っているか確認することも有効。 |
食材を使いきる | 料理サイトや本などをみて「今ある食材で何が作れるのか」を考える。また、冷蔵庫を常に整理しておくと、「どこに」「何が」「どのくらいあるのか」が瞬時にわかり、食材を使いきることにつながる。食材や調味料の定位置を決めておくと、どこにどれだけあるかすぐに確認でき、食材の使い忘れ防止になる。 |
食材を食べきることに関しては、「30・10運動」というものがあります。「30・10運動」とは、長野県松本市から始まった取り組みで、家庭や外食時の食品ロス削減の意識です。
家庭では、毎月30日を「冷蔵庫クリーンアップデー」とし、賞味期限・消費期限の近い食材を活用し、冷蔵庫の中を整理(クリーンアップ)します。そして、10日は「もったいないクッキングデー」として今まで捨てられていたような食材などで食材をリメイクする取り組みです。
一方で、宴会などの外食では、どのような取り組みが行われているのでしょうか。
外食では、乾杯の30分間は席に立たず料理を楽しみ、お開き前の10分間は再度料理を楽しむという意識付けが行われています。
「30・10運動」のように食品を食べきるという習慣を継続することで、食品ロスは削減されるでしょう。
また、食材を上手に使い切るには下記のサイトが参考になります。
- クックパッド:消費者庁のキッチン
- クックパッド:レシピコンテスト 食べきりげんまんプロジェクト
クックパッドにて、本来捨てるはずだった食材や余った食材の活用術を紹介しているので、ぜひチャレンジしてみてください。
食材を保存する
食品ロス削減には、購入した商品や作りおきした料理を保存しておくことも有効です。例えば、量が多すぎて食べられない場合、捨てるのではなく保存できるものは保存しましょう。肉類や野菜は冷凍保存すると長持ちしますし、カレーは冷凍するとなんと約1か月も保存できます。
保存する際もタッパに詰め込みすぎず、透明な容器を使うなどして中身が見えるような形で保存することがポイントです。詰め込みすぎて中身がみえないと、どの食材が余っているのかわからず、ずっと保存しっぱなしになりかねません。
冷蔵庫を開けて、何の食材が残っていて、何を作りおきしているのかパッとみてわかるようにしておきましょう。
古い食材から使用する
冷蔵庫や常温で保管している食品は、古いものから順に消費していきましょう。その行動で食品の期限切れを防ぎ、捨てることなく消費できるからです。
例えば、冷蔵庫に食材を陳列する際に、古い食材を手前に来るようにして、新しいものは後ろに詰めるという意識が大切です。また、スーパーなどで食品を購入する際にも、賞味期限が近い手前の商品から購入する、いわゆる「てまえどり」も積極的にしていきましょう。売れ残りや値引き商品を購入することも古い食材から使用することになり、食品ロス削減に貢献できます。
上記のような「古い食材から使用すること」を日常的に意識するだけでも食品ロスは防げるのです。塵も積もれば山となるといわれるように、全国民が意識すれば、食品ロスは大幅に減少するでしょう。
フードバンクを活用する
フードバンクは、企業や農家から不要な食材を寄付してもらい、食材を必要としている福祉施設などへ届ける役割があります。一見すると、私たち一般消費者とは関係がないように思われがちですが、フードバンクは私たち個人も活用できるのです。
私たちは、食品を受取側でも提供する側でもフードバンクに関わることができます。食品を受け取る場合、受取条件などを確認し、申込書への記載を済ませ、フードパントリー (食品無料配布場所) で受け取ります。
一方で、フードバンクに食品を提供するのであれば、個人支援可能なフードバンクを探し、食材を持ち込むか、郵送します。例えば下記のような団体です。
フードバンクを個人でも活用することで、廃棄となるはずだった食材を消費でき、食品ロス削減につながります。興味があれば、積極的に活用してみましょう。
また、フードバンクについては「全国各地のフードバンクを一挙紹介!利用方法も簡単に解説」の記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
食品ロスに興味を持ち、改善に協力しよう
今回は食品ロスについて解説してきました。重要な内容は下記のとおりです。
- 食品ロスは先進国と開発途上国で発生する原因が異なる
- 日本の食品ロスは令和3年度時点でなんと523万トン
- 食品ロスが関わるSDGsの目標は12の「つくる責任つかう責任」
- 食品ロス対策として法整備、商慣習の見直し、フードバンク・シェアリングの利用があげられる
- エコロマルシェのように賞味期限商品をメインに扱う店もある
- 私たち個人の意識を変えるだけで食品ロスは減少する
食品ロスは、先進国では「売れ残り」「食べ残し」「作りすぎ」など、食品が市場に出回ってから捨てられています。一方で開発途上国では「市場に出回る前に腐ってしまうこと」が原因でロスが発生してしまうのです。
食品ロスは事業者や家庭から排出され、令和3年時点で523万トンでした。この数値は、日本人1人当たりが毎日お茶碗1杯分ものご飯を捨てていることになります。それだけ食品ロスは多いため、どのように食品ロスを削減するかが重要です。
増大する食品ロス対策には、食品リサイクル法や食品ロス削減推進法などの法整備があげられました。法整備により事業者や消費者の食品ロス意識を高める効果があります。また、3分の1ルールなどの商慣習の見直し、フードバンクやフードシェアリングの活用も有効です。
私たち個人の賞味期限に対する意識を改めることでも食品ロスは減少します。現在では、エコロマルシェのように、賞味期限商品をメインに扱う事業者も出てきました。そのような場を活用して、賞味期限が切れた商品を買い、消費するだけでも食品ロス削減に貢献できるのです。簡単にできるとから私たち個人も食品ロス削減に貢献してきましょう。
<参考資料/参考文献>
農林水産省:食品ロスの現状を知る
環境省:食品ロスを減らすために、私たちにできること
農林水産省:食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢
UNFPA Tokyo:世界人口白書2023
消費者庁:食品ロスについて知る・学ぶ
環境省:我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和3年度)の公表について
環境省:食品ロスポータルサイト
農林水産省:フードシステムの循環経済化と食品EC のビジネスモデルについて
オルタナ:「フードロス」と「フードウェイスト」は全く違う
農林水産省:食品ロスの現状について
農林水産省:フードバンク
農林水産省:納品期限の緩和を進める事業者が大幅に増加!
横浜市:フードシェアリングサービスを活用しよう!
農林水産省:余った食べ物が大変身!各企業の削減術
農林水産省:食品ロス削減に向けた賞味期限表示の大括り化事例
農林水産省:【キリンホールディングス株式会社】食品ロス削減・リサイクルに向けた取組
農林水産省:今日からはじめる食品ロス削減のためのヒント
松本市:残さず食べよう!30・10(さんまる いちまる)運動
消費者庁:[食品ロス削減レシピ]もったいないを見直そう
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。