温室効果ガスによる問題と解決へ向けた世界での取り組み

世界中で大きな問題となっている地球温暖化、2023年7月には国連事務総長が「温暖化は終わった。地球沸騰化の時代が到来した」と強い言葉で警鐘を鳴らしました。
地球温暖化を止めるために、原因となる温室効果ガスの削減が地球全体の課題となり、さまざまな取り組みが行われています。本記事では地球温暖化の原因と温暖化がもたらす地球環境の変化、そして、どのような対策が講じられているのかを解説します。
目次
温室効果ガスの種類と問題点
温暖化の原因は、人間による温室効果ガスの排出です。特に、石油や石炭などの化石燃料の使用による排出割合が高くなっています。そして、排出の問題だけではなく、森林破壊の増加によって吸収される温室効果ガスが減っていることも原因の一つです。
温室効果ガスの種類と温室効果ガスの増加がもたらす気候変動への影響について、詳しく解説します。
温室効果ガスとは地球からの放熱を妨げるもの
本来の地球環境は、太陽の熱エネルギーの一部を吸収し、その一部を反射または放出して宇宙空間へと戻すことで平均気温を15℃に保っています。しかし、増加した温室効果ガスは、地球からの放熱(赤外線)の一部を吸収し、熱が逃げにくい状態を作ります。その結果、地球表面の温度が上昇してしまうのです。(注1)
特に大きな問題となっている二酸化炭素(CO2)の産業革命前(1750年頃)の大気中濃度は278ppm(ppmとは、大気中の分子100万個中での対象物質の個数を表す単位)程度でしたが、2021年には415ppmまで増加しています。(注2)
しかし、温室効果ガスがまったく必要ないということではありません。温室効果ガスが全くない状態では地球の平均気温は-18℃になってしまい、生物の生息環境としては厳しいものとなってしまうのです。(注3)
(注1)参考:気象庁 温室効果ガスの用語解説
(注2)参考:気象庁 大気中二酸化炭素濃度の経年変化
(注3)参考:東京都環境局 地球温暖化ってなに?
温室効果ガスの種類
温室効果ガスの種類は二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、代替フロン等4ガス(ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、六フッ化硫黄、三フッ化窒素)です。
地球温暖化係数(GWP)とは、二酸化炭素の温室効果を1として、その何倍の温室効果があるのかを表す係数です。
それぞれの温室効果ガスについて解説します。
温室効果ガスの種類 | 解説 | 地球温暖化係数(GWP) |
---|---|---|
二酸化炭素(CO2) | 地球温暖化への影響がもっとも大きい温室効果ガス | 1 |
メタン(CH4) | 天然ガスの主成分、常温で気体、燃えやすい/二酸化炭素に次いで、温暖化に与える影響が大きい | 25 |
一酸化二窒素(N2O) | 数ある窒素酸化物の中で最も安定している物質/温室効果が高く、大気中での寿命が109年と長い | 298 |
ハイドロフルオロカーボン類(HFCs) | 塩素を含まないため、オゾン層を破壊しないフロン/温室効果が強力 | 1,430など |
パーフルオロカーボン類(PFCs) | 炭素とフッ素だけのフロン/温室効果が強力 | 7,390など |
六フッ化硫黄(SF6) | 硫黄の六フッ化物/温室効果が強力 | 22,800 |
三フッ化窒素(NF3) | 窒素とフッ素からなる無機化合物/温室効果が強力 | 17,200 |
参考1:全国地球温暖化防止活動推進センター 1-02 温室効果ガスの特徴
温室効果ガスが増加することで起こること
地球の平均気温の上昇により、世界各国ではすでに気候変動や異常気象が発生しています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書では「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と明言されています。
地球温暖化によって、世界で実際に起こっている影響は次のようなものがあります。
- 工業化(1750年頃)と比べ、2011~2020年の世界平均気温が約1.09℃上昇した
- 1950年以降、人間の影響により北半球の春の降雪面積を減少させている
- 人間の影響により、熱波と干ばつの同時発生、火災が発生しやすい気候条件(高温・乾燥・強風)、複合的な洪水(極端な降雨や河川の氾濫と高潮の組み合わせ)といった極端現象(極端な高温・低温や強い雨などの特定の指標を越える現象)の発生率を高めている
- 1950年以降、陸域での高温に関する極端現象は増加、低温に関する極端現象は低下した
- 人の影響による気候変動によって、いくつかの地域における農業及び生態学的干ばつが増加した
- 強い熱帯低気圧(台風)の発生割合が過去40年で増加した
- 北西大西洋における熱帯低気圧の強度がピークに達する緯度が北方に移動している
- 世界平均海面上昇 1901~2018年の間に約0.20m上昇した
- 1970年以降、海の水深0~700mの海洋上層での海水の温暖化
- 海面付近の海洋酸性化(大気中の二酸化炭素を海洋が吸収して引き起される問題)
- 海洋熱波(数日から数年にわたる水温の急激な上昇のこと)の頻度は1980年代以降倍増している
- 北極の海氷は1979~1988年と2010~2010年の間に、9月で40%、3月で10%減少した
参考:環境省 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書第 1 作業部会報告書(自然科学的根拠)と従来の IPCC 報告書の政策決定者向け要約(SPM)における主な評価
温室効果ガスの増加により、食糧や水、海水面の上昇による土地の消失などは生活に直結する問題です。
このまま地球温暖化が進むと、さらなる大きな問題を引き起こすことになるのです。そのため、世界全体で温室効果ガスの削減に取り組むことが課題となっているのです。
温室効果ガスの増加により、温度が上昇することで発生が予測される日本での影響は次のようなものがあります。
<2100年末に予測される温暖化の影響(温室効果ガスの濃度が最悪の場合)>
- 気温が3.5~6.4℃上昇
- 降水量が9~16%増加
- 海面が60~63cm上昇により砂浜の83~85%が消失、干潟の12%が消失
- 洪水による年間の被害額が3倍程度拡大
- 河川の流量が1.1~1.2倍に増量
- クロロフィルa(葉緑素の一つ)の増加による水質の悪化
- ハイマツの生育可能な地域が消失~現在の7%に減少
- ブナの生育可能な地域が現在の10~53%減少
- コメの収穫量に大きな変化はないが、品質低下のリスクが増大
- うんしゅうみかんの生産に適した土地の消失
- タンカンの生産に適した土地が国土の1%から13~34%に増加
- 熱中症による死者、救急搬送者数が2倍以上に増加
- ヒトスジシマカ(蚊)の分布域が国土の4割から75~96%に拡大
参考:全国地球温暖化防止活動推進センター 6-03 2100年末に予測される日本への影響
日本でも、温暖化が進むことでさまざまな影響が予測されています。このような未来を避けるためにも、地球温暖化への対策は不可欠なのです。
温室効果ガスの排出原因
もっとも地球温暖化への影響が大きいものは、化石燃料の燃焼です。1750年頃に起こった産業革命以降、人間は石油や石炭などの化石燃料を燃やすことでエネルギーを作り発展してきました。その結果、大気中の二酸化炭素の濃度が産業革命前と比べ約40%も増加したのです。二酸化炭素以外の温室効果ガスも、多くが人間の活動から排出されています。
温室効果ガスの排出原因について、それぞれ解説します。
温室効果ガスの種類 | 排出原因 |
---|---|
二酸化炭素(CO2) | 炭素分を含むものを燃やすこと、セメント生産、工場や自動車の排気ガス、石油や石炭などの燃焼によって発生 |
メタン(CH4) | 化石燃料の生産と消費、農業での廃棄物、湿地や水田、家畜の腸内発酵(げっぷ)、天然ガスやバイオマスの燃焼などにより発生 |
一酸化二窒素(N2O) | 農業での窒素肥料の使用、化石燃料やバイオマスの燃焼や工業プロセスから発生 |
ハイドロフルオロカーボン類(HFCs) | 冷蔵庫、エアコン、スプレーなどの冷媒、建物の断熱材や化学物質の製造プロセスなどから発生 |
パーフルオロカーボン類(PFCs) | 半導体の製造プロセスなどから発生 |
六フッ化硫黄(SF6) | 高電圧機器の絶縁やケーブル冷却装置及び半導体の製造補助に用いられる |
三フッ化窒素(NF3) | 半導体の製造プロセスなどから発生 |
参考:全国地球温暖化防止活動推進センター 1-02 温室効果ガスの特徴
参考:気象庁 展示室1 温室効果ガスに関する基礎知識
私たちが日常的に食べている牛のげっぷにもメタン(CH4)が含まれています。
温室効果ガスの現状と削減への動き
世界中で、地球温暖化への対策として温室効果ガス、特に二酸化炭素の削減への取り組みが行われています。報道などでも、二酸化炭素削減のためのカーボンニュートラルなどを聞く機会が増えました。地球温暖化への対策を多くの企業も取り入れており、環境に配慮した経営が行われています。
そこで、温室効果ガスの削減の方法や考え方、日本での政策について解説します。
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスを差し引きゼロにすること
2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする、カーボンニュートラルを目指すと宣言しています。
しかし、完全に二酸化炭素の排出をゼロにすることは困難です。そこで、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を、植林や森林管理によって吸収させることで差し引き、合計を実質ゼロにするカーボンニュートラルという方法があります。
120以上の国と地域が、2050年カーボンニュートラルという目標を掲げています。
カーボンプライシングとは、排出する炭素への価格付け
カーボンプライシングとは、企業などが排出する炭素に価格を付けることで排出者の行動を変化させるための政策です。
5つの類型がありますので、それぞれ解説します。
1 | 炭素税 | 燃料や炭素の利用による二酸化炭素の排出に対し、その量に応じた課税を行う。 |
2 | 国内排出量取引 | 企業ごとに排出量の上限を決め、上限を超過した企業と下回る企業が「排出量」を取引すること。炭素の値段は「排出量」の需要と供給により決められる。 |
3 | クレジット取引 | 二酸化炭素の削減を価値と見なして証書化し、取引を行うもの。日本政府では、非化石価格取引、Jクレジット制度、JCM(二国間クレジット制度)等が運用されている。民間セクターでもクレジット取引を実施している。 |
4 | 国際機関による市場メカニズム | 国際海事機関(IMO)では、炭素税形式を検討している。国際民間航空機関(ICAO)は、排出量取引形式で実施している。 |
5 | インターナル・カーボンプライシング | 企業が自社の二酸化炭素排出に対して、独自に価格を付けて投資判断などに活用する。 |
カーボン・オフセットとは、温室効果ガス排出量の埋め合わせ
人間の活動で、排出される二酸化炭素などの温室効果ガスをできるだけ削減し、それでも削減しきれない温室効果ガスには排出量に見合った削減活動に投資などをすることで、排出する温室効果ガスを埋め合わせるという方法です。
2013年度には森林の適切な管理や省エネ・再エネ設備の導入により削減される温室効果ガスの排出削減量・吸収量をクレジットとして国が認証する「Jークレジット制度」が開始されています。(注1)
Jークレジットの創出者は、省エネ設備の導入などによりエネルギーコストの削減やクリーンエネルギーを導入することで、クレジットの売却を行い、さらなる省エネ対策に投資できます。
そして、クレジットの購入者は環境への貢献をPRすることができ、クレジットの売却などにより新たなネットワークの構築、組織内での意識改革を行うことができるのです。(注2)
(注1)参考:環境省 Jークレジット制度及びカーボン・オフセットについて
(注2)参考:J-クレジット制度 J-クレジット制度について
日本の温室効果ガスの排出量と削減目標
2021年度の日本での温室効果ガスの排出量は、11億7,000万トン、吸収量は4,760万トンでした。
日本では、もっとも排出量が多かった2013年度を基準として、温室効果ガスの削減目標を立てています。2013年度と比較した日本の温室効果ガスの排出量の推移はこのようになっています。
温室効果ガス | 2013年度 排出量 | 2021年度 排出量 | 変化量(2013年度比) |
---|---|---|---|
二酸化炭素 | 1,317 | 1,064 | -253.5 |
メタン | 29.1 | 27.4 | -1.8 |
一酸化二窒素 | 21.9 | 19.5 | -2.4 |
ハイドロフルオロカーボン類 | 32.1 | 53.6 | +21.4 |
パーフルオロカーボン類 | 3.3 | 3.2 | -0.14 |
六フッ化硫黄 | 2.1 | 2.0 | -0.03 |
三フッ化窒素 | 1.6 | 0.4 | -1.2 |
(単位:百万トンCO2換算)
参考:環境省 2021 年度(令和3年度)の温室効果ガス排出・吸収量(確報値1)概要
増加しているハイドロフルオロカーボン類は、オゾン層破壊物質のハイドロクロロフルオロカーボン類からハイドロフルオロカーボン類への代替によるものです。冷媒として使用されたことで排出量が増加しました。もっとも温室効果ガスの排出量が多かった2013年度に比べ、ハイドロフルオロカーボン類以外は、排出量が改善しています。
2020年、2021年は、新型コロナウイルス感染症の影響により産業、運輸などの経済活動が落ち込んでいたため、温室効果ガスの排出量が世界全体で年平均7%ほど減少しました。しかし、一時的に温室効果ガスの排出量が減少しても、地球温暖化に与える影響は限定的なものでした。(注1)
日本での森林などによる温室効果ガスの吸収量は2021年度で4,760万トンとなっており、前年度から160万トン増加しています。これは、森林整備や木材利用の推進などが要因と考えられます。また、2021年度から国連への報告として、マングローブ林(ブルーカーボン生態系)による温室効果ガスの吸収量である2,300トンを計上しています。(注2)
日本は温室効果ガスの削減目標を、国内の排出量の削減と吸収量の確保により、2030年度に2013年度比-46.0%を目指しています。
2020年の国会で菅総理大臣(当時)が、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と所信表明演説で宣言しています。(注3)
(注1)参考:国立研究開発法人海洋研究開発機構 気象庁気象研究所 コロナ禍によるCO2等排出量の減少が地球温暖化に与える影響は限定的
(注2)参考:環境省 2021年度(令和3年度)の温室効果ガス排出・吸収量(確報値1)概要
(注3)参考:外務省 気候変動 日本の排出削減目標
地球温暖化対策計画
地球温暖化対策計画とは、地球温暖化対策推進法に基づいて策定する日本で唯一の地球温暖化に関する総合計画です。温室効果ガスの排出抑制と吸収量に関する目標、事業者と国民等が講ずべき措置の基本的事項、目標達成のために国や地方公共団体が講ずべき施策等を記載したものです。(注1)また、2030年度に温室効果ガスを46%削減(2013年度比)すること、「2050年カーボンニュートラル」宣言に向けた計画です。
地球温暖化対策計画の主な対策は、次のようなものです。
<再エネと省エネ>
・本計画に基づき自治体が促進区域を設定し、太陽光などの再エネの拡大
・住宅や建築物の省エネ基準の適合義務付けの拡大
<産業や運輸など>
・2050年に向けたイノベーション支援
・データセンターでの30%以上の省エネに向けた研究開発と実証支援
<分野横断的取組>
・2030年度までに100以上の「脱炭素先行地域」を創出する
・優れた脱炭素技術等を活用し、途上国等で排出削減を行い地球規模での削減に貢献する(注2)
これらの対策によって、温室効果ガスの削減を行い2050年のカーボンニュートラルをめざします。
(注1)参考:環境省 地球温暖化対策計画の概要
(注2)参考:環境省 地球温暖化対策計画の改定について
温室効果ガス削減に向けた国際的な取り組み
温室効果ガスの削減は地球規模の課題であり、先進国だけではなく発展が進み温室効果ガスの排出量が増加している途上国も協力して地球温暖化への対策を行うことが重要です。
2020年以降の温室効果ガス排出削減などの新たな国際枠組みとして採択されたパリ協定をはじめとして、さまざまな国際的な動きがあります。
ここでは、温室効果ガスの削減を目的とした国際的な取り組みを3つ解説します。
パリ協定
2015年にフランスのパリで開催されたCOP21において、すべての国が参加するという公平で実効的な2020年以降の法的な枠組みの採択を目指した交渉が行われ「パリ協定」が採択されました。
パリ協定は、歴史的に重要で画期的な枠組みといわれています。それは、パリ協定の前身である京都議定書では、先進国にのみ温室効果ガスの排出量削減の法的義務が課せられていました。しかし、途上国も急速に発展したことで温室効果ガスの排出量が急増したため、パリ協定では途上国を含む全ての国を対象に排出削減の努力を求めることになりました。
さらに、パリ協定ではボトムアップのシステムを採用したことで、各国の排出量の削減と抑制目標に各国の情勢などを織り込み、自主的に策定することが認められたのです。(注1)
パリ協定の規定は次のようなものがあります
- すべての国が気候変動に対する世界全体の対応に向けたNDC(国が決定する貢献)を5年ごとに提出、更新すること
- 各国はNDCの目的を達成するための緩和に関する国内措置を遂行すること
- 各国の次のNDCは、その時点でのNDCを超えた前進を示すこと
- 共通であり柔軟な方法で、その実施状況を報告し、批評を受けること
- 二国間クレジット制度(JCM:途上国と協力して温室効果ガスを削減し、その成果を協力国同士で分け合う制度)を含む市場メカニズムの活用や森林などの温室効果ガスの吸収源や貯蔵庫の保全と強化の重要性
- 途上国の森林の減少や劣化による温室効果ガスの排出を抑制する仕組みなどの実施と支援を行う
- 世界全体の適応の長期目標の設定、各国の適応計画プロセスと行動の実施
- 先進国が資金提供を行うとともに、途上国も自主的な資金の提供を行うこと
- 温室効果ガスの削減技術などのイノベーションの重要性の位置付け
- 5年ごとに世界全体での進捗状況を把握すること(注2)
これらの規定によって、さまざまな国や地域の参加と、温室効果ガスの削減努力を促すことに成功しています。
2022年には198の国と地域がパリ条約を締結しています。
COP27では、政治的なメッセージが盛り込まれた全体決定として「シャルム・エル・シェイク実施計画」が採択されています。
詳しく知りたい方はこちらからCOP27の結果概要をご覧ください
(注1)参考:経済産業省 資源エネルギー庁 今さら聞けない「パリ協定」 〜何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~
(注2)参考:経済産業省 地球温暖化対策計画 P8~9
国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は1994年3月に発効され、2022年11月には198の国と機関が締結しています。この条約は、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目的としています。
この条約に基づいて1995年から毎年、気候変動枠組条約締約国会議(COP)が開催されています。(注1)この会議は、条約の最高意思決定機関であり、すべての条約締約国が参加し温暖化対策の国際ルールを話し合う国際会議です。
2022年11月に、エジプトのシャルム・エル・シェイクで第27回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)が開催されました。
COP27では、2030年までに温室効果ガスの排出を抑える取り組みにおける、各国の実施を拡大するための作業計画である「緩和作業計画」が採択されました。
また、気候変動の影響による損失と損害を支援するためのロス&ダメージ基金(仮称)の設置を決定しました。さらに、資金面の運用に関してCOP28へ向けた勧告を作成するための移行委員会の設置が決定しています。(注2)
(注1)参考:外務省 気候変動 気候変動に関する国際枠組み
(注2)参考:外務省 気候変動 国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27) 結果概要
クリーンエネルギーパートナーシップ
2022年3月の岸田総理大臣のインド訪問に合わせ、日本とインドの「日印クリーン・エネルギー・パートナーシップ(CEP)」が発表されました。
このパートナーシップは、エネルギー安全保障の確保、カーボンニュートラルと経済成長の実現のため、あらゆるエネルギー源と技術を活用し、化石燃料を使用するエネルギーシステムから、環境への影響が少ないクリーンエネルギーへの移行によって日本とインドのエネルギー協力を推進することを目的としています。
政府の情報交換や、官民ワークショップの開催など具体的な協力分野として次のようなものがあります。
- 電気自動車(EV)、蓄電池を含むエネルギーの貯蔵システム、電気自動車の充電インフラ(EVCI)
- 建物や産業での省エネルギーとエネルギー効率が高い家電製品
- 太陽光パネルを含む、太陽エネルギーの開発
- 風力エネルギー
- グリーンを含むクリーン水素(製造工程においても二酸化炭素を排出せずにつくられた水素)(注1)
- グリーンを含むクリーンアンモニア(再生可能エネルギーから水素をつくりアンモニアを合成したもの)(注2)
- LNG(液体天然ガス)のさらなるクリーンな利用
- 炭素の回収、利用、貯蔵(CCUS)であるカーボンリサイクル
- バイオ燃料、圧縮バイオメタンガスなどの新しい燃料
- 戦略的石油備蓄
- クリーンコールテクノロジー(環境低負荷型の石炭の利用技術)
製造分野のみならず、研究開発や技術移転、研修と能力開発、低コストの長期融資などの長期的な協力関係の構築や、雇用創出、イノベーション、投資の促進によってクリーンな成長につなげることを目指しています。
(注1)参考:経済産業省 資源エネルギー庁 次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?
(注2)参考:国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構 石炭火力発電・ガスタービン・船舶用エネルギー・工業炉等での活用へ〜アンモニアを燃料としてカーボンニュートラルの実現に貢献!
(注3)参考:経済産業省 資源エネルギー庁 日印クリーンエネルギー・パートナーシップ(CEP)
企業での温室効果ガス削減への取り組み
多くの企業が、温室効果ガスの削減に向けた取り組みを行っており、サプライチェーンにおける消費者にはあまり見えない部分でも、地球環境への負荷を低減するための活動が行われています。
普段、何気なく購入している製品でも環境問題に取り組んで生産されたものが増えているのです。
実際に、環境問題に取り組んでいる企業3社と、その取り組み内容を紹介します。
アサヒグループホールディングス株式会社の取り組み
アサヒグループでは、すべての工場で環境に配慮した太陽光、風力、バイオマスや地熱などの環境負荷が少ない再生可能エネルギーである「グリーン電力」を使用しています。アサヒビールでは2009年からグリーン電力の使用を開始し、2020年までのグリーン電力活用量がグリーンエネルギーマーク(GE)商品で日本一になりました。
この取り組みによるCO2の削減量は約10万し使用することでの節水や、「水源地の森保全活動」を行っています。
そのほかにも、製品の生産過程で発生する麦芽の殻皮の「モルトフィード」は家畜の飼料などに再利用し、製品に使用するアルミ缶やペットボトル、紙などの資源の軽量化に取り組むことでCO2の排出量削減も行っています。
参考:アサヒグループホールディングス アサヒビールのサスティナビリティ 環境
株式会社リコーの取り組み
リコーグループでは、徹底的な省エネと再エネを進めています。
「2050年にバリューチェーン全体のGHG(温室効果ガス)排出ゼロを目指す」という長期目標を設定し、さまざまな取り組みを行っています。
2018年には、欧州の販売会社9社とフランスの生産会社において、リユースとリサイクルの行程で使用する電力を100%再エネに切り替えました。また、2019年には中国、タイ、日本の工場とイギリスの製造・事業開発拠点を再エネ化しています。
そのほかにも、中国では工場の電力を70%以上削減したことや、タイの生産拠点の電力を100%再エネ由来に切り替えるなどの取り組みを行っています。
さらに、環境配慮商品を提供するため、国内外の環境ラベルの取得や、複合機の省エネモードを20年前から開発し、業界トップレベルの省エネを達成しています。
アップルの取り組み
アップルでは、さまざまな機能の開発だけではなく、環境問題に配慮した取り組みも行っています。
アップルの製品であるiPhoneでは、スピーカーのケースに再生素材を使用しています。また、回路基板のはんだ付けには100%再生スズを使用することや、パッケージに半分以上に再生木材繊維が使われています。さらに、パッケージのラベルをなくすことで2022年に1,134トンのプラスチックの使用を削減しました。
アップルでは、製造時のエネルギーにクリーンエネルギーを使用しています。さらに、太陽光や風力での発電にも取り組み、2030年までにアップルの製品は100%再生可能エネルギーで作られる見込みになっています。そして、100%再生可能エネルギーに移行することを250社以上のサプライヤーが確約しています。
アップルでは、環境への取り組みとして、航空輸送よりも温室効果ガスの排出が少ない海上輸送を行っています。これにより、輸送関連の温室効果ガスの排出量を平均で95%も削減できるのです。
2022年、アップルではサプライチェーンにおいて1,740万トンの炭素の排出を削減しています。
温室効果ガス削減に向けてできること
温室効果ガスの削減は国や大きな企業だけではなく、すべての人が取り組むべき問題です。
何をすればいいのかわからない、これくらいの取り組みでは効果はないだろうと思わずに、日常生活においてもできることから取り組むことが重要です。
ここでは、私たちが日常生活で取り入れられることや、企業だからこそできる取り組みを紹介します。
私たちにできること
温室効果ガスは、発電や物資などの運搬から多く排出されていますが、家庭からも多く排出されているのです。家庭からの温室効果ガスの排出の割合は、全体の14.7%にもなります。(注1)そのため、日常生活においても温室効果ガスの削減を心がけることが重要です。日常生活で、簡単に取り組める温室効果ガスの削減には次のようなものがあります。
1.節電・節水
こまめに電気を消し、電化製品は主電源から切ることも節電になります。また、ムダな水の使用も避けましょう。
◇1年間で削減できるCO2
・エアコンの使用時間を1日1時間短くした場合:26㎏/台
・水使用量を約2割削減した場合:11㎏/世帯
2.省エネ家電の導入
古い電化製品は消費電力が多くなっているものがあります。家電の買い替えの際には、省エネ家電であるかも確認しましょう。
◇1年間で削減できるCO2
・冷蔵庫を10~14年程度前の製品から最新式にした場合:163㎏/世帯
3.宅配サービスは1回で受け取る
宅配サービスも、再配達を依頼することで配送時の温室効果ガスの排出につながります。
不在ボックスや営業所でムダなく受け取ることも検討しましょう。
◇1年間で削減できるCO2
・月6回程度の宅配を全て1回で受け取った場合:7㎏/人
4.スマートムーブ
通勤や通学で公共交通機関や自転車を使用することを検討しましょう。
◇1年間で削減できるCO2
・削減できる年間のCO2:243㎏/人
・エコドライブを行った場合:148㎏/人
5.マイバック、マイボトルの活用
使い捨てではなく、繰り返し使えるマイバックやマイボトルを使用しましょう。
◇1年間で削減できるCO2
・マイボトル年間30回、5年間使用した場合:4㎏/人
・ポリエステルのマイバック3枚を年間300回使用した場合:1㎏/人
6.食べ残さない
日本での食品ロスは一人が一日でおにぎり一個分とされ、さらに廃棄の際には多くのCO2が発生するため、適切な量を心がけましょう。
◇1年間で削減できるCO2
・家庭や外食の食品ロスがゼロになった場合:54㎏/人
7.ゴミの分別処理
包装容器などを資源としてリサイクルしましょう。
◇1年間で削減できるCO2
・家庭からでる容器包装のプラスチックを全てリサイクルした場合:4㎏/人
8.ゼロカーボン・ドライブ
電気自動車は走行時のCO2の排出がゼロになります。
◇1年間で削減できるCO2
・電気自動車(通常の電力での充電)242㎏/人
・電気自動車(再エネで充電)467㎏/人(注2)
(注1)参考:環境省 2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要 P5
(注2)参考:環境省 ひとりひとりができることゼロカーボンアクション30
企業にできること
近年、製品の製造や運搬時のサプライチェーンで発生する温室効果ガスの削減に取り組んでいる企業が増加しています。しかし、サプライチェーン以外でも、温室効果ガスの削減は可能です。電力などの削減によって、コストの削減も期待できます。
新型コロナウイルスの流行で増加した在宅ワークは、移動時の費用と温室効果ガスの削減になります。
また、クールビズ、ウォームビズなど、気候に合わせた服装にすることで、空調による使用電力を抑えられます。
参考:環境省 ひとりひとりができることゼロカーボンアクション30
環境保護団体への寄付
個人での取り組みも重要ですが、専門の団体へ寄付を行うことも地球温暖化への取り組みです。
環境問題に取り組む専門団体を紹介します。
国際環境NGO FoE Japan(エフ・オー・イー・ジャパン)
気候変動や森林破壊、大規模開発による環境と人権問題、脱原発・脱石炭などについて幅広く政策提言活動などを行う団体です。「日本の政府、企業、私たちの生活が関わって起きる問題だからこそ、私たちの力で解決したい。」この思いを大切に、現地の人々や自然に寄り添った活動を展開しています。
こちらの団体について詳しく知りたい方は国際環境NGO FoE Japanのサイトにアクセスしてみましょう。
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
気候ネットワークは、地球温暖化防止を目的として市民の立場から提案、発信、行動するNGO/NPOです。人々が安心して暮らす事ができるよう、公平・平和・豊かな社会・経済に転換し、脱炭素で持続可能な社会をつくっていくことをめざしています。
こちらの団体について詳しく知りたい方は気候ネットワークのサイトにアクセスしてみましょう。
温室効果ガスの削減を意識して生活しましょう
多くの問題をもたらす地球温暖化を食い止めるために、多くの国、企業、団体、個人で温室効果ガスの削減に取り組むことが重要です。日本でも、最高気温の更新や台風の巨大化など地球温暖化の影響を感じることが多くなりました。
世界では、もっと顕著な影響を受けている国も多くあり、温室効果ガスの削減は喫緊に取り組む必要がある問題なのです。一人一人が環境問題を意識し、行動を起こすことが私たちの地球での生活を守ることにつながるのです。

身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。