難民とは?厳しい現状と問題、私たちにもできる取り組み

難民とは?厳しい現状と問題、私たちにもできる取り組み

2023.07.31(最終更新日:2024.07.05)
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あなたは「難民」という言葉を聞いて、どんなことが頭に浮かびますか?漠然としたイメージしかなく、具体的に答えられない人も少なくないと思います。平和な日本で暮らしていると難民を見かけることもほとんどなく、ニュースや新聞で触れる機会がある程度なので仕方のないことかもしれません。

ですが世界に目を向けると、とても多くの難民が住み慣れた故郷を追われ、過酷な避難生活を送っているのが現状です。

「SDGsの目標10. 人や国の不平等をなくそう」とも密接に関係している難民問題は、SDGsの観点から世界を考えるときにも重要な問題です。

この記事では、歴史や現状、解決策から私たちができることまで、難民について詳しく解説します。あなたが難民について考えるきっかけになれば幸いです。

目次

難民とは、さまざまな危機から逃れるため故郷を追われた人たちのこと

難民と一口に言っても、定義や置かれた状況などによっていくつかに分けて考えられています。ここでは、どのような状況にある人が難民と定義されるのか、難民条約とはどのような取り決めをした条約なのかを説明します。また、難民問題とSDGsにどんな関連性があるのかも見ていきましょう。

難民の定義は「迫害のおそれがあるため他国に逃れ、国際的保護を必要とする人びと」

「難民」とは、1950年UNHCR事務所規程、1951年難民条約、1967年難民議定書において次のように定義されています。【人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする人々】が国際的な定義の上での難民であり、国際的・国内的な武力紛争から他国に逃れてきている人々も、上記の定義にあてはまれば難民とされます。
武力による紛争や戦争が原因になっているイメージもある難民問題ですが、さまざまな迫害によっても引き起こされている問題なのです。

一方、難民と同じような理由で故郷を追われたが、自国内に留まって避難生活を送っている人たちは「国内避難民」と呼ばれ、厳密な定義が定められていません。しかし置かれている状況は難民と定義される人たちと比べて決して楽なわけではなく、生活するためには外部からの支援が欠かせないのは同じです。

難民、国内避難民以外の区分として、「無国籍者」、「庇護希望者」がいます。無国籍者とは読んで字のごとく「国籍が無い人」、さらに言うと「どの国からも国民として認められていない人」のことです。生まれつきや国籍法によってなどさまざまな理由で国籍をもっていないため、最低限の権利をもてなかったり基本的人権の侵害を受けやすかったりします。

一方庇護希望者とは、簡単に言うと「難民として保護して欲しいが、まだ難民認定がおりていない人」のことです。保護国において難民認定されることにより、初めて保護され支援が受けられます。
参照:国連UNHCR協会「難民・国内避難民|故郷を追われた人とは」

難民条約は、国際的に団結して難民の保護を保障するためのもの

難民条約とは、主に1951年に採択された「難民の地位に関する条約」と、1967年に採択された「難民の地位に関する議定書」の2つを指します。「難民の地位に関する条約」には難民の定義、難民が難民ではなくなった場合の規定、難民条約が適用されない場合の規定が盛り込まれました。また、難民が滞在国に対して負う義務、条約締約国が難民に対し人種・宗教・出身国によって差別しないことなど、難民を守るための項目も規定されています。

「難民に関する条約」は、1951年1月1日より前に生じた事件の結果難民になった人たちにのみ適用されるものでしたので、それ以後の事象によって難民になった人たちにも等しい地位を与えるために協定されたのが「難民の地位に関する議定書」です。「難民に関する議定書」は、「難民の地位に関する条約」から地理的・時間的制約を取り除いたものになっています。

難民を守るために協定された難民条約ですが、一方で問題点も指摘されているのがその効力です。難民の入国を拒否したり、迫害を受ける恐れがある国に送還してはいけないことはノン・ルフールマン原則(参照:UNHCR 難民の権利と義務)として難民条約第33条(1)に明示的に規定されています。しかし国境を閉鎖して事実上難民の入国を拒否したり、迫害を受けるおそれがある国に難民を送還したりと、一部で形骸化している項目があるのも事実です。

また、難民条約における難民とは「国境を越えて」避難した人たちのことであり、自国内に留まって避難生活を送る「国内避難民」、国籍を持たない「無国籍者」は難民の定義には入っていません。国内避難民や無国籍者は厳密に定義されている条約がないことで、法により守られるのが難しいのが現状です。

難民問題とSDGsは密接に関係している

SDGsとは「持続可能な開発目標」のことで、2015年に国連加盟国の全会一致により採択されました。2030年までに、地球上の誰1人取り残すことなく、持続可能なより良い世界を目指すために策定された国際目標です。SDGsには17の目標と169のターゲットがありますが、難民問題はその多くの項目と密接に関係していて、SDGsについて考えるときにも切っても切れない関係にあります。
SDGsが掲げる「誰一人取り残さないこと」を達成するためには難民問題は絶対に解決しなければいけない課題です。SDGsの他の目標からの視点で捉えることも、難民問題を考える上では非常に重要になってきます。

難民キャンプでの避難生活は過酷を極める

難民が避難生活を送るためには支援が必要です。多くの難民は支援を受けて安全を享受するために、難民キャンプでの生活を選びます。難民キャンプとはどのような施設で、難民はどんな生活を送っているのか。また問題点として挙げられているのはどんなことなのか。ここでは難民キャンプについて詳しく解説します。難民キャンプの問題を通して、難民がいかに過酷な状況下での暮らしを余儀なくされているかがわかります。
参照:UNHCR|日本「難民キャンプでの生活」

難民キャンプは、難民生活に必要なもの全てを賄う施設

難民キャンプとは、難民の保護・支援を目的とした難民の滞在施設です。難民キャンプで保護されることによって、難民は少なくとも最低限の支援は受けられます。住む場所、食べ物や水、衣類や生活用品、医薬品など生きていくために必要な物が支給されます。

難民キャンプでの避難生活は短ければ数ヶ月で終わることもありますが、数年、さらには10年以上もの長期にわたる場合もあります。長い間窮屈なテント生活を強いられ、決して満足とは言えない支援物資を頼りに生きていかなければならないのです。
荒野にビニールで覆われたたくさんのテント状の住居
難民キャンプには難民生活の全てが必要です。病気や怪我をしたら医療が必要ですし、家族を失ったり辛い経験をした人たちの心のケアも欠かせません。避難生活が終わった後の自立のことを考えると、職業訓練や子どもたちの教育も必要になります。難民キャンプには包括的な難民支援が求められるのです。

難民キャンプでの生活は、栄養が不足しがちになる

まず難民キャンプでの食事や栄養面について見ていきます。難民には1人あたり平時で1日1900キロカロリー、緊急時には1日2200キロカロリーを目標に、食べ物が支援機関や団体から配給されています。しかしそれもあくまで目標であって、必ずしも目標通りに配給されているわけではありません。

資金の問題で配給を減らさざるを得ず、治安の悪化により物資の輸送自体が困難になってしまうこともあります。
中にはせっかく配給された食べ物を、生活必需品を買う資金にするために売ってしまう人も。
さらに問題なのが、配給システム自体に問題があって公平な配給が行われていなかったり、不正支給が行われている難民キャンプもあったりすることです。

難民キャンプはただでさえ栄養が不足しがちで栄養失調に陥る人も少なくありません。そこにこうしたさまざまな理由で食べ物が満足に得られないことで、さらに栄養状態が悪くなってしまいます。

医療面では長期的かつ多岐に渡る支援が必要とされる

次に医療ですが、難民キャンプは住居環境、衛生環境、栄養問題などにおいて、望ましい環境であるとは言い難いです。劣悪な環境下においてはやはり傷病率が高まり、難民キャンプの人口密度によっては感染症のリスクも一層高まります。

また、妊婦を含め女性へのケアや衛生用品の支給も望まれますし、性感染症への対策も必要です。しかし、多岐に渡る支援が求められている一方、基本的な医薬品や医療器具などが不足しがちであるのが難民キャンプの現状なのです。

トイレや汚水処理、害虫害獣問題が衛生環境には重要

難民キャンプの衛生環境は、難民の健康状態に影響を及ぼす大きな要因です。難民キャンプの衛生環境を考えるとき、まず浮かぶのがトイレや汚水処理の問題でしょう。難民キャンプでは排泄場所を決めたり、1世帯に1つを目標にトイレを設置したりといった対策が取られています。
さらに、公衆衛生専門家や公衆衛生補助員を採用して、衛生環境の保全に努めています。
それでもトイレを原因とした水質汚染に悩まされることもあり、水の安全性が失われることは難民の健康状態に深刻な被害を及ぼす直接的な原因です。
また、多くの難民は水の安全性の重要さを理解していますが、水の安全性を担保するための具体的な知識までは有していないことが多く、水の安全や衛生環境の大切さを周知することも重要な課題になっています。

さらには、害虫や害獣への対策も必要です。例えばハエは赤痢、チフス、コレラ、O-157などの病原菌や寄生虫、ポリオウイルスなどの媒介になりますし、蚊はデング熱やジカウイルス感染症、黄熱などのウイルス疾患、そして毎年数十万人の死者を出すことで有名なマラリアを引き起こします。
その他にも、ノミやシラミといった害虫、ネズミなどの害獣も難民の健康や生活に深刻な影響を与えます。こうした害虫や害獣への対策が、難民キャンプの課題の1つです。

教育環境を整えることは、子どもたちの将来の自立に繋がる

難民キャンプで暮らすことは、子どもたちが自分の国で本来得られるはずの教育機会を失ってしまうことに繋がりかねません。長く苦しい避難生活を終えて自国に戻ったり、自国以外の国に定住できたりしても、満足な教育を受けられていなければ条件の良い職に就くのは難しく、結局は貧困から抜け出せなくなってしまいます。

子どもたちに教育機会を与えるため難民キャンプの中には学校が設立されていて、最低でも小学校レベルの教育は受けられるようになっています。しかし全ての子どもが学校に通えているわけではなく、家事の手伝いをしなければならない、文化的・宗教的に通えないなどの理由によって学校に通えない子どもも多いです。
また、例え学校に通える状況にある子どもであっても、危機的状況が過ぎてから3〜6カ月経たないと学校が開始されないことが多く、その間は教育を受けられないのが現状です。
教師も難民の中からボランティアを募って採用されることが多く、質・量ともに不足しがちであるのも大きな問題になっています。

教育問題は子どもたちの未来にとって大切な問題です。しかし生命や現在の暮らしに直結する切迫した問題ではないので、これらと比べて軽視されがちな問題なのです。

難民キャンプの中でも格差は大きく、深刻な問題になっている

難民キャンプでの生活がいかに過酷で厳しいものであるか説明してきましたが、難民キャンプにはさらに格差問題までも存在します。一口に難民キャンプと言っても、人間らしい暮らしができている難民もいれば、今日生きるのがやっとの難民もいます。
難民キャンプの格差は大きく2つに分けられ、1つは「出身国や受け入れ国など、国単位での格差」、もう1つは「受け入れ国の中、さらには難民キャンプの中での格差」です。

国単位での格差の分かりやすい例としては、ウクライナ難民とその他の難民の格差が挙げられます。
ロシアとの紛争で国外に避難したウクライナ難民には多くの支援が集まっており、安全や水・食料、医療などが比較的保障された生活を送っています。
一方、中東やアフリカなどの難民の多くはその日の生活さえもままならない人が多く、同じ難民というくくりではあるものの、生活の豊かさには大きな格差が存在しているのが現状です。

2つ目の、国や難民キャンプの中での格差が起こる原因としては、さまざまな要因が挙げられます。
出身国や肌の色、宗教、性別などの違いによって同じ国や難民キャンプの中でさえ、大きな格差が起こり得るのです。
ただでさえ過酷な難民キャンプにおいて、格差によりさらに過酷な生活を強いられる難民が存在するのは大きな問題です。

難民問題には長い歴史があり、増え続けているのが現状

難民問題はさまざまな要因によって引き起こされる複雑な問題ですが、難民はいったいいつから存在していて、難民問題の現状はどうなっているのでしょうか。
ここでは難民の歴史や現状、主な出身国や受け入れ国について見ていきます。また、日本での難民受け入れの現状や問題点についても解説します。

難民の歴史とは紛争や迫害の歴史でもある

「難民」が国際的に明確に定義されたのは1950年ですが、定義される以前から難民の歴史は始まっています。難民は第二次世界大戦がきっかけになり定義されましたが、第二次世界大戦以前にも、ロシア難民、ユダヤ人難民、オスマン帝国崩壊による難民(クルド人)などが存在していました。ロシア難民はロシア革命と内戦から、ユダヤ人難民やオスマン帝国崩壊による難民(クルド人)は人種的な迫害から逃れ、難民とならざるを得なかった人たちです。
難民問題について考えるとき、紛争や迫害の歴史は切っても切れない関係なのです。

1950年にUNHCR事務所規程により難民が定義される1年前、1949年に設立されたのが「国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)」です。パレスチナ難民を直接救済することを目的としており、1つの難民グループに対して支援活動をしている独特な機関でもあります。教育や保健などさまざまな分野でパレスチナ難民を支援しており、4世代に渡り現在でも支援活動を展開しています。
参照:UNRWA「UNRWAとは」

依然として増加しており、地球上の74人に1人が故郷を追われているのが現状

難民の歴史について見てきましたが、現状はどうなっているのでしょうか。2022年末時点で、難民3530万人、国内避難民6250万人、庇護希望者520万人、無国籍者440万を含め、故郷を追われている人びとの数は1億840万人に上ります。スーダンなどの紛争の影響もあり、2023年には1億1000万人にも達していて、これは世界の人口の74人に1人に該当する数字です。

また、故郷を追われた人びとの40%が子どもであり、2018年から2022年の間には190万人もの子どもが難民としてこの世に生をうけています。多くの国や機関、団体が難民問題の解消に取り組んでいますが、難民や避難民の数は減るどころか増え続けているのが現状です。
参照:国連UNHCR協会 数字で知る難民・国内避難民の実情

難民・その他国際保護を必要としている人の出身国は72%が5カ国に集中

世界には、さまざまな国から避難してきた難民が存在していますが、その72%がシリア、パレスチナ、ウクライナ、アフガニスタン、ベネズエラからの難民で占められています。

難民出身国の最大数を占めるシリア難民が発生した最大の理由は、2011年に起こったシリア危機です。戦禍から逃れるために多くの国民が近隣諸国への避難を余儀なくされました。
さらに新型コロナウイルス感染症によるパンデミックや、ロシアのウクライナ侵攻による世界的な物価高騰が追い打ちをかけ、現在でもシリア難民の生活は困窮を極めます。
戦争による攻撃でたくさんのコンクリートの建物が崩壊している様子
シリア難民の次に多数を占めるパレスチナ難民は、1948年に起こったアラブ・イスラエル戦争をきっかけに発生しました。国連では、パレスチナ難民以外の難民はUNHCRにより支援活動が展開されていますが、パレスチナ難民の支援は1950年に活動を始めたUNRWAによって行われています。
しかしこの10年、度重なる紛争により、UNRWAの活動の必要性が一層高まっているのが現状です。

ウクライナ難民は、記憶にも新しいロシアによるウクライナ侵攻が原因で発生した難民です。元々、2014年に東部で起こった紛争で85万人以上が国内避難民となっていたのですが、ロシアの侵攻により難民が急増しました。
2021年末の2万7300人から2022年末には570万人に増え、これは第二次世界大戦以降最大の難民増加率です。

そしてアフガニスタン難民ですが、こちらは1979年のソ連侵攻により発生し、世界的に見てもかなり長期に渡る難民危機となっています。イランとパキスタンで90%近くのアフガニスタン難民を受け入れていますが、財政はひっ迫しており受け入れ策も危機に瀕しています。

最後にベネズエラ難民ですが、元々ベネズエラは難民を受け入れる側の国でした。ところが政情不安や経済の混乱、食糧難や人道危機などから、700万人以上が故郷を追われる事態に発展してしまいました。
2014年からの5年間で避難を強いられる人が6000%も増加し、2018年には毎日5000人もの人たちが近隣諸国へ避難しました。
新型コロナウイルス感染症による世界的な不況の影響も大きく、1日も早い解決が待たれています。

【2022年末時点での、難民出身国の上位10カ国】

難民出身国 人数
シリア 654万人
パレスチナ 590万人
ウクライナ 567万人
アフガニスタン 566万人
ベネズエラ 545万人
南スーダン 229万人
ミャンマー 125万人
コンゴ民主共和国 93万人
スーダン 83万人
ソマリア 79万人

参照:国連UNHCR協会 「難民の出身国・受入国」
参照:UNHCR日本 「数字で見る難民情勢」

難民の受け入れは国によって大きな差があり、トルコが最大の受け入れ国

難民の出身国がさまざまであるように、難民の受け入れもいろいろな国が行っています。しかし難民を受け入れている国の多くは決して豊かとは言えない中低所得国です。中でもトルコの受け入れ数は群を抜いており、シリア難民の多数を受け入れるなど、世界最大の難民受け入れ国となっています。
しかし近年ではトルコ国民の負担も増え、難民に対する姿勢が厳しいものになってきています。
難民を受け入れる国の負担が大きく、国民の生活に影響が出ているのは大きな問題です。

【2022年末時点での、難民受け入れ上位10カ国】

難民受け入れ国 人数
トルコ 375万人
コロンビア 184万人
ウガンダ 152万人
パキスタン 149万人
ドイツ 125万人
スーダン 110万人
バングラデシュ 91万人
レバノン 84万人
エチオピア 82万人
イラン 79万人

※UNRWAが支援するパレスチナ難民は統計外
参照:国連NHCR協会 「難民の出身国・受入国」

日本は認定基準が厳しく、受け入れは極めて少ない

では、私たちが暮らす日本においての難民受け入れ状況はどうなっているのでしょうか。日本は先進国の1つであり、経済大国とも呼ばれる豊かな国です。「低中所得国が多くの難民を受け入れているのだから、経済的に豊かな日本ならかなり多くの難民を受け入れているのでは?」と思った人もいるかと思います。
しかし現実には、日本は世界的に見ても難民受け入れ数が極めて低い国なのです。

2022年の難民認定者数を例に見てみると、日本における難民認定申請者と審査請求の処理数の合計は12,469人で、実際に難民認定されたのはわずか202人です。認定率にして1.62%にしか過ぎません。
同じく先進国と言われるドイツが2022年末時点で125万人の難民を受け入れていることと比較すると、その少なさが分かるかと思います。

では、なぜ日本は難民受け入れ数が少ないのでしょうか。
多くの問題がありますが、主に

  1. 難民条約における難民の解釈が他国と比べて厳しい
  2. 迫害の解釈が限定的で狭い
  3. 難民であることを証明するためのハードルが高い
  4. 日本語での面接や書類提出が求められるなど公正さに欠ける

の4つの理由から受け入れ数が少なくなっている現実があります。

そして、日本が抱える難民受け入れの問題は、日本という国が難民を積極的に受け入れる政治的意思に欠けることに起因しています。さらに言えば、政治的意思に欠けるということは、国民1人ひとりの意識が欠けているとも言えるのです。
難民の受け入れや支援について考え、議論していくことは、難民問題解決へ向けた大きな課題であると言えるでしょう。

参照:出入国在留管理庁「令和4年における難民認定者数等について」

難民条約で定義されている「難民」や「迫害」には具体的な判断基準が設けられておらず、そのため各国によって解釈が異なってしまう問題を抱えています。「難民認定ハンドブック」や「難民認定ガイドライン」を発行するなど、国際基準を統一するための努力がなされてはいますが、望ましいレベルにまで統一されていないのが現状です。

日本では「政府に個人的に把握されて狙われていること」という独自の難民の解釈をするなど、他国と比べてかなり狭い解釈になっています。また、迫害についても、多くの国が「生命と身体の自由に限らず、重大な人権侵害を含む」という解釈であるのに対し、日本では「生命と身体の自由」に限定した解釈をする傾向が強いです。日本の解釈は難民保護の意図を外れている、国際的には通用しないという声も上がっています。

難民問題の原因は紛争だけではなく、解決には国際的な協力が必要

難民問題の歴史や現状を見てきましたが、そもそも難民が発生してしまう原因とはいったい何なのでしょうか。ここでは難民が発生する主な原因と難民問題を解決するための恒久的な解決策、そして問題解決に取り組んでいる組織について説明します。

原因1.紛争による武力衝突や政情不安

難民が発生する原因の中で、紛争は特に深刻なものです。武力の衝突による生命の危機から逃れるため、または紛争により悪化してしまった政情不安や経済の混乱により避難せざるを得なくなったため、難民や国内避難民になってしまうのです。紛争はあっという間に国土やインフラを破壊し、国政や経済に暗い影を落とします。
結果、国民の生活は破綻しますが、元の生活に戻るには途方もなく長い年月が必要です。

現在も世界のさまざまな国で紛争は起こっていますが、これは世界のさまざまな国で難民が生まれているということでもあります。

原因2.差別意識から生まれる迫害

次に挙げられる原因としては人種、国籍、宗教などの理由で起こる迫害です。元々、難民条約が迫害を受ける恐れがある人を対象に創られたものであることからも分かるように、迫害は難民問題全体を考えてもとても大きな問題です。

迫害が起こる主な原因としては、

  1. 人種
  2. 国籍
  3. 宗教
  4. 政治的意見
  5. 特定の社会集団への帰属

の5つが挙げられ、これらは難民認定の審査基準にもなっています。

迫害による難民の例としては、「国を持たない最大の民族」とも呼ばれるクルド人の迫害があります。オスマン帝国の崩壊により帰属する国を失ったクルド人は、クルド人であるというだけで迫害を受け抑圧の対象になってきました。
現在でも多くのクルド人が難民として暮らし、過酷な生活を送っています。

迫害の問題は人間の差別意識から生まれ、遥か昔から続く根深い問題でもあります。世界から迫害や差別意識をなくすのは容易な事ではありませんが、難民問題を考える上では避けては通れない課題です。

原因3.自然災害や気候変動

自然災害や気候変動による影響も、多くの難民を生み出す一因です。例えば、異常な豪雨による水害、長期的な干ばつや砂漠化、地球温暖化の影響による海面上昇、巨大地震、サイクロンやハリケーンなどが挙げられます。

また、自然災害や気候変動は難民を生み出す原因になるだけではなく、避難先の生活にまで大きな影響をもたらしています。最近の例だと2023年2月に発生したトルコ・シリア地震があり、最大の難民受け入れ国であるトルコが被災したことで、トルコに避難していた多くの難民が影響を受けたのです。

自然災害や気候変動による難民問題の厄介なところは、即時的、根本的な解決が難しいことです。
紛争や迫害による難民問題は人間が直接的に引き起こしていることなので、難しくはあれど根本的な解決が可能ではあります。

一方、自然災害や気候変動は人間が直接的に引き起こしていることではないので、根本的な解決は現状では不可能に近いです。
ただ、巨大地震など防ぐことが不可能なこともありますが、地球温暖化や砂漠化などは間接的に人間が引き起こした事象であり、長期的な視野に立てば決して解決が不可能なことではありません。

環境問題に目を向け、解決に取り組むこともまた、難民問題の解決に繋がっているのです。

難民問題の恒久的解決策は「自主帰還」「社会統合」「第三国定住」の3つが柱

では、難民問題を解決するにはどうすれば良いのでしょうか。原因となることに対処するのはもちろんですが、難民問題への恒久的解決策として、UNHCRは「自主帰還」「庇護国における社会統合」「第三国定住(本国への帰還・受け入れ国への滞在が不可能である場合に実施)」の3つを掲げています。
簡単に言えば、出身国に戻るか、難民として受け入れてくれた国へ定住するか、出身国・受け入れ国以外の国で定住するかの3つです。

自分の生まれ育った国へ帰るのが1番望ましいと多くの人は考えるでしょうが、そう単純な話ではないのです。紛争により他国へ避難した難民がいたとして、やがて自国の紛争が終結したとします。しかし、紛争が終わったとはいえ、行政や法的機関が機能し、安全や秩序が保障された生活を送れる環境になるまでにはさらに長い年月が必要なことが多いです。さらに難民の中には、自国に戻ることで再び迫害されるのではないかという強い恐れから、自国に戻るのをためらう人も多くいます。

自国へ戻ることによる安全が保障できない、または自国に戻ることを望まないなどの理由がある場合には、受け入れ国や第三国での定住の方が安全で幸せな生活を送れることもあるのです。

難民問題の解決には、原因を取り除くこと、そして難民自身の恒久的な幸せ、この2つを併せて考えることが重要なのです。

難民問題には国連やNGOなどさまざまな組織が取り組んでいる

難民問題の解決に向けては、国際的な機関や各国のODA(政府開発援助)、各NGO団体などが取り組んでいます。国際的な機関として代表的なものに「UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)」があり、1950年に発足し、難民の保護・支援や難民問題の解決に対して働きかけています。その活動内容は多岐にわたっており、およそ130の国で9000人以上を対象に支援活動を展開していて、難民支援の枢軸とも言える機関です。

しかし、難民問題は深刻かつさまざまな問題が複雑に絡み合った難しい問題です。それぞれの国や機関が単独でできることには限りがありますし、各組織が連携し合うことが難民問題解決へ欠かせません。

日本は難民受け入れに関しては決して積極的とは言えませんが、ODAとしての難民支援は積極的に行っています。日本のODAはJICA(独立行政法人国際協力機構)を実施機関として行なわれており、UNHCRにとって大切なパートナーになっています。JICAは開発援助、UNHCRは人道支援それぞれの専門組織として連携していて、さまざまな国でお互いが連携しながら活動しています。
参照:UNHCR JICA-UNHCR パートナーシップ~人道と開発の架け橋~

難民問題解決に向けて個人でできることはいろいろある

難民問題の解決に向けてさまざまな機関や団体が活動していますが、私たち個人レベルでできることには何があるのでしょうか。1人ひとりの力は決して大きくなくとも、私たちができることは実はたくさんあります。
ここでは、私たちが個人でもできる、難民問題解決に向けた取り組みについて解説します。

個人で直接支援する主な方法は、「寄付」「ボランティア」

難民問題の解決に向けて個人が直接できる取り組みには、大きく分けて「寄付」「ボランティア」の2つがあります。

まず一番手軽で即効性、確実性がある取り組みとして寄付があり、忙しい人でも、スマホやパソコンから思い立ったときにすぐできるのが大きな利点です。1度手続きさえしてしまえば、毎月自動で口座から引き落とされて継続的に支援できるものもあります。
寄付で集められたお金は、難民キャンプの運営やボランティアの活動資金などに使われるため、難民を直接支援することになります。難民問題に関心を持ち、何か少しでも力になりたいと考えているなら、ほんの少しの額でも良いので寄付をするところから始めてみてはいかがでしょうか。

自分で直接活動することで支援がしたいなら、ボランティアスタッフとして活動するのがお勧めです。現地に行って直接難民をサポートするようなレベルだとさすがに難しくても、意外と身近なところでボランティア活動を行っている団体はあります。
チャリティーバザーの運営や支援団体の事務作業のような、比較的誰でもできる簡単な活動から、プログラミングスキル、動画編集スキル、翻訳スキルなど専門性を活かした活動までさまざまです。
直接行動するので、難民支援をしている実感を持てるのがボランティアです。

支援機関を通すことで多様な支援が可能

寄付をするにしてもボランティア活動をするにしても、個人が独力で直接行なうのは難しいので、支援団体を通して行なうことになります。そこで、支援団体の中でも規模が大きな団体、多様な支援が可能な団体を5つご紹介します。気になった団体があったら、ぜひホームページをのぞいてみてはいかがでしょうか。

日本ユニセフ協会[unicef]
日本ユニセフ協会は、33の国と地域に設置されているユニセフ協会の1つで、ユニセフ本部と協力協定を結んでいる公益財団法人です。1950年の設立以降、主に子どもの命や権利を守るための活動を展開しています。難民や国内避難民として過酷な生活を強いられている子どもに対しても、保健・栄養・水や衛生・教育などさまざまな分野での支援を行っている団体です。

日本ユニセフ協会を通しての支援方法には、1度きりの寄付と毎月定額での寄付があります。1度きりの寄付には4つの種類があり、まず「ユニセフ募金」は使途や地域などを限定しないので、「まだあまり知識はないけど、とにかく難民の子どもを助けたい」などという人には気軽に取り組める寄付です。

一方、「緊急・復興募金」や「分野・地域指定募金」は支援の目的や支援先の地域を指定するものなので、明確な目的意識がある人向けの寄付になります。また、ワクチンや毛布など、支援する物資を具体的に選んで寄付する「ユニセフ支援ギフト」もあり、さまざまな目的に合わせた寄付が可能になっています。

1度きりの寄付の特徴として豊富な決済方法があり、クレジットカード、インターネットバンキング、携帯キャリア決済の他、コンビニ払いやAmazon Payなどが用意されています。それぞれに合った決済方法を選べるのは大きなメリットです。

毎月定額での寄付には「マンスリーサポート・プログラム」があり、申し込むと毎月自動的に一定額が寄付されます。クレジットカードと口座振替が選べ、1度の手続きで毎月寄付できるので、継続的な支援がしたい人にお勧めな方法です。

ワールド・ビジョン・ジャパン[World Vision japan]
ワールド・ビジョンは1950年にアメリカで設立された世界最大級の国際NGOで、ワールド・ビジョン・ジャパンはその日本支部になります。ワールド・ビジョンは「子どもたちの健やかな成長」のために活動しており、子どもたちの

  • 心身ともに健やかな成長
  • 良好な社会・人間関係
  • 尊重・保護
  • 社会参加の機会
  • 社会的公正の実感

を目指している団体です。

ワールド・ビジョン・ジャパンは「開発援助(チャイルド・スポンサーシップなど)」「緊急人道支援」「アドボカシー(市民社会や政府への働きかけ)」の3つを柱としていて、活動は世界中に及びます。2022年度には37カ国で185の事業を実施して、6万人以上の子どもたちを支援しました。

難民支援にも力をいれており、子どもたちを守るために「緊急援助」「復興支援」「防災・減災」の活動を行っています。資金・物資の支援から現地スタッフのサポート、災害や紛争の兆候を察知する早期警戒まで、その活動は多岐に渡ります。

ワールド・ビジョン・ジャパンを通じての寄付には「プロジェクト・サポーター(毎月の寄付)」と「難民支援のための募金(1回の寄付)」の2通りあり、継続的に支援したい人にも1度だけ支援したい人にも寄付しやすい仕組みが作られています。

アドラ・ジャパン[ADRA japan]
アドラ(ADRA)は前身となる団体が1956年に設立され、1983年に現在の名称に変更された国際協力NGOで、アドラ・ジャパンはその日本支部にあたる団体です。アドラには世界約120カ国に支部があり、何十万とある、教会、系列病院、教育機関、企業などを含む世界最大規模のネットワークをもった人道支援団体です。「ひとつの命から世界を変える」をモットーに難民支援にも積極的に取り組んでおり、多くの国と地域で難民に寄り添った支援を続けています。

寄付する方法もクレジットカード、郵便振替、銀行振込、キャリア決済(Softbankのみ)、Tポイントでの寄付の5つがあり、毎月継続しての支援が自動でできる「ADRAフレンド」という仕組みも用意されています。また、以下のような多種多様な支援方法があるのも特徴です。

後援会への招へい 寄付つき自販機で支援 SNSで支援
電気を変えて支援 エシカルPCの購入で支援 ボランティアに参加
モノで支援 在庫処分で支援 遺贈寄付支援
お買い物で支援 教育支援のサポーターになる

参照:ADRA japan 参加・支援の方法

数多くの支援方法から選べるので、ご自身に合った支援方法を見つけてみてはいかがでしょうか。

AAR japan[難民を助ける会]
AAR japanは1979年にインドシナ難民支援を目的に発足し、国連に公認・登録された日本発の国際NGOです。「困ったときはお互いさま」という日本の善意の伝統に基づいた理念の下、65以上の国や地域で活動してきました。現在では世界16カ国で活動を展開しています。

  • 難民支援
  • 地雷・不発弾対策
  • 障がい者支援
  • 災害支援
  • 感染症対策/水・衛生
  • 提言/国際理解教育

このように活動は多岐にわたっており、突発的な災害や紛争が起きた際には緊急支援も積極的に行っています。

日本のNGO団体であるため、海外に本部があるNGO団体と比べて多くの支援方法があるのが最大の特徴です。ふるさと納税や物を売ることで寄付ができたり、Tポイントやマイレージなど貯めたポイントを寄付に充てたりなどさまざまです。

遺贈・相続財産を寄付する ふるさと納税で寄付する 正会員・協力会員になって会費を寄付する
チャリティグッズを購入する ハガキ・切手・テレホンカード・商品券を寄付する 古本・CDで寄付する
使っていないモノで寄付する 洋服で寄付する Tポイントで寄付する
寄付つき商品を購入する 買い物で寄付する マイレージを寄付する
オリジナルクレジットカード(ライフカード)の利用で寄付する オリジナル会員カード(株式会社モンベル)の利用で寄付する 電気料金(ハチドリ電力)の利用で寄付する

参照:AAR japan 支援・参加する

プラン・インターナショナル・ジャパン[PLAN INTERNATIONAL JAPAN]
プラン・インターナショナルは、1937年にスペイン内戦の戦災孤児の支援を目的に設立された国際NGOで、プラン・インターナショナル・ジャパンは日本支部にあたる公益財団法人です。現在では世界75カ国以上で「地域の自立」を最終目標に活動を展開しています。SDGsの策定に準備段階から関わっていて、自らの活動によって目標の達成に取り組んでいる団体でもあります。

難民支援にも力を入れていて、南スーダンやミャンマー・バングラデシュなど多くの国で支援を続けています。最大の特徴は「女の子」の支援に力を入れている点で、世界の女の子たちの「生きていく力」と「未来を変える力」を育てるための活動をしています。

寄付の方法として、「プラン・スポンサーシップ」と「ガールズ・プロジェクト」の2つが用意されていて、共に月々の継続支援です。
「プラン・スポンサーシップ」の寄付金は、子どもとその家族が暮らす地域の開発支援プロジェクトに充てられます。
「ガールズ・プロジェクト」はその名の通り女の子に限定した寄付で、性差別や偏見、有害な慣習の犠牲になる女の子たちを守るためのプロジェクトに使われます。

2つの寄付方法の一番の違いは、「プラン・スポンサーシップ」で支援をすると、18歳までの子ども1人と手紙を通じてのやりとりが出来たり、写真付きの成長記録が送られたりすることです。1人のこどもの成長や生活の変化を知ることで、支援の成果を実感できるのが大きなメリットになっています。

正しい情報の拡散によって、支援の輪を広げよう

直接的な支援だけではなく、支援の輪を広げるための活動として情報拡散があります。家族や友達、職場の同僚と共有したり、SNSなどを通じて拡散したりすることで、難民問題についての知識や情報を広げるだけでなく、興味や関心を持ってもらうことにも繋がります。間接的ではありますが、発信力を持っている人が行えばより大きな力になり得る取り組みです。
ただ、情報拡散を行なうときには、発信する情報の精度や信頼性には注意しましょう。誤った情報を拡散することは、難民問題解決への力になるどころか、かえって妨げにもなりかねません。

私たちの行動が、難民のいない世界をつくる大きな力になる

私たちの暮らす地球には、想像もつかないほど過酷な生活を強いられている人びとが大勢います。
難民のほとんどは何か悪いことをしたわけでもなく、ただ理不尽に紛争や迫害、自然災害によって住み慣れた故郷で暮らす自由さえ奪われているのです。

難民のいない世界は必ず実現させなければいけない目標ですし、世界中の多くの人が取り組んでいる課題でもあります。ただ現状を見ても、実現のための力が足りているとはとても言えず、もっともっと大勢の人の力が必要とされています。

どんな小さな力でも、たくさん集まれば大きな力になります。あなたがとった1つの行動が難民のいない世界を創る大きな力に繋がるのです。

この記事の執筆者
EARTH NOTE編集部
SDGs情報メディア
「SDGsの取り組みを共有し、循環させる」がコンセプトのWEBメディア。SDGsの基礎知識や最新情報、達成に取り組む企業・自治体・学校へのインタビューをお伝えし、私たちにできることを紹介します。
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。
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