地熱発電の仕組みと課題、日本と世界の現状について

エネルギーは現代の暮らしに欠かすことのできないものですが、温室効果ガスの排出や資源の枯渇などの問題を抱える石油や石炭といった化石燃料での発電が見直され、再生可能エネルギーへの関心が高まっています。再生可能エネルギーとは、太陽光、水力、風力、地熱、バイオマスにより発電されたエネルギーであり、発電時に温室効果ガスの排出や環境への負荷が少なく、資源が枯渇することのないエネルギー源です。
本記事では、再生可能エネルギーである地熱発電に注目し、地熱発電による発電方法や課題、国内外の現状について解説します。
目次
地熱発電の仕組みと課題
地球の中心部は約 6,000℃と推定されています。さらに、地球の体積の99%は1,000℃以上の高温であり、100℃以下の場所は0.1%以下しかありません。地球内部の熱は、自然と流れ出ていますが、地球が冷えきるまでには数10億年が必要とされるほど多くの地熱エネルギーが蓄えられています。
地熱エネルギーを利用する地熱発電とは、地下に染み込んだ雨水がマグマで熱せられることで発生する熱水や蒸気を利用して発電を行う方法です。地熱を利用した発電の仕組みと、課題について解説します。
現時点での世界最高温度は、岩手県での地下3,729mの約510℃です。
しかし、このような高温を測定する温度計はないため、坑底に設置した硬貨のような合金の融解状態から温度が推定されています。
地熱発電の仕組み
地熱発電に利用する熱水や蒸気は、雨が地下深部(地下数km)に浸透し、地下にある高温の岩石によって温められることで軽くなり、上昇することで比較的浅い場所(地下1~3km)にある地熱蒸留層に溜まります。そこに穴を開け(ボーリング作業)、熱水や蒸気を取り出し利用します。
地熱発電に利用する熱水や高温の蒸気である地熱流体は、マグマによって熱せられることで高いエネルギーを得ているため、高温で高圧となっています。この地熱流体を気水分離器で蒸気と熱水に分離し、蒸気はタービンを回転させることで発電を行い、熱水は地中に戻されます。
そして、仕事を終えた蒸気は、復水器で冷却され凝縮して圧力が急減することで、タービンを回す蒸気の効率を高めています。復水器に溜まった温水は、冷却塔を通りさらに水温が下がり、冷却水として蒸気の凝縮に再利用されています。
参考:JOGMEC 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構 地熱発電のしくみ
地熱発電での主な設備
地熱発電設備 | 説明 |
---|---|
気水分離機 | 地熱貯留層につながる蒸気井から噴出した二層流体を水蒸気と熱水に分離する装置 |
タービン・発電機 | 水蒸気を受けタービンが回転し、発電機が駆動し発電する |
フラッシャー(減圧器) | 熱水を減圧膨張させて蒸気(2次蒸気)を発生させる装置 |
ガス抽出装置 | 蒸気に含まれるガスを復水器から抽出する装置 |
復水器 | タービンで使用された蒸気を冷却水で凝縮させる装置 |
冷却塔 | 復水器でできた温水を蒸発冷却(空気を冷やすために水の蒸気を使用すること)させる装置 |
(参考:九州電力 地熱発電)
フラッシュ発電方式
フラッシュ発電方式は、200℃以上の高温蒸気によって、直接タービンを回転させ発電する方法です。フラッシュ発電方式には、シングルフラッシュ発電方式と、ダブルフラッシュ発電方式があります。
シングルフラッシュ方式
地熱貯留層から地熱流体を取り出し、気水分離機で熱水と蒸気に分け、熱水は地下に戻し、蒸気はタービンを回転させ発電を行います。発電後の蒸気は復水器で温水にし、冷却塔で冷ましたあと、復水器に循環して蒸気の冷却に使用されます。
ダブルフラッシュ発電方式
気水分離機で分離した熱水をフラッシャーに導入して、さらに低圧の蒸気を取り出し、高圧蒸気と低圧蒸気の両方を使いタービンを回転させ発電を行う方法です。
高温高圧の地熱流体に採用され、シングルフラッシュ方式よりも約20%出力が増加します。
バイナリー発電方式
バイナリー発電方式は、地熱流体の温度が200℃未満の場合に用いられる方法です。地熱流体の温度が低いとタービンを回転させる力がないため、水よりも沸点が低いペンタンや代替フロンを二次媒体として利用します。
バイナリー発電方式では、まず地熱流体を取り出し、二次媒体と熱交換を行い二次媒体を蒸発器で蒸気化させます。そして、二次媒体の蒸気でタービンを回転させ発電を行います。
二次媒体を温めるために使用した地熱流体は地下に戻され、発電後の二次媒体は凝縮器で液体に戻し、循環ポンプで再び蒸発器に送ります。
80℃を超える温泉が湧く地域では、高温の温泉をバイナリー発電方式の熱源とし、有効利用ができます。そして、発電後の温泉は温度が下がり浴用に適温となります。
地熱発電の3つのメリット
日本は環太平洋造山帯に位置しているため、地熱資源に恵まれています。そのため、地熱発電は安定的でクリーンな国産のエネルギーとして期待されています。
地熱発電のメリットは3つあります。
- 環境優しく、枯渇しない
地熱発電は、燃料を燃やすプロセスがないため温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の排出量が少なく、環境に優しい発電方法です。
発電別の二酸化炭素の排出量は次のようになっています。 - 季節や天候に関係なく安定して発電できる
同じ再生可能エネルギーである太陽光発電や風力発電では、季節や天候などの気象条件によって発電量が変動しますが、地熱発電は気象条件によって発電量が変動することはありません。
地下から絶えず蒸気が噴出するため、安定して発電ができるのです。(注1) - 蒸気と水が二次利用できる
発電方法 | 二酸化炭素排出量【g・CO2/kWh(送電時)】 |
---|---|
石炭火力発電 | 943 |
石油火力発電 | 738 |
液化天然ガス火力発電 | 599 |
液化天然ガス火力発電(コンバインド) | 474 |
太陽光発電 | 38 |
風力発電 | 26 |
原子力発電 | 19 |
地熱発電 | 13 |
水力発電 | 11 |
参考:資源エネルギー庁 第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組【第123-1-3】電源別のライフサイクルCO2排出量の比較
地熱発電では、発電に利用した熱水を二次利用することができます。温泉や温水プールへの利用や、農業用のビニールハウスを温めること、農産品の乾燥にも利用されています。(注2)
(注1)参考:関西電力グループ 【イラスト解説】地熱発電の仕組みは?原理をわかりやすく説明
(注2)参考:資源エネルギー庁 もっと知りたい!エネルギー基本計画④ 再生可能エネルギー(4)豊富な資源をもとに開発が加速する地熱発電
地熱発電の3つのデメリット
地熱発電は、資源も豊富で今後のエネルギー源として期待されていますが、次のようなデメリットもあります。
- 開発にコストと時間がかかる
地熱発電では、事前の調査、開発のプロセスが必要であり、熱水、蒸気を得られなかった場合には、このプロセスが無駄になるリスクがあります。
また、地熱発電は地質調査に始まり、掘削調査、探査、環境アセスメント、掘削、発電設備設置までに約10年と長くかかる開発期間が課題となっています。そのため、資源エネルギー庁では各開発段階に応じた補助や出資、債務保証などの支援を実施するとしています。(注1) - 地熱発電に適した地域が限られている
地熱発電に適した場所の多くは、温泉街や国立公園内に存在し、自然環境や景観の保護などの観点から温泉法や自然公園法などの規制があるため、開発が進んでいませんでした。
そのため、2012年以降に規制が緩和され自然環境の保全と地熱発電開発の調和が十分であり、優良事例であると判断された場合に開発が許可されるようになりました。しかし、この規制緩和以降に運転が開始された地熱発電所はなく、2019年の段階で環境アセスメントを行っている案件が1件のみとなっています。(注2) - 地熱発電開発への反対
地熱発電所の建設を、温泉や観光地への影響を不安に思う地元住民や自治体から反対されることがあります。
そのため、地元住民や自治体への説明会や情報連絡会を行うこと、温泉の泉質をモニタリングする機器の開発や実証を行うことで、不安を解消する取り組みが行われています。
さらに、地熱発電にともなって発生する温水を農業で利用することや、温水を利用して栽培された農作物を特産品としてPRするなど、地域の活性化につなげる取り組みも行われています。
(注1)参考:NEDO 地熱発電技術
(注2)参考:NEDO 国立・国定公園での地熱発電開発促進に向けた環境保全手法の評価を実施
日本と世界の地熱発電の現状
今後のエネルギー源として期待される地熱発電の資源量や発電量などの現状は、どのようになっているのでしょうか?
世界の活火山の約7%を占める日本では、地熱資源が豊富で世界3位の資源量となっています。(注1)日本以外の国でも環太平洋造山帯に属する国では、地熱発電の利用には大きな期待が寄せられています。日本と世界の地熱発電の現状について解説します。
(注1)参考:JICE一般財団法人 国土技術研究センター 国土を知る / 意外と知らない日本の国土
日本の地熱資源は世界でトップクラスの保有量
日本の地熱資源量はアメリカ、インドネシアに次ぐ3位で、資源量は2,347万kWにもなります。
しかし、2022年3月の地熱発電の導入量(実際に運転が開始された発電設備の総容量)は61万kWとなり、日本における全電力発電量の地熱発電の割合は0.25%でした。国内の電力会社をエリア別に見ると東北と九州での地熱発電の割合が高く、約1.3%なっています。
また、日本は地熱資源が豊富な国ですが、世界では地熱開発が伸びている国も多く、発電設備容量は世界10位となっています。
2030年のエネルギーミックス(複数の発電方法を組み合わせて電気を作ること)での地熱発電による発電目標は、全電力の約1%にあたる140〜155万kwとされています。(※1GW=1,000MW=100万kW)(注1)(注2)
主要国での地熱資源量および地熱発電設備容量
国名 | 地熱発電資源量(万kW) | 地熱発電設備容量(万kW) |
---|---|---|
アメリカ | 3,000 | 372 |
インドネシア | 2,779 | 186 |
日本 | 2,347 | 61 |
ケニア | 700 | 68 |
フィリピン | 600 | 193 |
メキシコ | 600 | 92 |
アイスランド | 580 | 71 |
エチオピア | 500 | 1 |
ニュージーランド | 65 | 98 |
イタリア | 327 | 92 |
ペルー | 300 | 0 |
参考:JOGMEC 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 世界の地熱発電
(注1)参考:ISEP 環境エネルギー政策研究所 2022年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報)
(注2)参考:資源エネルギー庁 日本のエネルギー エネルギーの今を知る10の質問
日本での地熱発電開発プロセス
地熱発電は運転開始までに時間がかかることが課題の一つです。実際に、どのようなプロセスがあるのかを解説します。
調査開始のための地域理解の形成(数年)
調査開始にあたり、事前に自治体や住民説明会の開催などにより理解を得る。調査開始後も住民への説明や計画進捗の共有のため説明会や見学会などを行う。自然公園内での調査開発では、優良事例形成のため有識者などを交え協議会を創設し地域の意見を反映する。
初期調査(約5年)
地表調査や掘削調査を行う。
探査事業(約2年)
掘削調査や噴気(熱水や蒸気量)試験を行う。
事業化判断
環境アセスメント(約3~4年)
7,500kW以上が対象(一部例外あり)とされる。
環境アセスメントとは、大規模な開発事業などの際に、その事業が環境に与える影響を予測、評価し、その内容について住民や自治体などの意見を聴くこと。さらに、専門的立場からも内容を審査することで、事業の実施に適性な環境配慮がなされるようにする一連の手続きのこと。(注1)
発電所建設(約3年)
生産井、還元井の掘削や発電設備の設置など
操業(注2)
このように、地熱発電では操業を行うまでに、調査開始から長い期間が必要となります。さらに、地熱発電では調査や掘削にコストがかかることも課題です。
3万kWの地熱発電所建設に必要なコストの試算は次のようになっています。
- 調査・開発 73億円
- 環境アセスメント 3億円
- 地上設備建設 183億円
さらに、事業性評価を行う前段階で、数十億円の掘削費用が必要となります。
(注1)参考:東京都環境局 環境アセスメント
(注2)参考:JGA 日本地熱協会 地熱発電における開発規律と地域共生への取り組み
アメリカでの地熱発電
アメリカは、地熱発電導入量が世界一位の地熱発電国です。アメリカでの地熱発電所は、世界最大規模のザ・カイザーズ地熱地帯がある西部のカリフォルニア州とネバダ州に多く分布しています。ザ・カイザーズ地熱地帯の資源量は3,000万kWにもなります。(注1)(注2)
アメリカでは、技術革新によって開発可能な地熱発電量は100GWと推定されており、地熱発電の開発に約1,140万ドルの助成を行い、最先端技術や新素材を利用して掘削トラブルによる時間の短縮や、掘進率の向上など実用的な技術開発を行うとしています。
アメリカエネルギー省では、地熱発電をクリーンで効率的なベースロードエネルギー資源と位置付け、新規開発技術により国産再生可能エネルギー資源である地熱発電の利用拡大を目指しています。(注3)
(注1)参考:JOGMEC 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 アメリカ(ザ・カイザーズ)
(注2)参考:JOGMEC 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 世界の地熱発電
(注3)参考:国立研究開発法人 国立環境研究所 アメリカエネルギー省、地熱発電の研究開発プロジェクトに約1140万ドル助成
インドネシアでの地熱発電
インドネシアでの地熱発電導入量は世界2位となっています。多くの火山島からなるインドネシアの地熱資源量は2,800万kWにもなりますが、2021年7月のインドネシアの地熱発電容量(どれだけ発電できるかを表した数値)は、2,178MWと10%も活用されていないのが現状です。
しかし、インドネシアでは地熱開発が活発に行われており、国と民間企業で新会社を設立し、地熱発電量を倍増させる計画が発表されました。新会社では既存の572MWに加え、590MWのプロジェクトに取り組んでおり、発電総容量が1,162MWに増加すると見込まれています。
インドネシアでは、国を挙げて地熱発電の導入拡大に取り組んでおり、2030年までに2020年の倍以上の発電容量を目指しています。
(注1)(注2)
(注1)参考:JOGMEC 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 2021年8月 地熱月報
(注2)参考:JOGMEC 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 2022年5月 地熱月報
ケニアでの地熱発電
ケニアは、石油や天然ガスなどの化石燃料資源がほとんどなく、自然条件も乾燥帯であることから水力、風力の安定確保が難しい環境となっています。そのため、ケニアでの安定的なエネルギー源として700万kWもの資源がある地熱発電が注目されています。
ケニアは、アフリカ初の地熱発電所を稼働させた国であり、現在では国内電力の4割を地熱発電によって賄っています。
大規模地熱発電所であるオルカリア地熱発電所では、日本のODA(政府開発援助)も活用されています。さらに、設置されている風力発電の風車19機のうち13機に日本製のタービンが用いられるなど、いくつもの日本企業の製品が採用されているのです。これらの風力発電施設により、83.3MWの発電容量が見込まれています。(注1)
さらに、ケニアでは2030年までに6,500MWもの地熱発電を行うという目標を掲げています。(注2)
(注1)参考:JETRO 総発電量の9割が再エネ由来(ケニア)
(注2)参考:政府広報オンライン アフリカの電力を支えるオルカリア地熱発電所(仮訳)
地熱発電への取り組み
日本では、2030年のエネルギーミックスの目標である、地熱発電による発電量140〜155万kWの達成に向け、さまざまな取り組みが行われています。
特に日本では、事業対象地域の地元住民や自治体から、開発事業への理解を得ることが一つの課題となっています。そのため理解促進事業や、地熱発電導入拡大のための技術開発が行われています。
ここでは、日本での地熱発電開発への取り組みについて解説します。
地熱発電の資源量調査・理解促進事業
地熱発電の資源量調査・理解促進事業とは、日本での地熱資源開発を促進すること、また、地熱資源開発地域における周辺住民などへの理解を促進することを目的とした事業です。
そのために、地域住民を対象とした勉強会事業や、地下構造の把握、資源調査にかかるコストを軽減させるなどの取り組みを行っています。
実際の取り組みとして、次のようなものがあります。
- 地熱開発の有望地点の新規開拓のため、国立公園などにおいてJOGMEC(独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構)自らが先導的資源量調査などを行う
- 海外の火山帯での地熱資源調査をJOGMEC単独、または日本企業との共同調査を実施し、その知見を国内の地熱開発事業者に提供する
- 地熱開発事業者が実施する地熱資源量を把握するための地表調査や掘削調査などに必要な費用を補助する
- 地域住民などへの地熱開発に対する理解促進を目的とした勉強会費用などを補助する
これらの取り組みを平成24年度から令和9年度の16年間行い、地質構造の把握により地表調査から掘削調査に移行した件数と、調査段階から探査・開発段階に移行した事業件数を6割程度にすることを目指してます。
地熱発電の資源量調査・理解促進事業は、2030年度のエネルギーミックス目標である導入量148万kWの達成を目指す事業です。この事業での、令和6年度の予算は128億円となっています。(注1)(注2)
(注1)参考:資源エネルギー庁 地熱発電の資源量調査・理解促進事業
(注2)参考:資源エネルギー庁 令和3年度第1回「地熱発電の資源量調査・理解促進事業費補助金(理解促進事業に係るもの)」に係る補助事業者の公募について
地熱発電導入拡大のための技術開発
地熱発電では、抜本的な拡大を図るために地熱貯留層のない地域などでも、地熱ポテンシャルを最大限に活用するための革新的技術として、高温岩体地熱発電技術(貯留層造成型EGS)や超臨海地熱発電技術(超臨界型EGS)が検討されています。
EGSとは、Enhanced Geothermal Systemsの略で、地熱強化システムのことです。
高温岩体地熱発電技術(貯留層造成型EGS)
高温で適切な地層形成があっても、蒸気が存在しないため開発を行うことができなかった地域において、高温の岩盤に坑井(注入井)を掘削し、地表から高圧の水を注入することで、岩盤に亀裂を発生させます。
水が亀裂を通る間に岩盤の熱によって加熱され、熱水や蒸気となるため人工的に地熱貯留層を作ることができるのです。そして、この人工貯留層に向けて別の坑井(生産井)を掘削することで、岩盤内の熱水や蒸気が地上に吹き出します。この熱水と蒸気を使って発電を行う方法です。(注1)
日本では1980年代から2000年代に検証実験が行われましたが、得られる熱量や逸水などの課題のため、実用化には至っていません。(注2)
超臨界地熱発電技術(超臨界型EGS)
超臨界地熱発電とは、超臨界水を利用する発電方法のことです。水は1気圧の場合、通常100℃になると気体(水蒸気)となります。しかし、圧力を上げた場合は沸点が上昇し2気圧での沸点は121℃ほどになります。このように圧力を上げると218気圧(22.1Mpa)で374℃に達し、それ以上になると液体と気体の区別が無くなります。そのため、374℃、218気圧(22.1Mpa)を臨界点と呼び、臨界点以上の温度と圧力を持った水を超臨界水といいます。
この超臨界地熱発電とは、地下5kmの深い位置にある超臨界水を利用して発電する方法です。これまでの地熱発電で利用される蒸気は、高くても200℃であったため、超臨界水を利用する発電では大出力化が可能と考えられ、原子力発電所と同程度の発電量が得られるとも言われています。
しかし、次のような課題もあります。
- 深い場所にある超臨界水がどのような状態で存在し、貯留層の形態がどのようになっているかが不明
- 500℃の高温であるため、溶解性が強く、強い酸性の可能性があるため、どのような機材や材料が必要であるか検討が必要
- 5kmの深さを掘るために時間もコストもかかる
現在、超臨界地熱発電の技術開発は、2017年から産学官一体となり取り組まれ、2050年頃の普及を目指しています。(注3)
(注1)参考:電中研 第2章 高温岩体発電の開発
(注2)参考:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構技術戦略研究センター(TSC) 地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
(注3)参考:一般財団法人 新エネルギー財団 超臨界地熱発電への期待
地熱発電開発のための助成金交付事業
日本での地熱発電導入量を増加させるために「地熱発電の資源量調査事業費助成金交付事業」が取り組まれています。
地熱発電開発の課題の一つである高いコストに対して、JOGMECが国から補助金を受け、日本の企業が日本で地熱資源調査を行う場合に、調査費用の一部(地質調査・物理探査・地化学調査等に関する経費や坑井掘削調査等にかかる経費)を助成金として交付する制度です。
地熱資源の多くが自然公園内や温泉地にあることから自然との調和や温泉への影響を考慮し、モニタリング調査や環境事前調査が必要とされるため、助成金の対象となります。
この事業では、令和3年度に20件の調査事業に対して助成金が交付されています。
参考:JOGMEC 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 助成金交付事業
地熱発電モデル地区プロジェクト
地熱開発のモデル地区プロジェクトとは地熱資源を活用し、地熱発電開発地域の農林水産業や観光業などの振興に積極的に取り組む自治体を地熱発電のモデル地区として認定し、その自治体の産業振興を支援することや地熱資源開発による地域振興の模範として、ほかの地域での地熱開発につなげる取り組みです。
JOGMECは2019年に、北海道森町、岩手県八幡平市、秋田県湯沢市を地熱開発のモデル地区として認定しています。
それぞれの地域の取り組みを紹介します。
北海道森町
北海道唯一の大規模発電所である森地熱発電所では、発電に使用しない熱水の一部から温水を生成し、農業ハウスの暖房に利用することで、一年を通してトマトやきゅうりが栽培されています。
岩手県八幡平市
岩手県八幡平市にある日本初の商用地熱発電所である松川地熱発電所では、発電所の蒸気による温水の供給により約700軒の施設に温泉を供給し、さらに地熱蒸気を使った地熱染めなどをおこなっています。
秋田県湯沢市
大規模地熱発電所である山葵地熱発電所は、国内で23年ぶりに運転を開始した地熱発電所です。「地熱のまち“ゆざわ”」として、観光スポット「ゆざわジオパーク」や、地熱を利用した乾燥野菜、地熱で低温殺菌した乳製品なども製造されています。
JOGMECでは、岩手県八幡平市が主催する「地熱発電の日展」のために、地熱発電の仕組みや地熱を活かしたまちづくりなどを紹介するパネルの制作支援や、秋田県湯沢市では熱水利用の講習会の開催、温泉発電実施可能性調査などの支援も行っています。
参考:JOGMEC 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 地熱 地域・自然と共生するエネルギー
地熱発電は大きな可能性のあるエネルギー
多くの地熱資源を持つ日本では、地熱発電への関心が高まっています。しかし、コストや開発期間、地域住民への理解促進など多くの課題があるのが現状です。
これらの課題を解決し、世界3位という多くの資源量を保有する地熱発電は、クリーンなエネルギーとして大きなポテンシャルを持つ将来の重要なエネルギー源となることが期待されます。

身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。