ESDとは?持続可能な社会に向けた教育法とその実践例を分かりやすく解説

ESDとは?持続可能な社会に向けた教育法とその実践例を分かりやすく解説

2023.08.07(最終更新日:2024.06.21)
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世界に様々な問題がある中、その解決策の一つとして「教育」の重要性が見直されています。「ESD」とは、持続可能な社会の実現のために提唱された教育のあり方であり、日本を始め、各地の教育の場で取り入れられています。
そこで今回は、ESDとはどのような教育手法なのか、SDGsとの関連やその実践例についても分かりやすく解説していきます。

ESDとは。世界のあらゆる問題解決のために提唱された教育手法

ESDとは、「Education for Sustainable Development」の略であり、日本語訳すると「持続可能な開発のための教育」といわれています。
「開発」とは、「発展」や「社会の構築」などと同じような意味合いで使われていますが、「持続可能な開発」について解説しながらESDをご紹介します。

なお、ESDについてのより詳しい概要は内閣官房-我が国における「国連持続可能な開発のための教育の10年」実施計画(ESD実施計画)にてご確認いただけます。当記事と合わせてお読みください。

環境や社会、経済を調和した「持続可能な開発」

ここで掲げられている「持続可能な開発」とは、政府のESD実施計画によると「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすような社会づくりのこと」と示されています。
そのような社会づくりのためには、性別や人種等に関わらず、すべての人が健康で文化的な生活を営めるよう、貧困をなくし、保健衛生や質の高い教育を確保することなどの取組が必要となります。
さらに、地球の資源は有限であり、環境への配慮、自然の回復力などを意識することはもちろん、難民を生み環境を破壊する戦争や紛争をなくすための平和的取組も必要です。

これらのことを踏まえると、世代間や地域間の公平、男女間の平等、貧困削減、環境保全と回復、資源の保全、平和で公正な社会などが「持続可能性」のベースとなっており、「環境・社会・経済」を調和しながら進めていくことが「持続可能な開発」といえます。

持続可能な開発をしていくためには、国や企業だけでなく、私たち一人一人が意識して取り組んでいくことが必要であり、これまでの意識や行動を変容していく必要があります。
私たちの日常生活や経済活動が、世界の人々や将来世代、自然環境に影響を与えていることを一人一人が認識し、行動を変革していくための教育が「ESD」となります。
また、ESDが指している教育は、学校教育だけでなく、社会教育、文化活動、企業内研修、地域活動など様々な場面での教育や学びの場を含んでいます。

危機的な状況にあるさまざまな問題

環境汚染や気候変動、生物多様性の損失、貧困、資源の減少など、人の開発行動により様々な問題が引き起されています。
その課題は環境問題や社会問題など多岐の分野に渡り、これらの問題を解決するために、それぞれの分野で取り組みが行われています。
しかし根本的に問題を解決していくには、人々の意識や価値観から変容し実践していく必要があるため、持続可能な社会の担い手を育むためのESDが注目されており、世界中で実践されています。

学校教育問題

学校教育の現場では、いじめや不登校、貧困、教員の多忙化など、多くの課題に直面していますが、外国人児童の増加や子どもの学力低下などの時代の変化に合わせた対応も急務となっています。
日本の学力は、2019年の国際学習到達度調査(PISA)によれば読解力の低下が顕著に表れており、これは自ら物事を考え理解し取り組んでいく力ですが、今後の変化が激しい時代を生きていくためには必須の能力ともいえます。

また、日本の授業スタイルは、先生が一方的に授業する受動的な形式がほとんどですが、主体的に物事を考え判断する力が身に付きにくいことが指摘されています。
海外の授業では、生徒たちがディスカッションをしながら学びを深めていく形式が一般的となってきており、主体的思考やコミュニケーション力、問題解決能力などが身に付きやすいといわれています。

日本においても、2020年に大学入試センター試験が廃止され、より論理的な判断力等を求める大学入学共通テストが始まったことから、より主体的思考を身に付けることが求められるようになり、学校でのESDの重要性が高まってきています。
出典:文部科学省-PISA調査における読解力の定義,特徴等
明るい講義室で円状に座り、パソコンを開きながら議論する5人の学生と、それを見守る教員の女性

ESDの対象は「すべての人」

ESDの目標として、すべての人が質の高い教育の恩恵を享受することを求めており、年齢や性別、立場、生活環境に関わらずあらゆる人をESDの対象としています。
そのため、学校教育はもちろん、生涯学習、地域、企業、メディア、政府自治体などの様々な場面でESDが取り入れられ、連携し合いながらより深い学びが進められています。

ESDの始まりは、世界会議で日本が提唱したことがきっかけ

ESDができた経緯を、SD(持続可能な開発)の登場を含めご紹介します。

1987年 「環境と開発に関する世界委員会」が公表した報告書で「持続可能な開発」という言葉が提唱される
1992年 「国連環境開発会議(地球サミット)」で採択された「アジェンダ21」にて持続可能な開発のための行動計画が明記される
2002年 「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)」にて、日本のNGOと政府が協働でESDの概念を提唱する

持続可能な開発」という概念が出てきた当初は、環境保全を考慮した節度ある開発が重要であるという考えのもとにあり、環境と開発が対立するものではなく共存し得るものとしてとらえるべき、とされていました。
その後、「持続可能な開発」や環境保全についての考え方が定まってきて、同時に教育の重要性が示されるようになりました。

出典:外務省-持続可能な開発

国連持続可能な開発のための教育の10年(DESD)2005~2014年

日本がESDを提唱した2002年12月、第57回国連総会にて、日本が提案した「国連持続可能な開発のための教育の10年(DESD)」に関する決議案が採択され、各国がESDに取り組むことになりました。
2005年から2014年の10年間をDESDとし、主導機関としてユネスコが任命され、国際実施計画(IIS)の作成が求められましたが、日本ユネスコ国内委員会もその内容や活動についての提言を行いました。

DESDは、世界各地へESDの認知拡大や、政策への影響、国際協力の基盤作りなどへ影響を与え、教育や学びの分野において多くの優良な実践例となるプロジェクトを生み出しました。
そういった成果と同時に、ESDの政策と実践が上手く連携できていない、教育分野や「持続可能な開発」の計画にESDが取り入れられていない、といった課題も多く残されました。

DESDの推進に向けて、日本ユネスコが提言し、ユネスコ事務局長に提出された内容や日本国内のESDの取組については、文部科学省-「持続可能な開発のための教育の10年」の更なる推進に向けたユネスコへの提言をご参照ください。
ESDに関する国際協力を推進することや、DESDのモニタリングや評価を進めることなどが明記されています。

グローバル・アクション・プログラム(GAP)2015~2019年

2012年、国連持続可能な開発会議(リオ+20)がリオデジャネイロで行われ、「我々が望む未来(The Future We Want)」という成果文書にて、加盟国はDESD以降もESDを促進し、「持続可能な開発」を教育へ積極的に統合していくことに合意がされました。
この合意を踏まえ、DESDの後継プログラムとして、万人に対する持続可能な開発のための学習の機会を増やすため、「持続可能な開発のための教育に関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」が国連総会で承認されました。
2015年以降は、このGAPに基づき、ESDの取組が世界各地で広められました。

GAPの全体的な目標としては、持続可能な開発に向けた進展のため、全ての分野と段階における教育やあらゆる学びにおいて、行動を起こし広めていくこと、としています。
そして、以下2つの目標を示しています。

1.全ての人が、持続可能な開発に貢献するための、知識、技能、価値観、態度を習得する機会を得るため、教育及び学習を再方向付けすること。

2.持続可能な開発を促進する全ての関連アジェンダ、プログラム及び活動において、教育及び学習の役割を強化すること。

さらに、戦略的にESDに取り組めるよう、以下の5つの優先行動分野を設けて取組に焦点を当てています。

1 政策的支援(ESDに対する政策的支援) 教育と持続可能な開発に関する国際・国内政策へESDを取り入れる。
2 機関包括型アプローチ (ESDへの包括的取組) 全ての段階における分野や場面において、ESDの組織全体へのアプローチを促進する。
3 教育者(ESDを実践する教育者の育成) ESD学習の教育者やトレーナー、変革を進める人の能力を高める。
4 ユース(ESDへの若者の参加の支援) ESDを通して、持続可能な開発のための変革を進めるユース世代を支援する。
5 地域コミュニティ(ESDへの地域コミュニティの参加の促進) 各地域において、ESDを通じ、続可能な開発のための問題解決策を開発・探求する。また、自治体や企業、NGO、メディア、教育機関、地域市民などの多様な分野と連携し、地域ネットワークを強化する。

出典:文部科学省-持続可能な開発のための教育(ESD)に関するグローバル・アクション・プログラム

「ESD for 2030」でESDの取組を加速する

2015年以降のESDの取組においては、世界の2,600万人がESD学習を学び、200万人の教育者がESDの研修を受け、ESDが広く推進されました。
ESDの重要性が高まる中、2019年の第74回国連総会において、国連持続可能な開発のための教育の10年(DESD)やグローバル・アクション・プログラム(GAP)の後継として、「持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)」が採択されました。

「ESD for 2030」の決議では、国際社会に対し、幼児教育や高等教育、職業技術教育など、全ての教育レベルにおいて包摂的で公正な質の高い教育を提供するよう求めており、ESDの行動を広げることを奨励しています。
また、これまでの実施内容を基本的に引き継ぎつつも、より一層のESD推進に向け再定義し、ESDの強化とSDGsの全ての目標達成への貢献を通して、持続可能な社会の構築を目指す目標を掲げています。

「ESD for 2030」の特徴としては、SDGsの17全ての目標実現に向けた教育の役割を強調持続可能な開発に向けた大きな変革への重点化(個人だけでなく社会の構造変革)、ユネスコ加盟国によるリーダーシップへの重点化が挙げられています。

そしてロードマップには、以下5つの優先行動分野と6つの重点実施領域が示され、これらを基に具体的な行動を起こすことが求められています。

<5つの優先行動分野>
1.政策の推進、2.学習環境の変革、3.教育者の能力構築、4.ユースのエンパワーメントと動員、5.地域レベルでの活動の促進

<6つの重点実施領域>
1.国レベルでのESD for 2030の実施、2.パートナーシップとコラボレーション、3.行動を促すための普及活動、4.新たな課題や傾向の追跡(進捗レビュー)、5.資源の活用、6.進捗モニタリング

引き続き、ユネスコがESDの主導機関として「ESD for 2030」の実施・調整を行い、国連事務総長に対し、実施状況レポートを提出することなどが定められています。

出典:文部科学省-「持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)」について~第74回国連総会における決議採択~
出典:環境省-「持続可能な開発のための教育:SDGs 実現に向けて(ESD for 2030)」 概要

ESDはSDGs達成のために重要な手段の一つ

長い歴史の中で、ESDが実践・推進されてきたことをお伝えしましたが、SDGsの登場により、関連させながら更に発展していくという動きとなっています。
「ESD for 2030」の決議内容には、ESDとSDGsの関連について以下のように述べられています。
「ESDが質の高い教育に関するSDGに必要不可欠で要素であり、その他の全てのSDGsの成功への鍵として、ESDはSDGsの実現の不可欠な実施手段である」
ESDは、持続可能な社会全体の担い手を育てるための手段であり、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」に深く関連しているだけでなく、教育を通じてSDGs全ての目標達成に寄与しているということがいえます。
そのため、SDGs達成のためにはESDという手段が重要であり、目標でありながら課題解決策でもあるSDGsを関連させながらESDを進めていく、といった2つの関係性も教育現場では見られています。

ESDが目指すのは、一人一人の行動変革

日本ユネスコ協会によると、ESDの目標は「一人一人が持続可能な社会の構築に必要な考え方を学び、地球規模の課題を自分事として捉え、その解決に向けて自分から行動を起こす力を身につけること」としています。
個人意識の変容や社会を変えていくためには、一人一人が問題に主体的に関わる力が求められますが、そのような力を養うには、知識の暗記や学力で計られる能力だけでなく、柔軟な思考力や行動力などの多様な力が大切です。

文科省はESDが目指すものとして、大きく2つの力を挙げています。

  1. 持続可能な社会づくりを構成する「6つの視点」を軸とし、教育者や生徒が持続可能な社会づくりに関わる課題を見つけること
  2. 持続可能な社会づくりに向けた課題解決に必要な「7つの能力・態度」を身に付けること

ここで挙げられている6つの視点7つの能力・態度について詳しく見ていきましょう。

なお、この章では以下のサイトを参考にしています。合わせてご覧ください。
文部科学省-持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)
日本ユネスコ協会連盟-SDGsとは

6つの視点を軸に課題を見つける

文科省は、持続可能な社会づくりに関わる課題を見つけるための「6つの視点」を示しており、ESDの考え方の基礎となっています。

  1. 多様性(多種多様な文化や社会、環境、経済、価値観などがあり、様々な物事が起こっている)
  2. 相互性(環境や社会、文化、経済はそれぞれ関連し合って影響を与えており、循環し働き合っている)
  3. 有限性(自然や資源、エネルギーには限りがあり、支えられて社会や経済が成り立っている)
  4. 公平性(持続可能な社会づくりのためには、全ての人が健康で文化的な生活を営めるよう取り組む必要がある)
  5. 連携性(持続可能な社会づくりのためには、あらゆる主体が協力し合い、場合に応じて順応し調和していく必要がある)
  6. 責任制(将来の地球環境や社会の存続のために、一人一人が責任を持ち変容する)

上記の6つの視点を、自分たちの考えや行動に照らし合わせて考えてみたり、学びの場面でプログラムに取り入れてみたりと、様々な場面で活かすことができます。

7つの能力と態度で考え、実践していく

文科省は、持続可能な社会づくりに向けた課題解決に必要な「7つの能力・態度」を挙げており、ESDで重視する取り組み方を示しています。

【持続可能な社会づくりに必要な7つの能力・態度】

  1. 批判的に考える力(物事に対して本当に正しいことなのか疑問を持ち考えてみる)
  2. 未来像を予測して計画を立てる力(過去や現在の状況から将来を予測し、全ての人が望むような未来のために物事を計画する)
  3. 多面的・総合的に考える力(様々な方向から物事を見て、他と関連付けて考えてみる)
  4. コミュニケーションを行う力(自分の感じたことや思ったことを相手に伝え、周りの意見を尊重し、積極的に交流する)
  5. 他者と協力する力(様々な人の立場になって考え、協力して物事を進めていく)
  6. つながりを尊重する態度(日々の暮らしは様々なものとつながり支え合って成り立っており、その関わりを意識してみる)
  7. 進んで参加する態度(周りや誰かのために進んで行動し、自分のできることを見つける)

上記の7つの能力・態度が身に付けられるような授業プログラムを作成したり、普段の生活で意識して生活してみたり、日々の暮らしから取り組むことができます。

学校教育に盛り込まれたESDの関連記述

2008年に幼稚園教育要領と小・中学校の学習指導要領が、2009年に高等学校の学習指導要領が新しく公表され、ESDの考え方や持続可能な社会づくりの観点が盛り込まれました。
一部の例として、高等学校の保健体育・体育におけるESD関連記述をご紹介します。

スポーツを行う際は、スポーツが環境にもたらす影響を考慮し、持続可能な社会の実現に寄与する責任ある行動が求められること。

このように、ESDの考え方をベースに、科目に合わせた具体的な書き方で学習指導要領に記載されています。
その他の記述に関してご興味ある方は、以下の文部科学省のサイトにてご覧ください。
出典:文部科学省-学習指導要領におけるESD関連記述

ESDの取り入れ方は多様にある

ESDの取組は多種多様であり、地域や学校、生徒の状況に合わせながら、学びのカリキュラムを組み立てていく必要があります。
ESDを効果的に進めるにあたり、文科省は以下のことを重要視しています。

  • ESDの実施を学校経営方針に位置付け、校内組織を整備して学校全体として組織的に取り組むこと
  • ESDを適切に指導計画に位置付けること
  • 地域や大学・企業との連携の視点を取り入れること
  • 児童・生徒による発信と学習成果の振り返りを適切に行うこと

ESDを推進していくためには、学校方針や計画書に位置付けるなどして、組織全体として取り組めるような包括的アプローチが大切です。
さらに、学校での学びをより深く、効果的なものとするために、周辺地域や地元企業などとの連携を取り入れることで、課題解決等のメリットが生まれることもあります。
そして授業の最後には、生徒が感じたことや気付いたことなどの振り返りを自分たちで行うことで学びを深め、理解する時間を設けることもESDの特徴の一つです。

この章も文部科学省-持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)をもとに解説していきます。

主体的で対話的な深い学びを重視

ESDの実践にあたり、文科省は「主体的・対話的で深い学びの視点から、学習・指導方法を改善することが重要」と明記しています。
これは受動的な学習スタイルだけで得られるものではなく、話し合い問題解決していくような視点を取り入れるなど、探求的な学びの過程を重要視しています。
学校の畑で植物を植えながら教える女性教員と、一緒に植えようとする小さな男の子
体験や活動を取り入れ、生徒が主体的に参加し学習できる機会を作りつつ、身に付けたい視点や能力が効果的に得られるよう、吟味しながらプログラムを作成します。
さらに、グループ活動等を取り入れて協力しながら話し合い、発表やまとめを行うことで、より理解が深まり共同的な学びを得ることができます。

あらゆる問題を自分事として捉える

世界中にある環境問題や社会問題など、あらゆる課題解決の糸口として重要視されてきたESDですが、一人一人が自ら問題を見つけ出し、自分事に捉えて考え行動することが大切になります。
例えば世界で問題となっている気候変動についても、身近な暮らしの影響が積み重なっていると自分事として考え、解決のための行動を起こしていくことができます。

様々な問題を私たちの暮らしと結び付けて考え、新しい考え方や行動を作り出すことで、人の自立的な対応力を身に付けていくことが求められています。
そのような力を育むためには、これまでの学習方法や価値観を見直し、社会に参画しながらESDを実践していくことが重要です。

学校や立場を超えた分野横断的な取組

ESDの実践にあたり、「地域や大学・企業との連携の視点を取り入れること」が大切とお伝えしましたが、それぞれの立場を超えて取組を進めていくこともESDの特徴の一つです。

学校教育においては、地域や企業などと連携することで、子どもたちの地域や社会への理解が深まり、より深い学びが得られ、地元への愛情が育つなどのメリットが挙げられます。
これは学校教育だけの話ではなく、企業内における部署間を超えた連携や、分野や業界を超えた組織同士の連携、個人や立場を超えた協力など、様々な場面での取組を指します。

ESDの考え方として「連携性」の視点と「他者と協力する力」の能力・態度が重要と挙げましたが、連携し合うことで様々な視点が加わり、問題解決スピードが速まり、相乗効果が得られることがあります。

ESDの取組事例

それでは、具体的なESDの取組事例を見ていきましょう。
世界各地でESDが実践されていますが、今回は日本の事例を中心にご紹介します。
取組がESDのどの視点や考えに当てはまるのか、SDGsのどの目標に関わる内容なのかなど、意識して見ると理解がより深まるでしょう。

ユネスコスクールはESDを推進する拠点の一つ

ユネスコスクールは、ユネスコの理念を実現するため、平和で国際的な連携を実践する学校のことであり、文部科学省や日本ユネスコ国内委員会によって「ESDの推進拠点」として位置づけられています。
現在世界では180か国以上の国や地域で11,000校以上のユネスコスクールが登録されており、日本国内の加盟校数は2019年11月時点で1,120校となり、1か国当たりの加盟校数では世界最大となっています。

ユネスコスクールに加盟することで、国内外のユネスコスクールと交流する機会があったり、ESDの教材や情報提供が得られたりと様々なメリットがあります。
毎年文科省主催で行われるユネスコスクール全国大会(ESD研究大会)では、ESDの全国的な普及や探求のために教育関係者の約600~900名が集まり、講演やワークショップなどを通して知見を深め、好事例の共有や連携強化などを行っています。

出典:文部科学省-ユネスコスクール

大牟田市立手鎌小学校のESD活動

ユネスコスクール加盟校である手鎌小学校は、「地域を愛し,地域のために共に行動する力の育成」を目標とし、地域との関わりを深める体験活動を柱にESDを実践しました。(2022年度のユネスコスクール活動報告より)

「食への関心と健康な生活に係わる活動」では生徒の状況に合わせて指導内容を工夫して食への理解と意欲を深め、「地域とつながる農業体験に係わる活動」では、子供たちが地域の人と育てた野菜を「子ども朝市」にて自ら野菜の説明しながら渡すなど交流を行いました。
「地域の食文化体験に係わる活動」では、地域で受け継がれてきた食文化「黒崎串だご」の作り方を教わり、由来や歴史などをまとめ、地域の方々に広く発信しました。

子どもたちの食への理解や意欲を深めた上で、地域と交流する機会を作り、学んだことをまとめて発信することで、体験・学び・理解が深まり、目標である地域愛や行動力を育む事例となっています。

出典:ユネスコスクール事務局-大牟田市立手鎌小学校

アサヒ飲料「水の未来と環境教室」

アサヒ飲料は、社員による出前授業「三ツ矢サイダー水の未来と環境教室」を行っています。
水や地球環境についてグローバルな視点で考えつつ、身近な例から分かりやすく学び、未来のためにできることを話し合って、自ら考え行動する大切さを学ぶ内容となっています。
「三ツ矢サイダー」を題材に、実験を通してろ過の仕組みなどを学び、それぞれの国における「水」に対する考え方の共通点や異なる点を考え、SDGsを織り交ぜながら環境問題解決への意欲を育みます。

子どもたちにとっても馴染みある題材を使った実感のある授業内容となっており、貴重な水を大切にする気持ちや、世界中の人が水を飲めるようにする責任も感じられる事例となっています。

出典:アサヒ飲料-「三ツ矢サイダー」水の未来と環境教室 〜みんなで学ぼう!SDGsスクール〜

うどんまるごと循環コンソーシアム

「うどんまるごと循環コンソーシアム」は、「もったいない」を合言葉にNPOや企業、行政、農家、教育機関、ボランティアなどが関わり、産学民官の協働プロジェクトとして結成されました。
香川県には多くのうどん屋さんが数多くありますが、廃棄されるうどんが多いため、うどん残渣や食品廃棄物からバイオガスを作り発電し、その残渣から液肥を作って小麦を作り、再びうどんを作るという循環を生み出しています。

環境教育や食育野分野での普及啓発にも力を入れ、地域住民や子どもたちもプロジェクトに参加し、食品廃棄の現状や解決策、化学技術、農業について考え体験しながら学びを深めています。
行政や企業、市民など様々な主体が関わる分野横断的な取組となっており、社会問題を解決しながらESDを推進する事例となっています。

出典:うどんまるごと循環プロジェクト-プロジェクト

ESD活動支援センター

ESD活動支援センター(以下「ESDセンター」)は、文部科学省と環境省により2016年に開設され、ESDを推進するネットワークのハブ機能を担っています。
翌年の2017年には、全国におけるESD推進ネットワークの広域的なハブとしての機能を担うため、全国各地の8ブロックに地方ESD活動支援センター(以下「地方センター」)が開設されました。(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州)

ESD推進ネットワークとは、持続可能な社会の実現のため、ESDに関わるあらゆる組織や人が各地域での取組を進めながら、分野や立場を超えて連携・協働してESDを推進することを目指しています。
ESDを広め探求することで、地域の課題解決や教育の質を向上、SDGs達成に向けた人材育成に取り組んでいます。

さらに、2017年から始まった「地域ESD活動推進拠点」の制度では、地域でESDに取り組み、推進・支援を行う組織や団体をESDの拠点として登録し、地方センターと共に各地域で実践されるESDをサポートする役割を持っています。
ESDの事例としてご紹介した「ユネスコスクール」や「うどんまるごと循環コンソーシアム」もESD活動推進拠点として登録されています。

全国8ブロックにある地方センターでは、それぞれの地域で取り組まれているESDやSDGsの情報が取りまとめられおり関連イベントの情報等もホームページにて発信しているので、ご興味ある方はお近くのセンターを調べてみてください。

出典:ESD活動支援センター-ESD活動支援センターとは

ESDは子どもや大人にも必要な教育。全ては持続可能な社会の実現のため

ESDは、世界で深刻化する様々な環境問題や社会問題に対して、教育を通して課題解決を図ろうという流れで生まれた教育手法です。
日本がESDを提唱したことから始まり、ユネスコが主導しながら世界各地で広まり探求されているESDですが、SDGsの登場により、さらにその流れが加速しています。

SDGsの達成にはESDの実践が重要であることから、関連させながら取り組まれており、これは教育現場だけでなく、企業研修や生涯学習など様々な学びの場面で活かすことができます。
しかし全ての教育現場においてESDが広く浸透しているとは言い難い現状であり、一人一人が身近なことから関心を持っていくことが大切です。

普段の生活においても、様々な問題を自分事として考え、できることを考え行動していくというESDの考えを意識することができるため、関心のある話題から取り組んでみましょう。

この記事の執筆者
EARTH NOTE編集部
SDGs情報メディア
「SDGsの取り組みを共有し、循環させる」がコンセプトのWEBメディア。SDGsの基礎知識や最新情報、達成に取り組む企業・自治体・学校へのインタビューをお伝えし、私たちにできることを紹介します。
身近なアイデアを循環させて、地球の未来をつなげていきましょう。皆さんと一緒に取り組んでいけたら幸いです。
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