失業率の問題とは?現状と問題解決に向けた取り組み、SDGs目標8との関係も解説

失業率の問題とは?現状と問題解決に向けた取り組み、SDGs目標8との関係も解説

2023.12.01(最終更新日:2024.06.05)
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ニュースや新聞で見かけることも多い「失業率」というキーワード。直近では新型コロナウィルス感染拡大の影響で取り沙汰されることも多く、よく耳にすることがあったのではないでしょうか。
しかし、「実際にパーセンテージを聞いても高いのか低いのか分からない」「社会にとってどういう影響があるのかよく知らない」という人も多いかもしれません。

今回は、失業率の問題に焦点を当て、そもそも失業率の定義とは何か、現状と問題解決に向けた取り組み、またSDGs目標8との関係も踏まえて解説します。

失業率は景気を表す重要な指標

失業率とは、「仕事につけない人の割合」と何となく理解している人は多いでしょう。ここでは、まず失業率の一般的な定義と関連するキーワードを解説します。

失業率とは完全失業者の割合

失業率(完全失業率)とは、労働力人口に占める完全失業者の割合です。

完全失業者とは、働く意思と能力があるが、仕事に就けていない求職者のことを指します。つまり就業していなくても、働く意思がない人は失業者に含まれません。その失業者が労働力人口の中にどれだけいるのかを示した割合が完全失業率です。

失業者という場合は、一般的に完全失業者を指し、失業率という場合は、完全失業率を意味します。完全失業率を算出する計算式は以下の通りです。

完全失業率(%)=(完全失業者÷労働力人口)×100

完全失業率の調査は、総務省統計局が労働力調査の統計指標として毎月実施しています。労働力調査は、就業状況や雇用状況、就業時間から就業日数と労働に関する現状が調査項目です。調査対象は約4万世帯で、15歳以上の10万人を対象に実施されます。

失業率の計算は「労働力人口」がベースとなる

完全失業率を求める時にベースとなる労働力人口とは、満15歳以上の働く意欲のある人と定義されています。それに対して非労働力人口とは、15歳以上のうち、働けない人や働く意思のない人のほか、学生(専門学校・専修学校を含む)、専業主婦、定年退職した高齢者なども含まれます。

また、仕事に従事している人を従業者、仕事を持っているが何らかの理由で休業している人を休業者とし、両者を合わせたものを就業者と呼称します。就業者はさらに、「自営業主」「家族従業者」「雇用者」の3つに区分されます。
総務省の就業状態の分類方法の図
出典・参照:総務省 就業状態の分類方法

自然失業率とは、完全失業率とは異なり、景気の動向や社会情勢に関係なく、労働力人口において一定の水準で存在している長期的な失業者の割合のことを指します。1968年にアメリカの経済学者ミルトン・フリードマンによって提唱されました。自然失業率は、完全雇用が達成された状態での失業率に近いとされ、いかなる金融政策を行っても解消することができないとされています。

完全失業率と有効求人倍率は反比例の関係

完全失業率と関係の深い指標が、有効求人倍率です。有効求人倍率とは、求職者1人あたりの求人件数の割合を指します。

有効求人倍率=有効求人数÷有効求職者数

有効求人倍率が1を上回っていれば「売り手市場」で企業の求人が多い状態、1を下回っていれば企業の採用活動が縮小して仕事が少なくなっている状態といえます。

一般的に完全失業率と有効求人倍率は反比例するとされており、有効求人倍率が高くなれば完全失業率は下がると考えられています。しかし、景気の動向に関わらず人手が足りない業種や職種もあるため、必ずしも当てはまるわけではありません。また、有効求人倍率は景気とほぼ一致して動きますが、完全失業率は少し遅れてから変化が現れます。

世界各国と好対照な日本の失業率の現状

失業率のニュースなどを見聞きすると、日本単独で紹介されていることが多いので「日本の失業率は悪い」というイメージを持ってしまうかもしれません。実際、日本の失業率はどのように推移しているのでしょうか。世界各国と比較して見てみましょう。

世界の完全失業率は景気や社会情勢で大きく変動

欧米諸国では、1980年代に失業率が高い水準となり、以降は高止まりを続けるフランス、イタリア、ドイツなどのヨーロッパ諸国と、低水準化していくアメリカ、イギリスで対照的に推移していくことになります。しかし、2008年後半のリーマンショックでアメリカ、イギリスも再度失業率が上昇し、ヨーロッパの水準を超えてしまいました。

さらに、2020年から2021年にかけての新型コロナウィルス感染拡大が、世界の完全失業率に大きく影響を与えました。特に壊滅的な打撃を受けたのがアメリカです。2020年の雇用統計では、失業率が14.7%にまで跳ね上がり、1930年代の世界恐慌以降では最悪の水準となりました。

以降は、各国回復基調にありますが、コロナ収束前後に関わらず、イタリアではつねに8〜10%で推移しているなど、社会構造など国ごとに抱える問題が浮き彫りになっています。

出典・参照:BBC NEWS JAPAN アメリカの4月の失業率、世界恐慌以降で最悪の14.7%に 米労働省雇用統計
出典・参照:総務省 3 失業率 参考3-表1 各国公表による主要国の失業率

日本の完全失業率は世界と比較して低い

日本ではバブル崩壊の1990年代に、それまで2.0%前後で推移していた完全失業率が上昇し始めます。阪神・淡路大震災などの影響もあり、2003年と2009年には5.5%という高い水準を記録しました。それ以降は、2018年に2%台にまで回復しました。しかし、日本でもコロナ拡大の影響で、2020年には11年ぶりに完全失業率が上昇しました。

日本の完全失業率は、OECD主要先進国と比較するとかなり低い水準にあります。コロナ禍の2020年に、アメリカが8.1%、カナダが9.7%と爆発的に数値を悪化させ、ヨーロッパでも4%台を超える国が多い中、日本は2.8%とほぼ例年と変わらない水準を維持しています。
OECD主要国の失業率の推移の折れ線グラフ
出典・参照:総務省 3 失業率 参考3-表1 各国公表による主要国の失業率

日本の失業率を押し下げてきた「日本的雇用」

日本の失業率が主要先進国の中でも低い水準にある理由は、「日本的雇用システム」が関係しています。日本的雇用とは、「長期雇用(終身雇用)」「年功賃金」といった日本の大企業を中心とした特徴的な雇用形態・雇用慣行です。

特に、一旦就職すれば定年まで職を失うことがない終身雇用制度は、日本の失業率を大きく押し下げる要因になっていたと考えられます。たとえばアメリカでは、25〜54歳で10年以上勤続している人の割合は3割程度。一方日本は半分以上の割合を占めています。

出典・参照:厚生労働省 第3-(2)-2図 雇用者の勤続年数別分布の国際比較(男性、25〜54歳)

SDGs目標8の達成には失業率の問題解消が不可欠

世界的に見ると、2008年のリーマンショックで失業率が急激に上昇しました。以降は、国によって回復したり、再度失業率が上がってしまったりと、国ごとの社会情勢に左右され変化しています。失業率が低い日本からすると想像がつきにくいかもしれませんが、世界全体では5人に1人の若者が仕事につくことができないとされています。特に開発途上国では教育や職業訓練を受けられず、仕事につくことができないため、経済成長率が下がり先進国との格差が開いてしまっているのが現状です。

国の経済は、その国で働く多くの労働者一人ひとりによって支えられています。長期的な経済成長を続けていくためには、労働に従事する人々が適切な就業機会や収入を得られる環境をつくっていくことが必要です。

SDGs目標8「働きがいも経済成長も」では、持続可能な経済成長を目指すため、12のターゲットを掲げ、取り組みが進められています。この目標を達成する上で必要なのが、失業率の問題解消なのです。

昨今では、日本でもフードデリバリーの配達員など「ギグワーカー」という言葉がよく聞かれるようになりました。このような雇用形態で働いている人を総称してインフォーマルセクターと呼びます。非正規雇用と混同されますが、インフォーマル雇用は社会保障や法制度による保護下にない雇用形態を指します。

失業が発生してしまう要因は3つに分類される

完全失業率は完全にゼロになることはなく、いかにその水準を抑えられるかということが重要とされています。失業が発生する要因は、主に以下の3つに分類されます。

  • 需要不足失業
  • 構造的失業
  • 摩擦的失業

労働力需要の減少に起因する「需要不足失業」

需要不足失業とは、景気の悪化によって企業が人員整理や採用を縮小させた結果、失業者が増えてしまうケースです。

経済の先行きが見通せなくなり、社会の不安が高まると消費や投資も冷え込んでしまいます。経済全体の需要が落ち込むことで、生産量も減少するため、それに連動して労働力需要が減少して失業が発生してしまうというメカニズムです。

雇用のミスマッチが生む「構造的失業」

構造的失業とは、企業が求めるスキルや学歴、年齢、性別、勤務地といった特性と、実際の求職者の特性が一致しないことによって生じる失業です。

また、多国籍企業や産業のグローバル化による外国人労働者の増加が影響した場合などに生じる失業もこのケースにあたります。たとえば、製造業の雇用は減少して失業は増えているのに、介護職では人手不足が発生しているという状況です。

AI技術の進歩とともにシンギュラリティ(技術的特異点)という言葉が注目を集めるようになりました。シンギュラリティとは、人工知能が高度化されていき、最終的に人間の技術を上回るという仮説です。想定される時期から、「2045年問題」とも呼ばれています。技術力の進歩やIT化により労働者の負担が下がり、人材の雇用が縮小していった結果、多くの職業が消え、失業が増加することが懸念されています。

どうしても発生してしまう「摩擦的失業」

摩擦的失業とは、求職者が新たに職探しを行う期間に生じる失業です。求職者は、仕事があればすぐに就業できるわけではありません。「能力が活かせる」「給与面の待遇が良い」など自分の求める条件に見合った職場を探すため、ある程度の時間を要します。さらに採用されるまでには書類選考や面接などの時間を経るため、どうしても一定の期間は失業した状態になります。

失業は、これら3つの要因が複合的に作用して起こる場合もあり、より大きな原因は何なのかということを考えて対策を考えていくことが必要です。

さまざまな社会不安を引き起こす完全失業率の上昇

完全失業率が上昇すると、個人や社会に悪影響を及ぼすということは漠然とイメージできると思います。完全失業率の上昇がもたらす具体的な影響について、代表的なものを見ていきましょう。

貧富の差が拡大する

完全失業率が上昇すると、貧富の差が拡大していきます。失業者は収入がなくなる一方で、就業者は継続して収入を得られるからです。失業率が増えることによって貧困世帯が増大すれば、一部の富裕層が利益を独占する状態になりその格差はますます広がっていくと予想されます。

実際に、国際NGO団体オックスファム・インターナショナルの調査によると、世界で最も裕福な8人が、最も貧しい36億人分と同じ資産を保有しているという推計を発表しました。

出典・参照:BBC NEWS JAPAN 世界富豪トップ8人の資産、貧困層36億人分と同じ=慈善団体

自殺者が増加する

完全失業率が上昇すると、自殺者が増加する傾向にあります。原因としては、失業と貧困が重なることで将来を見通せなくなる、メンタルが不安定になりうつ病を発症してしまうなどが考えられます。

日本においても失業率と自殺者数の推移は一致しており、バブル崩壊やリーマンショックなど大きな金融危機が起きた時は、自殺者が急増しています。自殺者の増加は社会にとって大きな損失にもつながり、社会不安を引き起こす呼び水となってしまいます。

出典・参照:厚生労働省 図表1-2-2-5 自殺者数と完全失業率の推移

犯罪発生率が上昇する

失業率は犯罪発生率とも関係が深いとされています。失業によって収入がなくなり、手っ取り早くお金を手に入れようとして窃盗などの犯罪に手を染めるケースは少なくありません。実際に、検挙人員に占める無職者の割合は極めて高いというデータが出ています。

また、犯罪が増えると治安が悪化し、国民生活全体の安全を脅かします。強盗や万引きなど直接的な金銭犯罪だけではなく、詐欺や違法取引などに加担するケースも多く見られるようになっています。

出典・参照:法務省 平成26年版 犯罪白書1 窃盗事犯の増減と雇用情勢・少子高齢化との関連性 (1)雇用情勢との関連性

完全失業率が上がってしまう原因は主に3つ

英字の失業率のグラフとペン
完全失業率の上昇は社会にとって大きな弊害を生みます。失業率を抑えるためには、なぜ失業が増えるのかという原因を明確にし、それに見合った対策をしていかなければいけません。完全失業率が上昇する主な原因を見ていきましょう。

労働力人口の減少

完全失業率上昇の原因として、まず挙げられるのが労働力人口の減少です。働ける人の母数が少なくなることで、完全失業者の割合が高くなり、それにともなって完全失業率も上昇してしまうからです。

特に日本では少子高齢化の問題があり、年々労働力人口が減り続けています。高齢化による失業は景気動向に関わらず発生するため、今後これ以上完全失業率を減少させていくのは難しいと予想されています。

景気の悪化

景気が悪くなると、完全失業率は上昇する傾向にあります。景気の悪化により企業が活動を縮小し、人件費の削減や、削減しきれなければ人員整理や採用人員を少なくしようとするからです。

また、契約社員などが契約を継続できなかったり、派遣切りにあったりするとさらに失業者が増え、完全失業率も上昇してしまいます。こうした状況が続けば、それだけ失業の長期化にもつながります。

雇用需給のミスマッチ

求職者と求人側の雇用条件が合致しなければ、完全失業者は増加します。たとえば、前述したように技術の進歩やIT化などで産業構造や職業構造が変化すると、労働力の余剰が発生して失業が起こりやすくなります。

その一方で、逆に労働力不足に陥ってしまう業種や職種もあります。このようなミスマッチが生じるため、景気動向とは無関係に失業率が上昇してしまうこともあるのです。

国内の失業率低下の取り組み

現在、日本では政府や行政機関、地方自治体などによって、完全失業率を抑えるためのさまざまな取り組みが実施されています。各所における具体的な取り組みを見ていきましょう。

コロナ禍の支援として創設された「雇用調整助成金」

雇用調整助成金は、国の助成金制度です。特に新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けた事業者を対象に、休業に対する補償などの支援を行うことを目的として創設された制度です。

事業活動の縮小を余儀なくされた場合でも、従業員の雇用維持につなげることができ、失業の発生抑止につながると期待されています。対象はすべての業種で、雇用形態に関わらず1人あたり最大15,000円の給付を受けられます。

出典・参照:厚生労働省 雇用調整助成金とは

国と自治体が連携して行われるさまざまな取り組み

失業対策・雇用の維持を図るため、国と地方自治体の間では雇用対策協定が締結され、さまざまな取り組みが行われています。

たとえば、北海道では、独立行政法人の「高齢・障害・求職者雇用支援機構」とハローワークが連携。職業訓練のサポート、職業の紹介をそれぞれ担い、正規雇用を希望する求職者へのキャリア形成を支援しています。

神奈川県では、県知事と労働局長が共同で県内の経済団体を訪問し、障害者や若年層の雇用機会の維持・確保などについて協力を要請するなどの連携を積極的に図っています。

また、静岡県浜松市では労働局やハローワークと連携して、障害者の雇用支援や企業への雇用指導業務を共同で実施しています。

出典・参照:北海道 国や市町村などの行政機関や事業者、産業・労働関係団体との連携について
出典・参照:厚生労働省 労働局・ハローワークと地方自治体との雇用対策連携事例集

欧米ではすでにスタンダードな「ワークシェアリング」

ワークシェアリングとは、1つの仕事を複数の労働者と分け合い分担して行うことです。そのことによって、労働者の総人数を増やすことができ、失業率の低下につながる可能性があります。ワークシェアリングは、雇用創出のほかに労働者の負担削減効果としても期待されています。

たとえばトヨタ自動車では、アメリカにある6工場の従業員12,000人を対象に、労働時間と賃金をカットするワーク・シェアリングを2009年に実施しました。業績悪化によるコストカットをしつつ、雇用を守ることに成功した事例といえるでしょう。

フランスでは、政府が主導して「オブリ法」という関連法を制定するなどワークシェアリングを推進。ドイツでは1980年代頃からすでにワークシェアリングを積極的に導入し、時短勤務を推進することで雇用を分け合い、失業者を抑制してきました。

出典・参照:内閣府 ワークシェアリングの成果-オランダ、ドイツ、フランス

労働者の生活安定を目的として、雇用の柔軟性を図る「フレキシキュリティ」という政策があります。具体例としては、解雇規制の緩和や手厚い失業補償の給付などです。世界の中でもデンマークやオランダでは高い効果を上げていると言われ、注目されています。

失業をなくし誰もが働きがいのある人間らしい仕事ができる世界に

完全失業率は景気の動向を表す重要な指標の一つです。日本の完全失業率は、欧米諸国と比べて比較的低い水準にありますが、景気の動向や社会情勢の変化に影響を受けるため、今後どうなっていくかは分からず安心することはできません。

また、日本では特に少子高齢化など景気の良し悪しとは無関係な要素も大きく影響することが考えられます。数値だけで判断せず、その他のさまざまな指標も合わせて見ていく必要があるでしょう。

現在日本では失業率の抑制や、雇用促進を図るさまざまな取り組みが行われていますが、世界の国々で行われている施策からも学べることは多くあります。SDGs目標8「働きがいも経済成長も」を実現させるために、世界全体で情報を共有していくことが必要ではないでしょうか。

この記事の執筆者
EARTH NOTE編集部
SDGs情報メディア
「SDGsの取り組みを共有し、循環させる」がコンセプトのWEBメディア。SDGsの基礎知識や最新情報、達成に取り組む企業・自治体・学校へのインタビューをお伝えし、私たちにできることを紹介します。
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